ルシアンは自嘲気味に呟き、テーブルにおかれた書類を手に取る。 部下から上がってきた報告書だ。 今回、ランダリエに赴いたのも、帝国に損害をもたらす重要な問題が発覚し、その調査を内密に行う為だった。 ここにいる間、王室の人間はティエリーを注視する。その裏で、ティエリーの側近は王国の貴族達と関わりを持ち、身分を隠した部下達が、密かに王都へ繰り出して情報を集める。 その為、皇太子であるティエリーが直接ランダリエ王国を訪れたのだ。 ルシアンは報告書に目を通しながら、貴族達の利害関係や所有する財産、投資先の情報を確認していった。 夜半を過ぎた頃に、ティエリーがやってきた。 酒臭い匂いに眉をしかめるが、ティエリーの顔を見れば、大して酔ってはいない。 ルシアンの向かいの椅子に腰掛ける。 侍従も付けずにふらっとやってくるのは、いつものことだ。 ティエリーは笑みを浮かべ、いつもより陽気な口調で問いかけてきた。「ルシアン。首尾はどうだ?」「あの婚約者なら問題ない。まだ番っていないからな」「それは朗報だ。情報は聞き出せたか?」「『聖樹』のことなら少し聞いた。……『聖樹』からは、アルファかオメガしか生まれなそうだ」「ほう? ベータは生まれないのか」「その点だけ、普通のオメガとは違うようだ」「他には?」「王族と側妃との間にベータが生まれたら、臣下に下る。だから妃以外の王族はアルファしかいないそうだ」「なるほど」 ルシアンの話に相づちを打ち、ティエリーはさらに問いかける。「それだけか?」「ああ」「お前、あの婚約者を追ってパーティを抜けただろう?」「話をする状況ではなかったんだ」 ルシアンは視線を逸らす。 大広間には、ルシアン以外にもティエリーの側近や部下が参加していた。情報収集のためお互いの動きに注意していたから
Последнее обновление : 2025-07-02 Читайте больше