「深山沙羅(みやま さら)さん、本当にこの実験を受ける決意は変わりませんか?」白衣のスタッフが探るような目で尋ねてきた。沙羅はしっかりとうなずいた。「はい、お願いします」「かしこまりました。この実験同意書にサインをお願いします。実験が始まると、あなたの記憶はすべて消去され、これまでの人生の出来事は一切思い出せなくなります。もう後戻りはできません。よく考えてからご署名ください」沙羅は数秒間だけ黙り、自分の人生を走馬灯のように振り返った。色あせて、短い人生には、もう思い出す価値のある人も出来事も残っていなかった。ペンを取って、自分の名前を書き、同意書をスタッフに手渡す。「書きました」「ありがとうございます、沙羅さん。来週、研究所でお待ちしています」研究所を出ると、沙羅は深く息を吐いた。身体の重さも少し和らいだ気がした。そのころ、香坂拓真(こうさか たくま)は京市最大のカンファレンスホールで新車発表会を行っていた。発表会はネットでライブ配信され、通りすがりの人までもがスマホでその様子を見ていた。朝から、沙羅のスマホには拓真からのメッセージが届いていた。【お姫様、発表会でサプライズがあるよ。沙羅が喜んでくれるといいな】沙羅はスマホを手に取り、配信画面をタップした。拓真はきっちり仕立てたスーツ姿で、晴れやかな自信をみなぎらせて壇上に立っていた。その背後には、布に覆われた巨大な何かが隠されていた。司会者がにこやかに尋ねる。「今回発表される新車は、香坂社長が奥様へのサプライズとしてもご用意されたそうですが?」拓真はマイクを持ち、観客に向かって答えた。「今日は妻の沙羅の誕生日です。彼女は僕と一緒に、あらゆる苦難を乗り越えてきました。今の僕があるのは、彼女がいたからこそです。だから半生をかけて作ったこの車を、彼女に贈りたいと思います」そう言って拓真が布を引くと、そこには可愛らしいピンク色の新車――ピュアハートが現れ、会場は大歓声に包まれた。【なんでこんな理想の旦那さんがこの世にいるの……誰か私にも分けて!】【沙羅さんってどんな前世で徳積んだの?お金持ちで優しくてイケメンな旦那とか羨ましすぎ】【今日もまた嫉妬の一日。私もこんな恋愛してみたい~】【この車めちゃくちゃ可愛い!やっぱり香坂社長、女
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