水無月雪(みなづき ゆき)は、望月陽介(もちづき ようすけ)と5年間、籍も入れずに一緒に暮らしてきた。この5年間で、二人は新居を買い、雪の好みに合わせた内装にリフォームした。雪は、陽介からプロポーズされる日を夢見ていた。しかし、ある日、陽介が母にこう話すのを聞いてしまった。「心変わりなんてしてないよ。俺は雪をずっと妹のように思っていた。男女としての好意を持ったことは一度もない。いいか、お母さん。俺の嫁は萌しかいないんだ」ー【水無月様、面接の結果、採用が決定いたしました。来月1日午前8時に弊社へお越しいただき、入社手続きをお願いいたします】雪はメールを保存し、メールボックスを閉じた。来月か……もっと早く時間が過ぎればいいのに、と彼女は思った。この家……雪は今いるこの家を見渡し、鼻の奥がツンとした。ここは彼女と陽介で一緒に買った家だ。家を買うとき、彼女は階層、間取り、立地にとことんこだわった。陽介は少しもイライラせず、逆に優しく彼女をなだめた。「一緒に住む家なんだから、君が快適に過ごせなきゃ意味がないだろ」この言葉のおかげで、家のリフォームは雪がすべて監修した。すべてのデザインは、彼女と陽介がより快適に暮らせるように考えられたものだった。でも今は……彼女が気に入っていた日当たりの良い寝室は、明け渡してしまった。リビングの壁に飾ってあった、彼女のお気に入りのツーショット写真もなくなっていた。家の中にあったペアのグッズも、家政婦に片付けられて捨てられてしまった。これらはまるで、陽介への彼女の愛情のように、どんどん少なくなっていく。最後には、粉々に砕け散り、消えてしまい、二度と戻ってこない。寝室の外で園田萌(そのだ もえ)が甘えた声で何かを話している。雪が部屋のドアを開けると、最後の言葉だけが聞こえてきた。「雪が、一日中部屋から出てこないけど、やっぱり私のせいで、寝室を取られちゃったから怒ってるの?」雪からは陽介の表情が見えた。彼の目には優しい愛情が浮かんでいたが、口から出た言葉は期待を裏切るものだった。「これは俺の家だ。君が好きな部屋に住めないなら、俺が家を持つ意味がないだろ」似たような言葉なのに、5年の間に聞き手が変わってしまった。雪はただただ皮肉に感じ
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