Semua Bab 悪役令嬢は愛する人を癒す異能(やまい)から抜け出せない: Bab 91 - Bab 100

102 Bab

第90話 結婚式

 大神殿には人が溢れていた。 せり上がるように作られた正面の祭壇前には、大神官の姿。 その横には、白い婚礼衣装を身に着けたアイゼルが立っていた。(わたくしの配偶者となる方の立派なこと! 金髪は輝き神々しいほどだわ。青く澄んだ瞳は彼の清廉さを現しているよう。あぁ、わたくしのアイゼルさま。今日からは、わたくしはアイゼルさまの妻となり、アイゼルさまはわたくしの夫となる!) 1人正面を目指して歩くミカエラに有力貴族や友好国の要人たちの視線が注がれる。 「なんと美しいレースだ」「高価なウエディングドレスは国力を誇るよう」「見て、あの耳元の真珠を」「いやいや、それよりもダイヤモンドの大きさと輝きが……」 ベールの下に隠れたミカエラの姿に触れる者などいない。 彼女が身に着けている物は全て国力の誇示なのだ。(わたくしをエスコートする者がいなくても誰も気にしない。この結婚は普通の結婚ではないから) ミカエラの実家であるラングヒル伯爵家からの列席者はいない。 この場には、有力者しかいないからだ。(でもそんなことはどうでもいい。わたくしの孤独は、今日で終わる) 神殿のなかには小さな煌めきがあちらこちらでキラキラしている。 オレンジ色の光に青い色の光。 黄色の光に赤い色の光。紫に緑、様々な色味の光が賑やかに輝いて散っていく。(誰の守護精霊の色だとしても関係ない。そこに飛び交うのは愛だから) ミカエラは、会場を埋めるようにして列なり席に着きコチラを見ている貴賓席の客たちを眺める。 幸せに当てられて自らの幸せを振り返る者もいれば、純粋な嫉妬をぶつけてくる者もいる。(だから何?) 祭壇前に辿り着いたミカエラは笑顔を浮かべて愛しい人を見上げる。 見上げた先の人は愛しげにコチラを見ていてる。(この幸せが永遠でありますようにと願うだけ。わたくしにあるのは、アイゼルさまとの未来だけ) オレンジ色の光と青い色の光が、賑やかに煌めていて浮かれたように2人の間で踊る。(今ここに愛があるのは確実なの。わたくしは愛しているし、愛されている) ミカエラは、国王と王妃の座る席へ視線を向けた。 国王に付き添われて出席している王妃には相変わらず感情の読めないアルカイックスマイルを浮かべて、どこに焦点が合っているのか分からない目をしている。 彼女には、求めていた
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-14
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第91話 戴冠式

 戴冠式も引き続き大神殿で行われた。 まずは現国王と現王妃の引退式典が行われる。 国王がせり上がった祭壇前へと進み出た。 その頭上で輝くのは、正式な場で被る王冠だ。 国王が大神官の前に傅くと、宝石をふんだんに使った王冠は神官たちの手により仰々しく持ち上げられて、祭壇の上へと運ばれた。 そして代わりに引退した国王の被る少し地味な冠が大神官の手により前国王の頭上へ飾られた。 王妃も同じように大神官の前へと傅く。 王妃の頭上にも煌びやかな冠が光っていた。 輝きと同じだけの責任がのしかかる冠は大神官の手により外され、少し地味な冠が代わりに被せられる。 終始アルカイックスマイルを浮かべる前王妃の心の内は知る術がない。 (ラインハルト前国王さまも、セレーナ前王妃さまも、幸せそうには見えない。そのせいで不満のある王位移譲に見えるわね) ミカエラは2人の元最上位権力者の姿を見ながら思った。(スムーズな王位継承ではあるけれど……揉め事はつきものになるかもね!) その真ん中に自分が放り込まれるかと思うと、変な笑い声が出てしまいそうになる。(わたくしが、セレーナさまの代わりに王妃となる? あぁ、その重圧に耐えられるかしら? たかだか伯爵家の娘がっ。しかも実家から見捨てられたような娘がっ) そうなることが分かっていても、いざその場に立てば足がすくむことはあるものだ。 引退のための儀式が終わると、就任のための儀式が始まる。 舞台の袖で自分の出番を待ちながら、ミカエラはブルッと震えながら身を固くする。「緊張しているの?」 アイゼルは柔らかに薄く笑いながらミカエラに聞いた。「ええ。少し」(本当は少しどころではないけれど!) ミカエラは作り笑いを浮かべてアイゼルを見た。 彼はフフフと小さく笑って、ミカエラに手を伸ばす。 (温かい) アイゼルの手にポンポンと自分の手を軽く叩かれて、ミカエラは自分自身が緊張で冷え切っていたことを知った。「私が側にいるから大丈夫」 キラキラと光る金色の髪に吸い込まれるような青い瞳。 美しいけれど頼り甲斐のある王子さまが自分の側にいる。「はい」 短く答えて、ミカエラは前を見る。(きっと大丈夫。アイゼルさまの側でなら、わたくしは重圧に耐えられる。耐えてみせる) 青い光とオレンジ色の光が励ますようにキラキラ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-15
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第92話 初めての夜

 全ての式典が終わった後、ミカエラは使用人たちに磨き立てられていた。 (アイゼルさまとの初夜……あぁ、ドキドキする)「粗相があってはいけませんから、しっかりお手入れさせていただきます」 メイドは宣言通り、ミカエラをしっかりと磨きあげた。 全身のトリートメントはもちろん、髪や爪の先まで丁寧にお手入れがなされた。「髪型は……やりすぎてもいけませんよね?」「そうね。素っ気ないのもダメだけど、ほどほどにしないと……」 ルディアも張り切っている。(侍女も、メイドも、疲れないのかしら? 結婚式や戴冠式の準備もあったのに……) ミカエラはそんな風に思いながら、使用人たちに身を任せている。 (他人のことを考えている場合じゃないけど、そうでもしないと落ち着かないっ) ミカエラは何もする必要がない。 だから余計に落ち着かないのだ。(今日からわたくしの部屋は国王さまの部屋の側にある、お妃さまの部屋になる。今まで使っていた部屋よりもはるかに広いし、調度品も豪華だわ) 余裕あるスペースの部屋には、今夜の準備のために色々な物が持ち込まれていて一時的にゴチャゴチャしていた。 広いクローゼットにあった前王妃の荷物は、引退後に使う屋敷へと運ばれてしまった。(いまは空きスペースがたっぷりあるクローゼットも、わたくしのための衣装やアクセサリーでいっぱいになるのね) ミカエラには、セレーナのように太い実家はない。(でもアイゼルさまがプレゼントしてくださると言っていたし、公務があるから結局は物が増える) 部屋のなかには王妃の冠が、飾られるようにして置かれていた。(目隠しのための屏風が、こんなにも実用品として使われるなんて。美しい飾り物程度にしか思っていなかったのに……) 王妃となった今では、部屋の外はもちろん、なかにも護衛がいる。 女性の騎士などいない王国なので、当然そこにいるのは男性だ。(慣れないといけないけれど、いまはまだちょっと無理) 慣れない環境にモジモジしているミカエラに対して、侍女ルディアはすっかり慣れてた様子でその場を仕切っていた。「寝具は、こちらでよろしいでしょうか?」「そうね……下着は……」 戸惑うミカエラの側で、夜の準備は整っていく。 (ここがわたくしの部屋で、あちらが夫婦の寝室) ミカエラは室内を繋ぐドアに視線を向けた。
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第93話 初めての朝

 夫婦の部屋に朝が訪れた。(あぁ。なんだか嵐のような夜だったわ……) ベッドの上でぼんやりしながら目を緩く開けたミカエラの前には、満面の笑みを浮かべたアイゼルの姿があった。「わっ⁉」 驚いたミカエラは上掛けを掴んで少し後ろへ身を引いた。「ふふ。おはよう、ミカエラ」 上機嫌の王さまは、右ひじをベッドについてミカエラの顔を眺めていたようだ。 (恥ずかしいっ) ミカエラは火がついたようにボッと赤くなった。「ふふ。夫婦になったのに恥ずかしがって。おかしいの」 アイゼルは揶揄うように、でも軽やかに言うと、起き上がって身支度をしに行ってしまった。(もうっ、アイゼルさまってば。もうっ) ミカエラは、アイゼルが降りていった側とは反対側に体を向けて上掛けを口元あたりまでズイッと引き上げ、しばし心の乱れが収まるのを待った。 後ろのほうでクスクス笑っている声がしているような気がする。 (あぁ、今日からはコレが普通になっていくのね) ミカエラはコホンとわざとらしく咳払いすると、ゆるゆると起き上がった。 天蓋のカーテンは開けられていて、既に目隠しのための屏風も広げられている。 侍女のルディアが素早く近付いてきて、ミカエラの身支度を手伝った。(今日からは、ここがわたくしの寝室) 国王夫妻のための寝室は、広くて豪華だ。 そして他人の目が沢山ある。(しばらくは落ち着かないかも) 幼少時から人に囲まれて育ってきているアイゼルとは違い、冷遇されていたミカエラは使用人に囲まれての生活に慣れるまでには時間がかかりそうだ。(これもまだ一時的なことではあるけれど) ミカエラは昨日みた前王妃の姿を思い浮かべた。 (わたくしが王妃でいられるのは、あと何年かしら? ここもまた一時的に使う部屋。わたくしにとっての終の棲家とはなりえない。……でも殺されれば……) 唐突に別の可能性が浮かんで、ミカエラはブルッと身を震わせた。 それに気付いたルディアが言う。「ミカエラさま、寒いですか? 今日はだいぶ温かいので、暖炉に火は入れておりませんが……今からでも火を入れましょうか?」「いえ、大丈夫よ」 屏風の向こうからアイゼルの声が響く。「新婚気分を味わえなくてすまないな、ミカエラ。今日も朝から普通に執務がある。私は朝食を摂りに食堂へ行くが、君は疲れているなら部屋
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第94話 変わっていく日常

 アイゼルが王位を継承したことで、ミカエラの仕事は一気に増えた。(冷遇時代とはずいぶんな違いね。忙しいのは同じだけれど) 本格的に始まった公務は容赦がない。「国王さまは、こちらの書類へ目を通してください」「王妃さまは、こちらを……」 書類仕事は、ますます増えた。 「王妃さま。本日の予定は孤児院の視察です」「あら、わたくしだけ?」「はい。国王さまは、友好国の外交官との謁見が入っています」 単独の公務も増えた。「明日の謁見には友好国から公爵さまがお見えになりますので、王妃さまにも同席していただくことになっております」 王妃付きの執務補佐が淡々と伝えてくるのを、アルカイックスマイルを浮かべたミカエラは軽く頷きながら聞いていた。 (結婚式から一ヶ月も経ってないけれど、求められるレベルは前王妃とそう変わらない。王妃教育は厳しくて大変だったけれど必要だったのね) ミカエラの生活が楽になることはない。 だがその分、侍女ルディアは上機嫌だ。「ミカエラさま。視察前に手入れをしやすいドレスへ、お召し替えをしていただきます」「分かったわ。孤児院だものね。アクセサリーも替えたほうがいいかしら?」 ミカエラは年齢問わず、他人との関りが少なかった。 (子どものことなんて全く分からないわ。わたくしが冷遇されていたとはいえ王太子婚約者だったもの。飢えるところまではいっていない。縁が薄いとはいえ実家もある。孤児のことなんて分からない) そんな時には他人を頼るのが一番だ。 ルディアは実体験がなくとも知識がある。 下働きの者には孤児もいて、メイドから情報を得ているので、ミカエラよりは孤児や子どもに詳しい。「そうですね。見た目は華やかで可愛らしいけれど、高価ではない物のほうがよいかと」「子どもに好かれたいとは思うのだけれど。子どもが好む物って分からないわ」 ミカエラが溜息混じりに言うと、ルディアは軽く声を立てて笑った。「子どもたちに高い宝飾品の価値は分かりません。特に孤児となればなおさらです。私もご一緒しますし、護衛がついていますから盗まれる心配はありませんが。高価な物ですと地味に見えてしまって、かえって軽んじられてバカにされているように思われてしまうかもしれません」「あら大変。そうならないような物を、準備しておいてもらえるかしら?」「はい、承
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-18
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第95話 変わったことと変わらないこと

 アイゼルとミカエラは守護精霊の助力により、危険を避けているが無傷とはいかなかった。「今日のお茶会でミカエラさまが|ま《・》|た《・》倒れたそうよ」「まぁ。そんなか弱い王妃さまで大丈夫なのかしら?」「王妃さまには大切なお役目がおありになるものね」「そうよね。お世継ぎのこととか?」「あら。万が一のことがあったなら、ミゼラルさまがいらっしゃるわ」 貴族たちはコソコソと噂した。 (|ま《・》|た《・》アイゼルさまが狙われたのね。わたくしは平気。わたくしなら大丈夫。アイゼルさまがご無事なら、わたくしのことはいいの……) ベッドへと横になるミカエラの側では、侍女ルディアが甲斐甲斐しく世話を焼いていた。 以前とは違い、他の使用人の目が多い場所にいるルディアの態度は、あからさまに違った。 今も使用人たちに指示を出し、ミカエラの世話をしている。「ミカエラさまは体が弱いのです。貴方たちも細心の注意を払ってちょうだい。いつお世継ぎを授かるか分からないのだから……」 そんな声を何とはなしに聞きながら、そんな日が来るのかしら? とミカエラは思った。 毒を盛られてしまえば毒の害。 刃物で狙われれば、刃物の傷。 時には、殴られた痛みを感じることもあった。 王妃として守られる生活に入ったミカエラは、落ち着いた環境で考えることがある。(こんな状態では、長生きできそうにないわ。歴代の王妃のなかにラングヒル伯爵家の者はいなかった。側妃や愛妾にも見当たらない。ラングヒル伯爵家の娘との婚約は、驚くほど多いというのに……) それだけミカエラの持つ異能は危険なのだ。 守護精霊の力を借りていても。 ミカエラの周りではオレンジ色の光が彼女を慰めるように煌めく。(守護精霊さまも万能というわけではないもの。仕方ないわ。わたくしに出来るのはアイゼルさまとご一緒できる時間を大切にすることだけ) 体調を崩したミカエラをアイゼルが見舞うことは増えたが、今日は来ていない。 (ずっと側にいて欲しいと願うのは贅沢なことだから仕方ないわ) ミカエラは静かに目を閉じて睡魔に身を委ねた。◇◇◇ 体調の回復したミカエラは、王族の食事会へ参加した。 王族の食事会といっても、参加者は前国王にアイゼル、ミカエラとミゼラルの4人のみだ。 既に前王妃が出席することはない。 静かな食卓で
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-19
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第96話 妊娠

「「妊娠⁉」」「はい。ご懐妊されています」 国王夫妻が仲良く驚きの声を上げると、老医師は両耳を両手で軽くおさえて面倒くさそうに言った。「妊娠……」 医務室の堅いベッドに寝かせられていたミカエラは呟いた。「やるべきことをやったうえでのご懐妊です。何の問題もあまりません。むしろ慶事ですよ」「えっ? ええ」 老医師に窘められて、ミカエラは戸惑い気味に答えた。 アイゼルも苦笑を浮かべている。「ですが妊娠初期ですので、公表は安定期に入るまで控えたほうがよろしいかと」「ああ、そうだな。わかった」 老医師に言われて、アイゼルは頷いた。「そうか……妊娠か」「ええ、妊娠……ここに赤ちゃんが……」 アイゼルがミカエラの腹のあたりを見る。 ミカエラは自分の腹をさすった。「どう? 体調は? 気分は?」「さぁ……実感がありません」 アイゼルに覗き込まれて、ミカエラは首を傾げた。「まぁまぁ、おめでたいこと。忙しくなりますわね。ふふふ」 侍女ルディアはウキウキした様子で呟いている。「まだ内密にな。なにせ国王の御子だ。王太子の可能性だってある」「はい、はい。分かっていますよ、先生。ミカエラさまを狙われたら大変ですもの。その辺は私も承知しています」「ならいい」 老医師は侍女をジロリと眺めると、クルッと踵を返して医務室を出ていった。(そうよね、わたくしが妊娠していると知られたら刺客に狙われる) ミカエラはブルリと震えた。 アイゼルはベッド脇の椅子に腰を下ろすとミカエラの手を握った。「大丈夫だよ、ミカエラ。警備も増やすし、私も……もっと注意する」 アイゼルが何を言わんとしているのかを理解して、ミカエラはコクリと頷いた。「ええ。お願いします。でも妊娠を公表する前には、見えるところの護衛を増やすのではなくて、影の者を増やしてください」「ああ、分かった。妊娠にはなるべく気付かれないほうがいい。公務も外に出る案件は減らそう」 アイゼルはミカエラに向かって頷いて見せた。 そして椅子から立ち上がると、侍従に何か指示を出した。(アイゼルさまが毒を盛られたのかと思ったけれど、妊娠していたなんて。全く気付かなったわ) ミカエラの側でオレンジ色の光が煌めいて、ウィラが姿を現した。『妊娠おめでとう、ミカエラ』「ふふ。ありがとう、ウィラ」 ミカエラが
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-22
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第97話 余波

 ミカエラの妊娠は秘密とされた。 だがそれが公然の秘密となるまでに、そう時間はかからなかった。 王城内の使用人たちは噂する。「ミカエラさまが妊娠されたそうよ」「あら、大変」「なぜ?おめでたいことじゃない」「だって暗殺の心配が……」 使用人たちはヒソヒソと囁き合う。 「もしもミカエラさまの食べ物に毒を盛られたら、御子さまが流れてしまうかもしれないし、危険よ」「まぁ怖い。そう言えば食べ物に薬を入れたと処刑されたメイドがいたわよね?」「ええ、いたわ。しかも上の立場の方から指示されたとか」「それは断れないわ」「でも指示されたって、毒は盛らないでしょ?」 無邪気な下働きの若い女性に、年かさの女性が忠告する。「あら、あなたは何もしらないのね。普通なら無害なものでも、妊婦にとっては危険な物ってあるのよ」「そうそう。これは妊婦にいいものだと言われて、お茶やジャムみたいに加工されている物を渡されても、疑わないでしょ?」「それはそうね」「でも気付かずに毒を盛ってしまったら……」「あぁ処刑されてしまうわ!」 下働きの若い女性はブルリと震えあがった。「そうなのよ。だから気を引き締めておかないと」「食べ物に関わるのが怖いわ」「暗殺に使う毒は食べ物に混ぜるとは限らないわ」「そうよ。身に着けるものや触れるものなど、何を使われるか分からない」「まぁ怖い!」 年かさの女性が笑う。「ふふ。だから私たち使用人は、隅々まで綺麗に掃除するのよ。滑稽なくらいにね」「そうそう。アクセサリーでも服のボタンでも、とにかく拭く」「シミのある布に気を付ける」「仕込まれた作業には意味があるのよ、気をつけないとね」 使用人たちは顔を見合わせて、互いにコクコクと頷き合った。 噂話は出入りしている業者の耳にも入る。 業者から貴族の使用人たちへと情報は回り、やがて主人へと辿り着くのだ。  貴族たちは噂する。「国王さまに御子さまができたというのはおめでたい」「無事生まれれば、というお話ですな」「無事に育つ、という前提のお話ですな」「ミカエラさまでは、産み月までキチンと育つかどうか不安ですね」「でもこれでミカエラさまの立場もきちんとしますな」「立場といえば、ミゼラルさまのお立場が微妙に……」「そうですなぁ~。ミゼラルさまは……」 貴族たちが感じて
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-23
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第98話 王子誕生

 粗末に見える食事でも、ミカエラの腹にいる子は順調に育っていった。 侍女ルディアも、順調に大きくなっていくミカエラの腹を見て機嫌がよい。 食べ終わった食器を下げながら、ルディアは明るく言う。「毎食そっと用意するのは非効率ですけれど、ミカエラさまの調子がよさそうで嬉しいですわ。紅茶の茶葉ひとつ保管したものを使えないのは不便ですが、やはり飲み物や食べ物は安全性が一番ですね」「そうね」 朝食を終えたミカエラは、大きく膨らんだ腹をさすった。 既に椅子に座るのも大変な状態になった腹からは、いつ子どもが飛び出してきても不思議ない状態だ。 ミカエラは溜息を吐きながら言う。「食堂で食事をするほうが危険なんて、先が思いやられるわ」「ふふ。そうですね、ミカエラさま。でも私がついていますから大丈夫ですよ」「頼りにしてるわ、ルディア」 ルディアは自分自身のために、ミカエラとお腹の子どもを気にかけてくれている。(ここでは私欲まみれな人の方が信頼できるのよね。高潔な人物を頼れたなら安心だけど、我が国はそこまで成熟していない) それでも頼れる人がいるというのは、ミカエラにとって心強い。(意外と頼りになるのよね、ルディアは。特別な守護精霊でもついているのかしら?) そこに身支度を整えたアイゼルがやってきた。「おはよう。私の奥さんのご機嫌はいかがかな?」「ふふ。おはようございます、アイゼルさま。わたくしの機嫌はよいですけど、御子はどうでしょうか」「んーどれどれ……」 アイゼルがミカエラの腹に手を置くと、彼の手のひらに合わせるように内側からボコッと何かが浮き上がってきた。「手か足かは分からないが、この子は賢いな?」「ふふ。元気な悪戯っ子かもしれませんよ」 若い2人は顔を見合わせて笑った。 大変ながらも幸せな瞬間を経て、ミカエラは出産の時を迎えた。 暖かな春の日。 朝早くに産気づいたミカエラは、初めての出産に立ち会う身内もなく、警備のしやすい王城の医務室で1人戦うようにして出産に挑んだ。「ミカエラ、大丈夫か?」 アイゼルが息を弾ませて医務室へと駆け付けたときには全て終わっていて、ミカエラの横には玉のような赤子の姿があった。「はい、アイゼルさま。それよりも子を……御子を見てあげてください」「ふふふ。アイゼルさま。男の子ですよ」 珍しく老医師は機
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-24
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第99話 それぞれの想い

「セレーナが死んだ!」 吉報を受けたマリアは歓喜の声を上げた。「公爵家の令嬢で、お金持ちで、美人で……何でも持っていて、常に一番でいなきゃいられないセレーナさま。死ぬのも一番早かった! あははははっ!」 マリアはミゼラルの屋敷にいた。 ミゼラルが公爵位を得て臣下に下った時のために用意された屋敷は、王宮に比べたら貧相だ。 豪華な調度品こそ王族にふさわしいものだったが、主のいない屋敷には使用人が少ない。 マリアは1人、私室にいた。「私をこんなところへ閉じ込めて、ラインハルトさまを独り占めして。さぞや楽しかったでしょうね、セレーナ!」 どんなに声を上げたって誰も聞いていない。 マリアは思う存分、セレーナを罵った。「でも貴女は死んだ。死んでしまった。もう何もできないっ!」 マリアの目は爛々と輝く。「今よ! 今こそ我が息子、ミゼラルの出番っ!」 マリアは、感情だけでなく自分自身も爆発してしまいそうなほどの大きな声を立てて笑った。 その頃、マグノリア伯爵もセレーナ死亡の一報をマグノリア伯爵邸で聞いていた。「前王妃が亡くなった⁉」 王子の誕生に肩を落としていたマグノリア伯爵だったが、その瞳に輝きが戻った。「セレーナさまの後ろ盾は、難敵であったけれど……。これは風向きが変わってきたな。セレーナさまは支持するが、アイゼルさまは支持しないという貴族や商人は多い。むしろミゼラルを支持するという人たちもいる。……ん、これは忙しくなるぞ」 マグノリア伯爵はニヤリと笑うと書き物机の前にある椅子へ腰を下ろし、執事を呼ぶために呼び鈴を鳴らした。 ミゼラルはソファに寝そべりながら呟く。「母上も、伯父上も、夢を見ているようだ」 テーブルの上には暗号を交えた手紙が広げられている。 伯父や母以外からも、ミゼラルのもとへは手紙が届けられていた。「夢を見なければ……野望を抱かなければ……叩き潰されることもないのに」「ふふ。どう生きたところで、叩き潰される時には、叩き潰されるものですよ。ミゼラルさま」 パムは微笑みを浮かべながら、テーブルの上に湯気の立つティーカップを置いた。 部屋の隅の机の上で串刺しにされて七色の血を流しながらピクピクと震えている守護精霊を眺めながらミゼラルは口を開いた。 「黙って叩き潰される気にはならないな。どうせ叩き潰されるのなら、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-25
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