All Chapters of 雪の果ての恋文: Chapter 21

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第21話

健司の声はかすれ、ほとんど聞き取れなかった。だが、その言葉はまるで刃物のように、私の心臓をズブリと刺し貫いた。顔を上げると、そこには見慣れた、しかし憔悴しきった彼の顔があった。とうとう涙がこらえきれず、こぼれ落ちた。その時だった。救急車のサイレンが突然、けたたましく鳴り響き、重く淀んだ空気を引き裂いた。見上げると、遠くから救急車が猛スピードで近づいてくる。赤いランプが陽光の中でまぶしいほどにきらめいていた。周囲には徐々に人だかりができていた。人々の声や動きは、まるで私とは無関係のように思えた。すべてが夢の中の出来事のように感じられたのだ。救急車がようやく私たちの目の前に止まった。医療スタッフが素早く飛び降り、健司の傷の応急処置を始める。彼らは彼を慎重に、しかし手際よく担架に移した。私は無意識に彼らについて行こうとしたが、一人のスタッフに遮られた。「お嬢さん、危険ですからお退きください」健司が救急車に運び込まれるのを見つめた。彼の手はまだ私の手をしっかり握りしめていた。まるで、「離れない」と言っているようだった。救急車のドアがゆっくりと閉まり、またしてもあの耳をつんざくサイレンが鳴り響いた。車両は猛スピードで走り去っていった。私はその場に立ち尽くし、涙で視界が滲んだ。周りのすべてがぼやけて見えた。高峯健司は死んだ。彼は遺産のすべてを私に残したのだ。その瞬間、私の心には一片の波瀾もなかった。ただ、深い、深い疲労感だけが押し寄せてきた。高峯健司は死んだ。かつて私を愛し、憎ませ、苦しめたあの男が、ついにこの世から永遠に去ってしまったのだ。遺産の額は驚くべきものだった。しかし、私にとって、そのお金は単なる数字に過ぎなかった。私はそれを全て慈善団体に寄付した。このお金が、私の心の重荷となるよりも、本当に助けを必要としている人たちの役に立ってほしいと願って。葬儀は私が自ら執り行った。場所は彼が最も好んだ海辺を選んだ。そこには彼の愛した景色があり、私たち二人の思い出もあった。私は自らの手で、シンプルな黒のスーツと一輪の白いバラを選んだ。バラは彼の一番好きな花だった。純白で清らか、それはまるで彼がかつて私にくれた優しさのようだった。葬儀の後、彼が残してくれた一通の手紙が届いた。封筒には私の名前が書かれていた。その
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