神谷蓮は、ふらりと数歩、よろけるように後ずさった。――本当は、分かっていた。芽衣が自分の手で、それらを捨てたのだと。ただ、認めたくなかっただけだった。まさか、あの思い出の写真たちを――火にくべてしまうなんて。あの温かくて、愛おしくて、かけがえのなかった日々を、彼女は、ほんの少しの未練すら持たなかったのだろうか?時間の感覚がなくなるほど、彼の心は、その残酷な現実に焼かれていた。神谷蓮は、全てが嘘であってほしいと願っていた。芽衣が、どこかにまだ自分を想ってくれている――そんな奇跡が、あるかもしれないと。だが、現実は残酷だった。彼は諦めきれず、家中を探しまわった。芽衣の痕跡を――たったひとつでもいい、何かを。だが、彼女はすでにすべてを整理していた。着ていた服やアクセサリーは、売られ、あるいは捨てられ、ふたりで選んだ家具も、すべて業者に引き取られていた。他のものも、ひとつ残らず消えていた。そのとき、神谷蓮は昼間の「日記帳」のことを思い出した。急いでゴミ箱に駆け寄ったが――そこは、すでに空っぽだった。彼はすぐさま清掃スタッフに電話をかけた。「……日記? ああ、もしかしたら見たかもしれません。奥さまのものらしき本……たしか、ゴミ集積所にありましたけど……今の時間だと……収集車がもう持って行ったかと……」神谷蓮は即座にマンション裏のゴミ置き場に向かった。清掃員たちは、ちょうどゴミを収集車に運び込もうとしていた。「待ってください! 大事なものを、間違って捨ててしまったんです!」彼は制止も聞かず、ゴミ袋をひっくり返し始めた。悪臭が立ち込め、作業員たちは顔をしかめる。だが神谷蓮は、まるで何も感じないかのように、ただひたすら、探し続けた。ブランド物のスーツが、汚れたゴミの山に埋もれていく。そんなことさえ、どうでもよかった。どれほど時間が経っただろうか。ついにそれを見つけた――芽衣の日記帳。彼は震える手でそれを抱きしめ、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。「……あった……やっと……見つけた……」家に戻ると、彼は何度も丁寧に日記を拭った。鼻を近づけ、かすかな臭いもなくなるまで。芽衣の最後の痕跡を、彼はひとまとめにして、机に
Baca selengkapnya