「その時から花々里(かがり)のことが気になって仕方なくなってね」 お父さんを亡くした時? それって私、物凄く小さい時だよ?「あのっ、そのときミキ……、ヨリ、ツナは」「12歳だ」 わーお。やっぱりものすっごい昔じゃないっ。「あの、ごめんなさい。……私、覚えてないです……」 何となく、めちゃくちゃ長いこと片想いをさせてしまった気分になっちゃった。 この私が、ツヤツヤと美味しそうに誘惑してくる羊羹(ようかん)を、口に入れる手が止まってしまう程度には申し訳なくっ!「確か花々里はまだ3つかそこらの幼な子だったから。――逆に覚えていたら怖いよね」 なのにサラリとそう返されて、私の申し訳ない気持ちを返せー!って思ってしまったの。 それで、自分の割り当ての羊羹の残り――半分くらいは残ってた――を、切り分けもせずブスリッと黒文字に突き刺して一息に頬張ってやったの。 御神本(みきもと)さんのことなんて羊羹の上品な甘さで消し去ってくれるわっ! ふはははは!!……みたいなノリで。 腹いせのつもりだったのに、そんな私を見て御神本さんが嬉しそうに笑うの。 もぉ、何なのよ、調子狂っちゃうでしょ!? そればかりか――。「花々里は本当、なんて愛らしいんだろうね。思えばあの時もそうだった」 ってうっとりつぶやくとかっ。反則じゃありませんっ!? ドキドキして思わずお茶、一気に煽っちゃったじゃないですかっ! あーん、羊羹の甘くて幸せな余韻、お茶で流れてっちゃったぁぁぁぁ!!!!!! それがショックで、じんわり目尻に涙を浮かべて御神本さんを恨めしげに見つめる。 そうしてポツンと問いかけた。「私の何がそんなに気に入ったって言うんですか……」 考えてみたら、私の名前を呼びかけてきた直後から……だよね? 御神本さんの優しい餌付け攻撃がはじまったの。〝初めまして。おや、お腹がすいてるみたいだね? じゃあ俺が美味しいもの食べさせてあげよう。 美味いと思ったならとりあえず結婚しようか?〟 に近いものを感じてしまったんだけど、ずっと放置してたくせに、いきなり距離削りすぎじゃないですかっ? あまりに他が気になりすぎて、私、彼の〝あの時も〟という不自然な付け加えに反応できていなかった。 後で考えたら、まさにそれこそが御神本さんの私への〝餌付け〟の原点だったみたいな
Terakhir Diperbarui : 2025-06-04 Baca selengkapnya