All Chapters of 離婚翌日、消えた10億円と双子妊娠を告げぬ妻ーエリート御曹司社長の後悔ー: Chapter 541 - Chapter 550

555 Chapters

542.蜘蛛の糸

華side事故から二か月が経過し、私は父や湊さんの制止を押し切る形で、茶道教室へ復帰することにした。 心配性な湊さんはギリギリまで渋い顔をして難色を示していたけれど、身体の痛みはもうすっかり引いている。それに、静まり返った家で一人一日を過ごすのは、瑛斗から届いた手紙のことや玲たちの謎について、ふとした瞬間に考えてしまい気が滅入ってしまう。家でじっと休んでいるよりも、少しでも外に出て人と関わっていた方が気が紛れるし、楽しかった。根気強く説得を重ねてようやく復帰が決まると、それを聞きつけた真珠さんが、復帰初日にわざわざ顔を出してくれたのだった。「華さん、お久しぶりです! もうお身体は大丈夫なのですか?」「ええ、この通りすっかり。お見舞いにも来ていただいて、本当に嬉しかったわ。空くんにもよろしく伝えてもらえるかしら?」「はい、もちろんです! 空さんもずっと華さんのことを心配していたので、しっかりと伝えておきますね」真珠さんはそう言って弾けるような笑顔を浮かべた。その彼女の胸元で、光沢のある上品な一粒パールのネックレスが優しく輝いている。ゴールドの細くて華奢なチェーンと、大粒のパールの組み合わせは、繊細だけれど芯のある彼女にとてもよく似合っていて、洗練されていた。「そのネックレス、とっても素敵。真珠さんによく似合っているわ」私の言葉に、真珠さんは愛おしそうに指先でパールへそっと触れ、何かを思い出したかのように少し照れたように微笑んだ。その愛らしい仕草だけで、こ
last updateLast Updated : 2026-07-30
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543.蜘蛛の糸②

華side必死に打消そうとする自分と、裏付けられていく冷徹な事実。事故で亡くなった私の母の名前は、「翠(みどり)」。誕生日は五月だった。 そして昔、お父様と一緒にお墓参りに行った時に見た墓石には、母の命日として「六月四日没」と刻まれていた。真珠さんと私の年齢差。母が亡くなった時期と、真珠さんが生まれた時期。すべてが完璧すぎるほどに一致してしまう。そんなドラマのような話があるわけがない。ありえない。そう思って全力で否定しようとするけれど、あの時のお父様の真珠さんを見る眼差しを思い出せば思い出すほど、ただの偶然として処理することは完全に不可能だった。「……華さん? どうかされましたか? 顔が真っ白ですよ」私の様子がおかしいことに気づいた真珠さんが心配そうに顔を覗き込んできた。「い、いえ……何でもないの。ただ、少し考え事をしていて……ねえ、真珠さん。産んでくれたご両親のことは、他に何か聞いているのかしら?」自分の推測が合っているのか確かめたくて、震える声でつい真珠さんに質問を重ねてしまう。少し驚いた顔をした真珠さんだったが、すぐに表情を戻し、ゆっくりと顔を横に振った。「いえ、他には何も……。私は、生まれてすぐに引き取られたそうなので両親の記憶は全くないんで
last updateLast Updated : 2026-07-31
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544.真相①

華side事故で亡くなった母と、生まれて間もなく養子として育てられた真珠さん。二人の共通点である「誕生石」と「名前」。自宅へ帰ってきてからも、そのことが冷たい塊となって胸の奥に居座り、ずっと頭から離れなかった。「改まって話があるなんて、何かあったのか?」書斎のドアを開けると、父はいつもの朗らかな表情で私を迎えてくれた。小さく頷き、ソファに向かい合う形で腰を下ろす。深く息を吐き出してからすぐさま本題を切り出した。「今日から茶道教室に復帰しました。それで、以前うちにも来てくれた長谷部製茶の真珠さんが顔を出してくれたのですが、その時、気になる話を聞きまして……」「……気になること?」「ええ。真珠さんの名前の由来について伺ったのですが、彼女は六月生まれで誕生石が『パール』なので『真珠』という名前がつけられたそうです。そして……真珠さんを産んだお母様も、誕生石から名前をつけられたようなんです。お母様の誕生石はエメラルドと翡翠(ヒスイ)……五月生まれです」父の微かな表情の変化も逃さないよう、私は逃げずにまっすぐその目を見つめて話を続けた。『翡翠』という言葉を聞いた瞬間、ほんのわずかに表情が強張った気がしたが、それ以上の大きな動揺は巧みに隠されている「お父様&he
last updateLast Updated : 2026-08-02
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545.繋がる糸

華side「三上さんのことがあって事故の真相について話してくださった時に、お母さまの妊娠のことを話さなかったのは、真珠さんのことを想って……のことだったのですね」私の静かな問いかけに、父は視線を落とし深く傷ついた面持ちで小さく頷いた。「ああ……翠の妊娠と、翠が決死の思いで奇跡的に産んだあの子のことは、誰にも話さず墓まで持っていくつもりだった。今まで一度も話したことはない。存在すら知らなければ、気にかけることも探すこともないだろう。……そう思って、私と花村君だけの心に留めておくはずだったんだ」少し寂しそうな影を落としながら俯くお父様は、自分自身の過去の決断を必死に言い聞かせるように言葉を紡いでいる。しばらくの間、物思いにふけるように静寂が部屋を支配したが、やがてお父様はほんの少しだけ口角を上げ、静かに息を吐き出した。「だが……まさか、こんな形で繋がるとはな。不思議な縁もあるものだ」『縁』――その言葉を聞いた瞬間、私の脳裏に一か月前に真珠さんと空くんが我が家へお土産を届けに来てくれた日のことを思いだした。二人が帰った後、滅多に他人のプライベートについて聞かないお父様が、なぜ一条の専務である空くんと茶道教室の関係者である真珠さんが一緒にいるのかと私に尋ねてきた。二人が付き合っているのだと伝えると、お父様は静かに『不思議な縁もあるものだ』と呟いていた
last updateLast Updated : 2026-08-06
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546.語られる真実

華side「あの子を……真珠を危険な目に遭わせないために長谷部さんたちに預けたというのに……まさか、すでにそんな被害に遭っていたなんて……長谷部さんご夫妻にも、本当に申し訳ないことをしてしまった……」父は深い後悔と痛恨の色を滲ませ、頭を抱えて低く呻いた。苦痛に歪むその顔を見つめながら、私はさらに一歩踏み込んで問いかける。「三村たちが神宮寺家と真珠さんの血縁関係に気づいていたのだとしたら、長谷部さんたちご夫婦も危険に晒されています。すぐさま対処しなければなりません。お父様、前に三村の名前を出した時、お父様は私に『これ以上近づくな』と強く仰いましたよね。あれはどうしてですか? お願いです、本当の理由を教えてください」今まで何度真実を知りたいと訴えても、固く口を閉ざしてきた。だが、手放した娘にまで魔の手が迫っているという現実を知り、ついに覚悟を決めたのだろう。 重苦しい沈黙の後、深く長い息を吐き出すと、意を決したように重い口を開いた。「……三村家とはな、昔ビジネス上で大きなトラブルがあったんだ。法的には神宮寺側に一切の落ち度はなかったのだが、三村側からすれば、神宮寺が三村の新規取引先を横取りしたような形になってしまってね」「ビジネストラブル……?」「ああ。そのことが直接的な引き金となり、三村家
last updateLast Updated : 2026-08-13
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547.疑問と推測

華side「神宮寺家と三村家でビジネストラブルがきっかけで恨まれていて、私が瑛斗と結婚したから一条家も標的になったということですか……?」「それは……」食い気味に質問する私に、お父様は口ごもって言葉に詰まっている。けれど、このことだけは確認せずにはいられなかった。私と瑛斗が結ばれたこと自体が、瑛斗を危険に巻き込んだそもそもの原因だったとしたら――。「一条家が三村家と元々関わりがあったのか、今となっては分からない……だが、三村家の誰かが何らかの目的をもって一条家に近づいたのは確かだ……ところで、長谷部さんのところは一体、どうして買収先として狙われたんだ?」お父様の問いかけに、私は胸の奥の重苦しい塊を押し殺しながら答えた。「それは……最初は、三村の方から真珠さんに『知人の会社を紹介したい』と商談の話を持ち掛けてきたそうなの。だけど、具体的な仕事の内容はまったくなくて、瑛斗や空くん、そして一条の情報について根掘り葉掘り聞いてきたそうで、不審に思った真珠さんが空くんに相談したみたいなんです。その時には、瑛斗も空くんもすでに玲と三村の繋がりを怪しんでいたそうで『絶対に関わらない方がいい』と空くんが助言したら、真珠さんが『利用しようと近づいたなら、逆に自分が三村から話を聞き出す』と言い出して……」「なんだって……あの子が……!? あの子自ら、そんな危険な真似を申し出たというのか!?」お父様は驚愕のあまりガタリと身を乗り出し、その後、深く大きなため息をついて額を手で覆った。守るために必死になって遠ざけたはずの実の娘が、自らその闇の懐へ飛び込んでいったという現実に衝撃で言葉を失っているようだった。「ええ……そうみたい。それで、三村と密に連絡を取っていたけれど、それが逆に三村側に怪しく感じられたみたいで……牽制と手中に収める目的で、縁談に見せかけた買収の話を持ち出してきたみたいなの。だから、三村たちが真珠さんと神宮寺家の関係を知って狙ったわけではないのかもしれないけれど……」「そうか。それにしても……玲も真珠も、なぜ三村家とそこまで深い繋がりを持っているんだ……」「瑛斗たちも調べているみたい……。もしかしたらの話だけれど、神宮寺家に届いた手紙は玲が入れたんじゃないかって……うちの玄関の防犯カメラは、目立つように設定してあるでしょう?消印や筆跡を残さないために住所
last updateLast Updated : 2026-09-01
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548.仮説

華sideこの日の東京は、朝から冷たい雨が窓ガラスを強く叩きつけていた。子どもたちを学校へ送り出し、一人きりになって静まり返ったリビングで、私は冷めた紅茶のカップを手に外の暗い空をぼんやりと眺めていた。だが、意識の向かう先にあるのは、いつだって瑛斗のことばかりだ。あの事故があってからというもの、瑛斗とは一切の連絡を絶っている。本当ならあの日、私は瑛斗と会い、玲と三村ジョニーについて詳しく話を聞くはずだったのだ。 しかし、待ち合わせ場所に向かう途中でトラックと衝突し、そのまま病院へ搬送されてしまった。心配して病室へ駆けつけてくれた瑛斗。だけど、翌朝、彼は病室で湊さんが私の肩を優しく抱き寄せている光景を目撃してしまったのだった。 そのまま背を向けて走り去る瑛斗を追いかけた湊さんに対し、彼は『華たちとはもう会わない。あなたに頼みます。』と宣言し、一人病院から去っていった。(あの日……瑛斗は私に何と言おうとしたの? 何を打ち明けてくれるつもりだったの……?)瑛斗に会うことも、玲たちのことを聞く機会も失ってしまい、今となってはもう分からない。そして、今だけじゃなく、ふとした瞬間に、病室へ駆け込んできた時の瑛斗の顔が胸を締め付けるように蘇るのだ。私の無事を確認し、心底安堵して瞳に涙を浮かべていたあの顔。 力強い腕で私を抱きしめ、『無事で……良かった…&hel
last updateLast Updated : 2026-09-03
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549.身勝手な執着

瑛斗side「彼女を守りたいのなら、なぜ潔く遠ざからないのですか。元夫としての未練ですか? それとも、ただの身勝手な執着ですか?」華が事故に遭った翌日、病棟で北條湊に突きつけられた問いが、二ヶ月が経過した今もなお、俺の胸に鋭い毒針のように刺さったまま抜けない。「身勝手な執着……か」社長室のデスクで、俺は自嘲気味に呟いた。 過去の愚かな自分を振り返るたび、強烈な吐き気と自己嫌悪が押し寄せてくる。離婚の直接的な引き金となった、華による多額の海外送金疑惑。そして、華が妹の玲を嫉妬から海外へ追いやったという話もすべては、玲によって巧妙に仕組まれた嘘であり、真実を知った時には何もかもが遅すぎた。「あの海外送金も、三村たちから貰った金だったのかもしれないな……あの時、もっと口座の画像を見ておけば……もっと詳細をしっかりと知っておけば……」玲は、華の代わりに俺の妻になるとすぐに親父に掛け合って一条ホールディングスの副社長となった。俺の両親の前ではいい顔をしていたが、社内では裏で横暴なパワハラをしており、社員が大量離職。好き勝手するために空は有能過ぎて邪魔だった。そう考えた玲は俺に内緒で子会社に左遷させ、実権を握ろうとしていた。会社を内部から腐らせた挙句、巨額の資金横領を繰り返して証拠が揃い捕まえようとしたところで逃走。後日、玲の実母の櫻子も姿を消し、事件は
last updateLast Updated : 2026-09-06
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550.密談

瑛斗side三日後の夜、俺はある人物と会うために、都内にある高級割烹料理店の個室へと入って行った。接待でも利用する店で個人のプライバシーがしっかりと守れており、ここなら安心して話が出来る。約束の時間の二十分前に到着し、案内された静かな和室の畳の上で、背筋を伸ばし正座をして待ち続けた。今日、一体どのような口からどんな真実が語られるのか。落ち着かない胸騒ぎが止まらず、静まり返った部屋の中で何度も腕時計をチラリと見ては、針の進みに気を揉んでいた。待ち合わせの七分前になると廊下の床を踏みしめてこちらへ向かってくる足音が聞こえてきた。 背筋を正しなおして膝の上で固く拳を握り締める。襖に大きな人影が映り込み、スッと静かに開く音が部屋中に響き渡った。「お待たせしたね。忙しいのに、わざわざ時間を作ってもらってすまない。今日は来てくれてありがとう」「いえ……お電話をいただき光栄です。ご無沙汰しております。……神宮寺会長」そこに立っていたのは、華の父親であり神宮寺グループのトップである神宮寺会長だった。 会長とこうして直接顔を合わせるのは、華が長野の別荘で暮らしていた頃以来で、実に三年ぶりになる。あの時は、三上のマンションに囚われていた華を救出することで互いに必死で、まともに言葉を交わす余裕などなかった。こうして落ち着いて面と向かって話をするのは、一体いつ以来だろうか……もう遠い昔のように思えるほどの年月が流れていた。
last updateLast Updated : 2026-09-08
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