私は、西園寺玉(さんおんじ たま)の婚約者として五年を共に過ごした。 それでも、私のための結婚式は訪れなかった。 やがて彼は、私の異母妹に一目惚れし、堂々と彼女へのアプローチを始めた。 でも今回私は、泣くこともなく、文句も言わず、昔のように彼の気が変わるのをじっと待つこともしなかった。 私はただ、指にはめていた指輪を外して投げ捨て、ウェンディングドレスを細かく切り裂いた。 そして玉の誕生日、一人でこの悲しみに満ちたところをあとにした。 みんなの望み通りに、彼を手放した。 なのに、どうしてまだ私を追いかけてくるの……
더 보기一郎は涙を浮かべた。「玉さんが間違ったことをしたのは、みんな分かってた。だけど、まさかこんな結末になるなんて……誰も思ってなかった」警察はすでに路上の監視カメラの映像から、玉が桜宮を殺し、一緒に川へ飛び込んだと確認していた。だが、加害者もすでに亡くなっているため、事件はそれ以上追及されることなく、わずか一日で終結となった。「私も、そこまでは想像していなかった。……ありがとう」一郎はスマホをしまいながら言った。「明空さん、もしよかったら、毎年でいいから、玉さんのお墓参りをしてあげてくれないかな。それが彼の、最後の願いだった気がするんだ」私は静かに首を振った。「今回、彼を送るために来ただけ。これからは、もう一切関わるつもりはないの。お墓参りをしてあげないし、彼のことも思い出さない」私は立ち上がった。「私もそろそろ帰る」裕之の手を握って、最後に玉の遺影に視線を向けた。これで、すべてに別れを告げた。これからは、生と死、二つの世界。二度と交わることはない。会場を出ると、父の姿があった。彼は煙草を吸っていたが、私に気づくと急いで火を消した。「明空、久しぶり。怒らないでくれ。警察からあいつの葬儀を頼まれてな、俺がやらないと面倒なことになると思ったんだ」「分かってる。怒ってないわ。たしかに姫内にも非はあったけど、死ぬほどのことじゃなかった。最後くらい、きちんと見送ってあげたかった」父は大きく息を吐いて安堵の表情を見せ、両手をもじもじと擦りながら、おずおずと言った。「せっかく帰ってきたんだ。家でご飯でもどうだ?」私は断ろうとしたが、裕之が代わりに答えた。「お言葉に甘えます」私は思わず彼を見つめた。「裕之、どういうこと?」「明空がもうお父さんに失望してるのは分かってる。でも、君の中には、娘としての気持ちがまだ残ってる。君は本当は応じたかった。でも言い出せなかった。それなら、僕が後押ししてやりたいんだ」その通りだった。応じたい気持ちはあった。けれど、拒みたい気持ちも同じくらいあった。あのときの苦しみは本物だったし、でも親を大事にしたい気持ちも嘘ではなかった。裕之の言葉が、私の背中をそっと押した。ただの食事、それだけなら問題ない。私は娘としての務めを果たすだけ
一ヶ月後。私は一つの知らせを受け取った。玉と桜宮が亡くなったという。遺体は下流の岸辺で発見された。すでに腐敗が進み、原形をとどめていなかった。最終的には、所持品と服装から身元が判明したのだった。まさか、こんな結末を迎えるとは思っていなかった。どうして、二人は死んだのか。その知らせを聞いてから、数日間私は何も喉を通らなかった。悲しいわけではない。ただ、変わってしまった現実に、胸が苦しくなった。かつて愛し合い、憎み合ったあの二人が、こんな形で命を絶った。若く、確かに生きていた命が、あっけなく終わってしまったのだ。裕之は私の心を察して言った。「……なあ、戻って見送ってあげようか。とにかく、最後くらい顔を見に行こう。な?」今となっては、玉はもういない。裕之を取り合う必要も、争う理由もなかった。私は、頷いた。翌日、私たちは葬儀会場を訪れた。二人が同じ日に亡くなったため、葬儀も合同で行われることになっていた。玉の両親は、ひどく悲しみに暮れていた。そして、桜宮の遺影に向かって怒りをぶつけた。「この女……玉を殺したんだ……なんて恥知らず!」「地獄に堕ちろ!来世は飢えた亡者にでもなって、二度とまともな人生を送れないように祈ってやる……」父は桜宮の葬儀費用を負担したものの、姿は見せなかった。葬儀会場には、彼女を見送る人の姿は一人もなかった。唯一の肉親である継母は今も刑務所にいる。出所までには、まだ何年もかかるだろう。私は、桜宮の遺影の前に立った。彼女は、まるで陽だまりのように笑っていた。もしあの時、間違わなければ……今とは全く違う人生があったはずだ。たとえ私が彼女と継母を完全に受け入れられなかったとしても、少なくとも、こんなことにはならなかった。新しい父親を持ち、裕福な家庭で過ごすこともできたのに。一度過ちを犯せば、次々と崩れていく。奈落へ足を踏み入れた者には、もう戻る道は残されていなかった。玉の母は私の手を握り、泣きながら懇願した。「明空……玉が悪かった。けど……けど、もういないのよ……お願いだから、せめて告別してあげて。これが、あの子の最後の願いなの。……知らないでしょ?あの子、毎晩お酒に溺れて、眠るたびにあなたの名前を呼んでた
玉は街を歩いていた。晩秋の冷たい空気が辺りを包み、その空はどんよりと暗く沈んでいた。どれだけ歩いたのか分からなかったが、やがて川辺で立ち止まった。まるで生気を失った人形のようで、生きる気力を完全に失っていた。しかし、今はまだ死ぬわけにはいかなかった。復讐を果たし、すべての元凶を壊さなければならなかった。スマホを取り出して、桜宮の番号を呼び出した。「桜宮ちゃん、考えがまとまった。やっぱりお前のことが好きだ。会いに来てくれ」一時間後、桜宮が現れた。かつてのような人形のような綺麗さは消え、今はどこか安っぽい雰囲気を漂わせていた。服は露店で買ったような安物に替わり、手入れのされていない髪は乾燥して黄ばんでいた。かつての輝きを失った顔は、まるで十歳ほど老けて見えた。「玉くん、本当に気持ちが変わったの?」彼女はすぐに飛びついた。今の玉は名声を失い、悪者の代名詞だった。だがまだ財産もお金もあった。ネットの話題も時間が経てば忘れられる。彼女は玉と一緒に幸せな暮らしを手に入れ、裕福な奥様になれると思っていた。玉は彼女の腰に腕を回した。「そうだ。やっと気づいたんだ。俺は愚かだった。お前に騙されて明空も失った。今度はお前に償ってもらう」桜宮は危険を感じ、必死に逃げようとした。しかし、玉は彼女を押し倒した。「お前がいなきゃ、こんなことにはならなかった。本来なら俺は明空と結婚して家庭を築く。もしかしたら子どももいて、普通だけど幸せな生活を送るはずだった。お前がそれを壊したんだ」桜宮もただの悪女ではなかった。「いい子」はすべて仮面だった。彼女は吐き捨てるように言った。「ふん、玉、まさか全部私のせいだなんて思ってないよね?忘れたの?最初に飽きたのはあんただ。あんたが先に近づいてきたんだ。あんたが追いかけなければ、私たちは付き合わないし、明空もあの人と結婚しないでしょ?結局は全部あんたのせいでしょう。言っておくけど、玉。あんたが私に近づかなきゃ、私は明空を陥れたりしなかった。あんたにチャンスを見せたから、奪おうとしたんだ」「分かってる」玉は大人だから理解していた。「でも明空を陥れて傷つけたのはお前のせいだ。お前もお前の母親も死ねばいい。母親は今刑務所にいるから手が出せ
父は怒りに震え、嘲笑った。「お前ら、本当に気持ち悪いな。そうか、遠慮はしない。警察に通報しろ。あいつらが盗みを働いたと」継母は泣きながら懇願したが、桜宮も横で加勢した。しかし目の前の二人の男は情けをかけなかった。やがて警察が到着し、継母と桜宮を連れて去っていった。父は玉を見つめ、ゆっくり目を閉じた。「俺たちが間違っていた。明空は何も悪くない。父親として、俺は失格だった。すべて俺のせいだ……」涙を流しながら呟いた。だがもう、彼の涙を優しく拭う娘はいなかった。血糖値のことも、手作りの無糖ケーキを作ってくれたことも、誰も覚えてはいない。振り返ると、父は自分がどれだけ酷い間違いを犯したかに気づいた。なぜあんな二人を信じてしまったのか。長い間一緒にいても、彼女たちは何も本当の行動をしていなかった。ただ口先だけだった。桜宮は血糖値を気遣うと言いながら、実際は無糖のケーキや料理はすべて家政婦が作っていた。彼女は手伝いもしなければ、ましてや自分で何かしたこともなかった。父は地面にうずくまり、声を上げて泣いた。玉は魂が抜けたようにバーへ向かった。そこで、彼は酒に溺れた。今回は泣きながら酒を飲んでいた。若くてかっこいい彼に女性が近づこうとしたが、みんな追い払った。誰も明空には敵わなかった。どうしてあんなにいい明空を失ってしまったのか……一方、私は裕之とホテルに戻った。自分の気持ちは言葉にできなかったが、まるで重荷が下りたように、過去をようやく手放せた気がした。裕之は私の手を握った。「せっかく戻ってきたんだから、少し外に出てゆっくりしよう」家のことはあまり気にしなかった。だが、ある日ネットで知って驚いた。あの日、桜宮と継母が警察に連行された後、継母がすべてを被ったらしい。桜宮は一晩で釈放され、戻ろうとしたが、父は閉じこもって会わなかった。彼女のカードは父が与えたものだから、既に停止されていた。行き場を失った彼女は玉に助けを求めたが、逆に殴られた。この出来事が誰かによって撮影され、ネットに投稿されるや否や、大きな話題を呼んだ。みんなが桜宮を哀れみ、継父に追い出されたことや無責任な恋人に裏切られたことを嘆いた。桜宮はそのチャンスを活かし、ネットで自分の不幸を
父は継母を振り払い、桜宮の方を見た。桜宮は唇をかみしめ、以前のやり方で言い訳しようとした。「パパ……」「そう呼ぶな。お前はまだ若いのに、そんなにひどいことができるのか。律子と一緒になって俺を騙し、明空を陥れたんだ。お前らがこの家に来てから、明空はお前らに熱心じゃないが、不満を表したことはなかっただろう?俺が明空に買ってやったものは、いつもお前の分もあった。明空は一度も文句を言わなかった」父の言葉は次第に悲しみに満ち、最後には涙をこらえきれずに声を震わせた。「お前ら、出て行け、今すぐに出て行け。離婚する。俺は一人で生きる。お前らみたいな蛇蝎の心を持つ奴らと同じくらせない。気持ち悪い」父の決意が固いのを見て、桜宮は仕方なく玉の方を見た。彼女はこの家を離したくなかった。母と一緒に過ごしていた頃は、ごく普通の生活だった。毎月の生活費は数万円で、ちょっといいものを食べるにも、細かく計算しなければならなかった。ましてや高価な服やブランド品など、夢のまた夢だった。しかしここに来てからは、一変してお嬢様のような暮らしを送り、外に出れば誰もが羨む存在になった。贅沢に慣れるのは簡単だが、贅沢から質素に戻るのは難しい。彼女は以前の生活には戻したくなかった。絶対に戻したくなかった。「玉くん、助けて。私たちはただの一時の心の迷いで、姉ちゃんを傷つけるつもりなんてなかったの」玉はその場に立ち尽くした。今、自分が何をしてしまったのかやっと理解したのだ。なるほど……明空があんなに苦しんでいた理由も、彼女が毅然と家を出た理由も。彼女はひどく傷ついていたのに、彼らは何もしなかった。さらにその傷を深くえぐっていた。すべては自分のせいだった。最も愛していた人を失ったのは、自分が悪い。玉は自分の頬を強く叩き、気を失いそうな顔で外に向かった。彼は蛇蝎のような桜宮のために、最も愛してくれた人を失った。本当にこの世で最も愚かな男だった。愚かで、悲しい男だった。父は心を鬼にし、警備員を呼んで桜宮と継母を追い出した。継母は仕方なく言った。「私たちは出て行くわ。でも荷物を片付ける時間をちょうだい。何も持たずに出て行くわけにはいかないでしょう?そんなことをするなら、離婚裁判を起こす。財産を奪うわよ」
今回は、私はただ大事な用事を片付けに帰ってきただけだった。「出て行った。すぐに電話して戻らせる」一時間後。桜宮と継母が戻ってきた。しかも玉も一緒だった。しかし、二人は以前のような甘い雰囲気はなく、互いに無視している様子だった。玉はじっと私を見つめていた。桜宮は鋭い目つきだったが、すぐにまた「いい子」の仮面をかぶった。「お姉ちゃん、やっと帰ってきたね。パパもすごく会いたがってたし、私も会いたかったよ。これまで誤解があっても、私たちは家族だよ。離れないでほしい。私も玉くんと別れたから、お姉ちゃんもみんなと揉めるのはやめて」裕之は私の手を強く握った。「おじさん、僕は明空と結婚して、彼女の夫であり支えです。だから今回来たのは、あなたに会うためでも、明空を和解させるためでもありません。明空のために正義を取り戻すため。あなたたちが彼女に返すべき潔白を」そう言って、彼はカバンから書類を取り出し、父に差し出した。「おじさん、ちゃんと見てください。これは僕が調べた証拠です。僕のような部外者でも調べられたのに、なぜあなたは親でありながら知らなかったなんて、信じられません。しかも、明空を信じるどころか、傷つけ、中傷までして。彼女が受けた苦しみは、他人からではなく、一番身近なあなたからのものだったんです」私は書類の内容を知っていた。それは、桜宮と継母がやったことだった。非常に詳細で、反論の余地がなかった。前回のブルーベリーケーキやバラの花は、継母のカードではなく、彼女の友人の口座から支払われていた。その友人と、私に何の関係がある?他にも調べられる限りのことがすべてそこに書かれていた。父は読み終わると、身体を震わせて怒りを抑えきれなかった。突然、継母の方を見て書類を激しく叩きつけた。「お前……お前はなんて悪辣な女なんだ。どうしてこんなことをするんだ?」継母は何が起きたかわからず嫌な予感がした。慌てて落ちた紙を拾い、内容を読み、顔色が真っ青になった。口を開けたが言い訳ができなかった。これはすべて確かな証拠で、父が調べれば真実は必ず明らかになるものだった。玉は書類を拾い、内容を確認すると私を見て目を見開いた。私はソファに冷静に座りながら言った。「私が戻ってきたのは、家に
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