襲撃を受けた後、慌ただしく自室に戻ったアイゼルは、脱いだ上着をソファへ乱暴に叩きつけた。 脱ぎ捨てた上着をメイドが回収していくのを睨みつけながら、アイゼルは激しい怒りに身を震わせる。(またミカエラを傷付けてしまった!) 後悔が彼を苦しめるが、自室にいても密偵がどこに潜んでいるか分からない。 アイゼルは感情のままを表に出して叫ぶこともできず、奥歯を噛み締めた。(王宮は敵だらけだ。本音なんて出せない) 眉間にシワを寄せて険しい表情を浮かべるアイゼルに、幼馴染たちは気遣わしげな視線を向けた。 レクターがアイゼルの肩に手を置いて話しかける。「アイゼル。大丈夫か?」「ああ。大丈夫だ」「アイゼルは丈夫だもんね。どこからも血はでてないし。医師の見立てでも心配ないって言われたんだから安心だよ」 イエガーが明るく言っても、レクターはモゴモゴと何かを呟きながら未来の国王の体をあちらこちらから眺めている。「令嬢の力とはいえ、刃物を突き立てられたのに」「衣装の金具にでも当たって刃先がそれたんじゃないの?」「お前は軽いな、イエガー」「だってアイゼルが無事なんだからいいじゃん」 レクターに向かって、イエガーは不満げに唇を尖らせて見せた。 アイゼルは疲労の色を見せながら、2人にをたしなめた。 「揉めないでくれ。私は疲れたから、ちょっと1人になりたい」「あ、そうだな。気が回らなくてすまない」「じゃ、僕たちは行くね。お大事に」「ああ。今日はありがとう」 バツの悪そうな表情を浮かべるレクターの横で、イエガーは明るく手を振って部屋を出ていった。 アイゼルは1人になった。 とはいえ襲撃直後ということもあり、扉の前はもちろん、部屋の中にも護衛はいる。 アイゼルは大きな溜息を吐くと、ソファの上へ寝そべるようにして座って目を閉じた。(ミカエラを傷付けたくなんてないのに。いつもこうだ。どうしてこうも上手くいかないのか……) あの日。 初めて会った花咲き乱れて日差しがたっぷり降り注ぐ明るい庭で、アイゼルはミカエラに恋をした。 大人をそのまま小さくしたような令嬢たちのなかで、ミカエラだけが自然に笑っていた。 作り物だらけのなかで彼女だけが本物。 そう思った瞬間、アイゼルは恋に落ちていた。 アイゼルはミカエラの家柄も知らなかったし、異能のことも知らな
Last Updated : 2025-06-18 Read more