その夜、エマはナタリナに促されて、早々にベッドに入った。 「エマ様。明日も早いですから、しっかり寝て下さいね」 「うん。あ、明日も、その……変装するんだよね?」 「おそらくそうだと思います。ローズ様も、とても可愛らしかったですよ」 ナタリナが微笑むと、エマは頬を赤くした。 「に、似合ってたかな?」 「ええ。それはもう。あのように美しい令嬢は、他におりませんわ」 笑顔で褒めてくれるけど、ナタリナの場合は、ちょっと大げさなくらいに思ってた方がいい。 「……ルシアン様に、恥を掻かせたりしなかったよね?」 「もちろんです。デイモンド伯は、とても自慢気なご様子でしたわ」 にっこりと微笑まれて、エマはますます頬が赤くなる。 シーツをばさっと被って、顔を隠した。 ナタリナのひいき目もあると思うけど……たしかにルシアンは、嬉しそうな顔で褒めてくれた。 「エマ様。恥ずかしがるところではありませんよ?」 「だって……僕、ちょっと浮かれてたもん」 エマは小さく呟いた。 ルシアンが甘い言葉を囁くたびに、すごくドキドキした。 でも。 (美しいって、言ってもらえても……僕じゃ、ルシアン様の婚約者にはなれない) 結局、エマはルシアンの恋人になりたかったのだと、心の内を思い知らされた。 決して叶わない夢を、ひとときだけ叶える魔法。 それが、今日の変装だったのだ。 (ルシアン様は、僕の立場を気遣って用意してくれたのに) ルシアンへの恋心を募らせるだけで、エマばかりが浮かれて楽しんでしまった。 王立美術館の休憩室で、ルシアンに触れられたことも、甘い思い出だ。 (ルシアン様……) もっと、近づきたいと思っていた。 それなのに、近づいたら、もっとルシアンが欲しくなった。 (僕って、すごくワガママだよね) 今でも十分に幸せなのに、欲望には限りがない。 許されぬ恋に身を焦がしながら、叶わぬ夢
Leer más