アイリスの、そのあまりに真っ直ぐな言葉が、部屋の静寂に突き刺さった。彼女の指摘は、オルフェウス公の心の最も柔らかな部分を的確に抉り出したのだ。部屋を支配していた凄まじい魔力の圧力が、ぴたりと止む。しかしそれは、嵐の前の静けさに過ぎなかった。「……」オルフェウス公は、静かに怒っていた。その美しい貌から表情は消え、ただ氷のような無表情がそこにあるだけ。だがその瞳の奥では、紫色の炎が渦巻き燃え上がっていた。それは今までアイリスが見た、どんな怒りよりも深く、そして根源的な魂の激怒だった。ジェームズの骨の身体、アイリスを守るようにして前に立ちはだかり。リリーの半透明の姿は、恐怖で今にも消えてしまいそうに薄くなった。あのカイルでさえ顔から血の気を失い、その手をそっと腰の剣へと伸ばしている。誰もが息を殺し、公爵の次の一言をただ固唾を飲んで待っていた。永い永い静寂が。部屋を支配した。従者たちは、公爵の怒りに満ちた魔力に身動き一つ取れずにいる。アイリスだけが、その中でただ一人、静かに彼を見つめていた。やがて彼女は、ぽつりとそう漏らした。「公爵様。あなたは今、お怒りですね」公爵は何も答えない。ただその瞳の奥の紫色の炎が、さらに激しく燃え上がった。アイリスは一歩、彼に近づいた。彼女の声に、震えはもうない。「──その怒りこそが、貴方が感情を捨てきれていない何よりの証拠です」彼女は、公爵のその美しい顔をまっすぐに見つめ、言葉を続ける。「もし本当に全てが無意味だとお思いなら、私の言葉など虚しい戯言として聞き流せばよいはず。貴方が怒るのは、私が触れたその『忘れてしまう何か』を、心のどこかでまだ尊いと信じているからです」その言葉は鋭い刃のように、公爵の虚無の鎧を貫いた。彼の周りに渦巻いていた魔力の圧力が、ほんの一瞬だけ弱まる。その美しい顔に、初めて困惑の色が浮かんだ。「その大切なものを守るために、貴方の心は怒りという感情を必死で作り出した。それはとても……尊いことだとわたくしは思います」彼女の言葉に虚を突かれたように、オルフェウス公はその紫水晶の瞳を大きく見開いた。「──ほう」そして次の瞬間、その永い間ただ虚無だけを浮かべていた唇の端が、ほんの一瞬だけ皮肉な笑みの形に吊り上がる。その、ほんの僅かな変化を見逃す者はいなかった。「おい
Terakhir Diperbarui : 2025-07-24 Baca selengkapnya