“――おねむりよい子 あまいミルクに つつまれて おねむりよい子 あったか毛布に くるまれて よいゆめを よいあすを おねむり おねむり――” 俺がこの世に生まれて二十一年、誰かにやさしく抱き上げられた記憶も、そんな歌を唄われた憶えもないのに、その歌声だけが耳に残っている。記憶の隅にしがみつくように大人になったいまもなお、眠れない夜に不意に脳内で流れ出す。 |独島唯人《ひとりじまゆいと》という名の他に俺が持っていたのは、この子守歌とそれをつむぐ歌声だけ。 生き抜いてくるために歌い続けてきた俺は、この歌声に支えられひとりで生きてきて、いま、世界で知らない者はいないほどの“|歌姫《ディーヴァ》”だ。 俺の歌声で手に入らない物はない――そう思ってもいたし、実際そうだった。 でもひとつだけ、どうしても焦がれてやまないものがある。それは、血をわけた家族、肉親だ。それも、心から愛し愛される相手と結ばれた上での肉親――我が子。 それを手に入れられるならどんなことだってする、いくらでも払う……そう、思ってすらいた。叶わない可能性しかないのがわかりきっていたからだ。 だから、俺の前に差し出されたあの奇跡のようなチャンスをつかみ取るために、俺はあのプロジェクトの中の治療に命を懸けることを決めたんだ。
Terakhir Diperbarui : 2025-06-08 Baca selengkapnya