ほどなくして王子マリウスのお披露目が行われた。 王子の誕生を祝うために人々は大神殿に集まった。 それぞれの想いと野望を胸に抱いて集まった人々がザワザワとひしめき合う片隅で、背が高く体格のよい黒い短髪に黒い瞳の凛々しい青年が、整った容姿の小柄な貴族青年に向かって、すれ違いざまにそっと小声でささやく。「反逆の動きがある。注意しろよ、イエガー」「分かっているさ、レクター。お前も気をつけろよ」 イエガーは薄茶の瞳を貴族たちへ向けながら小さな声で返事をする。 ポワゾン伯爵として列席したイエガーは客席へと向かい、レクターは警備の持ち場へと向かった。 逞しく鍛え上げた体で守るのは、王妃ミカエラだ。 その隣で揺りかごのなかで眠っている王子、マリウスを守るのは、また別の騎士である。 大神殿のなかにあっても、騎士たちは剣を持つことを許されていた。 滑稽なほど輝く銀色の鎧と剣を見せつけるようにして、騎士たちは人々の前に立つ。「前国王陛下が引退なされた時にはどうなることかと思ったが、次代を担う王子殿下まですんなり授かるとは」「流石アイゼルさまですな。国王陛下は持っている運が違いますね」「これで王国は安泰」「本当に。安心ですね」 ザワザワと貴族たちが噂するのを聞きながら、イエガーは我が事のように誇らしかった。(これでレイチェルが目覚めれば、何も心配することはなくなる。安心して幸せと平和を楽しみたいんだ、僕は。姉上の問題は、どうすれば解決するのだろうか?) 檀上を見守りながら、イエガーは考えていた。「いい子ね、マリウス」 檀上にいるミカエラは、揺りかごのなかへと声をかける。 慣れない環境に置かれても、人々の騒めく声を聞かされても、マリウスがぐずることはなかった。 揺りかごの向こう側の椅子に座っているアイゼルが、フッと笑いながらつぶやく。「この子は大物になるな」「そうですね、アイゼルさま」 国王と王妃は顔を見合わせて笑った。 大神官が現れ、マリウスの誕生を祝福すると、客席が沸いた。「次期国王さまの誕生だ」「マリウスさま万歳っ!」「これで王国は安泰だな」「我が国は、ますます繁栄するぞ」 人々が歓喜の声を上げる姿を眺めながら、レクターはついつい緩む口元を一生懸命に引き締めていた。(なんて誇らしいんだ。俺の幼馴染は恵まれているし、優
Last Updated : 2025-09-29 Read more