Все главы 神殿育ちの嫌われΩは、隣国の伯爵αに蕩ける愛を刻まれる: Глава 31 - Глава 40

58

第30話 懐柔

    ルシアンは自嘲気味に呟き、テーブルにおかれた書類を手に取る。 部下から上がってきた報告書だ。 今回、ランダリエに赴いたのも、帝国に損害をもたらす重要な問題が発覚し、その調査を内密に行う為だった。 ここにいる間、王室の人間はティエリーを注視する。その裏で、ティエリーの側近は王国の貴族達と関わりを持ち、身分を隠した部下達が、密かに王都へ繰り出して情報を集める。 その為、皇太子であるティエリーが直接ランダリエ王国を訪れたのだ。 ルシアンは報告書に目を通しながら、貴族達の利害関係や所有する財産、投資先の情報を確認していった。   夜半を過ぎた頃に、ティエリーがやってきた。 酒臭い匂いに眉をしかめるが、ティエリーの顔を見れば、大して酔ってはいない。 ルシアンの向かいの椅子に腰掛ける。 侍従も付けずにふらっとやってくるのは、いつものことだ。 ティエリーは笑みを浮かべ、いつもより陽気な口調で問いかけてきた。「ルシアン。首尾はどうだ?」「あの婚約者なら問題ない。まだ番っていないからな」「それは朗報だ。情報は聞き出せたか?」「『聖樹』のことなら少し聞いた。……『聖樹』からは、アルファかオメガしか生まれなそうだ」「ほう? ベータは生まれないのか」「その点だけ、普通のオメガとは違うようだ」「他には?」「王族と側妃との間にベータが生まれたら、臣下に下る。だから妃以外の王族はアルファしかいないそうだ」「なるほど」 ルシアンの話に相づちを打ち、ティエリーはさらに問いかける。「それだけか?」「ああ」「お前、あの婚約者を追ってパーティを抜けただろう?」「話をする状況ではなかったんだ」 ルシアンは視線を逸らす。 大広間には、ルシアン以外にもティエリーの側近や部下が参加していた。情報収集のためお互いの動きに注意していたから
last updateПоследнее обновление : 2025-07-02
Читайте больше

第31話 皇太子の案内役

    翌朝、エマが目覚めると、熱もなく体もスッキリしていた。  ルシアンにもらった鎮静剤は、抜群の効果で、エマは驚きと喜びでいっぱいだった。 「ナタリナ、体が軽くなったみたい」 「良かったですね。エマ様」 「うんっ」  念のため、静香石を使ってフェロモンを抑え、今日の接待に向けて準備していた。  レオナールからは予想通り、体調不良の文が届いた。それも本人ではなく、秘書官が代わりに書いたものだ。  エマに仕事を押しつける内容を受け取り、ため息をついたのもつかの間、続けて王太子の筆頭秘書官がやってきて、思いがけない事態になった。  侍女長に呼ばれ、急いで本館の控えの間へ赴いたエマは、王太子からの文を受けとって、驚きのあまり立ち尽くす。  なんと、王太子が今日の公務を休むというのだ。 「王太子殿下は、お越しになれないと?」 「さようでございます。本日の接待は、弟君レオナール殿下に一任される予定でしたが……」  秘書官は言葉を切り、エマの後ろに控えていた侍女長を冷ややかに見つめる。 「どうやらレオナール殿下も、体調が思わしくないご様子。王太子殿下は、エマヌエーレ様に一任されると仰せです」 「わ、私が、皇太子殿下の案内役をっ?」 「エマヌエーレ様には、誠に申し訳ないと仰せでした」 「いえっ。とんでもないことです」  慌てて首を振り、謹んで承ると伝えた。  王太子が公務を取りやめるなど、本来ならあり得ない。  だが、渡された文には、王太子妃の容態が悪く、看病のために休むと書かれていた。  まだ正式に発表されていないが、王太子妃は第四子を妊娠している。王太子夫妻は揃って式典に出席したが、そのせいで無理がたたったのだろう。 (王太子妃様は、あまりお体が丈夫じゃないから)  それに、王太子は正妃をとても大切にしている。  容態が回復しても、今日はずっと側で付き添うことだろう。  エマは、急な大役が回ってきたことに、軽くめまいがした。  事の次第を聞いた本
last updateПоследнее обновление : 2025-07-03
Читайте больше

第32話 お詫びの品

    ルシアンの瞳はルビーのように煌めいて、いつも優しくエマを見つめるのに。 (あっ。今日はルシアン様もいらっしゃるかな?)  エマは懐に手を当て、忍ばせた小さな袋を確かめた。  ルシアンへのお礼にと、朝のうちに急いで用意したお守りの袋だ。  今日は王太子もレオナールもいないので、隙を見て渡せるかもしれない。 (ルシアン様っ)  昨夜の、甘い眼差しと、体に触れた手を思い出すと、奥がきゅんと疼く。  中に入った静香石が、クルンと動いて、思わず震えた。 「ッ……ダメ」  思い出すと躰が熱くなってしまう。  せっかく熱が下がったのだから、仕事に集中しなくては。  エマは気を引き締めると、皇太子が滞在する天耀宮(てんようきゅう)へ向かった。  +++  エマは『聖樹』専用の法衣のうち、準礼装の法衣を選んで身に纏った。  正礼装と同じく、くるぶしまでの長さがあり、袖口や襟元に金の縁取りがされ、銀糸でさりげなく刺繍が施されている。昨日のパーティで着たのと同じ格式の法衣だ。  そして、他の『聖樹』の準礼装に比べたら、まったく飾り気のない法衣である。 (恐れ多くも、皇太子殿下をご案内する役目を仰せつかったのに……僕だけ見劣りするんだろうな)  控えの間で待ちながら、エマは暗い顔でため息をついた。  エマのすぐ後ろには、先ほど王太子からの文を届けてくれた筆頭秘書官と、身なりの整った若い書記官、それに騎士団長の姿が控えていた。  みな、家格や役職に相応しい身なりをしているのに、エマだけがあまりに質素だ。 (……しっかりしなくちゃ) 『聖樹』であること以外に何の価値もない自分は、こういうときこそ『聖樹』の役目を立派に務めなければ。 「エマヌエーレ様」  筆頭秘書官に呼びかけられ、顔を上げる。  彼は中年の男性で厳めしい顔をしているが、思いがけず優しい声で話しかけてきた。 「私は、王太子殿下よりエ
last updateПоследнее обновление : 2025-07-04
Читайте больше

第33話 意見が割れる

    その刹那、気の緩みを見透かしたように、皇太子がふと口を開く。 「ダリウ殿下の奥方は、体調が優れぬそうだな」 「は、はいっ。皇太子殿下」  エマは姿勢を正し、あわてて答えた。 「王太子妃殿下はご体調を崩されやすく、たびたび静養が必要となりますため、本日は王太子殿下がお傍に付き添っておられます」  エマの答えに、皇太子はわざとらしく肩をすくめた。 「客人を放って、奥方の看病とは。ずいぶんと、愛妻家でいらっしゃるようだ」 「はい。王太子ご夫妻は、たいへん仲睦まじくございます」  胸が詰まる思いでそう告げると、エマは深く頭を下げた。 「決して、皇太子殿下を蔑ろにしているわけではございません」  すると皇太子は、からかうように笑みを浮かべる。 「そう固くなるな。冗談だ」  ようやく冗談を言われたのだと分かって、エマは胸の内で安堵の息を吐いた。  エマが顔を上げると、皇太子の後ろに控えているルシアンが、柔らかい眼差しを向けていた。 (ルシアン様っ)  胸の奥がトクンと高鳴り、頬が熱くなる。  だが、ルシアンへの思慕を悟られてはいけない。  エマは努めて平静を装いながら口を開いた。 「もし差し支えなければ、紅薔薇(べにばら)離宮よりご覧いただいてはいかがでしょうか。遠方よりお越しの客人には、特にご好評をいただいております」 「ふむ。良いだろう。案内せよ」  皇太子の短くも威厳を湛えた返答に、エマは恭しく一礼する。 「かしこまりました、皇太子殿下」  エマは案内役としての務めを果たすべく、ルシアンから視線を逸らした。  +++  王宮にはいくつかの離宮があるが、紅薔薇離宮はその中でも特に華やかな場所だ。  外壁から内装に至るまで、一級品のルビーやサファイヤが惜しみなく使われ、それらで造られた薔薇も、至る所で美しく輝く。  金の装飾や、宝石の薔薇が光を受けてきらめく空間は、ま
last updateПоследнее обновление : 2025-07-05
Читайте больше

第34話 王宮の庭園

    皇太子と別れたルシアンを案内することになり、エマは密かに浮かれていた。  皇太子に付き従っていた側近たちはみな厩舎へ向かったので、この場に残ったのはルシアンとエマだけだ。王国側の人間は、王太子付きの若い秘書官と護衛騎士が一人ずつ、帝国側の人間は、ルシアンの従者と書記官が一人ずついるだけで、かなりの少人数である。 (皇太子殿下があちらに行かれてよかった)  本当はこんなこと思ってはいけないけど、ルシアンと一緒にいられるのが嬉しくて、つい頬が緩む。  さっそく王立美術館へ向かおうとしたが、後方に控えていたナタリナがエマの側へ寄った。 「失礼致します。エマヌエーレ様」 「ナタリナ?」  ナタリナは顔を近づけ、小声でそっと囁く。 「エマ様。お疲れのご様子とお見受けいたします。少しお休みになってくださいませ」 「大丈夫だよ、ナタリナ」 「ですが、皇太子殿下もいらっしゃいませんし、デイモンド伯爵なら休憩を申し出ても受け入れてくださるのでは」 「ナタリナ……」  エマを心配するナタリナの気持ちはありがたい。  だけど、エマはルシアンの望みを叶えたくて、首を振って微笑んだ。 「これくらいは大丈夫だから。ありがとう」 「エマ様っ」 「下がって、ナタリナ」  エマの言葉に、ナタリナはしぶしぶと頷き、後ろへ下がった。  後でお小言をもらうだろうなと思いながら、ルシアンを見上げる。 「デイモンド伯爵、お待たせしました。今からご案内致します」 「いえ、待ってください」 「?」  ルシアンは口元に拳をあて、思案するようにエマを見下ろす。  そしてすぐに、優しい笑みを浮かべた。 「王立美術館は、とても広いのでしょう」 「はい」 「できれば、一日かけて見て回りたいのです。案内は後日にして、今日は庭園でお茶を振る舞ってくれませんか?」 「えっ? お茶ですか?」 「ええ。王族の方々や聖樹の皆様は、王宮の庭園でアフタヌーンティーを楽しまれ
last updateПоследнее обновление : 2025-07-06
Читайте больше

第35話 甘い夢をみてしまう

   「ええ。良い香りですね。アールグレイですか?」 「はい。私の好きな紅茶なんです」  用意された紅茶は、最高級品の茶葉だ。  エマの立場では、客人をもてなすときにしか飲めない代物なので、味わって飲んだ。  一口サイズにカットされたサンドイッチやクッキーも、宮廷料理長が手がけたもので、エマがふだん口にするものとは比べものにならないほど美味しい。  料理長が作る料理は、国王や王太子が同席する会食でないと食べられないので、これも噛みしめるようにして食べる。 (すごくおいしい。ナタリナにも食べさせてあげたいな)  ちらっとナタリナに視線を向ける。  離れているから表情までは分からないけど、エマを心配する様子は伝わってくる。 「エマ。どうぞ、これも食べてください」 「あ、ルシアン様っ」 「貴方は細いから、しっかり食べないと。倒れてしまわないか心配です」 「大丈夫です。もともと小食ですから」 「では、お腹が空いたら食べてください」  そう言ってルシアンは、エマの皿にクッキーを載せていく。  エマの世話を焼くルシアンの顔は楽しげで、ゆったりと流れる時間が幸せだった。  昨夜はあまり話ができなかったから、今日こそはもっといろんな話をしたい。  そんな思いでルシアンを見つめる。  容姿端麗な貴公子は、ルビーのような赤い瞳で、エマを優しく見つめた。 (やっぱり、ルシアン様は素敵だ)  独身と聞いているが、これほど素敵な方なら、帝国に恋人がいるに違いない。  そう思った途端、胸がチクッと痛んだ。 (ッ……ルシアン様は、親切なだけなのに)  エマは自分に言い聞かせ、胸の痛みから目をそらした。  どんなにルシアンに惹かれても、想いが叶うことはない。 (ルシアン様が、僕みたいな平民を相手にして下さるはずがないのに)  甘い夢を見てしまいそうで、エマは奥歯を噛みしめる。  きっと、現実があまりに酷いからだ。  レオナールの非道な仕打ち
last updateПоследнее обновление : 2025-07-07
Читайте больше

第36話 ルシアンの香り

   「私には医学の知識があります。特にオメガに関しては、専門家の助手を務めたこともありますから」 「ルシアン様が、専門家の助手を?」 「ええ」  意外な台詞に目を丸くする。  ルシアンが最初からエマに優しかったのは、偏見がなかったからなのだ。 「貴方の状態は、定期的に抑制剤を服用しているオメガとは思えません」 「あっ……」  ルシアンの指摘は間違っていない。  だけど、抑制剤を飲んでいないと打ち明ければ、その理由を問われるだろう。  本当のことを話せば、帝国の人間に王族の恥を晒すことになる。 「……」  エマは、どうすればいいのか分からなかった。  ルシアンに全て打ち明けてしまいたい気持ちと、王家を裏切ることへの恐怖で板挟みになり、言葉が出てこない。  黙り込むエマに、ルシアンの優しい声が届いた。 「エマ。無理に話さなくて良いですよ」 「ルシアン様……」 「ですが、私は貴方が心配なのです。それだけは、忘れないで下さい」 「っ!」  エマを案じる表情に、胸がジンと熱くなる。  こんなふうにエマを心配してくれる人は、ナタリナしかいなかったのに。 (ルシアン様は、僕が『聖樹』じゃなくても関係ないんだ)  オメガへの偏見もなく、一人の人間として見てくれる。そのことが、エマには言葉にならないほど嬉しかった。 「ありがとうございます。ルシアン様っ」  エマは喜びのままに、笑顔を向ける。  ルシアンも、ニコリと笑って、エマを見つめた。 「エマ」 「はい、ルシアン様」 「今日も、静香石(せいこうせき)を使っていますね?」 「っ……はぃ」  昨夜の出来事がまた脳裏に浮かんで、カァッと熱くなる。 「も、もしかして、匂いがしますか?」  エマが尋ねると、ルシアンは口端を上げ、目を細めた。  微笑んでいるのに、獲物を狙うような目つきだ。 「そうですね。甘くて柔らかい香りがしますよ」
last updateПоследнее обновление : 2025-07-08
Читайте больше

第37話 甘い刺激

    恥ずかしがるエマに、ルシアンは宥めるように微笑む。 ルシアンは、善意から静香石を確認すると言ってくれてるのだ。いつまでも恥ずかしがっている場合ではない。「あ、あの……う、後ろを向いててくださいっ」 上ずった声でお願いすると、ルシアンが背中を向けてくれる。 その間に、エマは欅の幹に片手をついて、白い法衣の裾をまくり上げた。 チラッと後ろを振り向き、ルシアンの背中が見えているのを確認してから、膝丈の肌着(シュミーズ)を掴んで持ち上げる。「ンッ……」 裾が落ちないよう、左手で持ちながら、右手で蕾に触れる。 と、静香石がクルンと動いた。「ぁ、あぁっ、んっ」 蕾の熱さに、ビクッと震える。(ぁ、熱い……どうしてっ) 静香石が埋められているのに、クチュリとうごめいて、蜜をこぼす。 わずかな刺激にも煽られそうで、エマは急いで静香石の紐を握った。(これ、抜かなきゃ……) クッと引っ張ると、蕾が嫌がるように締めつける。「ん、ンッ……ぅぅ、っ、はぁぁっ」 思いきり引っ張ってしまえばいいのに、怖くてできない。 そんなことしたら、またみっともなくイってしまいそうだった。(ぁぁっ、抜けないっ) 紐を握る手にも力が入らず、蕾から愛液があふれてくる。 感じたくないのに、蕾の奥がうずき出して、腰が揺れ動いた。「はぁっ、んぁッ……、ァァッ」(か、香りが……つよいっ) 雄々しい獣の香りが濃くなり、エマの躰を包み込む。 ピクンッと躰が跳ね、そのまま動けなくなった。「ぁ、ぁぁっ、……ぁぅっ」(ッ……ほ、ほしい……あつい、の&
last updateПоследнее обновление : 2025-07-09
Читайте больше

第38話 疼きがおさまるまで

    背中から抱きしめるような体勢で、エマの両手を幹に押しつける。  エマは抵抗を封じられ、蕾の奥がキュンと甘く疼いた。 (ルシアン様が、……僕をっ)  昨夜、この躰に触れた手を思い出し、昂ぶりが勢いを増す。 (ぁぁッ、もっと、気持ちよくして……ッ)  ルシアンの香りに飲まれて、期待に胸を震わせた。  いちど快楽を知った躰は、自らを支配する相手にたやすく媚びる。  エマは腰を振って、ルシアンにねだった。 「ぁん、ァッ、んぁぁっ」 「可愛いですね」 「ひゃんっ」  尻を撫でられ、喘ぎ声がもれる。  ルシアンに小さな尻をもみしだかれて、さらに疼きが酷くなった。 「る、ルシアンさまぁッ」 「何ですか、エマ」 「ひゃぅぅっ」  耳たぶを舐められ、ピクッと跳ねる。  ルシアンの舌がねっとりと耳の形をなぞった。 「ぁ、ぁぁっ、んッ」 「今日もまた、こうして貴方を愛でられるなんて、私は幸せですね」 「ひぁッ、ぁん、はぁぁんッ」 「貴方の甘い声が、癖になりそうですよ」 「っ、んん、るしあん、さまッ」  耳元で囁かれるたびに、ビクビクと躰が震える。  左右の耳を交互に舐められ、尻を優しく揉まれながら、エマは何度も果てた。 「はぁ、はぁっ……ぁぁん、やぁっ」 「エマは敏感ですね。もうこんなにイって」 「ひぅぅっ」 「触れてもいないのに……淫らな躰だ」 「ッ……ぁ、ァァッ」  ルシアンの吐息が耳に触れ、甘い声で囁かれると、頭の芯まで痺れるようだ。  ルシアンの香りと体温に、思考を溶かされる。 「ぁんっ、きもちい……ッ」 「どこがイイですか?」 「ひゃんっ、ぁ、み、耳っ」 「他には?」 「お、おしり、ぎゅぅって……」  答えるそばから、蕾がまた愛液を垂らす。  いちばん疼く蕾を弄ってもらえず、エマは泣きそうな声で縋った。
last updateПоследнее обновление : 2025-07-10
Читайте больше

第39話 渡せたお守り

    カァッと頬を赤く染めて、エマは視線を逸らした。 「フフ。またいずれ、その機会があれば」 「っ! 本当ですか!」  バッと勢いよく振り返る。  ルシアンは驚いたように目を丸くした。 「ぁ……す、すみませんっ!」  エマは耳まで真っ赤にして、両手で顔を覆った。 (バカバカ! ただの社交辞令なのに!)  本気にするなんて、恥ずかしすぎる。  エマが羞恥に黙り込むと、ルシアンがクスクスと笑った。 「可愛いですね、エマは」 「ぁぅっ」  プシューっと頭から湯気が出てきそうだ。 「エマ。今日はここまでにしましょう」 「?」 「可愛い貴方を愛でるのに夢中で、無理をさせてしまいましたから」 「ぁッ……いえ、そんな」 「疲れたでしょうから、今日は休んで下さい」  優しい笑顔で、いたわりの言葉をかけてくれる。  ルシアンの言うとおり、体が重いのは事実だ。 「……はい。ルシアン様」  頷いたものの、ここで別れるのは寂しい。  先ほどまでぴたりと触れあっていたのだから、離れる寂しさに胸が痛んだ。  そんなエマの様子に気付いたのか、ルシアンが微笑む。 「私の美しい薔薇。また明日、お会いできるのを楽しみにしてますよ」 「ッ、はい、ルシアン様っ」  明日こそは、王立美術館へ案内しよう。  ルシアンとの約束ができて、エマはホッと息をついた。ルシアンの手を借りて立ち上がると、もう一度身なりを整える。  先ほどは、ルシアンの外套を敷いてくれたおかげで、汚れもなく安心した。  お茶の席に戻る前に、ルシアンが四角い袋を差し出してくる。 「エマ。これは貴方のものですか?」 「あっ!」  リネンで作った地味な袋は、エマが用意したお守りだ。  中にカードが一枚入っているだけの、飾り気のない袋。 「貴方の足元に落ちていたのですが」 「あ、これは……」  渡そうと思って持
last updateПоследнее обновление : 2025-07-11
Читайте больше
Предыдущий
123456
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status