「レイチェル! ポワゾン伯爵令嬢、来ていたんだね」 ミカエラに背を向けたアイゼルの青い瞳がとらえたのは、お気に入りのご令嬢だ。「はい。ご機嫌麗しゅうございます、王太子殿下」(今日も綺麗ね、ポワゾン伯爵令嬢は。双子だけあって、お兄さまであるイエガーさまとそっくり) ミカエラはポワゾン伯爵令嬢を眺めながら思う。「今夜は疲れたよ。付き合ってくれないか」「はい」 王太子はポワゾン伯爵令嬢の手を取って、ミカエラを振り返ることなく何処かへ行ってしまった。 令嬢たちは嬉しそうにさざめく。 「やはり、王太子殿下はポワゾン伯爵令嬢のことがお気に入りね」「おかしいと思ったのよ。ミカエラさまと踊るなんて」 令嬢たちのクスクスという笑い声が、ミカエラの心に刺さる。(わたくしが一番、分かっていることよ) ミカエラの様子を楽しみながら、令嬢たちは忙しく囁き合う。「ミカエラさまから何か交換条件でも出されたのではないの?」「そうよね。ミカエラさまは、策士だもの」「何か悪い事を企んだのではないのかしら?」「あらあら。王太子殿下とダンスすることが悪巧み?」「いえいえ。悪巧みをやめる条件が王太子殿下とのダンスだったのよ」 囁きは広い会場にあっても、ミカエラの耳に奇妙なほど届く。「まぁ、怖ろしい。どんな悪い事を考えたのかしら?」「さぁ? 私たちには考えも付かないような『何か』よ」「どんな事かしら?」「考えても無理よ。きっと貴女には思い浮かびもしないことだから」「そうよね、ミカエラさまは悪女でいらっしゃるから」「うふふ。悪役令嬢ですものね」「そうよ。ふふふ」 やっぱりね、とばかりに令嬢たちはクスクスと嘲笑している。 ミカエラの背後に控えていた侍女も溜息を吐いて言う。「ミカエラさま。もう下がってしまって良いでしょうか?」「……ええ、いいわ」 ミカエラが許可を与えると、ルディアはそそくさと会場を後にしていった。 取り残されたミカエラに集まるのは、嘲笑と好奇の目。(耐えられない) なによりも耐え難いのは、期待してしまった自分。(なんて……惨めなのかしら……)「ミカエラさま。我が兄が不調法で申し訳ない」「……」 ミゼラルが話しかけてきた。 同情でもされたのだろう。 いつもなら、適当に返事をして合わせることができるけれど。 今夜
Huling Na-update : 2025-07-22 Magbasa pa