思いがけずルシアンから鎮静剤をもらうことができ、それだけでも嬉しかったのに、エマの体を気遣って早めに切り上げてくれた。 それに、用意したお守りも、受け取ってくれたのだ。 エマはフワフワした気持ちで館の離れに戻ると、普段着の簡素な法衣に着替えた。 今日はあちこち歩き回ったせいか、少し疲れが出たようだ。 「エマ様、今日は早くお休み下さい」 「うん」 ナタリナに促されて、ベッドで一休みしようと思ったが、そこへ前触れもなくレオナールがやってきた。 乱暴に扉を押し開けて、ズカズカと中に入ってくる。 「貴様ッ! このオレを差し置くとは、いい度胸だなッ!」 「で、殿下ッ!?」 突然の闖入に驚いたエマは、反射的に片膝をつき、頭を垂れて臣下の礼を取った。 婚約者同士であれば、本来、こんな礼は必要ない。 だが、レオナールは例外だった。 エマを平民と罵り、見下すような男なのだ。礼を欠けば、さらに逆上するのは目に見えている。 ナタリナも、エマの後ろで同じように膝をつく。 レオナールは跪くエマに向かって、大声で怒鳴り散らした。 「貴様! 兄上が不在だからと、皇太子の案内役を買って出たそうだな!? 何様のつもりだ!」 「お、恐れながら。王太子殿下の命により、承っただけでございます」 「口答えをするな! オレに恥を掻かせようと、わざと連絡しなかったのだろう!?」 「そのようなことは、決して……」 「黙れッ! 卑しい平民の分際が! 身の程を知れ!」 恫喝され、ビクッと震える。 レオナールの言い分は、完全な八つ当たりだ。 けれど、エマが反論すれば、余計に怒らせてしまう。 「申し訳ございません。殿下」 「あの場を仕切るのは本来、オレの役目だったのだぞ! 辞退すれば良いものを! 平民風情が、王族の一員になったつもりか!?」 大声で罵られ、髪を乱暴に掴まれる。 「あぅッ!」 ギリギリと引っ張られ、痛みに顔を歪
Last Updated : 2025-07-12 Read more