ミカエラの朝は神殿に向かうことから始まる。 今朝も護衛騎士を引き連れて、神殿への道を歩いていた。(ドレスが届くのは何時かしら? 夜会の時期を考えたら、そろそろ届くころだけれど……) ミカエラは愛しい婚約者から届く予定のドレスを楽しみにしていた。 足取りは自然と軽くなっていく。 (また傷付けられないか、怖いけれど……好きな方からの贈り物が楽しみでない方などいて? いえ、いないはずだわ) ミカエラはアイゼルの姿を思い浮かべた。 スラリと背が高く、整った美しい顔に金の髪。(甘く微笑んだアイゼルさまの、あの青い瞳に見下ろされれば、全てが溶けてしまうのよ。わたくしは、恋に落ちてあの方を愛してしまう。何度でも。何度でも……) ミカエラの意識が甘く染まった瞬間。(え?) キラキラとしたオレンジ色の光が、彼女の視界の端に見えたような気がした。 (虫?) 体にまとわりついてくるような光に気を取られて、ミカエラは立ち止まる。 と、その瞬間。 ドンと背中を押す手の感触がした。「あっ⁉」 目の前には神殿へと続く長い下りの階段がある。 ミカエラの体は、この石造りの長い階段を転がり落ちれば無事では済まないだろう。 だが生地をたっぷり使った見てくれだけは豪華なドレスを着たミカエラは、押された衝撃を受け止めることなどできなかった。 ミカエラの足は地面を離れ、体は宙に浮いた。 (落ちるっ!) 思わずミカエラは目をつぶった。「危ないっ!」 大きな声と共に、安定感のある逞しい体がミカエラを包んだ。(あ、危なかった……) 鍛え上げられた体に抱き留められ、ミカエラは安堵の溜息を吐いた。 ギュッとつぶった目をゆっくりと開くと、オレンジ色の光がキラキラと目の端に映った。(わたくしが、狙われた?) 王太子婚約者であるにもかかわらず、無価値な存在として扱われ過ぎたミカエラにとっては、自分が狙われたという危機的な事態が、いまひとつピンとこない。 男性の怒声が「あいつを追え!」と指示を出し、バタバタと慌ただしく人の動く気配がする。 いつもは静かな神殿への道が騒然としているのを感じながら、ミカエラは呆然としていた。 赤いドレスを常に着ているミカエラは目立つ。 (黒髪に赤いドレスを着ている貴族女性なんて、わた
Last Updated : 2025-07-01 Read more