All Chapters of 君を救えるなら、僕は: Chapter 11 - Chapter 20

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十章 「どこに行ったの?」

 僕は、すぐに家の周辺を探すことにした。 彼女は何も持たず出て行ったから、スマホに連絡しても意味がない。非常事態の時に、いつも使っているものは役に立たないことが多い。 彼女が家を出てすぐには追いかけられなかったけど、まだ彼女はそんなに遠くに行っていない気がしたから。 僕には、彼女がどこに行ったか検討がつかなかった。 突然のことに頭が混乱してるところもあるけど、すぐに思い浮かばなかったことは情けなかった。 僕は、好きな人の困っている時に助けられないことを意味しているような気がしたから。 それでも、僕は歩みを止めることはできない。 僕が、彼女を探し出さなければいけない。これは僕が巻き起こしたことだから。 あたりをしばらく探してみたけど、彼女の姿は見当たらなかった。 もし彼女がいたなら、遠くからでも気づける自信があった。 彼女は他の人にはないオーラを放っているから。 もしかして彼女の背中に羽根が生えていて、それを使い飛んでいったのだろうか。 そんな考えが浮かんだけど、僕はすぐにそれを否定した。 いくら彼女でも、それはあまりにも非現実的だから。 息を切らしながら再び前見上げると、小学生が集団で楽しそうに下校していた。 人の楽しそうな顔を見ると、彼女のそんな顔が頭に浮かんだ。 彼女の笑顔を見たい。 でも、僕が彼女の笑顔を奪った。 その変えることができない事実が何度も心を痛めつけてくる。 一方で、もうそんな時間なのかとも思った。彼女が家に来て、ずいぶん時間が経ったとその時に気づいた。 僕は、時間を使うのが下手だと思った。こんなにも時間があったのに、彼女が前に涙を流した理由を全く聞き出せていないのだから。 かなりの時間を無駄にしたようだ。 そのまま家から一番近い駅に向かった。 彼女が、電車に乗って僕の知らないどこか遠くの地に行ってもう二度と会えない気がしたから。 そんな大したことじゃないかもしれない。 先程のことをただのケンカのともとれる。確かに二人は離れ離れになった。でも、きっと今後一生会えないわけではないだろう。 でも、僕はどんな時でも彼女を大切にしたいと思っている。 たとえ他人が些細なことと感じても、僕にとっては今回のことは|大事《おおごと》なのだ。 『探す』という選択肢しか僕には浮かばなかった。 そもそも僕と彼女
last updateLast Updated : 2025-06-10
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十一章 「思い出される」

 彼女がなかなか見つからないことで、また過去のあの日のことが思い出された。 今はそれどころじゃないとわかっているけど、『心』は時に暴走する。 あの日とは、ある人が涙を流すのを見て、僕が救えなかった日のことだ。 あの日も、今のこの状況と同じような日だった。 なんの偶然かわからないけど、あの人も突然僕の前からいなくなった。 もちろん、僕はその時もすぐに探した。 あの日と今に、重なる部分が増えてきて、体がブルっと震えてきた。 あの人とは、彼女と付き合う前に僕が付き合っていた|吉川 美琴《よしかわ みこと》という女性だ。 美琴は、僕と同じ年の16歳だった。僕と美琴は同じ学校のクラスメイトで、普通の出会い方をし、普通に恋に落ちた。 それはどこにでもありそうな恋だったけど、恋に特別さは必要ないと思う。僕だって運命的な出会いに憧れはある。でも、それは本当に奇跡のなすもので、そんなに簡単に奇跡は起きないこともわかっている。それに出会い方は普通でも、その後をキラキラしたものにすることはきっとできるから。大切なのは二人の思いが重なっていることだ。僕たちは確かに惹かれあっていた。 でも、その日は突然訪れた。 その日の午前中、美琴と普通に話をしていた。 僕はいつものように美琴とお話をしながら一緒に登校し、学校についても休み時間には楽しく話していた。美琴も笑っていた。 でも、突然いなくなった。 それは昼休みに、「一緒にお昼ごはんを食べよう」と美琴に声をかけに行こうとした時だった。 美琴の席に目を向けると、美琴の姿はなかった。 美琴の仲のいい女友達に、「美琴は、どこに行ったか知ってる?」と聞いたけど、誰一人知ってる人はいなかった。 少しどこかに行ってるだけかもしれない。実際美琴の友達も慌ててる様子は全くなかった。 でも、僕は違和感を感じた。 だって、誰も知らずに消えるなんて明らかにおかしいから。 だから、急いで美琴を探すことにした。 高校生の行動範囲なんて限られているのに、僕はなかなか美琴を見つけられなかった。 汗を流しながら校内を探し回った。この汗は走っているためか、冷や汗なのかわからなかった。ただ、汗を拭くこともせず僕はひたすら走り回った。 その間に何度かスマホがバイブ音を鳴らしていたけど、僕は今それどころではなかったから確認しなかった。 
last updateLast Updated : 2025-06-11
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十二章 「安心できる場所」

 僕はただひたすら歩いていると、いつの間にか彼女の家の前まで来ていた。 見つけたいという強い気持ちが僕をここに連れてきたのかもしれない。 そこで、ふと彼女が僕の家で話してくれたある思い出話を思い出した。 彼女はその時家の近くにあるところに、よく行っていたと話していた。 本人は自覚していないかもしれないけれど、それは自分の心を少しでも守っていたと僕は今思った。 そうだとすれば、そこに今も彼女はいるかもしれない。いや、いると確信がもてた。 すぐに僕は、近くに公園がないか探した。 公園は、彼女の家の裏にあった。 彼女が話してくれた通り、綺麗な花もたくさん咲いていて素敵なところだ。「華菜、やっと見つけた」 他に言わなければいけない言葉がたくさんあるとわかっている。でも、まず先にその言葉が口から自然と出た。 見つけられて心からよかったと思ったのだ。 彼女は思い出話で話してくれたのと同じように砂場に座り込んでいた。その背中はなんだか小さく見えた。僕は、まるで子どもの頃の彼女を見ている気分になった。「遅いよ」 彼女は、僕の方を振り向かず小さな声でそう言った。 砂場の砂を手で触っている。今彼女は何を思っているのだろう。 「ごめん。あの、その、大丈夫だった??」 僕はたくさんある伝えたいことをうまく言葉としてつなげられず、そんな風しか言えなかった。自分でもチグハグだとすぐにわかった。「何が?」 彼女の声は怒ってるというより、ただ質問してる感じがあった。「僕は、華菜にひどいことをしたから」「あぁー、いいよ」 彼女は、簡単に許してくれた。 その真意まではまだわからないけど、そのこと自体が僕には意外だった。 僕はもう許してもらえないかと思っていたから。 大袈裟かもしれないけど、それぐらい彼女を探してる間ずっと怖かった。 怒ってしまった僕が怖がるのはおかしいのはわかるけど、彼女を失うことがただ怖かった。「僕は、他の人よりかなり物事に気づくのが遅いんだ」 僕はゆっくりと話し始めた。「そんなことは、もうだいぶ前から知ってる」 彼女は、まだこちらを向いてくれない。「そっか。そうだよね。あの、華菜に、謝りたい。謝らせてくれないかな?」「いいよ」 短い言葉なのに、僕のまとまってない話を彼女はしっかりと聞いてくれようとしているのが伝わっ
last updateLast Updated : 2025-06-12
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十三章 「涙!?」

「えっ、どうして??」 僕は、とうとう自分の感情にも追いつけなくなったようだ。 そんなことって、あるだろうか。 自分の感情なのにわからないってどういう状態? とパニックになった。 これは他に人にもよくあることなんだろうか? それとも珍しいことなんだろうか? そんな二つの考えがぐるぐる頭の中を巡るけど、答えはわからないままだ。 何が起きたかというと、僕の頬を静かに水が|伝《つた》い、しばらくしてそれが『涙』だとわかったのだ。 でも、僕は決して意図して涙を流したわけではない。 むしろ、流すつもりは一切なかった。 僕の思いとは、逆の行動を体がした。 僕は、そんな風に見えないとたまに言われるけど、人前で涙を流すタイプの人ではない。 男がすぐに泣くのは、かっこ悪いとさえ思っている。 僕は女性だからこうあるべきだとは思わないけど、男性は強くなくてはいけないと感じている。 それは、子どもの頃の親に何度も言われてたからだ。 父親に「男なのに、泣くな!」と何度も叱られた。母親は僕を全くかばってくれなかった。 大人になって親の教育が偏っていて間違っているとわかっても、体に染みついたものは簡単には消えなかった。 何年もの間、傷つけられ続けたのだから。誰にも話したことないけど、それは僕のトラウマとなっていた。 でも、だからというべきかわからないけど、僕は『言葉』を人を傷つけるためには使わないでおこうと強く思えた。 これをきっと反面教師と呼ぶのだろう。 彼女の母親だけでなく、僕の両親も少し歪んだ考え方を持っていたなんて、何の偶然だろうか。僕たち二人は似た環境にいたのだろうか? 子どもの頃から辛い時でも「泣いちゃダメだ」と我慢しているうちに、涙はいつのまにか出したくても出なくなっていた。 感動する映画を観ても、涙が流れることはなかった。もちろん、いい映画だったなあと心から思う時はある。それでも、涙は一向に出てこなかった。 人間の適応能力って本当にすごいと思う。 まるで、涙が枯れてしまったかのような状態だった。 そんな風に今まで生きてきたのに、どうして今涙が出てきてしまったのだろう。 僕はおかしくなってしまったのだろうか。 さっきの話の内容的にも、どう考えても僕が涙を流す場面ではない。苦しいのは、確実に彼女の方だ。  僕が泣いたら困られせるし
last updateLast Updated : 2025-06-13
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十四章 「救わせてくれない?」

「いいよ。どうしたの?」 彼女は僕の言葉を受け入れてくれた。 僕はまだ彼女をどうしたら受け入れられるかわかっていない。 でも、一つ一つ相手の意思を確認しながら、行動することの大切さを僕は知ったから。 コミュニケーションとは、ただお互いに話すだけでなく、相手のことを考えることだとやっとわかった。 物事には、「気づいた頃にはもう遅い」ということがたくさんある。僕は今日はだけで様々なことに気づくことができた。いや、彼女が僕にそれらを教えてくれた。 僕は、自分の今までしてきたことが、彼女が求めているものと違う方向だと気づいた。それがまだ手遅れでないことを神様に祈った。 彼女は、彼女の心を傷つけたことを、さっき許してくれた。 でも、僕は許されることよりも、彼女を救い出したい。 傷をつけた部分も治し、彼女の悩みや不安もすべてなくし、彼女を安心させる。 簡単なことではないことはわかっている。 それに、彼女が傷ついたのは『心』だ。 そうであるなら、そもそも傷をつけた張本人が、再び関わることはよくないことだろう。 傷を再び広げるようなものだと、多くの人が思うだろう。 僕が、それをわかった上で彼女に行動するなら、僕自身が相当変わる必要がある。 そうじゃなければ、僕のすることが彼女に響くことも、傷ついた心を治すこともできないから。 僕は、今までの僕じゃないと彼女に証明する必要がある。「前のデートの時の話だけど」と僕はそう声をかけた。「前のデート? 何もなかったと悠希は教えてくれたけど、本当は私が悠希の気分を害することしたの??」 彼女は少し考えているようだった。「いや、それはしてないよ。実は前のデートの日、華菜が涙を流し、少し弱っている姿を見せた」 そう言って、簡単にその時の状況を説明した。 僕はできるだけ端的に、驚いた感じもあまり出さないように意識した。 それは話が長くなったり僕が驚いたりすると、どうしても彼女は自分の感情を抑えてしまうと思ったからだ。「えっ、前のデートでそんなことがあったの? みっともないところを見せちゃったね。ごめんね」 出会ってそれから付き合っていた中で、彼女の様々な表情を見てきたけど、今が一番驚いた顔をしていた。 しかし、そんな状態なのに彼女は、僕の心配をする言葉も言ってくれた。 その顔を見て正直、僕はかなり
last updateLast Updated : 2025-06-14
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十五章 「涙を流したわけ」

「まずは、悠希がそんな風に言ってくれたこと、私のことを考え思ってくれたことはすごく嬉しいよ。ありがとう」 彼女は、静かに口を開いた。「でも、」「でも??」 僕は、なぜか胸がそわそわした。「でも、どんな頑張っても、できないことってあると私は思ってる。これから私がする話を悠希は理解できないだろうし、悠希に私を救うことは絶対にできない」 彼女は、はっきりと僕のさっきの言葉を否定した。 でも冷たく厳しいというよりも、切ない感情が彼女から感じられた。 また、彼女の心の扉は固く閉ざされた。 開きそうになったとしても、何かがきっかけでまた閉じることもあるだろう。でも、僕にはそれが何のせいかわからなかった。 僕は「どうして?」と思ったけど、まずは彼女の話を聞こうとあえて何も言わなかった。 相手の気持ちや思いを聞くことは大切だともわかったから。「まずは、前のデートの日のことを私は本当は全部覚えていたよ。自分が言った言葉も、悠希がタクシーを呼んで家まで送ってくれたこともね。悠希は私がそのことを全く覚えていないと思っていたよね」「うん、そう思っていたよ」 彼女は前のデートの日のことを覚えていた? それなのに、いつもと変わらない感じで僕と話ができた?? 驚きとたくさんの疑問が頭の中にいっぱい浮かんだけど、僕はそれらをできるだけ表情に出さずにそれだけ言った。「その時点で、悠希が何をしてくれても、私の辛さが理解できないじゃないかと思った。あの言葉は、単純なものじゃない。私の中で辛い気持ちが限界を超えたから、あふれてしまったものだから。それに、ただお酒を飲んだぐらいで忘れられる程度の辛さなら、私は今も苦しんでいないよ。私の辛さは、消えずにずっとあるんだから」「そっか。そうだよね。僕は華菜の見えている部分しか見ないで、気になることも怖くて聞けなかったんだもんね」 彼女の言葉が、僕の心に響いていく。彼女の言っていることは何も間違っていなくて、僕がただ考えが足りなかったと知らされる。 あの日の彼女の言葉の重さを、僕は測り間違えた。いや、正しく測ろうとすらしていなかった。 今なら彼女の言葉の意味が、少しはわかる。 今の気持ちを少し前に持っていたら違った行動をすることができるのにと、僕はどうしても後悔してしまう。 僕はこれまで様々な失敗、失言、選択ミスをして
last updateLast Updated : 2025-06-15
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十六章 「人を不幸にする力」

「私には、『人を不幸にする力』がある」 彼女は、そう話し始めた。 現実離れしていて不思議な話なのに、彼女がそう言うとなんだか本当のような気がしてくる。「信じられないだろうけど、この力は思い込みや勘違いの類じゃないよ。本当に私には力がある。実際にお母さんも元カレも私のせいで不幸になった。お母さんが私を嫌って様々な方法で嫌がらせをするようになったのも私のせいだ。だってお母さんは、ある日突然冷たい態度に変わったから。元カレのことも同じよ。前にも少し言ったけど元カレも最初は悪い人ではなく、優しい普通の人だった。でも私と一緒にいることで段々おかしくなっていった」「それは、たまたま不幸なことが重なったということではないんだよね?」 彼女の話を否定しないで、僕は彼女に同調しようとする。 僕はまだ、彼女のことでわかれていない部分も多くあるだろう。その状態で否定するのはおかしいから。そもそもどんな状態かわからないのに、否定をするのは相手に失礼だ。「うん。たまたまじゃない。これ以外にもこれまでの人生で、私はたくさんの人を不幸にしてきた。学校の担任の先生は、何人も突然体調を崩したり、心の病になった。私がクラスにいるだけでだよ? 一番仲の良かった従姉妹は突然自殺をした。アルバイト先で仲良くなった人は、事故にあった。私に関しては、学生時代は何度もいじめにあったし、仕事でもなぜか大事なときには必ず大きなミスした。どう考えてもたまたまにしては、多すぎる。それにこんなに不幸にまみれた人生なんて聞いたことないでしょ?」「うん、そんなに多いとまるで誰かに意図的に不幸を押しつけられているようだね」 僕は彼女の話を聞き、その者は誰かわからないけど、なぜかそのように感じた。 もちろんそんなことができる者は、一般的に考えていないのはわかっている。 それでもそんな考えが真っ先に頭に浮かんだ。「おもしろい考え方ね。それは、完全に間違ってはいないかもね。とにかく私がそばにだけで、周りの人たちは不幸になっていった。そして、私にも不幸なことが度々起こった。自分が不幸になるのも、幸せな人が不幸になっていく人の姿を見ていくのもどちらも本当に辛かった。そして、この力には、さっき話した『堕天使』が私の心の中に棲みついていることも関係している」「えっ、そうなの!?」 僕は、二つの話が繋がるとは思って
last updateLast Updated : 2025-06-16
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十七章 「過去編① 吉川美琴とのお話」

「今から話すことは、僕と元カノのある話だよ。聞いていて、気分が悪くなったらすぐに言ってくれていいからね」 僕はそう前置きをした。 本当はどこまでの話を恋人に話すべきなのか僕はわかっていない。何を話さなければいけなくて、何は話さない方がいいという明確な線引きは世の中にないから。 一層のこと誰かが明確に線をひいてくれたらいいのにと思う。 元カノの話を現在の彼女にするのはあまりよくないのはなんとなくわかっている。しかし、あの日の話はかなり特殊な内容だから、彼女にも伝えておくべきことかもしれないと思った。「もしよかったら、華菜が何を感じたか教えてほしい。また、僕という人間を今一度見定めてくれてもいい」「うん」「実は、華菜の涙を見てすぐにその話を華菜にできなかったには、もう一つ理由があったんだ」「もう一つの理由?」 彼女は意外そうな顔をしていた。「うん。僕は前に元カノの涙を見たことがあって、その時に元カノをを救うことができなかった。いや、僕が何もできなかったからさらに傷つけて、取り返しのつかないこととなった。華菜の涙を見た時、正直元カノのことを思い出した。そして、また救うことができないかったらどうしようと思うと華菜に対して、発言するのも行動するのも怖くなった。人は何かある度に考えて成長するとよく言われるのに、僕は前と全然変わっていなくて弱いままだ」 彼女は何も言わず、話を聞いてくれている。「華菜にとって、涙とはどんなもの??」「涙? 感情の塊かな」 彼女は突然話が変わったのに、しっかり答えてくれた。「そうなんだね。いや、きっと僕の考え方が変わってるだろうね。僕は、涙は美しくて人を魅了するって思う。あんなに透き通ったものは、他にはなかなか見つからないと思う。でも涙は、美しいと感じさせるだけの強い感情があるから流れるんだよね。僕は昔も、華菜の時も、それに気づけていなかった」 僕は彼女に、元カノとの出会いなどをまず簡単に説明した。 そして、あの日何が起きたか話し始めた。 学校の屋上で、僕が美琴をやっと見つけて声をかけた後のことだ。 空は、雲一つなく晴れ渡る。 美琴は、それから僕のことをじっと見つめてくるけど、何も言葉にしない。 僕は、僕でその間何もできずにいた。 ただ時間だけが、流れていた。 美琴のもとに近寄ることも、何か言葉をかける
last updateLast Updated : 2025-06-17
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十八章 「過去編② 過去がつながる」

 美琴がいなくなった屋上で、僕はふとさっきスマホがずっと通知を知らせていたということを思い出した。 思い出したのは、きっと僕が無意識的に現実から目を背けたかったからだと思う。 美琴が死んだことを、僕は受け入れられなかった。 スマホの画面を押すと、たくさんのメッセージと着信が表示された。 僕は、それを一つずつゆっくりと確認していった。 こんなに通知がきていることは、初めてのことだった。「悠希、今どこにいる?」「悠希に会いたいな」「怖いよ」 メッセージの中には、美琴がいた。 でも、その美琴からはいつもの元気さや明るさは感じられなかった。 不安で苦しんでいる美琴が、僕を探している。 着信のすべてに留守電が残されていて、再生すると今はもう聞けるはずのない声が聞こえてきた。 それは、さっきまで目の前にいた美琴の声だった。 まさかもう一度美琴の声が聞けるとは思ってもいなかったので、僕はじっくりと耳を傾けた。 メッセージとは違う内容のことを話していた。でも、伝えようとしていることは同じだった。 僕はスマホから美琴が現れるはずがないとわかっているのに、聞きながらいつの間にかスマホの先に手を伸ばしていた。 声は聞けるのに、もう美琴の笑顔を見ることができないなんて残酷すぎる。 メッセージも着信も、すべて美琴からのものだった。 しかも、それらは美琴の姿が突然消えてから、見つかるまでの間に送られたものだった。 美琴はこんなにも僕に助けを求めていたのに、僕はそれに気づくことができなかった。 ただ必死に探していた。見つけることができれば、何かできると思っていた。それが最優先事項だと疑いもしなかった。 でも、現実は彼女と対面した僕は、彼女を救うことはできなかった。 何が最優先事項だと思った。 救うどころか、僕は間違いを犯したのだから。 人間は間違いを犯す生き物だとよく言われるけど、犯してはいけない間違いというものがある。間違えてはいけない判断というものがある。「僕が代わりに死ねなかったのかな。彼女の苦しみだけを背負っていけなかったのかな」 そう思わずにはいられなかった。 僕は、スマホの電源を切った。 今は誰とも話したくなかったから。 そもそも僕が頼られていたなんて今初めて知った。どうしてダメな部分が多い僕を美琴は頼ってくれていたのだろ
last updateLast Updated : 2025-06-18
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十九章 「勝手に『一緒に』しないで」

「私を、美琴や悠希と勝手に『一緒に』しないで!」 彼女は、もう一度はっきりと言った。 さらに、美琴だけじゃなく、『僕』も突然話に登場してきた。 なぜ今僕の名前が出てくるのだろう。 僕自身は、彼女のことに『僕』は何も関係ないと思っている。 そして、彼女の目は曇っていた。「一緒じゃない?」 僕は、彼女の言葉を繰り返した。 彼女の言葉の意味も、今なぜ彼女の目が曇ったのかも僕にはわからなかった。 でも、僕は「わからない」という言葉がいつもどうしても言えない。 相手は僕のために答えるのは面倒だろうと考えてしまう。だからその思いをわざわざ表現せず、話をなんとなく合わせるように僕はなっていった。 それでも会話は、それなりにできていたからいいかと思っていた。 きっと答えてもらえないだろうという自信のなさも関係しているのだろう。 『自信』というものはなかなか厄介もので、さまざまなことや物の邪魔をする。 それとも、僕にも『プライド』というものがあるのだろうか。 僕にも少しはプライドがある? そんなことを今まで考えたことなかったから、頭に浮かんだ言葉に驚いた。 『自信』か『プライド』かまたそれ以外のものか僕にはすぐにわからなかった。 自分のことでさえこんなにわからないなんて本当に僕はおかしい。 彼女のことを考えていくうちに、僕自身が受け身なままだと人を救うことはできないとわかってきた。それなのに、すぐに変わることを僕はできていない。 これじゃあダメだ。もっと努力をしなきゃ。その方法はわからないけど、僕は自分の足りないところを見つけると早く補いたいといつも思う。 まずは、彼女の話に集中することにした。「確かに美琴は、私のせいで苦しんでいた。悠希も今もきっと苦しんでいる。その点では、私も、美琴と悠希と同じカテゴリーだよ。でも、同じことはたったそれだけだよ? 私と美琴は全く違う人で、悠希に関しては性別すら違う。何に苦しんでいるかは全く違うのに、それを一括りするのは少し強引すぎない?」「僕はそんな、」「そんなつもりじゃない? それは悠希の気持ちだよね。私にそう伝わってしまったなら、それはそういうことなんだよ」 彼女は僕の言葉を先回りして言った。その言葉は僕の言いたい言葉そのものだった。どうして僕が言おうとしたことが彼女にはわかるのだろうか。 
last updateLast Updated : 2025-06-19
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