理々は、ずっと「香坂の妻」になることを夢見ていた。沙羅にできて自分にできないはずがない、と信じていた。沙羅が特別だなんて思っていない。ただ彼女のほうが、自分より少し早く彼の隣にいたというだけのことだと。ちょっと手を使えば、拓真だって私のものにできる――そう思っていた。実際、前半は理々の思い通りだった。拓真は彼女の身体に溺れ、昼夜問わず離れなかった。会社でも彼女の昇進は続き、普通の社員から一気にエリートにまで登りつめた。きらびやかな世界に目がくらみ、理々は「愛人」でいるだけでは満足できなくなっていった。もっと欲しかった。堂々と彼の隣に立って、贅沢な人生を歩みたい――そう願うようになった。拓真に「コンドームはしないで」と甘え、「あとで薬を飲むから」と言いながら、実は妊娠のためのサプリをこっそり飲み続けた。ついに彼の子どもを授かったとき、理々は「これで拓真の心をつなぎとめられる」と信じて疑わなかった。拓真には「絶対に沙羅には知られるな」と言われていたが、理々はあえて沙羅に挑発を繰り返した。自分が賭けたのは、拓真の愛情ではなく、沙羅の絶望だった。沙羅さえいなくなれば、その席は自然に空くはずだ――リスクはあったが、もうほかに道はなかった。この男を手に入れること、それが理々の人生で唯一のチャンスだった。そして、賭けは的中した。沙羅は本当にいなくなった。理々は誇らしげにお腹を抱えて、拓真と沙羅が暮らしていた家へ向かった。玄関前の牡丹の花が咲き誇っているのを見て、「これからはここが自分の家になるんだ」と心の中でつぶやいた。ドアを開けると、拓真がひとりでベッドに横たわっていた。その姿を見て、少しだけ胸が痛んだ。最初は欲や打算だけだったはずなのに、気がつけば理々は本気で彼を愛していた。ピラミッドの頂点に立つ男――それが拓真だった。理々はキッチンに入り、簡単な食事を作って「本当の妻」のように振る舞った。この日を、何度も何度も頭の中でシミュレーションしてきた。ついに夢が叶う。その幸福感で頭がいっぱいだった。料理ができあがり、理々はベッドの拓真を起こしに行った。拓真は目を覚ますと、いきなり理々を強く抱きしめた。春の陽射しを浴びる花のように、理々の胸は幸せで満たされていた。――だ
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