ルシアンが軽く頭を下げて詫びる。 ナタリナは驚いたように瞬きした。伯爵であるルシアンが侍女に頭を下げるなど、普通はありえないからだ。 「いえ……デイモンド伯爵に頭をお下げいただくようなことではございません。私こそ、出過ぎた真似を致しました」 ナタリナは頭を下げて、エマの後ろに控える。 クロエはエマを見つめて、嬉しそうに微笑んだ。 「ルシアン殿の仰ったとおり、素晴らしい素材ですわ」 「クロエ。言葉を選んで下さい」 「ま、わたくしったら、つい」 クロエはクスクスと笑って、控えていたメイドに合図を送る。 そして、エマの前で深く膝を折った。 「エマヌエーレ様。本日はわたくし、クロエが、着替えをお手伝いさせて頂きます」 「あ、ルシアン様が仰っていた、変装のことですか?」 「さようでございます。エマヌエーレ様には、こちらをご用意いたしました」 そう言ってクロエが指し示した先には、可愛らしいドレスが数着ある。黄色に薄桃色、水色と黄緑と、春らしい色合いのものばかりだ。 「あのっ、これは、女性のドレスでは……?」 エマが戸惑っていると、クロエはにこやかに頷く。 「ええ。このお姿でしたら、外出されてもエマヌエーレ様だとは気付かれませんわ」 「え、でも……!」 (僕がドレスなんて、似合うはずないよね?) 女装をするのだと言われて、エマは及び腰になった。 とっさにナタリナを振り返ると、なぜか感心したような顔をしている。 「たしかに、エマ様によくお似合いかと思いますが」 「ナタリナ!?」 「エマ様は、とてもお美しい方ですから」 ナタリナのうっとりした声を聞いて、エマは援護を諦めた。 (もうっ、ナタリナは僕のこと美化しすぎだよ!) 「あの、僕が女装なんて、おかしいですからっ」 エマは精いっぱいの反論をするが、そこへルシアンが口を挟んだ。 「おかしくありませんよ、エマ」
Last Updated : 2025-08-11 Read more