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chapter75

Author: 水沼早紀
last update Last Updated: 2025-08-01 08:23:25

「瑞紀、今一番大事なのは今だ」

「今……?」

 課長が真剣な目で「未来のことなんて誰にも予想できないだろ?一年後のことや、五年後のこと、ましてや十年後のことなんて誰にもわからないだろ?」と言ってくれるから、私は勇気が出た気がした。

「……はい。そうですね」

 私も課長との未来を夢見るより、課長との今を大切にしていきたいなと思った。

 何年後かの未来を想像するより、今を楽しくわがままに生きていく方がよっぽど楽しい気がする。

 充実している今を大切な人と、大切にしていきたいなと思えた。

「未来のことなんて、わからなくて当然なんだ。未来のことを想像したって結局、思いどおりになんてならない。 未来なんて所詮は、そんなもんなんだよ」

「なるほど。 だから"今"が大切なんですね」

「そういうことだ。 何年後か先の未来を見るより、今を生きるほうが何倍もいいだろ?」

 私は課長の手を握ると、「ですね」と笑った。

「瑞紀、向こうでしたいと思うことはなんでもすればいい。挑戦してみろ」

「……はい。わかりました」

「俺は瑞紀がアメリカに行っても、瑞紀が帰ってくるまでずっと待ってる。……何年でも待つから、安心してくれ」

「……課長、ありがとうございます」

 立ち上がった私は、「課長、私……アメリカに行きます」と課長に宣言した。

 せっかく課長が背中を押してくれたんだ。 自分のやりたいことをやろう。

 それが、私にとってきっとプラスなことになるはずだから。

「ああ、頑張れ瑞紀」

「はい」

 だから、私はもう迷ったりしない。迷うのを今の瞬間でやめにする。……だからアメリカに行くことに決めた。

* * *

 私は呼吸を整えてから、常務のいる部屋のドアをノックした。

「どうぞ」

 私は「失礼します」と中に入る。

「ああ、君か。待っていたよ」

 常務は私が来ることをわかっていたかのような顔をしていた。

「……常務、お返事に来ました。 遅くなってすみません」

「いや、構わないよ。こちらこそ、急かしてるみたいで申し訳ないね」

「……いえ」

 常務は立っている私に「まあ、そんなとこに立ってないでこっちに座りなさい」と席に座るように促す。

「はい。 失礼します」

 私は常務の目の前に座る。

「……ところで佐倉くん」

「はい」

 常務がおもむろに口を開く。

「決心は、ついたかい?」

「……はい」

 
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    「瑞紀、今一番大事なのは今だ」「今……?」 課長が真剣な目で「未来のことなんて誰にも予想できないだろ?一年後のことや、五年後のこと、ましてや十年後のことなんて誰にもわからないだろ?」と言ってくれるから、私は勇気が出た気がした。「……はい。そうですね」 私も課長との未来を夢見るより、課長との今を大切にしていきたいなと思った。  何年後かの未来を想像するより、今を楽しくわがままに生きていく方がよっぽど楽しい気がする。  充実している今を大切な人と、大切にしていきたいなと思えた。「未来のことなんて、わからなくて当然なんだ。未来のことを想像したって結局、思いどおりになんてならない。 未来なんて所詮は、そんなもんなんだよ」「なるほど。 だから"今"が大切なんですね」「そういうことだ。 何年後か先の未来を見るより、今を生きるほうが何倍もいいだろ?」 私は課長の手を握ると、「ですね」と笑った。「瑞紀、向こうでしたいと思うことはなんでもすればいい。挑戦してみろ」「……はい。わかりました」「俺は瑞紀がアメリカに行っても、瑞紀が帰ってくるまでずっと待ってる。……何年でも待つから、安心してくれ」「……課長、ありがとうございます」 立ち上がった私は、「課長、私……アメリカに行きます」と課長に宣言した。 せっかく課長が背中を押してくれたんだ。 自分のやりたいことをやろう。  それが、私にとってきっとプラスなことになるはずだから。「ああ、頑張れ瑞紀」 「はい」 だから、私はもう迷ったりしない。迷うのを今の瞬間でやめにする。……だからアメリカに行くことに決めた。* * * 私は呼吸を整えてから、常務のいる部屋のドアをノックした。「どうぞ」 私は「失礼します」と中に入る。「ああ、君か。待っていたよ」 常務は私が来ることをわかっていたかのような顔をしていた。「……常務、お返事に来ました。 遅くなってすみません」「いや、構わないよ。こちらこそ、急かしてるみたいで申し訳ないね」「……いえ」 常務は立っている私に「まあ、そんなとこに立ってないでこっちに座りなさい」と席に座るように促す。「はい。 失礼します」 私は常務の目の前に座る。「……ところで佐倉くん」「はい」 常務がおもむろに口を開く。「決心は、ついたかい?」「……はい」 

  • あなたと紡ぐ永遠の愛は奇跡でした。   chapter74

     確かに、課長の言うことが正しい。決めるのは私だ。  課長はあくまでも、背中を押してくれる側の人間だ。「いいか瑞紀。自分が今どうしたいのか、よく考えるんだ。……自分の人生は、自分で決めなきゃ意味がない」「……でも、私は自分がどうしたいのか、わかりません」 課長はそんな私の手をぎゅっと握りしめる。そして「わからないなら、じっくりと考えればいい。そんなに焦って考えることはないんだ」と言葉をくれる。「……でも私には、もう時間がないです。 後一週間しか、時間がないんです」 すると課長は、私に「一週間しかないんじゃなくて、"一週間も"時間があるんだ」と言ってくれた。「……え?」「一週間しか時間がないって考えてたら、余計に焦るだけだ。だから後一週間も時間があるって考えればいいんだ。……そしたら少しは、自分に余裕が出てくるはずだ」 一週間も……ある? 確かにそう考えると、自分に少しだけ余裕ができる気がする。  そうか……。どんな試練が待っていても、焦ってはいけないんだな。 焦ったら、冷静な判断が出来なくなってしまう可能性があるから。 なにがあっても、焦らずに落ち着いて考えればいいんだ。  冷静な判断が出来なくなって後悔だけは、したくない。「どうだ? 少しは落ち着いたか……?」「……はい」 課長は本当に優しいな……。優しすぎるくらいだ。  私がどちらにするのか決められなくて迷ってるのに、課長は私にアドバイスまでしてくれて……。  それに、私の決めたことに応援してくれるとまで言ってくれた。 私は本当に課長にいつも感謝しかない。 むしろ感謝しても、しきれないくらいだ。 その優しさを実感する度に私は、本当に課長を好きになってよかったといつも思う。  もし課長がいなければ、きっと焦っていたかもしれない。「瑞紀」「はい……?」  「アメリカに、行くんだ」「え……?」 課長が真剣な眼差しで私を見つめる。「瑞紀、アメリカに行け」「……課長?」「大丈夫だ。俺のことは気にしなくてもいいんだ。……お前はアメリカに行くべきだ」 課長が私の背中を押してくれるから、私もつい課長の目を見つめる。「課長……でも私がアメリカに行ったら、離れ離れになりますよ?」「確かにそうだな。 でもそれがなんだ。離れ離れになったからって、俺たちの気持ちは変わらないだろ

  • あなたと紡ぐ永遠の愛は奇跡でした。   chapter73

    「はい。課長が聞いた通りです。 ……アメリカ研修に行かないかと、言われています」 課長は私に「それはいつだ? 誰からだ?」と聞いてくる。「この前、常務からです。……めったにないチャンスだからと、釘を刺されました」 私がそう伝えると、課長は寂しそうな顔をして「……瑞紀、お前は行くのか?」と私を見つめる。「……まだ、わかりません。迷っています」「わからないって……」 課長は明らかに戸惑っているようだった。「正直言って、すごく迷っています。 アメリカ研修は、入社した時からの私の夢だったんです」「……なぜ、黙っていたんだ」 課長……もしかして、怒ってる……?「すみません。何度か言おうと思ってたんですけど、なかなかタイミングが掴めなくて。……結局言いそびれてしまいました。申し訳ありません」「そんな大事なこと、なんでもっと早く言わなかったんだよ。 前に言ったよな?俺に隠しごとはするなと」 課長に知られてしまった今、どうしたらいいのかわからない。「あの時、何か言いたげな顔をしていたのは……もしかして、このことだったのか?」 私は課長からそう問いかけられて、静かに頷いた。「瑞紀、ちょっと場所を変えようか」「……はい」 私たちは二人で話せる場所へと移動することにした。 「瑞紀、ほら」 課長からコーヒーの缶を渡される。「ありがとうございます」 私はそれを受け取ると、俯いた。「瑞紀、さっきは取り乱してすまなかった」「いえ! 私こそ……すみませんでした」 課長が怒るのも当然だ。私は課長に何も言えなかったのだから、怒られて当然なのだ。 本当なら、すでに話さなければならなかったからだ。 ずっと黙ってる訳にもいかないとわかっていたのに、臆病だったせいでこうなったのは……紛れもなく自分のせいだ。  課長に知られてしまったのだから、この際だから全てを話そう。 わかってもらえなくてもいいから、最後まで自分の口から話したい。「……お前は、アメリカ行きたいか?」「え……?」「アメリカ研修に、行きたいのか?」 真剣な目で課長に見つめられる。「……できることなら、もちろん行きたいです。 ずっと夢に見てたくらいですし、めったにないチャンスですし。行きたい気持ちはあります」 この気持ちは、多分昔も今も変わってない。「……そうか」「すみません

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    「今、ちょっとだけいいかい?」「……はい」 その話の内容なんて、とっくにわかってる。  確かにそろそろ決断しないとなはないっていうのは、自分でもわかっている。  でもそんなにすぐに出せる答えなんかじゃないし、迷うのも当たり前だ。「時間は取らせないよ。すぐに終わるから」「……わかりました」 複雑な気持ちを抱えながら、常務の後を着いていく。「で、どうかな?答えは出たかい?」 誰もいない会議室に入った常務が、すぐに私に問い掛けてくる。「……いえ、まだちょっと……」「そうかい。 研修の締め切りは、一週間後だ」「一週間後……ですか?」 後一週間……? 後一週間しかないの……? ダメ、短い。……短すぎるよ。「なるべく早く答えを出しなさい。……色々手続きがあるからね」「……はい。わかりました」 どうしよう……。後一週間しかない。  あと一週間で、アメリカに行くかどうか決めなきゃいけない。「話はそれだけだから、もう戻りなさい。 時間を取らせて済まなかったね」「……いえ。とんでもありません」 常務は私に、「最後に一つだけいいかい」と口にする。「……はい」「このアメリカ研修はめったにないチャンスだってこと、よく肝に命じておきなさい。 わかったかい?」「はい」 わかってる。言われなくても、わかってる……。  でも……でもそんなの簡単に決められない。「わかってるならいいんだけどね」 タイムリミットは……後一週間だ。 この一週間のうちに課長にこの事実を話さないと、私は絶対に後悔することになる。  でも……課長と離れたくない。「……あの、常務」「なんだね?」「この研修は、私のためになりますか……?」 そう問いかけると、常務は「もちろん、なるよ。なんだい?君はずっとアメリカ行きたがっていたじゃないか」と私に言う。「……はい。そうなんですが」「実は言うと、私は君ならすんなりOKすると思っていたんだがね」「え……?」「もしかして君が迷ってるのは……誰か大切な人でも出来たから、なのかな?」 私はそう言われて「それは……そのっ。そういう訳では、ないのですが……」と言葉にするが、「別に隠さなくてもいいよ」と言われてしまった。「……すみません」「なに、謝ることじゃないよ。……まあ、その大切な人とも、話し合って決めなさい」 常

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    「良かった。これから車で迎えに行くよ」「ありがとうございます」「位置情報送ってくれるか?」「わかりました」 電話を切り、位置情報を課長のスマホに送った。  するとすぐに【十分で行けると思うから、近くで待ってて】とメッセージが届いた。  【わかりました】と送信して、近くで待つことにした。「言わないと……だよね」     今日タイミングを見て切り出そうかな。なるべく早く決断しないといけないから、早く言わないとだもんね。  それから十分後、課長が運転している車がパーキングに到着したと連絡があった。「課長、お疲れ様です」「待たせて悪いな」「いえ、迎えに来てくれてありがとうございます」「隣乗って」  課長の車に乗り込むと、課長はパーキングでお金を払い車を出庫させた。  課長の横顔はとてもキレイで、とても美しい。何より品がある。    私はこんなに課長が好きなのに、離れるなんて考えられない。  このまま離れることになったら、きっと後悔すると思う。 とてもつなく、後悔する気がする。「瑞紀?どうした?」「……え?」「なんか暗い顔してるな」 課長に視線を向けられたので、「なんでもないです」と答えた。「そうか?」「はい。大丈夫です」 チラッと課長の整った横顔を見る。やっぱり車を運転する課長の姿はカッコイイな。  その姿のあまりのカッコよさに、つい見とれてしまう。「ん?どうした?」「あ、いえ。運転する姿がやっぱりカッコイイなぁ、なんて思って。……すいません」 課長の美しい運転姿はとても安心する。「何カワイイこと言ってんだよ」「えっ」 信号が赤になり車が止まった瞬間、「瑞紀」と名前を呼ばれ、ふいに課長の唇が重なる。「もう、課長……」 これはずるい不意打ちキスだ。「不意打ちキスなんて危ないですよ!事故に遭ったらどうするんですか?」「それはカワイイことを言う瑞紀が悪いな」「え、なんで私っ!?」「瑞紀がかわいいことを言うからだろ?」「かわいいなんて、やめてください」 私はかわいくなんてないし、課長とも釣り合ってない。「なんだ。照れてるのか?」「照れてはいません」 と言ったが、顔が熱い気がしているような、ないような?「瑞紀、顔赤いぞ?」「えっ!ウソッ」「ウソだよ。赤くなんてなってない」 そんな課長に、

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