All Chapters of あなたと紡ぐ永遠の愛は奇跡でした。: Chapter 71 - Chapter 80

90 Chapters

chapter71

「瑞紀、もうすぐ着くからな」「はい」 課長はどんな時でも、いつも私の一歩先を歩いてる。 私は時々、課長に追いつきたいって思う時がある。  そして追い越したいって思う時も。 課長の仕事の仕方とか、部下からの信頼の厚さとか。  毎日課長を見ていれば、私には到底追いつけないってことをつくづく実感させられる。 だからいつかは、色んな面で課長に追いつきたいと思う。 そしていつか、課長を追い越したいとも思う。  私の常に一歩先を歩く課長は、私の憧れ。 私もいつかは、課長みたいに仕事が出来て部下からの信頼が厚い人になりたい。 今よりも、もっともっと。  今はこんなに近くにいるのに、なぜだか課長が遠くにいるように感じる。 それは仕事でもプライベートでもそうで、一歩先を歩く課長を見てるとやっぱり不安になることが多い。 時折、課長が遠くて寂しくなったりもする。  だからそう思う度に私は、課長から離れたくないと強く願ってしまう。 それが私のわがままだってことは、わかっているけど。「課長、私課長と離れたくないです」「俺もだよ。俺だって、離れたくない」 課長のことが大好きな私は、このまま離れることがきっと出来ない。   「嬉しい」「そうか。 じゃあ今日は特別に、朝までずっとそばにいてやる」「……本当?嬉しい」「俺も嬉しいよ」 どうして課長は、そんなに優しいのかな。課長は優しすぎる。 多分思ったより嬉しくて、課長がますます好きなんだと実感する。  こんなに誰か好きになったのは、きっと今まで一度もない。  確かに過去に付き合ってた人は何人かいたけど、やっぱり課長ほど好きになったことはなかったと思う。「さ、着いたぞ」「はい」 車を降りてお店の中に入ると、中はすごくレトロな感じがしてキレイだと思った。「レトロでキレイですね」「だろ?俺もこの店の雰囲気が好きなんだ」「わかります。オシャレですよね」「気に入ってくれたみたいで、よかったよ」「私もお店の雰囲気好きです」 課長に案内されたテーブルは窓側の奥で、夜景がキレイに見える所だった。「うわぁ……キレイですね」 本当に景色がいいな……。「だろ?瑞紀が好きそうだと思って、ここの席を予約したんだ」「……ありがとうございます。すごく素敵ですね」 こんな落ち着いた雰囲気のお店で、しかも夜景が
last updateLast Updated : 2025-07-28
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chapter72

「今、ちょっとだけいいかい?」「……はい」 その話の内容なんて、とっくにわかってる。  確かにそろそろ決断しないとなはないっていうのは、自分でもわかっている。  でもそんなにすぐに出せる答えなんかじゃないし、迷うのも当たり前だ。「時間は取らせないよ。すぐに終わるから」「……わかりました」 複雑な気持ちを抱えながら、常務の後を着いていく。「で、どうかな?答えは出たかい?」 誰もいない会議室に入った常務が、すぐに私に問い掛けてくる。「……いえ、まだちょっと……」「そうかい。 研修の締め切りは、一週間後だ」「一週間後……ですか?」 後一週間……? 後一週間しかないの……? ダメ、短い。……短すぎるよ。「なるべく早く答えを出しなさい。……色々手続きがあるからね」「……はい。わかりました」 どうしよう……。後一週間しかない。  あと一週間で、アメリカに行くかどうか決めなきゃいけない。「話はそれだけだから、もう戻りなさい。 時間を取らせて済まなかったね」「……いえ。とんでもありません」 常務は私に、「最後に一つだけいいかい」と口にする。「……はい」「このアメリカ研修はめったにないチャンスだってこと、よく肝に命じておきなさい。 わかったかい?」「はい」 わかってる。言われなくても、わかってる……。  でも……でもそんなの簡単に決められない。「わかってるならいいんだけどね」 タイムリミットは……後一週間だ。 この一週間のうちに課長にこの事実を話さないと、私は絶対に後悔することになる。  でも……課長と離れたくない。「……あの、常務」「なんだね?」「この研修は、私のためになりますか……?」 そう問いかけると、常務は「もちろん、なるよ。なんだい?君はずっとアメリカ行きたがっていたじゃないか」と私に言う。「……はい。そうなんですが」「実は言うと、私は君ならすんなりOKすると思っていたんだがね」「え……?」「もしかして君が迷ってるのは……誰か大切な人でも出来たから、なのかな?」 私はそう言われて「それは……そのっ。そういう訳では、ないのですが……」と言葉にするが、「別に隠さなくてもいいよ」と言われてしまった。「……すみません」「なに、謝ることじゃないよ。……まあ、その大切な人とも、話し合って決めなさい」 常
last updateLast Updated : 2025-07-29
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chapter73

「はい。課長が聞いた通りです。 ……アメリカ研修に行かないかと、言われています」 課長は私に「それはいつだ? 誰からだ?」と聞いてくる。「この前、常務からです。……めったにないチャンスだからと、釘を刺されました」 私がそう伝えると、課長は寂しそうな顔をして「……瑞紀、お前は行くのか?」と私を見つめる。「……まだ、わかりません。迷っています」「わからないって……」 課長は明らかに戸惑っているようだった。「正直言って、すごく迷っています。 アメリカ研修は、入社した時からの私の夢だったんです」「……なぜ、黙っていたんだ」 課長……もしかして、怒ってる……?「すみません。何度か言おうと思ってたんですけど、なかなかタイミングが掴めなくて。……結局言いそびれてしまいました。申し訳ありません」「そんな大事なこと、なんでもっと早く言わなかったんだよ。 前に言ったよな?俺に隠しごとはするなと」 課長に知られてしまった今、どうしたらいいのかわからない。「あの時、何か言いたげな顔をしていたのは……もしかして、このことだったのか?」 私は課長からそう問いかけられて、静かに頷いた。「瑞紀、ちょっと場所を変えようか」「……はい」 私たちは二人で話せる場所へと移動することにした。 「瑞紀、ほら」 課長からコーヒーの缶を渡される。「ありがとうございます」 私はそれを受け取ると、俯いた。「瑞紀、さっきは取り乱してすまなかった」「いえ! 私こそ……すみませんでした」 課長が怒るのも当然だ。私は課長に何も言えなかったのだから、怒られて当然なのだ。 本当なら、すでに話さなければならなかったからだ。 ずっと黙ってる訳にもいかないとわかっていたのに、臆病だったせいでこうなったのは……紛れもなく自分のせいだ。  課長に知られてしまったのだから、この際だから全てを話そう。 わかってもらえなくてもいいから、最後まで自分の口から話したい。「……お前は、アメリカ行きたいか?」「え……?」「アメリカ研修に、行きたいのか?」 真剣な目で課長に見つめられる。「……できることなら、もちろん行きたいです。 ずっと夢に見てたくらいですし、めったにないチャンスですし。行きたい気持ちはあります」 この気持ちは、多分昔も今も変わってない。「……そうか」「すみません
last updateLast Updated : 2025-07-30
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chapter74

 確かに、課長の言うことが正しい。決めるのは私だ。  課長はあくまでも、背中を押してくれる側の人間だ。「いいか瑞紀。自分が今どうしたいのか、よく考えるんだ。……自分の人生は、自分で決めなきゃ意味がない」「……でも、私は自分がどうしたいのか、わかりません」 課長はそんな私の手をぎゅっと握りしめる。そして「わからないなら、じっくりと考えればいい。そんなに焦って考えることはないんだ」と言葉をくれる。「……でも私には、もう時間がないです。 後一週間しか、時間がないんです」 すると課長は、私に「一週間しかないんじゃなくて、"一週間も"時間があるんだ」と言ってくれた。「……え?」「一週間しか時間がないって考えてたら、余計に焦るだけだ。だから後一週間も時間があるって考えればいいんだ。……そしたら少しは、自分に余裕が出てくるはずだ」 一週間も……ある? 確かにそう考えると、自分に少しだけ余裕ができる気がする。  そうか……。どんな試練が待っていても、焦ってはいけないんだな。 焦ったら、冷静な判断が出来なくなってしまう可能性があるから。 なにがあっても、焦らずに落ち着いて考えればいいんだ。  冷静な判断が出来なくなって後悔だけは、したくない。「どうだ? 少しは落ち着いたか……?」「……はい」 課長は本当に優しいな……。優しすぎるくらいだ。  私がどちらにするのか決められなくて迷ってるのに、課長は私にアドバイスまでしてくれて……。  それに、私の決めたことに応援してくれるとまで言ってくれた。 私は本当に課長にいつも感謝しかない。 むしろ感謝しても、しきれないくらいだ。 その優しさを実感する度に私は、本当に課長を好きになってよかったといつも思う。  もし課長がいなければ、きっと焦っていたかもしれない。「瑞紀」「はい……?」  「アメリカに、行くんだ」「え……?」 課長が真剣な眼差しで私を見つめる。「瑞紀、アメリカに行け」「……課長?」「大丈夫だ。俺のことは気にしなくてもいいんだ。……お前はアメリカに行くべきだ」 課長が私の背中を押してくれるから、私もつい課長の目を見つめる。「課長……でも私がアメリカに行ったら、離れ離れになりますよ?」「確かにそうだな。 でもそれがなんだ。離れ離れになったからって、俺たちの気持ちは変わらないだろ
last updateLast Updated : 2025-07-31
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chapter75

「瑞紀、今一番大事なのは今だ」「今……?」 課長が真剣な目で「未来のことなんて誰にも予想できないだろ?一年後のことや、五年後のこと、ましてや十年後のことなんて誰にもわからないだろ?」と言ってくれるから、私は勇気が出た気がした。「……はい。そうですね」 私も課長との未来を夢見るより、課長との今を大切にしていきたいなと思った。  何年後かの未来を想像するより、今を楽しくわがままに生きていく方がよっぽど楽しい気がする。  充実している今を大切な人と、大切にしていきたいなと思えた。「未来のことなんて、わからなくて当然なんだ。未来のことを想像したって結局、思いどおりになんてならない。 未来なんて所詮は、そんなもんなんだよ」「なるほど。 だから"今"が大切なんですね」「そういうことだ。 何年後か先の未来を見るより、今を生きるほうが何倍もいいだろ?」 私は課長の手を握ると、「ですね」と笑った。「瑞紀、向こうでしたいと思うことはなんでもすればいい。挑戦してみろ」「……はい。わかりました」「俺は瑞紀がアメリカに行っても、瑞紀が帰ってくるまでずっと待ってる。……何年でも待つから、安心してくれ」「……課長、ありがとうございます」 立ち上がった私は、「課長、私……アメリカに行きます」と課長に宣言した。 せっかく課長が背中を押してくれたんだ。 自分のやりたいことをやろう。  それが、私にとってきっとプラスなことになるはずだから。「ああ、頑張れ瑞紀」 「はい」 だから、私はもう迷ったりしない。迷うのを今の瞬間でやめにする。……だからアメリカに行くことに決めた。* * * 私は呼吸を整えてから、常務のいる部屋のドアをノックした。「どうぞ」 私は「失礼します」と中に入る。「ああ、君か。待っていたよ」 常務は私が来ることをわかっていたかのような顔をしていた。「……常務、お返事に来ました。 遅くなってすみません」「いや、構わないよ。こちらこそ、急かしてるみたいで申し訳ないね」「……いえ」 常務は立っている私に「まあ、そんなとこに立ってないでこっちに座りなさい」と席に座るように促す。「はい。 失礼します」 私は常務の目の前に座る。「……ところで佐倉くん」「はい」 常務がおもむろに口を開く。「決心は、ついたかい?」「……はい」 
last updateLast Updated : 2025-08-01
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chapter76

「そうか、よかったじゃないか。 もうすぐその夢が叶うんだな」「はい。本当にありがとうございました。……私にこんなチャンスをいただけたこと、本当に感謝しています」「……君には期待しているよ。向こうで精一杯、頑張りなさい」 常務は私に対して、優しくしくニコリと微笑みを見せる。「はい。 私、向こうでもっと自分を成長させられるように、一生懸命頑張ります」「それじゃあ手続きはこちらでしておくから、君はもう仕事に戻りなさい」「……はい。失礼しました」 私が立ち上がった時、「佐倉くん」と常務が私の名前を呼ぶ。「……はい?」「本当に、アメリカへ行くんだね?」 最後にそう聞かれたので、「はい。行きます」と答えると、常務は「わかった。 決心してくれて、ありがとう」と答えた。「では、失礼します」 私はそのまま、常務室を出た。「ふう……」 本当に、決心してしまった。 私は、アメリカへ行くことになった。  ーーーでもきっと、後悔はない。 「あ、先輩。常務の話、なんだったですか?」 戻ると、私の姿を見た英二が私に話しかけてくる。「……アメリカ行きの話よ」「え?アメリカ……?」 英二の表情が曇りだすのがわかった。「うん。 実は少し前から、アメリカ行きの話が私にあったのよ」「そうなん……ですか?」    英二が私の顔を見て、悲しそうな顔をする。「……うん。でもずっと迷ってて、決められなかったんだけどね」「そうなんですか。……いつの間に、そんな話があったんですね」「うん……もう少し早く、英二にも話すべきだったね、ごめんね」 英二は「……いえ」と返事をする。「英二、私がアメリカに行っても、私のこと慕ってね」    私がそう言うと、英二は「もちろんです。先輩は、俺の憧れなんですから」と笑ってくれる。「ありがとうね」「ところで、アメリカ……行くんですか?」「……うん、行くよ。だってこのチャンスを逃したら、きっともう二度とチャンスが回ってくることはないからね。……だから、アメリカ行くよ」 英二は悲しそうな顔をするけど、「そうなんですね。 頑張ってください」と微笑んでくれる。「うん、ありがとう」「あの……どのくらい、行くんですか?」「大体二年くらい、かな」 きっと二年なんてあっという間に来るだろうけど、最初は慣れるまで長く感じるだ
last updateLast Updated : 2025-08-04
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chapter77

* * * それから、二ヶ月後ーーー。「……ふう」 私は大きめのキャリーバッグを持ち、予定どおりの時間に空港にいた。今日からいよいよ、アメリカでの暮らしが始まろうとしている。  今日で一旦は、課長や英二、沙織ともお別れになる。 なんだか楽しみだけど、やっぱり寂しい気持ちになる。 今日でみんなともお別れなのか……。しばらく、会えないもんね。  次に会えるのは、いつかな。 二年後とかになるのかな? そんなことを考えていると、近くで「瑞紀!」と声が聞こえた。「えっ?……沙織!? 来てくれたの!?」 沙織も見送りに来てくれた。「うん、見送りにきた」「なんで? 大丈夫だって言ったのに!」「そういう訳にはいかないわよ!大事な親友がアメリカに行くってのに、見送りに行かない訳にもにいかないわ! 今日でしばらく、瑞紀とはお別れなんだから」 あれから沙織の悪阻は治まったようで、少しずつだけどお腹が大きくなっていた。   「沙織、わざわざありがとう」 心配症な沙織は私に「瑞紀、忘れ物はない? ちゃんと確認した?」と確認してくるから、私は「うん、大丈夫。ちゃんと確認したから」と答えた。「そう。……今日でしばらく、アンタとも会えなくなるのね」「……うん、そうだね」     沙織が悲しそうな顔をするから、私まで悲しくなりそうになる。「アンタがいなくなると、寂しいわね。いつもそばには、なんだかんだアンタがいたから」「そうだね。……私もすごく、寂しいよ」 でも、決めたのは私だから、精一杯頑張ってくる。「パスポート、ちゃんと持った?」 私は「うん、バッチリだよ」とパスポートを見せる。「じゃあ、もう大丈夫ね」「……うん」 なんだか急に泣きそうになってしまう。 どうしよう、今日は泣かないようにって決めてたのにな。「なによ、そんな顔するんじゃないわよ。……余計に寂しくなるじゃない」「うん……ごめん」 なんか急に寂しくなる。ずっと一緒に頑張ってきたから、尚更寂しい。  二度と会えなくなる訳じゃないのに、寂しくなってしまう。 そんな時、「あ、いた! 先輩!」と英二が手を降って駆け寄ってくれた。「英二、来てくれたの?」「はい。しばらく会えなくなるんですから、当たり前じゃないですか!」「ありがとう。英二にもしばらく会えないなんて、寂しいな」
last updateLast Updated : 2025-08-04
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chapter78

* * *  あれから時は過ぎて、アメリカに旅立ってからもうすぐ一年が過ぎようとしていた。  一年ほどアメリカで生活していたせいか、こっちでの生活にももう慣れていた。  最初はぎこちなくてオドオドしてたけど、今では仕事にも慣れて普通にに何一つ不自由のない生活を送らせてもらっている。    英語での会話も今はだいぶ出来るようになってきたし、こっちにも心なしか馴染めているような気がしている。  ただひとつ残念なのは、課長が私の隣にいないことだ。 課長と会えなくて寂しいせいか、たまに課長に無性に会いたくなって仕方ない。  でもあと一年我慢すれば、向こうに帰れるし課長にもまた会えるようになる。    沙織にもまた会えるし、沙織の赤ちゃんにも会える。 沙織の子供に会えるのはとても楽しみだ。  子供に会う頃には、子供は二歳になってる頃かな。 早く会いたいな、みんなに。  英二も頑張ってるみたいで、後輩が出来たららしいし。 するとその時、スマホが鳴った。「はい。もしもし」「もしもし、瑞紀か?」「はい」 最近課長とは、時間に余裕があればお互い電話をしている。 メールはたまにしかしないけど、テレビ電話もよくしている。  課長は忙しい人だから、電話じゃなきゃまともに話せないけど、時間がある時は少しでも声が聞きたいから、電話をしている。 疲れていても課長の声を聞くだけで、疲れなんて一気に吹っ飛んでしまう気がする。 だって、課長と話せるのが何よりも嬉しい。  電話もたまにしか出来ないけど。でもその"たまに"が貴重な時間なんだ。「どうだ?こっちでの生活は? 快適か?」「はい。結構快適です」「そうか。疲れてないか?」 課長も疲れているようかもなのに、そんな気すら感じさせない安心する声なのだ。「大丈夫です。課長の声を聞いただけで、疲れなんて吹っ飛んでますから」「それは嬉しいな。 向こうでの仕事はどうだ?順調か?」「はい。まあまあですかね」 課長は私を心配してくれているのか、「そうか。大変じゃないか?」と聞いてくれる。「そんなことないです。むしろ、結構楽しいと思えます」「そうか。なら良かったな」「やっぱり、色々と大変ではありますけどね」 課長は「でも、毎日頑張ってるんだな」と言ってくれる。「はい。私とっては、結構やり甲斐のある仕事です
last updateLast Updated : 2025-08-05
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chapter79

 え……会社を?「藤堂さんが、お父さんの会社を?」「ああ。……実は静香の親父さん、三ヶ月前に亡くなったんだ」「え? 亡くなったん、ですか……?」「ああ」 亡くなったんだ、藤堂さんのお父さん……。「それでかもしれないな。アイツ、急に親父さんの会社を継ぐって決めたらしいんだ」「そうなんですか……?」「まあアイツにとってはそれが、親父さんに対する最後の親孝行だと思ったんだろうな。 会社を継ぐって言った時は、俺も本当にビックリしたよ」「……そうだったんですか」 私が知らない間に、そんなことがあったなんて……。ある意味、知らないほうがよかったかな。 そんな私の不安を感じ取ったのか、課長は電話越しに「安心しろ。静香はもう、あの頃の静香じゃないよ」と言っていた。「え……?」「アイツは昔に比べて随分変わったような気がするよ。 それにアイツ、今付き合ってる人がいるみたいだしな」「えっ、そうなんですか?」 あの藤堂さんに、ついに恋人が……。「あれ以来俺にも言い寄ったりはしなくなったし、何より幸せそうなんだ。……だからきっと、これでよかったんだと思う」「そうですか。 藤堂さんが幸せなら、私も嬉しいです」 私の言葉に課長は「え?嬉しい?」と聞き返してくる。「藤堂さんも同じ女性ですから。……幸せなんだと思うと、私も嬉しくなります」「そうか。やっぱりお前は優しいな」 え? 私、優しい……のかな?「静香のこと、許したんだろ?」「あ……あれは別に、許した訳じゃありません。 ただ、静香さんと話をして和解をしただけの話です」「そうか。でも許したのと同じだろ?」「そうなのでしょうか?」「そうだろ。……じゃあ俺はそろそろ寝るよ。おやすみ」「はい。おやすみなさい」 そして静かに電話が切れた。「後一年……頑張ろう」 課長も頑張ってるし、応援してくれるし。 私は私の出来ることを全うしていく。 必ず成長して日本へ帰るために。 私は、もっと強くなりたいなって思う。* * * アメリカでの研修が残りあと半年となったところに、私にとある知らせが来た。「はい。もしもし、佐倉です」「佐倉くんかい? 私だよ」「え、常務ですか?」 仕事から帰宅した後、電話に出るとその声は常務であった。「お、お疲れ様です。 どうされたんですか?」 まさか常務から電話
last updateLast Updated : 2025-08-07
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chapter80

「荷造り、しなきゃ」 帰国する準備も少しずつ進めていき、アメリカでも生活も終わりを迎えていた。  向こうで送迎会ならぬものを催ししてくれて、そこにいる会社の方たちも「今度は彼氏と遊びに来てね」と笑顔をくれた。 * * *  それからあっという間に月日は流れ、とうとう今日がアメリカから帰国する日になった。  私はキャリーバッグを手に、日本行きの飛行機へと乗り込む。「……やっと」 やっと今日、課長に会える。 課長、どんな風に変わってるのかな……。  相変わらずカッコイイんだろうな。 課長はいつだってカッコイイけど、カッコよさが増してそうだ。 思えばこの一年半、私は課長のことを思わない日はなかった。  どれだけ大変でも、どれだけ忙しくても、毎日課長のことを考えながら、早く会いたいという一心でアメリカでの生活を送っていた。  それでもアメリカに行った頃は、一年半も課長に会えないという現実を受け入れられないことも、時々あった。 課長に会いたくても会えないという現実は、私の心の中にぽっかりと穴を開けた。  それでも全部、わかってるつもりだったんだ。最低でも一年半は課長に会えないってことを。 あの時アメリカに行くと決めたのは、他でもなく私自身だったから。  課長が背中を押してくれたからこそ、私もアメリカに行こうと決心できたんだ。 その時から一年半、会えないということはわかっていた。   わかっていたはずなのに、時々寂しさを覚えては課長に会いたいと何度も願っていた。 課長が会いに来てくれないかな。……なんて夢のようなことも考えたりした。  それでもアメリカに行くと決めたのは、この私だったから、だから私はアメリカで必死に頑張った。  慣れない英語を必死で勉強して、なんとか食らいついた。 でもやっぱり向こうでの仕事は楽しくて、仕事をしている時だけは寂しさを紛らせることができた。  改めて思うと、向こうで仕事が出来て本当によかったと思う。  自分の人生を帰ることが出来たと思うし、何より自分の考え方とかも変わった気がした。 課長に一年半も会えないのは、ずっと寂しくてイヤだったけど……。  でもいよいよ今日、私は課長に会える。 私の大好きな課長に、やっと会えるんだ。  こんなに嬉しいことはないし、ずっと待ち望んでいたから、きっと泣いてしまい
last updateLast Updated : 2025-08-08
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