カイルは床に転がった自らの首を億劫そうに拾い上げると、慣れた手つきで元の場所へと戻した。ぐちゃ、と気味の悪い音がして、彼の身体はようやく一つになる。「まったく……なんでこんなところに、犬なんているんだか」彼は服についた埃を払いながら、忌々しげにそう呟いた。あまりにも自業自得な言い草に、ジェームズが心底軽蔑したような低い声で言う。「日頃の行いが、悪いからだ」リリーもまた「ええ、天罰ですわ」と、冷たく、言い放った。そんな実に同僚思いの二人の反応を見て、カイルは大げさに肩をすくめてみせる。だが次の瞬間には、飄々とした表情をすっと消し、まるで別人のような、真剣な眼差しでアイリスへと向き直った。「さてと、姫様。そろそろ、お仕事の時間だ。王子様から有り難いご伝言を預かってきてる」「伝言ですか……?」アイリスは、彼の真剣な様に少し戸惑う。「ああそうだ」カイルは頷くと王子の言葉をそのまま伝えるかのように静かに告げた。「まず『忘却の公爵』オルフェウス卿の許可を得よと。そしてこうも仰せだった。かの公爵ならばきっと姫様の力になってくれるはずだと」忘却の公爵。私の力に……?アイリスは、王子の謎めいた伝言の意味をただ胸の中で繰り返す。そして、彼女は目の前の三人の従者たちへと向き直り、尋ねた。「オルフェウス公とはどのような御方なのですか」その問いにまず、カイルが待ってましたとばかりに口を開いた。その唇には意地の悪い笑みが浮かんでいる。「オルフェウス公か。そいつは冥府が誇る引きこもりの麗しい公爵様さ。自慢の美しい顔をこれみよがしに曇らせて自分の城でずうっと物思いに耽ってる。麗しい公爵様が悲しみに暮れる姿はさぞかし
Huling Na-update : 2025-07-12 Magbasa pa