王子の甘い囁きを最後に、遠のいたはずのアイリスの意識。しかし次の瞬間、彼女は我に返った。目の前に広がるのは、王子の温かな私室ではない。先程までいた、あの荘厳な扉の前であった。「……」すぐ目の前には、微動だにしない二体の冷たい骸骨騎士が変わらずに佇んでいる。(夢……?)鮮明な、しかし非現実的な先程までの出来事。その狭間でアイリスの意識は、ひどく混乱したままであった。(いえ、でも……あの、手の、温もりは……)自分の手のひらを見つめる。王子に握られたはずの手のひらには、まだ、不思議な温かさが確かに残っているような気がした。「姫様!」アイリスが、夢とも現ともつかぬ記憶の狭間で、呆然と立ち尽くしていると、ずっと扉の前で固唾を飲んで彼女の帰りを待っていたであろう、ジェームズとリリーが突如現れたアイリスに気づいた。二人は慌てた様子で、アイリスの元へと駆け寄ってくる。「ご無事でございましたか!」ジェームズの声には落ち着き払った執事としての威厳はなく、主を案じる心からの安堵の色が滲んでいた。「まあ、姫様!お顔の色が、真っ青ですわ……!一体、中で何が……?」リリーもまた、半透明の顔を、今にも泣き出しそうに心配の色で曇らせていた。二人の声にはアイリスの身を心の底から案じる、温かい響きが浮かんでいる。心配そうに、矢継ぎ早に質問を投げかけてくる二人に対して、アイリスはうまく言葉を返すことができなかった。「だ、大丈夫、です……」そう答えるのが、精一杯だった。彼女の頭の中は鮮烈な出来事で、完全に満たされていたのだ。あの、全てを許す
Terakhir Diperbarui : 2025-07-03 Baca selengkapnya