All Chapters of そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜: Chapter 31 - Chapter 40

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11.おさななじみ vs. いいなずけ②

「あー、あの……寛道。ちょっと時間掛かりそうだから電話、一旦切るね。住所表示見つけたらすぐ連絡するっ」 そわそわしながら言ったら、少し不機嫌そうな声で『ホントにすぐ連絡してくるんだろうな?』って聞かれた。 その声に思わずムッとして、「幼なじみを信じなさいよね!?」って言ったら、『掛け直してこない前科持ちに信用があると思うな』とか。 た、確かにっ。 余りにごもっともな言い分に言葉に詰まった私に、溜め息まじりに『待ってる』って言われて、一方的に通話を切られてしまった。 何なのよ、もう! 思いながらもとりあえず玄関を探そうって気を取り直した。 〝ここがどこなのか問題〟は、明日からの生活にも掛かってくることだもの。 しっかりしなきゃ。*** ショッピングモールさながらに、屋内で迷子になってしまうかと懸念したけれど、広いといってもまぁ一個人の邸宅。 ぐるぐる歩いていたらちゃんと玄関に出られてホッとする。  でも、玄関に靴が一足も出ていないってどういうことですか!? とっても広い土間なのに、サンダルはおろか、靴がひとつも置いてないとか、何ごとなの? 掃除中か何かですか? うちのアパートの玄関にはお母さんと私の靴が小さなシューズラックに所狭しと並べてあって、それでも収まり切らない靴や、割とよく履く靴なんかがいつでも数足土間にもあふれてたのに。 あ。そういえばこの前テレビで玄関横にシューズクロークとかいう、「靴だけのための空間」がある家のことやってたっけ。 まさか、ここも? そう思ってみれば、玄関横に扉。 多分それだ。 廊下にもちゃんとそちら側に向けた出入り口があって、そこからも土間に降りて玄関の方へ行けるみたい。 何て贅沢な空間の使い方! 思いながら恐る恐る玄関横のシューズクロークと思しき側の引き戸を開けて、そちらのスペースを覗くと、ビ
last updateLast Updated : 2025-06-21
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11.おさななじみ vs. いいなずけ③

 途端、食いしん坊の鯉たちが「そこの人間、何か寄越せよ!」と口をパクパクさせながら私の後を追ってきて。 何て食い意地の張った子たちかしら!と妙に親近感を覚えてしまった。  今でも十分丸々と肥え太っているように見えるのに、底なしの食欲に感心しつつ。 ――食べることしか考えてないのね。 ふとそう思って、「ん? それって……」と思ったけど気づかないふりをした。 ――今度八千代さんにお願いして、パンの耳か何か持ってくるわね。 そんなことを考えてから、「あ、でもパンの耳は油で揚げて砂糖をまぶしたら凄く美味しいのよね。塩味やコンソメ味にしても絶品だし。……やっぱりこの子たちにあげちゃうの、勿体無いかも」と思い直す。  鯉には多分「鯉用のエサ」があるはずだ。  うん、そっちにしよう。  きっとこの子達の身体にも、その方がいいはず。 別にパン屑でも構いませんよ?と言わんばかりの魚たちのパクパクに追い立てられるように、私はいそいそとそこを通過した。 そんなこんなで寄り道しつつもちゃんとガレージのところに行き着いて、私の記憶力も満更捨てたもんじゃないわね、と自画自賛する。  それにしても。 本当広い敷地だなぁって思って、溜め息が出た。 ここまで歩くだけで数分間も要したよ?  行って来ます、から数十秒で公道だったアパート(元?)とは大違い。  車に用はないのだからガレージに行くのも変だなと思ってキョロキョロしたら、ちゃんと歩いて外に出られる屋根付きの数奇屋門に目が止まった。 門横には小さなお勝手口みたいな扉がついていた。 多分、そっちから出た方がいいよね? 何となくあの大きくて立派な門戸を開けて、真ん中を堂々と通り抜けるのは気が引けた私は、いそいそと門横の袖扉に向かう。 開くかな?って思いながら恐る恐るノブを回してみたら、幸い施錠はされていなかったらしく、すんなり開いた。 家の敷地の外に足を踏み出したら、物凄い開放感に襲われる。 その心地よさに思わず猫みたいにグーンと伸びをしてから、肺に思いっきり空気を取り込んだ。  やっぱり庶民の私には、窮屈な豪邸(ん? 何か語弊があるな?)の中より囲いの外のほうが居心地いいみたい。 ふと振り返ってみると、門扉のところにインターフォンがついていて、その近くに厚みのある木の表札が掛かっていた。 その木札
last updateLast Updated : 2025-06-22
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11.おさななじみ vs. いいなずけ④

 何だかんだ揉めつつも、何とか現在地らしき場所を告げた途端、寛道(ひろみち)が珍しく口を閉ざした。 「何よ、急に黙り込んで。気持ち悪いんだけど」 勝手なイメージを押し付けて申し訳ないけれど、寛道には常にくだらないことを喋っていてほしい。  ほら、人間色々役割分担みたいなの、あるじゃない? 私の中で寛道は賑やかし担当だから。 『お前、本当にそんなトコにいんのかよ?』 ややして寛道がポツンとつぶやいて、私はキョトンとする。 「電柱が嘘ついてないなら……」 疑問符満載でそう答えたら、『――周り見回してみたか?』 いきなり支離滅裂なことを聞かれて「は?」って思わず声に出す。 そんな私に、溜め息まじりに寛道が続けるの。『豪邸ばっかだろ、そこら辺』  って。  言われて、初めてしげしげと辺りを見回してみたら……。 「ひっ、寛道! 大変!!」  私、思わずソワソワした声音で電話に呼びかけていた。『なななな、何があった!?』  当然通話口からも、慌てたような寛道の声。  いくら何でもどもり過ぎだって。  思わず笑いそうになりながらも、私はその声に恐る恐る言ったの。 「お隣が……ないっ」 いや、正確に言うとないわけじゃないの。 あるにはあるけど、あれはお隣と呼ぶには随分遠くないですか?ってだけで。  あ、ちょっと待って? あちらにもこちらほどではないにせよ門があるからお隣だと思って見てたけど……。  門の向こう側もこちらと同じ種類の塀が続いてる気がっ。  ってことは……もしかしてあれは、お隣じゃなくて御神本邸(みきもとてい)の離れ?  そういえば頼綱(よりつな)が、
last updateLast Updated : 2025-06-22
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11.おさななじみ vs. いいなずけ⑤

「人が……大急ぎ、で来て……み、たら……何ぼんやり口開け、て空……見上げて、んだよ」  もう少し呼吸を整えてから話したんでよろしくってよ?  私、もう少し霜降り肉眺めてるから。 と思うのに、じっと見つめられて落ち着かない。「――えっと……横、座る?」 とりあえず。  ぽんぽん、と自分の横――岩の上を叩きながら声をかけたら「バカか」って言われた。  酷い。「しんどそうだったから気を遣ってあげたのに」  言ったら「そりゃどうも」って、やけに素っ気ないわね。 それにしても……。 「寛道(ひろみち)、手ぶら?」 フタ付き容器は?と続けたら「はぁ!?」と聞き返されて。 「え? だっておばさんが作ってくれたお料理のお裾分け……」 持ってきてくれたんじゃないの?  キョトンとしたら、ムギュッと頬っぺたをつままれてしまった。「痛い」  寛道の手をペチペチ叩きながら抗議したら、「んなもん、昨日の夜にとっくに食したわ。たわけが!」と妙に古風な口調でののしられてしまった。  きっと、すぐそばの数寄屋門の威力ね。  私も昨日、この屋敷の古式ゆかしい雰囲気に呑まれてキスを接吻って脳内変換させられたから知ってる。  げに恐ろしきかな、御神本邸(みきもとてい)っ!「じゃあ……何の用があって来たのよ?」  それ以外に取り立てて用なんてないじゃない。 少なくとも私にはないんだけどな?  なんて思いながらさっきの仕返しに塩対応を意識して聞いたら、「バッ、おまっ……!」とか。  いまの、「バカ、お前!」って解釈で合ってますよね?  ムスッとして寛道を睨みつけたら、「――とりあえず行くぞ」っていきなり手を引っ張られて。「え? 行くって
last updateLast Updated : 2025-06-22
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11.おさななじみ vs. いいなずけ⑥

 美味しいものたんまり食べさせてもらわないと気が済まないんだからね!?「は? 婚約者とか……何だよそれ!」 そうして何故か寛道(ひろみち)の怒り?の矛先が私の方を向いてる気がするのは、間違いでしょうか?  なのに頼綱(よりつな)ってば、さも何でもないことみたいに「知らないのかね? フィアンセ、許嫁、結婚を約束している相手のことだよ」とか、わざとらしく受けて立つもんだから火に油状態で。 「そう言う意味じゃねぇよ! バカか! なぁ花々里(かがり)っ、嘘だろ!? そいつに脅されてんなら俺が助けてやるから素直に言えよ!」  ほらね。  ますます面倒なことになったじゃない。 寛道は小さい頃から私のことを自分の所有物か何かだと思ってる節があるの。 その〝オモチャ〟が、勝手に他人のものになってるとか、そりゃ、許せないですよね。 「こ、婚約は……してない、と思う。でも――」  頼綱の部屋の金庫に仕舞われているはずの婚姻届が〝結婚の約束〟にならないということ前提ならば。 あれが手元に取り戻せていない以上、下手に頼綱を刺激して「だったらこれを提出してくる」とかにならないか、とっても心配なのよ? 「でも――、なんだよ?」 煮え切らない言い方をしたのが仇になって、さらに詰め寄られる羽目になってしまった。「こ、婚姻届にサインしちゃった……的な?」  あはは、と笑いながら軽く言ってみたけれど、流してくれるはずなかったですっ。 「はぁ!? なんだよ、それ! お前、バカなのっ!?」 って即行で返されて、グイッと手を引っ張られてしまう。 「ひゃっ」 急に引き寄せられて、よろりとよろめいて寛道の腕の中に収まった私を見て、頼綱が超絶不機嫌そうな顔になる。 「あ、あのっ、寛道、ちょっとっ」  頼綱が怖いので離して!とは言えず――。
last updateLast Updated : 2025-06-23
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11.おさななじみ vs. いいなずけ⑦

 私たちのやりとりを茫然自失と言った体で見つめていた寛道(ひろみち)が、「なんだ。そっちも一方通行かよ」 ってつぶやいて。  何が?って思ったけれどややこしくなりそうな気がして聞かなかったことにした。 「花々里(かがり)。――お前、行くトコないんならおばさんが元気になるまでうちに来いよ」  聞かなかったことにしたのに、めげない寛道はそんな提案を投げかけてくる。 けど寛道の家だって5人家族。 一軒家ではあるけれど、私に割けるような余剰の部屋なんてなかったはずなの。  そう思って、 「有難いけど部屋とか余ってないでしょ」  って冷静に返したら、 「そんなん! お、俺の部屋でいいだろっ!?」  とか。  バカなの!? 「さすがにダメでしょっ」 即却下。「バカっ。その場合は俺、弟たちの部屋だからな!? お、お前と一緒に居てやると思うなよ!?」 って。 ねぇ、居てやるって何?  居てくれない方がいいって思われるとか思ってないの? 信じらんない。  でもそれ、尚のことダメでしょ。 「迷惑になるじゃないっ」 って言ったら「全然」って……。 バカね、寛道。  私が言ってるのは弟さんたちに対して、の話。 あなたがどう思うかなんて、聞いてない。 *** 「花々里、そろそろお昼を食べに行こうか」 寛道とまだ話している最中なのに、まるでそれを断ち切るみたいに頼綱(よりつな)が言ってきて。  お昼、という言葉に頼綱にすっかり飼い慣らされてしまったお腹の虫がグゥーッと返事をする。  さ、さすがに2人の男性の前でこれは恥ずかしい……っ! 
last updateLast Updated : 2025-06-23
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12.彼女のそれにはそれなりの理由があるわけで①

 俺が初めて花々里《かがり》に会ったとき、あの子はとても腹を空かせていた。  別にご飯が与えられていなかったわけではないというのは、花々里の母親から自分が早く帰れない日は、シッターを雇って夕飯の支度などをしてもらっている、という話を聞かされたから知っていた。   それでもシッターに馴染まずひとり寂しそうにしていることの多かった花々里を心配していた母親に、俺は名乗りを上げたんだ。  俺が行ってみてもいいですか?と。  花々里の父親の葬儀の時に見かけてからずっと、俺は何故だかあの女の子のことが気になっていた。  何であの子のことが頭から離れなくなってしまったのか、俺自身よく分からなくて。  村陰《むらかげ》さんの話のなかでしか知らないご主人とお嬢さんを見てみたかったからと言う、ある意味稚拙な興味本位で葬儀に出てしまったことへの罪悪感か。  それとももっと違う何かなのか。 幼い頃から留守がちだった両親に代わって、俺の面倒を見てくれていた使用人の八千代さんにその話をしたら、「頼綱《よりつな》坊っちゃまが気になるのでしたら、もう一度そのお嬢さんにお会いしてみれば宜しいのですよ」とアドバイスされて。  「行くなら私も全力でサポートいたしますよ?」と謎のガッツポーズまでもらってしまった。  八千代さんの力強い後押しを受けて、会えばそう言うのに答えが出るのかな?とか、つい思ってしまったんだ。  まぁ、結局その時には分からず終いだったのだけれど。 *** 「キミはどうしてごはんを食べないの?」  ひもじそうにアパート前の駐車場に座っている女の子を見付けてそう声をかけると、「ごはん、ひとりでたべるのイヤなの」って答えが返ってきて。  どういうことかと思ったら、家にはちゃんと夕飯は用意されているけれど、お母さんと一緒でなければ食べたくないと言う。
last updateLast Updated : 2025-06-24
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12.彼女のそれにはそれなりの理由があるわけで②

 八千代さんお手製のキャラメルは市販のものより柔らかめで口解けがいい。 甘さも絶妙で、俺もかなり好きだったから、作ってもらったそれを、嬉々として持ってきていたんだ。 花々里《かがり》に拒否られても、俺自身が食えばいいだけだと思って。 キャラメルを見せた時の、花々里のキラキラした目を、俺は今でも鮮明に覚えている。 夕飯はダメでも、お菓子ならいいという浅知恵具合が可愛いらしいな、と思ったのと共に――。 その思いが、長じてから「愛しくてたまらない」になるなんて……その時の俺には知る由もなかったのだけれど。 私、別にとっても小さい頃からこんなに食い意地の張った女の子じゃなかったみたい。  それこそお父さんが亡くなるまでは割と普通の女の子だったってお母さんも言っていたし、何なら寛道《ひろみち》からも「そんなじゃなかった」と指摘されたこともある。  その話をするとき、お母さんはとても申し訳なさそうに話すんだけど、私はあまり覚えていないから気にしてないの。「花々里ちゃんが今みたいに食いしん坊さんになったのはね、お母さんのせいなのよ」 そう前置きされて語られる言葉に、私はイマイチ実感が持てなくて。 「お父さんが亡くなって、お母さん、花々里ちゃんをひとりで育てていかなきゃって思ってね、お仕事の量を増やしたの」 頼綱《よりつな》のお父様が経営しておられる産婦人科の看護師として働いていたお母さんは、院長先生にお願いしてシフトを多めに入れてもらったり、それでも少ないと感じて近所の24時間営業のスーパーでレジ打ちのバイトをしてみたりしたんだとか。「花々里ちゃんは聞き分けのいい子だったから。昼間は保育園でいい子にしていてくれたし、夜だってシッターさんの手をそんなにわずらわせなかったみたい」 小さい頃から人見知りはなかったらしくて、誰にでも物怖じしないところのある子供だったらしい。 だからといって、お母さん
last updateLast Updated : 2025-06-24
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12.彼女のそれにはそれなりの理由があるわけで③

 そのお兄さんとのこと――あくまでもお兄さんのことではなく――は幼な心にも割としっかり覚えていて、そこと繋がって初めて、だったらやはり夕飯に手をつけなかった女の子は私だったのかな?って思うというか。 たしかに記憶の片隅に、とってもひもじかった記憶が何となく残っていて、あれがあるから逆に長じてからの私はやたらと食べ物に執着している気もするの。 そうしてね、美味しいものを食べるときは「お母さんにも」という気持ちも、心の中にふんわりと残っていて。 時折思い出したようにそれがざわつく時がある。 そう。羊羹《ようかん》を持ち帰りたいって思ってしまった時みたいに。 それから。 それと同じぐらい――、自分を甘やかしてくれる相手を失うことが、実はすごくすごく怖いの。 出来れば依存してしまう前に離れたいと思ってしまうほどに。 ……あの頃の私は、ひもじさをまぎらわせてくれる、お兄さん持参のお菓子のことを間違いなく心待ちにしていて……凄くワクワクしていたの。 今日は何を食べられるのかな?って。 そのお陰でお母さんがいない寂しさや、夕飯を食べられない空腹をほとんど感じなくなっていたくらい。 そう。 当時の私、お兄さんのお菓子に依存していたんだと思う。 最初のうちはお母さんが遅くなる日限定だった訪問が、いつしかお母さんが早く帰ってこられる日にも来てくれるようになって……。 お母さんも、何故かその人からお菓子をもらうことは咎めたりしなかったから……。 だから私はますます彼のお菓子にのめり込んで行ったの。 一番最初にくれたのがキャラメルだったのも、ハッキリ覚えている。 何てことのないキャラメルかと言われるとそうではなくて……。 あんな美味しいキャラメルはそのお兄さんからしかもらったことがないの。 市
last updateLast Updated : 2025-06-24
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13.続いたっていいじゃない!

 頼綱《よりつな》は運転席に乗り込むとすぐ、私に覆い被さるようにしてシートベルトを掛けた。 そうして門前で何なく向きを変えて音もなく車を発進させる。 頼綱が近づいてきた瞬間、ふわりと鼻先をくすぐった爽やかな香りに、頼綱の匂いだと嫌でも実感させられる。 そうして柄にもなく私、ドキドキさせられるの。「あ、あのっ」 寛道《ひろみち》が道端に呆然と佇んでいるのを窓越しに見るとは無しに見送りながら、戸惑いを払拭するようにずっと気になっていたことを口にした。「おっ、お昼は櫃《ひつ》まぶし、だよね?」 言ったと同時にガチャッと集中ドアロックがかかって、私は思わず身体をすくませる。「ご飯……食べさせてくれるっていうの……嘘だったの?」 わざわざ鍵を掛けて逃げられないようにされたってことは……きっとそうなんだ。 お腹空いてるのにっ。ご飯だって言うからついてきたのにっ。「頼綱の、バカ」 まんまと罠にハマった気がして……慌てて窓外に視線を流す。 それで、ぐんぐんスピードが上がる車から今更途中下車なんて出来ないって悟った私は、余計に悔しく思ったの。 視線を車内に戻した私は、せめてもの抵抗にと恨みがましい目で頼綱を見つめた。「ねぇ花々里《かがり》。何故いきなりそんな展開になるんだい?」 すっかり魔王に攫われたお姫様気分に浸っていた私は、呆れたようにそう問いかけられてもピンとこなくて。「飯を食いに連れて行かないなんて、ひとことも言ってないんだけどね?」 前方を見据えたまま、溜め息まじりに付け足す頼綱に、私は「だって……鍵が……」と訴える。「もしかして、集中ドアロックが掛かったのが不満だったの?」 静かに問われて、私はコクンとうなずいた。「これは仕様だよ、
last updateLast Updated : 2025-06-25
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