淹れたてだったコーヒーがゆっくりと冷めていくのを眺めたまま、俺も朋拓も黙っている。ふたりの間に流れる時間が音もなく留まっているように静かだ。 「唯人は、どうして唄い続けているの?」 しばらくの沈黙ののち、ぽつりと問われた言葉に顔をあげると、見慣れた人懐っこい顔が少し泣きそうな表情をしてこちらを見ている。 彼が俺を愛し、必要としてくれている理由のひとつは、俺がディーヴァであるということなんだろう。 それを知った上でも俺がディーヴァを続けている理由……少し考えて、俺は口を開いた。 「唄うことが俺の生きていく|術《すべ》だったんだ。居場所も金も食べ物も、欲しいものはすべて唄うことで手に入れてきたから。でも――血を分けた家族だけは、どうしても手に入らなかった。だから、本当の家族を捜すために唯一知っている子守唄を唄ってネットに投稿したりもしてるんだけど……それでディーヴァになっちゃって、そのおかげで朋拓とも出会えた。俺が、命がけで子どもを産みたいと思える、愛する人に」 生きていくために作り上げた|偶像《ディーヴァ》は、俺に居場所とか金とかあらゆるものを与えてくれて、そして愛しい人とも引き合わせてくれた。それに関しては感謝している。だからたとえ周りが俺自体ではなくディーヴァしか見ていなくても、それでいいと言い聞かせていた。心のどこかが言いようのない泣き声をあげていても、聞こえないふりをした。 だけど、ディーヴァによって引き合わせられた彼は、俺がディーヴァでなくても愛してくれている。偶像でない俺を見てくれている。何もないつまらない俺を、愛しいと言ってくれる……それがたまらなく嬉しかった。心の泣き声がどんどん小さくなっていくにつれ、俺の中で密かに抱いていた望みが膨らんでいった。 それが、朋拓との子どもを産みたいということだ。 俺の言葉に、朋拓は痛みを堪えるように目を潤ませ、「そっか……そうだったんだね…
Last Updated : 2025-06-27 Read more