Semua Bab 終わらない夢に、君を探して: Bab 11 - Bab 19

19 Bab

第11話

神谷蓮は、ふらりと数歩、よろけるように後ずさった。――本当は、分かっていた。芽衣が自分の手で、それらを捨てたのだと。ただ、認めたくなかっただけだった。まさか、あの思い出の写真たちを――火にくべてしまうなんて。あの温かくて、愛おしくて、かけがえのなかった日々を、彼女は、ほんの少しの未練すら持たなかったのだろうか?時間の感覚がなくなるほど、彼の心は、その残酷な現実に焼かれていた。神谷蓮は、全てが嘘であってほしいと願っていた。芽衣が、どこかにまだ自分を想ってくれている――そんな奇跡が、あるかもしれないと。だが、現実は残酷だった。彼は諦めきれず、家中を探しまわった。芽衣の痕跡を――たったひとつでもいい、何かを。だが、彼女はすでにすべてを整理していた。着ていた服やアクセサリーは、売られ、あるいは捨てられ、ふたりで選んだ家具も、すべて業者に引き取られていた。他のものも、ひとつ残らず消えていた。そのとき、神谷蓮は昼間の「日記帳」のことを思い出した。急いでゴミ箱に駆け寄ったが――そこは、すでに空っぽだった。彼はすぐさま清掃スタッフに電話をかけた。「……日記? ああ、もしかしたら見たかもしれません。奥さまのものらしき本……たしか、ゴミ集積所にありましたけど……今の時間だと……収集車がもう持って行ったかと……」神谷蓮は即座にマンション裏のゴミ置き場に向かった。清掃員たちは、ちょうどゴミを収集車に運び込もうとしていた。「待ってください! 大事なものを、間違って捨ててしまったんです!」彼は制止も聞かず、ゴミ袋をひっくり返し始めた。悪臭が立ち込め、作業員たちは顔をしかめる。だが神谷蓮は、まるで何も感じないかのように、ただひたすら、探し続けた。ブランド物のスーツが、汚れたゴミの山に埋もれていく。そんなことさえ、どうでもよかった。どれほど時間が経っただろうか。ついにそれを見つけた――芽衣の日記帳。彼は震える手でそれを抱きしめ、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。「……あった……やっと……見つけた……」家に戻ると、彼は何度も丁寧に日記を拭った。鼻を近づけ、かすかな臭いもなくなるまで。芽衣の最後の痕跡を、彼はひとまとめにして、机に
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第12話

彼女は、日記にびっしりと書き綴っていた。だが、そのどれもが、神谷蓮には関係のない言葉だった。ただ、最後の一文を除いては。彼は、視線を落としたまま、動けずにいた。全身から、悲しみと罪悪感が滲み出していた。最期の時、彼女はひとりきりだったのだ。どれほど怖かっただろう。注射ですら怖がっていた彼女が――すい臓がんの、あの激痛に、ひとりで耐えていたなんて。命の火が消えかけている中で、最愛の人が他の女を抱いているのを、黙って見ていたのだ。彼女の心が、どれほど痛んだかなんて、神谷蓮には、もう想像することしかできない。彼は、初めて芽衣に告白した日から、彼女と一生を共にする未来を信じていた。二人の未来は、いつだって幸せな結末しかなかった。――そう、思い込んでいたのに。どこで、間違ってしまったのだろう。自分が許せなかった。そして――本気で、あの女・望月寧々が憎かった。あいつさえいなければ、こんなことには――神谷蓮は、誰もいない部屋で、ひとりぼっちだった。家具が撤去された静まり返った空間には、孤独と後悔だけが残っていた。彼は、芽衣の日記帳と、署名入りの離婚届を並べて、丁寧にキャビネットの引き出しにしまい、鍵をかけた。芽衣が残した、唯一の「形見」。それを守るようにして、神谷蓮はようやく重い体を引きずり、洗面所へ向かった。――そのときだった。机の隅に置かれていた、彼女のスマホが目に入った。そうだ。須藤ことりから聞いた、あの言葉。彼は慌てて電源を入れ、メッセージ履歴を確認する。そこには――望月寧々が送った、数々のメッセージと写真。挑発的で、露骨な写真。見た瞬間、彼の目が血走った。「……お前だったのか……!」低く、冷ややかな声が、部屋に響く。そのときだった。スマホの画面が再び光り、彼女から新しいメッセージが届いた。【本当に死んだんだって?でもさ、それで彼の気を引けると思った?残念だけど、今夜は彼、私と一緒よ。私が選んだセクシーなランジェリー、彼の趣味にぴったりだったわ】そこには、いやらしくポーズを取った写真が添付されていた。神谷蓮は、指を震わせながら返信を打ち込んだ。【望月寧々。俺は言ったはずだ。お前は、決して芽衣の代
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第13話

「それに……お前、何様のつもりだ? いつから俺の妻を叱る立場になった?」神谷蓮の声は、氷のように冷たかった。一語一句が、望月寧々の胸に突き刺さる。「お前はただの――出産道具にすぎない」その言葉を聞いた瞬間、彼女の全身が震えだした。終わった――すべてが、本当に終わったのだ。いや、そんなはずない。彼の子どもを身ごもっているのに……彼がそんな冷酷なことをするはずがない。必死に平静を装いながら、望月寧々は声を震わせた。「……神谷さん、ごめんなさい……そんなつもりじゃなかったんです……ただ……奥さまが、あの家のことで毎日のように私を責めて……職場でも、ありもしない噂を流されて……私……追い詰められて……つい、やり返してしまっただけで……」「ごめんなさい、怒らないでください……怖いんです……」いつものように、彼の前で小さくなる。泣き真似をしながら、か細い声で彼の怒りを和らげようとする。だが――今日は違った。彼は、もう彼女に目もくれなかった。「お前が言った『奥さまに責められた』って、いつの話だ?」問い詰められ、望月寧々は一瞬たじろいだが、すぐにいつもの調子で言葉を継いだ。「き、昨日です。神谷さんが不在のときだったから言い出せなかったんですけど……本当に、ひどい言葉で罵られて……」「……そうか、昨日、ね」神谷蓮は小さく呟いた。そして、低く笑った。「だが……芽衣は、昨日すでに亡くなっていたんだ」望月寧々の表情が凍りついた。――嘘、そんな……本当に、死んだの?望月寧々は顔面をこわばらせ、明らかに動揺していた。だが、今の彼女にとって、そんな感情に浸っている余裕はなかった。どうすればこの失態を取り返せるのか——必死に頭を働かせていた。けれど、神谷蓮はもう彼女の言い訳など、これっぽっちも聞く気はなかった。「それ以外のとき、メッセージを送ったことはあるか?」「……い、いえ……ないです……」かすれた声で答えるが、神谷蓮はもう聞く耳を持たなかった。通話を切ると同時に、彼の部下たちが望月寧々の部屋に突入した。彼女のスマホとともに、強制的に彼の前へと連れてこられる。すべてが、あまりにも急だった。彼女は、まだメッセージの削除すらしていなかった。神
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第14話

望月寧々は膝をついたまま、神谷蓮のもとへ這うように近づいた。泣き濡れた瞳で、彼の腕を掴み、必死に懇願する。だが、彼の瞳には一切の情が宿っていなかった。望月寧々は慌ててポケットから一枚の紙を取り出し、彼の目の前に突き出した。「神谷さん……本当に、反省しています。だから、せめて……お腹の子のために、許してください……!」「ずっと、子どもが欲しいっておっしゃってたじゃないですか?見てくだい、もうすぐですよ、私たちの理想の家族が――三人家族が叶うんです……!」神谷蓮は冷たく鼻で笑った。「フッ……誰が、お前と家族になるなんて言った?」彼は彼女の顎を乱暴に掴み上げた。その力の強さに、望月寧々の頬には青紫の痕がくっきりと残った。「俺の理想の家族には、最初から最後まで――芽衣しかいなかった。お前はただの、道具だ」その言葉とともに、彼は望月寧々の手を振り払い、突き飛ばすように突き放した。彼女は力なく床に崩れ落ち、まるで魂が抜けたように呆然と座り込む。「俺は何度も言ったよな。自分の立場を弁えろって。それでもお前は、俺の妻を傷つけた――その代償は払ってもらう」神谷蓮の声が冷酷さを増していく。「子ども?母親がいないなら、意味はない」望月寧々の顔が恐怖に染まる。神谷蓮の目には、もう一切の情けも揺らぎもなかった。「そんなに芽衣が大事なら、どうして私のところに来たのよ!?私はあなたにとって何なの!?お腹の子は、あなたの子でしょ!?それでも、いらないの!?」「……あんなにも何度も……夜を共にしたのに……あの時間が全部ウソだっていうの!?あなたの瞳は……確かに私を見てた……優しかったじゃない……!」望月寧々の叫びは、もう悲鳴に近かった。だが神谷蓮は彼女に一瞥もくれず、吐き捨てた。「黙れ、望月寧々。お前は最初から、その腹の奥の子宮以外、俺にとって価値はないんだ」彼の視線は鋭く、冷たく、まるで氷のようだった。「この子の『母親』は、芽衣ただ一人。彼女がいない今、この子にも意味はない」「誰か、こいつを病院に連れて行け。中絶手術だ」望月寧々は顔面蒼白となり、自分の腹を両手で必死に守った。――この子だけは……この子だけは失えない!彼女の最後の希望、最後の切り札……これがなければ、すべてを失ってしま
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第15話

望月寧々の件が終わったあと、神谷蓮は長期休暇を取った。芽衣の死をどうしても受け入れられなかった彼は、酒に溺れることで現実から逃れようとした。「もっと早く、彼女が病気だって気づいていれば……」「もし、あの女に惑わされていなければ……」「もしも……」都心のバーの個室で、彼は独り言のように呟きながら、無理やり酒を流し込んでいた。何日眠っていないのか、もうわからない。家にはもう芽衣の気配はなく、ひとりでいるにはあまりにも空虚すぎた。昔のままに戻した思い出の家も、どこか違って見えた。何故ならば、そこにいた彼女は、もういないのだ。酒に頼ることで、少しでも思いを和らげようとしたが――どれだけ飲んでも酔えなかった。むしろ、ますます意識は冴えていく。神谷蓮は静かに笑った。絶望の底でしか浮かばない、乾いた笑み。彼女は、もう隣にいない。さらに一本、瓶を開けようと立ち上がったとき、ふいに誰かとぶつかった。「チッ、どこ見て――あっ……神谷さん!? ご無沙汰してます!」目の前の男は一瞬ムッとしたが、神谷蓮だと気づくと慌てて笑顔に変わった。以前、何度か一緒に飲んだことのある取引先の川本だった。彼は神谷蓮の様子に驚きながらも、すぐに隣の個室に連れて行った。そこには、かつて共に夜の街を歩いた「仲間」たちがいた。「……芽衣さんの件、聞きました。本当に……ご愁傷様です」空気が一気に重くなる。誰もが気を遣いながら彼に声をかけたが、神谷蓮は何も答えず、ただ黙って酒を飲み続けた。その時、不意に沈黙を破るような、酔っ払った声が響いた。「……たかが女ひとり死んだくらいで、そんなに落ち込むことか?」声の主は、神谷の隣にふらふらと近づいてきた大森という男だった。「神谷さん、女なんて世の中にいくらでもいるぜ。ひとりに固執する必要なんてないんさ」「それに、男の三大幸福って知ってますか? 昇進、金儲け、そして……女房の死だってさ。ひとつ達成、おめでとうさん!」神谷蓮の拳が無言で振り上げられ、大森の顔面に炸裂した。周囲の人々が慌てて二人を引き離す。「ふざけんなよ、神谷……テメェ、偉そうにしやがって!テメェの女遊びなんて、俺よりひでぇだろ!」「……もしかして、お宅の女房ががんになったのも、あんたのせいなんじゃ
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第16話

「ほら見たことか、やっぱり我慢できなかったな!」「一途だなんてウソさ、結局は周りの女がタイプじゃなかっただけだろ?」「でもな、神谷、お前もそろそろ趣味変えたらどうだ? ああいう真面目な女ばっかで飽きないのかよ?」「ま、俺らダチなんだから、似たような女いくらでも紹介してやるって!」個室に男たちの下品な笑い声が響き渡る。神谷蓮の眉間に、鋭い怒気が走った。彼はソファから立ち上がると、隣の女を突き放し、反転してその首を机に押さえつけた。「うっ……!」大きな手がゆっくりと絞まっていく。女の顔が真っ赤に染まり、苦しげにもがき始める。「神谷、やめろ! 殺す気か!」周囲の男たちが慌てて止めに入り、神谷蓮をなんとか引きはがす。女は這うようにしてその場から逃げていった。彼は静かに、だが冷ややかな視線を一同に向ける。「言っとくが――二度と俺の妻に対して無礼なことを言ったら許さない。それから、こんな低俗な手段を使うようなやつもだ。俺の前に現れるな」一瞬、誰もが言葉を失い、ただ沈黙が流れた。「……ったく、女一人のことでよくもまぁここまで気取れるな」どこからか、酔いの回った男の小さな呟きが聞こえた。神谷蓮がその声の主に目を向ける。先ほどから問題発言を繰り返している大森だった。「何が神谷だよ。女なんて掃いて捨てるほどいるだろ? あの女が死んだって、だから何なんだよ?」「それともお前、後を追って死ぬつもりか? まあ、それもそれで羨ましいぜ。もう奥さんに口うるさく言われることもないし、これからは自由に遊べるんだからな」「いっそ、顔が似てる女を何人か連れてこさせてさ、『あの人みたいに振る舞え』って言っときゃそれで済む話だろ?」彼にとって女なんて、ただの消耗品に過ぎなかった。その下卑た言葉が、神谷蓮の中の理性を完全に焼き切った。彼はテーブルにあったウイスキーボトルを手に取り、そのまま大森の頭に振り下ろした。「ッ……!」ガラスが砕け、血が床に飛び散る。大森が叫びながら部下を呼び、神谷蓮も構わず応戦した。彼は泥酔しているにもかかわらず、動きに迷いはなかった。拳は正確に相手の急所を捉え、一発ごとに鈍い音が響く。バーは一瞬で修羅場と化し、店のスタッフは慌てて警察に通報した。そして――午前二
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第17話

この数日、神谷蓮はずっと彼女と連絡を取ろうとしていた。彼が芽衣に会いたがっていることを、須藤ことりも知っていた。けれど、彼女はずっとその願いを拒み続けていた。まさか、最終的に神谷蓮が警察の伝手を使って自分に連絡を取ってくるとは、ことりは思ってもいなかった。何と言っても親友の夫、完全に突き放すことができなかったのは事実だった。彼が本当に何か取り返しのつかないことをしてしまうのではないか――そんな不安が、ことりを動かした。幸い、大事には至っていなかった。彼女は安堵し、警察署を後にしようとした。――そのとき、「ドサッ」と音がした。振り返ると、神谷蓮がその場に膝をついていた。彼は深く頭を垂れ、肩を震わせている。「……須藤、頼む……頼むから……芽衣に、会わせてくれ……」その姿は、これまで彼女が見てきた誰よりも惨めで、切実だった。どんなに冷たくしても、すみれの胸は締めつけられるばかりだった。芽衣の墓参りの日、神谷蓮はスーツを着て現れた。それは、大学を卒業する際、芽衣が贈ってくれたスーツだった。彼は駅前で白いマーガレットの大きな花束を買い、理髪店で髪を整えた。道中、車内は終始沈黙に包まれていた。二人は言葉を交わすこともなく、ただ時間だけが過ぎていった。車は都心から離れ、二時間かけて、ある山あいの静かな霊園へとたどり着いた。入口の前で、神谷は足を止めた。この場所――彼は知っている。数ヶ月前、芽衣が自宅のテーブルにパンフレットを置いていたのを思い出した。あのとき、自分はただの「かまってほしい」アピールだと思っていた。だが今、すべてが線となって繋がる。彼女は本当に、ここを選んでいたのだ。自分がただ、目を逸らし続けていただけだった。あのとき、ほんのひと言でも声をかけていれば。この結末は、変わっていたかもしれない。胸がきしむように痛んだそのとき――「神谷蓮」と、ことりが声をかけた。「入る前に、ひとつ言わせて」そして彼女は歩み寄り、いきなり彼の頬を張った。思いがけない一撃に、神谷蓮の顔が横へと揺れる。「これは、芽衣の代わりに。『永遠に一緒にいる』なんて、嘘ばっかりのあんたに」ことりの瞳は赤く染まり、もう一発、強く彼の頬を叩いた。「これは、あの子を突き
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第18話

あの日の午後、神谷蓮はずっとそこに佇んでいた。芽衣のいない空っぽの家に戻る気にはなれず、管理人の目を避けてこっそりとその場にとどまった。日が沈み、夜の帳が降りるころになって、彼はもう一度、彼女の墓標のもとへと戻った。夜風がひんやりと頬を撫で、あたりには冷たい気配が漂っていたが――神谷蓮には、まるで恐怖という感覚がなかった。だって、ここには、彼が心の底から愛し、今もなお愛してやまない人が眠っているのだから。彼は石碑のそばに横たわり、ひんやりとした石を優しく撫でた。そうしているうちに、胸に満ちるのは不思議な安堵感だった。風の音を聞きながら、神谷蓮はいつしか眠りに落ちていった。……目を覚ますと、そこは見慣れた寝室のベッドだった。暖かな日差しが部屋の中に差し込み、家具のすべてが彼に「ここは自分の家だ」と訴えかけている。いつ戻ってきた?自分は確かに墓地にいたはず――ドアの外から足音が聞こえ、数秒後には扉が開かれた。姿を現したのは……なんと、芽衣だった。――芽衣……!?彼女は……死んだはずじゃ……信じられない思いで見つめる神谷蓮に、彼女は微笑みながらそっと彼のそばに座った。「蓮、どうしたの?まるで幽霊でも見たみたいな顔して」彼は何度もうなずいたり、かと思えば首を横に振ったりして、混乱を隠せなかった。芽衣と話しているうちに、彼女が望月寧々という人物を知らないこと、会社にもそんな社員がいないことに気づいた。それに、彼女の顔色はよく、どこから見ても病気には見えない。――まさか、これが夢?神谷蓮は自分の腕を思いきり抓った。痛みが走る。……なら、これは夢じゃない?じゃあ、あの地獄のような日々こそが、夢だったというのか?そう思った瞬間、彼は興奮のあまり芽衣を抱きしめた。夢だったとはいえ、あの絶望はあまりにもリアルだった。その後、芽衣を連れて病院へ行き、徹底的な検査を受けさせた。結果が異常なしと確定するまで、彼は何度も医師に確認を取った。そして、病院を出たその足で、彼はすぐに手続きを進めた。自分名義の不動産、車、すべてを芽衣に譲渡し、公証手続きも完了させた。彼女が戸惑うのも当然だったが、彼は真剣な眼差しでこう言った。「『お金のあるところに愛がある』って言うだろう?俺の覚悟を見せたかったんだ」「芽衣、今度こそ、君を二度
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第19話

気がつけば、また結婚記念日がやってきた。神谷蓮は、事前に予約していたケーキを手に、自宅のドアを開けた。だが、家の中には誰もいなかった。リビング、寝室、ベランダ、風呂場……何度探しても、芽衣の姿はどこにもない。胸の奥に、かつて味わったあの「喪失の恐怖」が冷たい波のように押し寄せてくる。彼は震える手でスマホを掴み、警察に連絡しようとした——そのとき。——「パリンッ!」キッチンから、皿の割れる音が聞こえた。駆け込んだ先で彼が見たのは、目を真っ赤に腫らした芽衣だった。「……蓮。私、ガンだったの」返す言葉も見つからないまま、部屋の光がすうっと消えていった。気づけば、違う方向から芽衣が現れる。その姿は、見るも痛々しいほど痩せこけていた。頬はこけ、目にはかつての温もりはなかった。「……こんなふうに、現実から逃げて……楽しい?」その声は冷たく、突き放すようだった。神谷蓮の脳内に、耳鳴りのような轟音が鳴り響く。そして彼女は、涙を流しながら、最後の言葉を告げた。「ごめんね、蓮。今回はもう、あなたを許せない」「だって……本当に、もう愛してないの」足元が急に崩れ落ち、彼は必死に手を伸ばした。だが、彼女の背中はどんどん遠ざかっていく。掴みたいのに、届かない。どうしようもない恐怖と喪失感が全身を包み込む。もがきながら、彼は再び目を覚ました。傍らにいたのは、芽衣ではなかった。ただの青空、墓碑、そして風に揺れる桜の木々——それだけだった。さっきの出来事は、すべて夢だったのだ。神谷蓮は頬に触れた。そこはすでに、涙で濡れていた。——芽衣……夢の中で彼女が言った言葉が、頭から離れない。彼は焦るように、再び横になった。もう一度、彼女に会いたかった。——謝りたかった。膝をつき、頭を下げて、赦しを乞いたかった。けれど、何度目を閉じても、眠りは訪れなかった。やがて、溢れ出す涙は止まらなくなり、彼は瞳を閉じて嗚咽を漏らした。なぜか、胸騒ぎがしてならなかった。もう二度と——芽衣の夢を見ることはできないような、そんな予感がした。空虚が全身を包み込み、彼は子どものように声を上げて泣き出した。そのとき、不意に電話が鳴った。無理やり感情を押し殺し、画面を確認する。会社からだった。受話ボタンを押すと、受
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