星は何も言わず、指先で彼の身体に残る薄い傷痕をそっとなぞった。どれも明らかに古傷だった。傷が痕になるほどの重傷――しかも何年経っても消えず、薬を使っても完全には治らないほど深い傷。その事実に、星の胸は締めつけられる。生まれつき強い人間なんていない。仁志の強さは、本物の修羅場を生き抜き、血と命を削って手に入れたものだった。そして今、自分が手にしているものすべては――彼が流した血の先に、ようやく掴み取ったものなのだ。なのに自分はずっと、仁志は最初から無敵の人間なのだと思い込んでいた。怜央の言葉は正しかった。何かを決める前に、まず彼の過去を知るべきだったのだ。星はそっと俯き、男の身体に残る傷痕へ静かに口づけを落とした。その瞬間、仁志の身体がわずかに強張る。「……星」星は顔を上げた。頬はほんのり赤く染まり、白黒のはっきりした瞳には水のような優しさが宿っている。けれど、その眼差しの奥には、揺るがない決意もあった。「仁志……今日は、私に任せてくれる?」仁志の喉仏がゆっくり上下する。その瞳はさらに深く、暗い熱を帯びていった。なのに同時に、燃えるように澄みきっていて――魂まで焼き尽くしそうなほど熱かった。彼の瞳には、艶やかで美しい女の姿が映っている。この瞬間――理由もわからないまま、全身の血が沸騰するような高揚感に襲われていた。彼女の腰を抱く腕は、抑えきれない感情のせいで微かに震えている。――そして後になって。この場面を思い出すたび、彼の心臓には毒棘を持つ蔓が絡みつくようになった。息が詰まり、胸が軋む。長い時を経て、彼はようやく知る。この感情の名が――憎しみなのだと。……朝陽が送り戻された頃には、身体の傷は七、八割ほど回復しており、これ以上の治療は必要なかった。だが、顔の損傷と後遺障害だけは、取り返しのつかない傷として残っていた。たとえ葛西家の医術がどれほど優れていても、失った足を再生させることはできない。顔も同じだった。一族の診断では、完全な回復は不可能。もはや今の朝陽に、当主の役目を果たすのは難しい。葛西家は協議の末、ひとまず彼を表舞台から退かせ、裏方へ回すことを決めた。誠一はその結果を伝えながら、恐る恐る朝陽の表情を窺う。裏方へ回る。聞こ
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