年が明けて祈人の怪我もだいぶよくなってきたころ、なぜか彼は毎日のようにキッチンで料理に精を出すようになった。 そして、何日か経ったある晩、祈人はついに、見た目も香りも味も申し分ない夜食を作り上げた。その夜、朝香と神崎は外で花火を見ていた。 帰宅したのは、もうすぐ真夜中になろうかという頃だった。祈人は、二人が手をつないで帰ってくる姿を、ダイニングでずっと待っていた。 その光景を目にした瞬間、彼の目の輝きは一瞬で消える。だがすぐに気を取り直し、神崎がいつまでも朝香の手を離さないことには目もくれず、わざとらしく張り切ってスープを温め直す。「朝香、ちょっと待ってて。もうすぐ出来るから」いつもの柔らかな笑顔で、やさしくそう言う。祈人が温めたスープをテーブルに並べると、朝香は黙って席に着いた。 ただ、隣には図々しくも神崎が座り、平然とチキンスープを一気に飲み干す。朝香が箸もつけずにいるのを見て、祈人は焦って残りのスープを守るように両手で抱え込む。「こらこら。これは朝香のために作ったんだぞ。飲みたきゃ自分で作れよ」そう言って、もう一杯スープをよそい、やさしく息を吹きかけながら、ちょうど飲みやすい温度になるまで丁寧に冷ました。 朝香は断りきれず、仕方なくそのスープを受け取った。 その瞬間、祈人の唇がそっと緩み、瞳の奥には、淡い星がまたたくような輝きが浮かんでいた。「昔はいつも、お前が夜遅くまで俺の帰りを待って、夜食を作ってくれてたよな。 これからは、俺が帰りを待つよ。夜食も、全部俺が作る。……いいだろ?」顔を赤らめ、落ち着かない手つきで朝香の返事を待つ祈人。だが朝香は、どこか戸惑いと迷いの色を浮かべながら、湯気の立つスープをじっと見つめていた。 スープは澄んだ黄金色で、コクのある香りがふわりと漂う。 火加減も時間も、きっと何度も試行錯誤したのだろう――そんな祈人の真剣さが伝わってくる。けれど、朝香はそのスープを静かにテーブルに戻し、礼儀正しく、だがどこか遠ざかるように言った。「熱すぎるよ」祈人は反射的に「そんなはずは……」と言いかけたが、朝香が疲れたように眉間を押さえる姿を見て、言葉をのみこんだ。胸の奥に、重たい石が沈み込むように息苦しくなる。数日後、朝香が祈人の包帯を替えに部屋
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