私は、西園寺玉(さんおんじ たま)の婚約者として五年を共に過ごした。それでも、私のための結婚式は訪れなかった。やがて彼は、私の異母妹に一目惚れし、堂々と彼女へのアプローチを始めた。でも今の私は、泣くこともなく、文句も言わず、昔のように彼の気が変わるのをじっと待つこともしなかった。……「裕之……前に言ってくれたプロポーズ、まだ有効?」鏡の前に立ち、自分のやつれた顔を見つめながら、私は静かに口を開いた。思っていたほど、人生の大きな決断は難しくなかった。「明空(みよく)……本当に、結婚してくれるのか?」電話の向こうから聞こえた北条裕之(ほうじょう ひろゆき)の声は、落ち着いていて低く、それでいてかすかに喜びがにじんでいた。胸の奥がふと苦しくなり、私はそっとうなずいた。「うん、結婚しよう。できるだけ早くね」「明空……すごくうれしいよ。大学の頃から、ずっとこの日を夢見てた」いつの間にか、鏡の中の私は、かすかな笑みを浮かべていた。「裕之、半月だけ待って。こっちのこと全部片づけたら、すぐにそっちへ行くから」「わかった。待ってるよ」電話を切ったちょうどその時、部屋のドアが勢いよく開かれた。「明空……」父・金泉学(かないずみ まなぶ)は気まずそうに咳払いを一つした。「桜宮ちゃんの体調があまりよくないんだ。お前の部屋は日当たりもいいし……部屋を代わってやれないか?」私は黙ったまま、父の背後に立つ継母・金泉律子(かないずみ りつこ)とその娘・姫内桜宮(ひめうち さくらみや)を見つめた。すぐに継母が口を開いた。「あなた、こんなことで明空に迷惑かけないで……」桜宮も遠慮がちに続けた。「ううん、パパ、私は平気だよ。お姉ちゃんが嫌な思いするなんて、見たくないから……」「遠慮するな。桜宮ちゃんも俺の娘だ」そう言いながら、父は私にまっすぐ視線を向けた。「明空、姉なんだから、少しは譲ってやれ」私は、黙ってそのまま父を見つめていた。きっと怒りが込み上げてくると思っていた。父が、血の繋がらない桜宮を私より大切にするなんて。けれど、不思議と何の感情も湧いてこなかった。それどころか、私は微笑みながら頷いた。「いいよ。譲ってあげる」あと半月で、この家から出ていく。もう、どの
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