All Chapters of そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜: Chapter 21 - Chapter 30

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8.湯けむりハプニング?④

 海綿の柔らかな感触は、腕の次は当然二の足、とばかりに肌蹴たままの足に移ってきた。 つま先から撫で上げるように膝、内もも……と泡を塗りたくられて、身体に力が入らなくなってしまう。「よ、りつなっ、ダメ……っ」 それでも何とかそうつぶやいたら「ね? 僕が言った通り、気持ち良かっただろう?」っていつもよりほんの少し掠れた、どこか艶っぽい声で問いかけられた。「は、いっ。海綿の凄さはじゅーぶん分かった……ので、もう……」 離して欲しいとそっと足に伸ばされたままの頼綱(よりつな)の手に手のひらを重ねたら、「よろしい。じゃあ俺は泡を流して少し温まってから上がるから、花々里(かがり)も濡れた浴衣を脱いで風呂に入るといい」 そう言って私の身体を起こして、自分が座っていた椅子を譲って座らせてくれた。 一人称もいつもの「俺」に戻っていて、何故だか少しホッとする。 私はまだ自分の身体に残る、何だかよく分からない熱のようなものが冷めきらなくて、椅子の上にうずくまるようにして顔を伏せた。「花々里、大丈夫? 気分悪い?」 それをそう解釈したのか、心配そうにすぐそばから頼綱にそう問いかけられて。 私は慌ててゆるゆると首を横に振る。 気分が悪いのとは少し違う。 何だかよく分からないけど……この感じはお腹が空いた、とか眠たい、とか……そういうのに似ている気がするの。 そうしてこれは――。「あのっ、あなたがそばにいると収まらない気がするので……離れてもらえると有難いですっ」 そう。そんな感じの……。変な感覚なの。「分かった」 でも私がそう言って頼綱を恨みがましく睨みあげた途端、何故か彼は嬉しそうに微かに笑って、案外やすやすと引き下がってくれた。 もう少しゴネら
last updateLast Updated : 2025-06-11
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9.キミには言えないヒミツのアレコレ①

【side:Yoritsuna Mikimoto】 花々里(かがり)の浴衣姿があまりに可愛くて、俺は少しばかり理性を飛ばしてしまった。 昔から自分が抑えられなくなると、人称が「俺」から「僕」になることがあるのは自覚していた。 自分の中の抑圧された思いを開放するのに、自称をいつもと違うものにすると、タガが外しやすいから、だろうか。 無意識すぎて、これがなぜ起こるのか、俺自身にも説明できないのがもどかしいところだ。 そして、それとは別。 仕事中、俺は自分のことをあえて「私」と称するように心掛けている。 普段は「俺」が素だけど、そこをわざわざ「私」に変えると、公人然として引き締まった気持ちになれる。 それをすることで、オンオフが切り替えられる。 でも……だからこそ、俺はプライベートでは絶対に「私」とは称さないと決めている。 そんな「私」と違って、「僕」は意図的に使い分けているわけではない。 気がついたら無意識に出てしまっている……。 それが出てしまった時は、自分でもちょっと〝まずい〟時だというのを、俺自身自認しているんだ。 俺は……風呂場で花々里を怯えさせてしまっただろうか? *** 海綿は「海綿」という生き物の「死骸」なのだと何の気なしに教えたら、花々里が酷くそれに触れることを躊躇うようになってしまった。 そのさまが、プルプル震える小動物みたいに可愛くて。
last updateLast Updated : 2025-06-12
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9.キミには言えないヒミツのアレコレ②

【side:Yoritsuna Mikimoto】 その頃は俺自身も、「男」と呼ぶには未熟な少年だったし、純粋に花々里(かがり)のことを「甘い香りがして美味しそうな子」だと思っていただけだ。 お菓子みたいにふんわりと甘いにおいのする、この小さな女の子を、もっともっと甘やかして美味しいものを沢山食べさせたら、極上のスイーツみたいな香りになるんじゃないか。 バカで浅はかな少年だった俺は、幼な心にそう期待したのだけれど。 俺を見るたびに「ね、きょうはどんなおかし、くれるの!?」と嬉しそうに満面の笑みを浮かべる食いしん坊な花々里を見ているうちに、段々罪悪感が募ったんだ。 俺は花々里を相手に、あくなき好奇心と、家で満たされない寂しい想いを埋めるための「穴埋め」をしているつもりでいたのだから。 俺は、自分の高校受験と、家庭内での揉め事を理由に、中3になったと同時、キミの元へ通うのをパタリとやめた――。 *** 花々里は、再会した折、幼い頃一時的におやつを少しくれただけの、――それこそ成長途中の少年だった俺の顔なんてすっかり忘れていたけれど。 俺のほうはその罪悪感もあったのかな。キミのことを忘れたことはなかったんだ。 そうしてもう1人。 花々里のお母さん――村陰(むらかげ)さんも、葬儀から程なくして、幼い娘に毎日のように菓子を持ってきていた勤め先の跡取息子のことを、忘れることが出来なかったらしい。 村陰さんが、うちを辞めてからも時折花々里の近況をわざわざ俺宛に手紙を送って教えてくれていたのは、多分そのためだったんだと思う。 きっと俺が、受験や家の事情なんかでやむを得ず娘のもとを訪れることが出来なくなってしまったんだと解釈してくれたんだろうな。 実際はそんな綺麗な理由じゃなかったんだけど、俺は一時期餌付けした、俺によく懐いた可愛い花々里のその後のことを知りたくて、
last updateLast Updated : 2025-06-13
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10.今どこにいるんだよ?①

昨夜はお風呂で色々あり過ぎて、何だかよく分からないままに頼綱の指示のもとお風呂の始末をつけて、荷物の運び込まれていた洋間に戻った。 室内にはいつの間に用意されたのか分からないけれど、布団が一式部屋の真ん中にポツンと置かれていて。 洋間に布団を敷くのは、何もかもが完璧に見えるこの家では何だか変な感じがしたけれど、私が突然押しかけたから急拵えになったのかな?って勝手に思った。 その布団をいそいそと敷いている時に、「今夜だけ特別だからね」って頼綱(よりつな)に言われて、「え?」って問い返したけれど、聞こえなかったのかな? 何事もなかったみたいに「おやすみ」って部屋の扉を閉ざされた。 いつもの私なら追いかけて食い下がったのかもしれないけれど、昨夜の私はそれがどういう意味なのかと問い返す気力さえなくて。 何だか頼綱にお風呂で触れられてから、身体の中に何かがつっかえたようで落ち着かないんだもん。 *** 朝は、八千代さんと朝食作りの約束をしていたから何とか気力を奮い起こして起きたけれど、何となく頼綱の顔を見るのは気まずくて、会いたくないなってそればかり考えてしまう。 なんだろ。 今まで誰かと喧嘩したりして気まずくなっても、ここまでじゃなかったのにな。 私、すごく変よ。 頼綱のことを考えただけで、気持ちがざわついて苦しくなる。 それがめちゃくちゃ気持ち悪い。 きっと環境が一気に変わったせいね。あとはご馳走の食べ過ぎ? きっとそうに違いないわっ。
last updateLast Updated : 2025-06-14
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10.今どこにいるんだよ?②

幸い今日は土曜日で大学はお休み。 八千代さんは基本的には土日はお休みにしておられるらしいのに、今日だけは私のために特別に朝食の支度に起きて来て下さったみたい。 夜になって突然転がり込んだことも含めて、何とも申し訳ない思いに駆られて|し《・》|ゅ《・》|ん《・》としたら、 「でもこれからはずっと花々里(かがり)さんがいてくださるから安心してのんびりできますでしょう? もうワクワクしてしまって」 とにっこりされた。 ずっと、というのは語弊があるかも知れないけれど、少なくとも次の落ち着き先が見つかるまでは善処させて頂きますっ! 「休み」と定めてはいても、今までは頼綱から「八千代さん、申し訳ないんだけど」って頼まれるとつい「いいですよ」って引き受けてしまっていたらしい八千代さんに、私はカラ元気でガッツポーズをしてみせる。 そんな私に真新しい白の割烹着を手渡しながら八千代さんが言うの。 「一家の主人に頼まれると、ダメとかイヤとか言う選択肢が浮かんでこないの。昭和女の悲しいさがですよ」 八千代さんはそう言ってクスクス笑ったけれど、うちのお母さんなんかは同じ昭和生まれでも嫌なことは嫌だと突っぱねるところがあるように思う。 それこそ相手が誰とか、そんなのお構いなしに。 そう思って、如何にも昭和テイスト……もしくは給食当番?みたいな割烹着を身につけながら「昭和女……?」ってポツンとつぶやいたら、「昭和はね、60年以上もありましたから……何十年代の生まれかによってピンからキリなのでございますよ」と付け加えられた。 言われてみれば、とてつもなく長いな、昭和時代。平成なんて30年ちょっとで幕を下ろしてしまったもの。 うちの母は昭和50年代の生まれだったはずだ。八千代さんは――。 「私が何十年代の生まれかなんて、野暮なことは聞きっ
last updateLast Updated : 2025-06-15
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10.今どこにいるんだよ?③

「それができないなら、キミをうちのメイドとして雇うことはできないよ?」 って、それはある意味パワハラな気がするのですが。 そう思って恨めしい気持ちになっていたら、 「ひとりでとる食事の味気なさは花々里(かがり)が1番知っているだろう?」 そう、情に訴えるようなことを付け加えられて、逆らえそうにありません。 「わ、私が来る前はどうしてたんですか?」 ひとりの食事は味気ないとか気弱なことを聞かされたものだから、ふと気になって聞いてしまった。 途端、「俺のことが気になる?」って嬉しそうにニヤリとされた。 「べっ、別にそういうわけじゃ」 何だか恥ずかしくて頬が熱を持ったのが分かった。 何これ、気まずい。 「……私がここで食べるようになってしまったら、八千代さんがっおひとりで召し上がられることになるんじゃないかと心配になっただけですっ」 ――頼綱(よりつな)のことが気になったわけじゃないっ! 言外にそう付け加えて。 席は十分あるのだから、実際には私がひとり増えたところでそんな心配無用なことは分かってる。 そう。これは苦しまぎれの詭弁よ。自分でも気付いてるわ。 視線をそらしながらそう言ったら、「花々里、八千代さんにはご主人がいらっしゃるよ」ってさらりと言われた。 その言葉に、居ないと思う方がおかしかったんだってハッとさせられて、でも、ご夫婦でここに住み込み、って思ったら何だか不思議な感じもしてしまって。 「八千代さんのご主人は庭師なんだ。この屋敷の庭の管理はもちろん、普段は他所へ出かけて行ってあちこちの庭を整備しておられるよ」 ひとつの庭自体の手入れは、年に数回ぐら
last updateLast Updated : 2025-06-16
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10.今どこにいるんだよ?④

今のってどう考えても「ご主人様の留守嬉しい。好き放題できる! ヒャッホー♪」でしょ? 「俺が戻ったら一緒に出かけようね」 にこやかにそう言われて、 「そうだ。俺の連絡先を入れておくから携帯貸して?」 と、割烹着のポケットに無造作に突っ込んでいた携帯を取り上げられてしまった。 思わず「あっ」って声が出たけれど、別に私、見られてまずいような内容、ひとつも携帯に入ってないからいいや。 好きにしてちょうだい、って思い直す。 そもそも携帯なんてお母さんを始め、必要な時に用事のある誰かと連絡を取るための手段という感覚しかないもの。 だからロックなんてかけていなかったのだけど、頼綱(よりつな)は私の携帯の画面を見るなり不機嫌そうに 「この、特定の相手からの鬼のような着信は何だい?」 って聞いてきて。 私、やましいところなんてひとつもないのに、頼綱の低められたその声音に、何故かドギマギしてしまった。 「く、腐れ縁の幼なじみです。……私が出なかったから……気になって掛けまくっただけじゃないですか?」 多分本当にそれだけのこと。 他意はないはずだもん。 相手はあの寛道(ひろみち)だし、あっちにはもちろん、私にも! なのにまるで咎めるみたいな視線を向けられたら、違う意味があったんじゃないかと錯覚してしまいそうになる。 ホントやめて欲しい。 「僕がこの電話の相手だと仮定するだろ? そうするとね、掛けても出ないからってこんなにしつこく食い下がる相手なんて、気になっている子以外には有り得ないって結論に達するんだけど?」 ――花々里(かがり)はそこら辺、どう思ってるの? 言いながら壁際にずんずん追いやられて、
last updateLast Updated : 2025-06-17
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10.今どこにいるんだよ?⑤

実際、見えたところで分かんなかった可能性もなきにしもあらずだけど、そういうことにしておかないと悔しいじゃないっ。 住所的には前のアパートとどういう位置関係になるのかな? 学校とはどう? 土日はともかくとして、月曜から大学に通わないといけない。 スマホだったらこんな時、地図アプリをナビ代わりにできるとか何とか小町ちゃんに言われたことがある。 でも私のはガラケーだし、そもそも出来たとして、そんなパケット料金食いそうなの、使う気にはなれないけれど。 今朝方新たに「御神本 頼綱(みきもと よりつな)」という連絡先が加わったばかりの携帯を手に、小さく溜め息をひとつ。 「――そうだ」 勝手に操作されて、怒涛の着信を残していた寛道(ひろみち)に対抗するみたいに、フルネームで連絡先を追加されて。 試しにかけるだけならワン切り1回で事足りるはずのところ、何故か寛道からのそれを押し流すみたいに20回分の試し鳴らし?をされてしまった。 ついでに発信履歴も同じようにされて。 おかげさまで、今や着信履歴、発信履歴ともに「御神本頼綱」に埋め尽くされている。 あの人も、馬鹿なの? 寛道同様。 いや、下手したらそれ以上に!! 案外子供っぽいところがあるなって思ったら、自然あのモヤモヤとした気持ちの悪い胸のつっかえが薄らいでくるようで、何となくホッとする。 それと同時、むくむくと湧き上がってきたやる気に、私は脱いで畳んでおいた白の割烹着をチラリと見やって、あることを思いついた。 それが名案に思えて、無意識に顔がにんまりしてしまう。 そうして、その気持ちが冷めやらぬままに携帯の連絡先を編集した。 「
last updateLast Updated : 2025-06-18
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10.今どこにいるんだよ?⑥

アパートを追い出されることになってしまったこと、初めて男の人にキスをされたこと、住む場所がいきなり豪邸になったこと、手足を泡まみれにされたこと。 色んなことが一気に押し寄せてきたんだもん。 パニックになるな、っていうほうが無理な話。 だけど、別に体調不良なわけじゃ……ない……と思う。 でも――。 前半は全て美味しいものをちらつかされるたびにリセットされていたはずだけど、ひとつだけずっとわだかまってて気持ち悪いのがある。 泡まみれ……。 それだけは大好きなたけのこの鷄そぼろ煮を食べても気持ちが切り替わらなかったのよ? おかしくない? あれは病気といえば病気……だったのかな? 頼綱(よりつな)が寛道(ひろみち)と張り合うようなバカなことをしてくれなかったら、今でもソワソワしていた気がするし。 「ねぇ寛道、あなた、誰かに身体を洗っ……」 何となく聞きそうになって、慌てて口を閉ざす。 でも、幸い聞こえなかったみたいで『誰かに何? アラ煮でも食わせてもらった?」って頓珍漢なことを聞き返された。 「ち、違っ。食べたのはうなぎ」 ズレた質問に思わずバカ正直に答えながら、「身体」を聞き逃した上に洗をアラ煮に勘違いされて良かったって思った。 誰かに身体を洗ってもらったことある?とか……赤ちゃんじゃあるまいし、普通大学生にもなって、ないに決まってるもの。 『うなぎって……お前、やけに豪勢だな!? 最後の晩餐か!?』 最後の、って。何か死んじゃいそうだからやめてよ。 でもね、寛道、食べたの丼じゃなくて重なのよっ! ふふふ、スゴイでしょ?と心の中で勝手に優越感に浸っていたら、
last updateLast Updated : 2025-06-19
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11.おさななじみ vs. いいなずけ①

『自分が今どこにいんのか分かんねぇとか……マジ有り得ねぇんだけど』 電話口から、溜め息まじりに寛道(ひろみち)の声がする。『そんなんでお前、週明け大学たどり着けんのかよ?』 ああ、ものすごぉーく痛いところをついてきますね!?「実はそれ、私も心配してて……」 ゴニョゴニョと歯切れ悪く言ったら、再度大きく溜め息をつかれて。『ホント世話の焼ける女だな。……とりあえずそこいら辺に電柱か自販機ねぇか探してみろ』 って言われたの。 いきなり話が飛躍してる気がするんだけど、どう言う意味かしらね?*** アパートの家賃の支払いが困難になって、お母さんの昔馴染みの知り合いの家に住み込みのお手伝いさんとして厄介になることになったと話した後――。 面倒なのでその〝知り合い〟が〝9つしか離れていない若い男性〟で、なおかつ〝結婚を迫られた〟と言うことは意図的に割愛した。 寛道はたかだか一晩足らずでそんなことになったのを納得がいかない様子で。 まぁ私自身、未だに戸惑いまくりでここまで流されてしまっているわけで……。寛道が先に得心しちゃうと思うと、何か悔しくはあるの。 けど寛道って放置しとくと暴走しがちだし、無理にでも丸め込むしかないのも事実。 そう思った私は、これまた適当に「母親とその人との間では前々から決まっていたみたいよ?」と苦し紛れの言い訳でお茶を濁してみた。 それでまぁ寛道のやつ、何とはなしにそこそこ落ち着いてはくれたんだけど。 「今お前がいる場所がどこかわからないままって言うのは俺としても気持ち悪い。――すぐにでも調べろ」とか言い出して。 結果、手っ取り早く現在地の位置情報が特定できる方法を、電話で教えてくれている!……はずなんだけど。
last updateLast Updated : 2025-06-20
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