Lahat ng Kabanata ng 神殿育ちの嫌われΩは、隣国の伯爵αに蕩ける愛を刻まれる: Kabanata 21 - Kabanata 30

51 Kabanata

第20話 挨拶回り

   『聖樹』に欠かせない礼装は、必要に応じて誂えてもらえたし、抑制剤も申請すればもらうことができた。  慎ましく暮らしてきたエマにとって、華やかな場は気後れするばかりだった。  何とか晩餐会を終えた後は、大広間でのパーティだ。  エマの仕事は、貴賓である帝国貴族のもてなしである。  大広間に足を踏み入れ、エマはその豪華さに目を見張った。 「うわぁっ」  白亜の大理石が床一面に広がり、その上には金糸のカーペットが敷き詰められている。天井には夜空の星を模しているのか、クリスタルのランプが無数にきらめき、光の粒が空間を漂っていた。  壁を飾る絵画や彫刻は、すべてこの国の歴代王や英雄たちの姿が描かれている。  だが、それ以上に目を奪われたのは、王国で採れる宝石で彩られた装飾だった。サファイアで象られた花のブローチ、ルビーを散りばめたグラスの縁、そして金細工の食器や柱の飾り。  ランダリエで産出される金や宝石を惜しみなく使い、豊かさを見せびらかすようだった。 「すごい……」  これほど豪華な装いは見たことがなく、エマは圧倒された。 「おい、何を呆けている」 「あっ、殿下」 「行くぞ」  レオナールがきつくエマを睨み、顎をしゃくった。  婚約者として、共に貴賓たちへ挨拶をして回らなくてはいけないのだ。  レオナールの夜会用の礼服は、黒を基調としたもので、胸元には王家の紋章が金糸で織り込まれ、王子の品格を表していた。  対するエマは、ここでも『聖樹』専用の白い法衣だ。式典のときより格を落とした礼装で、金糸の刺繍に、小さな宝石が縁取りに使われているだけの簡素なものである。  レオナールはエマを従えて、最初にオスティン帝国の皇太子の元へ、挨拶に向かった。 「皇太子殿下、お越しいただきありがとうございます。心より歓迎を申し上げます」  レオナールは格上の皇太子に、愛想良く話しかける。  皇太子は、この場にいる誰よりも豪奢で目を引く衣装だった。白を基調に金刺繍が施され、藍色のマントには皇
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第21話 休憩室

   「黙れ。いいからさっさと行ってこい!」 「……かしこまりました」  苛立つレオナールに、これ以上は言っても無駄だと悟る。  エマは大人しく頷いたが、レオナールは冷ややかに言った。 「貴様が視界に入ると目障りだ。適当なところで引き上げて、あの薄汚い巣へ戻れ。ドブネズミめ」  レオナールは暴言を吐き、エマをきつく睨んでから、身を翻した。向かった先に、深緑のドレスを身を包んだ令嬢が見える。 「カミラ嬢……」  何度か見かけたことのある、公爵令嬢のカミラだった。  薄絹を重ねた背中や肩を露出したカットは、かなり大胆なデザインだ。  胸元を飾る大粒のダイヤモンドは、レオナールが贈ったものだと噂されている。  美しいドレスと宝石で着飾り、レースの扇子を手に持って、男達と談笑する姿は、ひときわ目を引いた。  レオナールが近づくと、歓声が上がり、楽しげに談笑する姿が見える。  レオナールが、あのように微笑みを浮かべるのは、カミラ嬢にだけだ。 (カミラ嬢と、結婚すればいいのに)  どうして、婚約者が自分なのだろうと、エマは身の上を嘆いた。  レオナールを引き立てるために努力しても、成果を褒められることはない。忌み嫌われ、暴言を浴びせられる。  本当は、まだ挨拶するべき相手がいるのに、レオナールは王族の務めを放棄した。  エマは仕方なく、一人で外交官たちへ挨拶に回ったのだった。   レオナールは弱小国などと見下しているが、王子の婚約者にすぎないエマが一人で挨拶に来たことに、ほとんどの者が気分を害したようだ。  きつい言葉で嫌味を言われ、エマはひたすら頭を下げた。  挨拶が終わる頃にはかなり疲弊していたが、それでも最後まで接待をしなくてはいけない。 (ちょっと休憩しよう)  そう思って、壁の方へ移動すると、思わぬ人から声を掛けられた。 「エマ殿」 「あっ、ルシアン様!」  振り向くと、憧れのルシア
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第22話 男子禁制

   「聖樹について、詳しく伺っても構いませんか? 帝国にはない制度なので、興味深くて」 「はい。何なりとお尋ね下さい」 『聖樹』と呼ばれようと、結局はオメガなのだ。外交の場では、冷やかしや軽蔑を含んだ態度で『聖樹』について質問されることがよくあった。  だけど、ルシアンの表情から読み取れるのは、純粋な好奇心だけだ。  外国の文化を知りたいと、興味を持って聞いてくれている。 (ルシアン様は、帝国の貴族なのに)  帝国はオメガ蔑視が強いのに、エマを普通の人間として扱ってくれる。  そのことが、とても嬉しかった。 「聖樹は、みな神殿に入ると聞きましたが、エマはどこに住んでいるのですか?」 「あ、私はいま西殿(さいでん)で暮らしています。その前は、神殿にいました」 「神殿は、ここから遠いのですか?」 「はい。馬車で五日ほどかかります。聖なる山の中腹に建つ大神殿で、険しい山道もあるので、簡単に行き来はできないのですが」  エマはかつて過ごした、イーリス大神殿のことを思い出す。  平民のエマは、神殿に引き取られた後、新しい名前を与えられた。  エマヌエーレ・イーリス。これは、神殿長が付けて下さった名だ。 「私は十四の年に、大神殿でのお勤めを終えて、西殿へ移りました。なので、王宮で過ごすようになって、まだ二年ほどです」 「そうですか。王宮の暮らしには、慣れましたか?」 「はい……」  エマは頷いたが、正直なところ、慣れたとは言えない。  神殿では、他の『聖樹』から冷たくされたけど、それ以外の神官たち  はみな優しかった。けど、西殿の住まいは、出身階級で明らかに差別されているし、王宮で会う貴族は、エマに好意的でない人も多い。  そんなことを思い出して俯くエマに、ルシアンが話題を変えるようにいった。 「エマの住む西殿も、ぜひ伺ってみたいですね」 「あ、西殿に殿方は入れないのですっ」  エマは首を振り、ルシアンに説明した。 「西殿には『聖樹』が暮らしている
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第23話 花の香り

   「ッ……ランダリエの王族は、アルファしか、認められていないのです」 「アルファのみですか?」 「はい」 「しかし、側妃との間なら、ベータが生まれることもあるでしょう?」  ルシアンの疑問はもっともだ。  王族や皇族は側妃を持つのが普通で、その間に生まれる子はアルファとは限らない。 「ぁっ、それは……側妃との間に生まれたベータは、臣下に下ります」  側妃の実家へ引き取られるか、ランダリエの貴族の養子になるのが通例だ。  そして、王の寵愛が得られていない場合、側妃も離縁される。  そこまでの事情は、さすがに外国の使節には話せない。 「ンッ……ぁ」  クルン、クルン、と回る静香石に、エマは足をモゾモゾさせた。 (んんっ……どうして、こんなに動くの?)  もしかしたら、正常に作動していないのかもしれない。  ルシアンは感心したように頷く。 「なるほど。ランダリエ王家にアルファしかいないのは、そういう理由でしたか」 「はい……っ、て、帝国では、やはり、オメガへの扱いはよくないのでしょうか?」  エマは気になっていたことを尋ねた。  噂では聞いていても、実際にどうなのか、ルシアンの口から聞いてみたかった。  ルシアンは、オメガのエマにも、優しく微笑んでくれるから。 「そうですね……帝国ではオメガの地位は低いです。貴族ならまだ良いですが、平民のオメガは抑制剤も簡単に手に入りませんから、大変でしょう」 「そうなのですね……」  エマも、今は抑制剤を自由に手に入れられない。  その苦しさや辛さは、痛いほどよく分かる。 「薬がなければ、とても辛いでしょう……」  思わず呟いたエマに、ルシアンは慰めるように言った。 「ええ。ですが、抑制剤も日々進化しています。ここ数年は、平民でも買える安価なものも出回っていますから」 「本当ですか?」 「ええ」 「よかった」  薬の効き目が弱くても、何も無いよりはマシなは
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第24話 薔薇の生け垣

    西殿へ戻るには、あの大広間を通らなくてはいけない。  集まっているのは王族や皇族、それに各国の要人や外交官ばかりだ。その半数は、アルファだろう。  オメガがフェロモンを放ちながら、アルファの前に出れば、最悪、悲劇が起きる。  どうにか、この場で鎮めるしかなかった。 「エマ様。ひとまず、お体を落ちつかせましょう。ここをまっすぐ進めば、薔薇の東屋があります。そのさらに奥でしたら、誰も近づかないはずです」 「うん」  ナタリナに支えられながら、巡回の騎士を避け、庭園の奥へと進んでいく。  エマには、どこをどう進んだか分からないが、しばらくして、薔薇の生け垣に囲まれた小さな空間に出た。  柔らかな芝生に、崩れ落ちる。 「エマ様っ」 「ぁ、だ、だいじょうぶ」  芝生にうずくまりながら、エマは熱い息を零した。  静香石は大人しくなったが、体が熱い。  ナタリナの言うとおり、発情(ヒート)の症状によく似ていた。  汗がにじみ、熱と疼きで体が震える。 「ああ、エマ様! すぐに抑制剤を取ってまりますから、もうしばらくご辛抱を!」 「んっ、ぁぁ、ナタリナ、」 「すぐに戻って参ります。なるべくお声を落として、静かにお待ちください」  ナタリナは焦った口調でそう言い、エマの体にストールをかけた。  そして、すぐに来た道に戻っていく。  夜空の月は、あと数日で満ちる。そのためか、月の光は驚くほど明るく、王宮の夜を照らしていた。  エマが周りの様子を窺うと、そこは薔薇の生け垣に囲まれた、小さな空間だった。  入り口は一カ所しかないようで、人目を避けて隠れるのに絶好の場所だ。  咲き誇る薔薇は色とりどりに美しく、昼間であれば、芳しい香りを胸いっぱいに吸い込んで、幸せな気持ちになれるだろう。  しかしエマは、汗がしたたり落ちるほどの熱に、息を乱しながら耐えた。だんだんと強くなる疼きに、エマの半身は緩く勃ち上がる。 「ぁぁっ、ん、んんっ」  エマは無意識
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第25話 おねだり

   「ひゃぁぁんっ!」  胸の飾りに触れられ、甘い声が上がる。  自分で弄ったこともなく、意識さえしていない場所だったのに。  軽く摘まれ、こね回されると、エマは頭を振って喘いだ。 「ぁんっ、ぁぁっ、ひゃぁぁッ」 「感度がいいですね」 「アァァッ! んぁっ……ひゃうっ」  スリ、と乳首を擦られるだけで、腰が砕ける。  こんな快感は初めてだった。  知らぬ間に昂ぶりが弾けて、蕾からは愛液がトプリとあふれる。 (ぁぁッ……き、気持ちいい……ッ)  エマは本能のままに腰を揺らし、その先をねだった。  愛されたことのない躰は、甘い快楽を与えるルシアンに縋り付こうとしている。  頭の片隅に残る理性が、ダメだと警鐘を鳴らすのに、口から出たのは違う言葉だ。 「ァァッ……んぅ……もっとッ」 「ここがいいですか?」 「はぁぁんっ! ぁぁっ、そこぉ……!」 「ここも勃つようになりましたね」  ルシアンが嬉しそうな声で、エマの乳首を指で弾く。 「ひゃぁぁっ!」  ビリッと痺れる快楽に、背をのけぞらせる。  あまりの快感に口端から唾液がこぼれ、昂ぶりは勢いよく固さを増す。 (熱いッ……ぁ、頭が、おかしくなりそうっ) 「こんなに素直で感じやすい乳首は、初めてです」  うっとりと囁く声に、ズクンと腰が疼いた。  いまや、ルシアンの触れるところすべてに、感じてしまう。  ピクピクと躰が跳ね、喘ぎながら、涙をこぼした。 「ひゃんッ、ぁぅ……っ、ぁぁっ」 「可愛いですね」  甘い囁きに、悦びで雄が震えた。 (ルシアン様が、褒めて下さったっ)  嬉しくて、つい腰を揺らしてしまう。  ぴゅるっと白濁を放つ半身は、すでに何度も達して、勢いが弱まっている。 「こんなに蜜をこぼして……」  ルシアンはエマの上半身から手を離し、今度はエマの足を広げて、その太ももを撫でた。 「あぁぁん
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第26話 欲しがる

    顔を覆いたいほど恥ずかしかったが、スッキリしたはずの躰が、また疼き出す。  蕾におさめた静香石は、熱を持ったままだ。 「ぁ……んっ」  エマは目をつむり、その疼きに耐えようとしたが、ルシアンに見抜かれた。 「もしかして、これが苦しいですか?」 「ぁんっ」  ルシアンの指が蕾に触れ、ぴくっと震える。  そこで初めて、ルシアンが今までいちども、蕾に触れずにいたことに気付いた。 「ぁ、ルシアン様……っ」 「静香石でしょう?」 「っ!」  かぁ、と頬が熱くなる。  どうして気付かれたのかと思ったが、秘部を見下ろせば、蕾から短い紐が伸びている。  中に埋めた静香石を取り出すときに必要な紐だ。 「香りがまだ強いですね。正常に動いているか、確認しましょう」  ルシアンは優しく言い、エマの蕾に埋もれた静香石の紐を掴む。 「ぁ、る、ルシアン様っ」 「力を抜いて」 「ぁぁっ」  甘い声で囁かれると、素直に従ってしまう。  ルシアンが紐を引っ張ると、ギュッと蕾が締まる。  クン、と引っ張る力に、勝手に抵抗するのだ。 「んっ、ぅぅ……はぁ」  エマは深く息を吐いて、躰の力を抜く。  その隙に、ルシアンがグッと紐を引っ張った。 「ひゃぁぁんッ!」  ズルッと丸い球体が蕾から抜け落ちる。その刺激にさえ感じて、ビクビクと震えた。 「これが、静香石ですか」  ルシアンが感心したように呟く。 「?」 「私が知っている物は、もっと簡単な構造をしているのですが、これはかなり高価な代物のようですね」 「ぁっ、それは、ダリウ殿下が……」 「王室所有の代物でしたか」  納得したように頷くが、ルシアンの手に取り出された静香石は、愛液に濡れて、月光にイヤらしく光っている。  エマはいたたまれなくなり、今度こそ顔を覆った。 「も、申し訳ありませんっ。そのように、はしたない物をっ」
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第27話 内密に

   「ひぁぁんッ、ぁぁっ、ぁぅッ!」 (アァッ! き、きもちいいッ……きもちい、……もっとっ)  雄を扱かれ、蕾におさまった静香石をグリグリと弄られる。  エマは昂ぶりと蕾を同時に攻められ、身悶え、泣きながら果てた。 「ひぁぁぁんッ……ぁぁッ」  躰をピクピクと震わせ、惚けたように空を見る。  浅く息を繰り返しながら、躰の熱が引いていることに気付いた。 「ぁっ、ぼく……?」  あれほどジクジクと煽り立てていた疼きも、静まっている。  蕾を締めつければ、静香石を感じるが、少し違和感があるだけだ。 「エマ、大丈夫ですか?」 「あっ……」  声を掛けられてハッと我に返る。  月光を背にしたルシアンが、赤い瞳を細めてエマを窺う。 「薬を飲めば、落ちつきますよ」 「くすり……」  薬は、手元にない。  ナタリナが抑制剤を取りに行ってくれてるけど、まだ戻ってくる気配はなかった。 「薬、なくて……」 「私が持っています。さあ、起こしますよ」  ルシアンはそう言うと、エマの背に手を添えて、上体を起こしてくれた。  そればかりか、背後から抱きしめるようにして、体を支えてくれる。 「ぁっ、ルシアン様っ」 「エマ。口を開けて」  凜とした声が鼓膜を震わせる。  ルシアンは右手に、小さな小瓶を持っていた。素早く蓋を回し空け、エマの唇へそっと傾ける。 「苦いかもしれませんが、すぐ楽になります」 「んっ」  とろりとした液体が口に入ってくる。  苦味はあるが、コクッと飲み込んだ。  小瓶の中身をすべて飲み干すと、ルシアンが頬を撫でた。 「よく飲めましたね」 「ぁ、……っ」  ぽぅっと頬が赤くなる。  後ろから逞しい腕に抱きしめられ、ルシアンのぬくもりを感じながら、甘い香りを胸に吸い込んだ。  濃厚な香りはなりを潜め、今は薔薇のいい香りがあたりを包んでいる。
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第28話 美しい薔薇

    ルシアンの言葉に、おずおずと尋ねる。 「本当ですか?」 「ええ。薔薇を愛でても、罪にはならないでしょう?」 「はい……でも、」 「エマ。私は、可憐な花びらに触れただけです。貴方は、私に愛でられた薔薇」  囁かれる甘い声に、エマの心が震えた。  今まで口説かれたことのないエマは、すっかり胸をときめかせていた。 (僕を、薔薇だなんて)  戯れの言葉だと思いながらも、ルシアンに見惚れてしまう。 「もちろん、口外はいたしません。貴方の心を脅かすのは、私の本意ではありませんから」  ルシアンの言葉にホッとした。 「何も心配はいりません」  ルシアンは優しい声でそう告げると、エマの手を取り、左手の甲に恭しくキスをした。 「る、ルシアン様っ」 「私の、美しい薔薇」 「ぁっ」  煌めくような紅い瞳に見つめられ、鼓動が跳ねた。  心臓がドキドキと早鐘を打ち、甘い台詞に心が蕩けてしまうようだ。 「今宵はこれで失礼します。また、お会いしましょう」  ルシアンは優雅に微笑みを浮かべ、身を翻した。  遠ざかる背中を見つめながら、ドキドキとうるさく鳴る胸に手を当てる。 「ルシアン様……っ」  もう届かないと知りながら、愛しい名を囁いた。  薔薇に囲まれたその場所には、エマだけが残される。  まるで夢のような出来事に、エマは月を見上げた。  冴え渡る月を思わせる、冷艶な美しさは、エマの心を捉えて離さない。  しばらく立ち尽くしていると、見慣れた姿が飛び込んできた。 「エマ様!」 「ナタリナ?」  身構えていたエマは、肩の力を抜く。  ナタリナはエマの元へ駆け寄り、安堵の表情を浮かべた。 「エマ様、遅くなりまして、申し訳ございません」 「謝らないで。僕は大丈夫だから」 「あら? 熱が落ちつかれたようですね」 「うん。ナタリナこそ、大丈夫? すごい汗だけど」 「ああ
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第29話 贈り物

    実は、エマには自由にできるお金がない。  王族の婚約者には王室費が割り当てられているが、そのお金はレオナールの許しがなければ勝手に使えないのだ。  エマを使用人用の離れに閉じ込めて冷遇するレオナールが、贈り物を買うお金など渡してくれるはずがなかった。 「エマ様が贈り物をされることも、あの男の耳に入ると厄介ですからね。お気持ちだけの、目立たない、小さなものがよろしいかと」 「小さいものかぁ」 「そうですわ。エマ様は『聖樹』ですから、祈りの言葉などはいかがですか? 『聖樹』のお守りだと言ってお渡しすれば、あちらも受け取って下さるでしょう」 『聖樹』は神殿に入り、神官と同じように過ごす。毎日身を清め、礼拝と祈りを欠かさずに過ごしてきたエマは、神官同様に、神の加護を受けた存在として扱われる。  親しい人や世話になった方へ、祝福や祈りの詩を贈るのは貴族にとって普通のことだ。『聖樹』が贈るものは特に喜ばれるので、頼まれて詩を書いたことは何度もある。 「僕の書いた詩で、喜んで下さるかな?」 「帝国にも似たような習慣があると聞きます。『聖樹』のお守りですから、きっと喜んで下さいますよ」  ナタリナは励ますように、笑顔を向ける。  詩を書いて渡すくらいなら、もしレオナールに見つかってもうるさく言われることはないだろう。 「じゃあ、祝福の詩にする。ナタリナ、紙とペンを出して」 「いいえ、エマ様。今宵はもうお休み下さいませ」 「でも、ちょっとだけ」 「今日は朝からずっと働き通しで、お疲れになったでしょう。明日も朝が早いですから、お休みになって下さい」  目をつり上げ、怖い顔で睨まれては、エマも降参するしかない。  大人しくベッドに入って横になった。 「ナタリナも、早く休んでね」 「ええ」  ナタリナが毛布を肩までかけて、優しく背中を撫でた。  エマが眠るまで、側にいてくれるのだ。  横になると、体がズシンと重たく感じる。  ナタリナの言うとおり、ずっと働きづめだったからだ
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