午前1時。星野星(ほしの ほし)は、小林清子(こばやし きよこ)のインスタをたまたま見てしまった。「神谷さんと翔太くんからのプレゼント、ありがとう。マグカップは、翔太くんの手作りなんだって」星は写真を開いた。ネックレスと手作りのマグカップが、彼女の目に飛び込んできた。マグカップには、「ママ、誕生日おめでとう」という文字が刻まれているのが、うっすらと見えた。星は、テーブルの上に置かれた冷めた料理と、ロウソクに火も灯されていない誕生日ケーキに視線を落とし、自嘲気味に微笑んだ。星は、少し前にスマホに届いたニュースを思い出した。【スクープ!この街の社交界で有名な貴公子、神谷雅臣(かみや まさおみ)は、なんと既婚者で、5歳になる息子がいた!】写真には、長身でハンサムな男と、細身で美しい女が、5歳くらいの男の子の手を引いて遊園地を歩いている姿が写っていた。清子は神谷翔太(かみや しょうた)の頭を優しく撫で、雅臣は彼女をじっと見つめていた。彼の視線は、かつてないほど優しく、温かい。美男美女と、雅臣にそっくりな男の子。まるで、幸せな家族のようだった。今日が彼女の誕生日だった。そして、雅臣との結婚5周年記念日でもあった。しかし、誕生日を迎えているのは、彼女ではなく清子のようだった。夫と息子は、彼女の誕生日に清子と過ごし、本来彼女に贈るはずのプレゼントを、清子に渡してしまったのだ。星は、特に驚かなかった。彼女は、すでにこのような仕打ちに慣れてしまっていた。清子は、雅臣の初恋の人だった。彼女は助からない病気にかかっていて、余命1年を宣告されていた。死ぬ前に、もう一度雅臣に会いたいというのが、彼女の最後の願いだった。雅臣は、清子のためにできることをしてあげたい、どうか理解してほしいと言った。星は理解したくなかったが、彼を止めることはできないと分かっていた。あれほど真剣な表情で話す雅臣を見るのは初めてだったからだ。胸にぽっかりと穴が開いたような、そんな痛みが全身を締め付けた。どれくらい暗闇の中に座っていたのだろうか。玄関の方から、ドアが開く音が聞こえてきた。雅臣が、翔太を連れて入ってきた。ダイニングにいる星を見て、雅臣は明らかに驚いた様子だった。彼は今日が何の日か忘れてしまっているようで、不思議そうに星を見つめた。「どうしてまだ起きている
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