秘書が家を訪ねてきたとき、拓真は床に座り込んだままぼんやりしていた。「社長、どうしてこんなところに座ってるんですか?床は冷えますよ」 秘書が手を差し伸べると、拓真はまるで溺れる者が救いを求めるようにすがりつく。「どうだ?沙羅は見つかったか?」「いえ、すでに何人も探しに出していますが、まだ奥様の行方は分かりません」拓真は手を下ろし、苛立ち混じりに叫んだ。「まったく、使えない連中ばかりだ!たったひとりの人間すら見つけられないなんて!」秘書はやわらかな口調でそっと言葉をかける。「社長、最近奥様とケンカなどなさいませんでしたか?奥様が少し腹を立てて家を出られたのかもしれませんし、しばらくしたらご自身でお帰りになると思いますよ」拓真はひと呼吸おいて、きっぱりとした声で言い切った。「違う、ケンカなんてした覚えはない。僕たちはずっと良い関係だったはずだ」「では思い出してみてください。奥様が出ていく前、最後にどんな会話をされましたか?もし本当に家を出るつもりなら、何か前触れがあったはずですよ」拓真は必死で頭を働かせる。沙羅と最後に電話で話したのは、何だっただろう?そうだ、誕生日だ。沙羅は自分の帰りを待って、誕生日を祝おうと言っていた。その時、拓真はふと思い出す。——一週間ほど前、沙羅が自分に小さな箱を差し出して「誕生日プレゼント」だと言っていたのだ。ほとんど飛び上がるようにして、飾り棚からそのギフトボックスを取り出す。リボンはふんわりとした結び目になっていて、包みもとても丁寧だった。それは誰が見ても、沙羅の想いが詰まった贈り物だった。それを見て、秘書はにこやかに言った。「奥様、本当にお優しい方ですね。社長もご心配なく、きっと奥様はサプライズでも仕掛けているんですよ」拓真もほっとした様子で微笑んだ。沙羅がこれだけ長いあいだ自分に深い愛情を注いできてくれたのだから、何の前触れもなくいなくなるなんてあり得ない。きっと自分の考えすぎだ。きっと今回いなくなったことも、誕生日サプライズのひとつなのだろう。 距離があればこそ見えてくるものもあるし、今年はちょっと違ったゲームを仕掛けてきたのかもしれない。そう思うと、心がふっと軽くなる。拓真は丁寧に包装をほどき、箱の蓋をそっと開けた。ちょうど
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