Todos los capítulos de 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった: Capítulo 791 - Capítulo 800

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第791話

月子の顔色が変わった。静真が眉をひそめて聞いた。「誰からだ?」「一樹にでも、子育ての仕方を教わったら?」月子は彼の言葉を無視し、そのまま部屋を出て行った。静真の部屋を出た月子は、見るからに緊張していた。隼人はなんて返してくるだろう?はてなマークだけ、送ってくるのかな?それとも、メッセージの理由を聞いてくるだろうか?隼人にそう聞かれたら、なんて答えればいいのだろう。子供が生まれたことを、伝えるべきだろうか?月子の思考は混乱し始めた。どうしてあんな不注意なことをしてしまったんだろうと考えながら、後悔の念に押しつぶされそうになった。このまま、平穏に過ごすべきだった。これ以上連絡をすべきじゃなかった。でも、隼人からの連絡を無視することなんてできない。むしろ、彼からの連絡を自分は待ちわびていたのだ。そんな考えを巡らせながら部屋のドアに鍵をかけ、月子はスマホをベッドサイドの棚に置くと、バスルームへ向かい、冷たい水で顔を洗った。こんなに緊張したのは久しぶりだ。たった一件のメッセージで、月子の神経は張り詰め、胸は高鳴った。もう丸二ヶ月になる。この二ヶ月、隼人からの音沙汰は一切なかった。意識して探したり連絡したりしない限り、同じマンションに住んでいても偶然会うことはないだろう。ましてや、K市は大都会なのだから。この二ヶ月、月子は生活と仕事に追われていた。いろいろなところに出張し、C市まで花火を見に行った。そして今、子供まで生まれた……たくさんのことを経験したから、とても長く感じていた。だからこそ、本当に、ずいぶん長い間、隼人からの連絡がないような気がするのだ。もう一度連絡を取るのには、本当に勇気がいる。月子は顔を拭くと、ベッドのそばへ行き、スマホを手に取った。その一連の動きはスローモーションのようだった。一歩一歩がゆっくりと感じられ、自分の呼吸音まではっきりと耳元で大きく聞こえた。月子はロックを解除し、ラインを開いた。すると、メッセージが届いていた。だけど、メッセージは想像していたはてなマークじゃない。どうして連絡してきたのか、という問いかけでもない。そこにあったのは、たった一言。【おめでとう】月子は呆然とそれを眺めていた。見つめているうちに、どんどん胸が切なくなってきた。隼人はずっと
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第792話

他の母親もそうなるかどうかはわからないが、月子のその張りつめた気持ちは日を追うごとに増していったのだった。そして、そんな月子の緊張に最初に気づいたのは、一樹だった。彩乃は翔太との用事を済ませるためにホテルに泊まっていて、気づくことができなかったのだ。だからそんな異変にいち早く気づけた一樹は得意の料理を月子のために振舞った。彼はみんなが食べれる料理を用意する以外に月子にだけ特別なハーブティーを調合してあげたのだった。しかし、月子はそれどころではなく、彼の気遣いには気づいていなかった。心に多くの重圧を抱えていた月子は、この数日、静真とはほとんど口をきいていなかった。一方で静真も、彼女さえそばにいてもらえれば満足したのか、ここ数日は余計ないざこざを起こしてこなかった。静真が大人しくしていてくれるので、月子はほっとしていた。このまま彼がまともでいてくれるなら、一緒に協力して子供たちを育てていけるかもしれないと思った。しかし帰国当日、静真が月子の部屋のドアをノックした。ちょうど荷造りをしていた月子は、ドアを開けずに言った。「何か用?」そんな月子の態度が不満だったのか静真は突っかかるように言って来た。「母親になったのがそんなに不満か?この数日、ろくに口もきいてくれないじゃないか」月子は眉をひそめた。「子供たちのことは好きよ。でも、あなたが勝手にしたことは許せない。それとこれは別問題よ」静真は彼女の冷たい態度が気に食わなかった。「とぼけるなよ、月子。子供が生まれたことで、隼人とはもう二度とやり直せないと思って、一人でコソコソ悲しんでるんでしょ?」月子は呆れて笑った。「あなたって本当に彼のことしか頭にないのね。何でもかんでも、彼に結びつけないと気が済まないわけ?」「図星か!離婚したときだってお前は平気な顔をしてたじゃないか。今のその態度、俺への当てつけか?」そう言われて月子もううんざりするようになった。「そうよ、だとしたら何?」すると、静真は怒りのあまり、こめかみに青筋を浮かべた。「お前……」「出ていって!」静真は唖然とした。彼は月子を睨みつけた。だが、この女には何を言っても無駄だった。静真は自分に「我慢しろ」と言い聞かせ、やがて顔を青くしたまま、背を向けて部屋を出て行った。……生まれたて赤ちゃんは環境
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第793話

月子は、静真の整った横顔を見つめた。すると彼もちょうど、こちらに視線を向けた。目が合った瞬間、月子は冷たい視線で言った。「ええ、楽しみよ。彼に会うのは本当に久しぶりだもの。だからすごく楽しみにしてるよ!」静真は何度も隼人の名前を出して月子を挑発したが、一度もうまくいったためしはなかった。そんな言葉で月子の心が揺さぶられることはなかった。逆に、彼女から返される言葉の方が静真には受け入れ難いことばかりだった。以前の静真なら、きっと感情を抑えきれなかっただろう。月子の気持ちを無視して、無理やり手を出していたはずだ。でも、今の彼にそんなことはできなかった。月子と真っ向から対立すれば、自分が不利になるのは目に見えていたからだ。だから、彼は引き下がろうとした。しかし、子供のことが心配でイライラしていた月子は、静真が喧嘩を売ってきたのだから、とことんやり返すつもりだった。「隼人さんの名前を出すたびに動揺してるのは、あなた自身じゃない?当たり前よね。私の隼人さんへの気持ちはずっと変わらないんだもの。それに子供がいたとしても、私には彼らにもっと素敵な父親は見つける権利はあるはずよ。結局夫婦の関係は子供がいることで変わらないこともあるんだから、赤ちゃんで、私を縛ることなんてできないのよ」その言葉は、またしても鋭く静真の胸に突き刺さった。彼は月子を睨みつけた。「そんなことを言うな!」月子は言った。「言われたくなかったら、ちょっかいを出してこないことね」「ふざけてるんじゃない。そんなことを言うのも、するのも、俺は許さない」静真は有無を言わせぬ冷たい表情で言った。月子はまったく動じなかった。「静真、昔のあなたには特権があったの。だから私は辛抱強く、優しく、あなたをなだめることができた。でも、今のあなたはもうそんな特権がないんだから、どれだけ騒ごうと、私があなたに構うことはないの。それだけよ。これからは、だれに気持ちを向こうと私の自由なんだから」「お前……」「お兄さん!月子!」突然、天音の弾んだ声が聞こえたかと思うと、彼女が慌てて駆け寄ってきた。天音は二人の顔色の悪さに気づいた。見間違いかと思ったけど、近づいてみてもやはり変わらない。彼女は驚きを隠せない様子で言った。「二人とも顔色が悪すぎじゃない?子供ができると、こんなになっちゃ
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第794話

もし、子供たちもそこで暮らしていけたら、家族四人はまるでずっと昔から一緒にいた幸せな家族のように見えるんだろうな。だが月子の決意は固く、静真はもう何も言えなかった。月子の言う通り、彼女はもうかつてのように自分を思っていないのだから、自分もかつてのように月子の前で偉そうに振る舞うことなどできなくなったのだ。そう思うと静真はここ最近月子に冷たくされたこととかつて彼女からこの上なく優しくされていたことと比べて、思わずその落差を身に染みて感じていた。なにしろ、二人で子育てをするというのも、生活の細々としたことの積み重ねなのだ。そのことにも、静真は今までまったく気づいていなかった。たとえば、毎日彼の食事を用意してくれていたこと。それがどれだけ大変なことだったか。月子は、それをずっと続けてくれていたのだ。静真は、月子が昔はなんでも言うことを聞いてくれたし、自分に尽くしてくれたことも分かっていた。でも、その優しさを漠然としか捉えていなかった。今ようやく、その一つ一つがどれほど大変だったかを実感するようになったのだ。もう両親たちが来るからだろうか、静真は珍しく冷静だった。振り返ると、月子の疲れきった横顔が見えて、なぜか胸が痛んだ。離婚前、月子はいつもこんな風に疲れていた。でもあの頃の瞳はもっと光がなく、淀んでいた。それに比べて今は、ただ疲れているだけだ。その瞳は、ちゃんと輝いている。「月子、眠いなら俺の肩に寄りかかってもいいぞ」静真からの突然の優しい言葉に、月子は心底驚いた。訳が分からず、彼女は静真の顔をじっと見た。まさか、静真は天音のように機嫌をとろうとしているのだろうか?そう思いながら、月子は二秒ほど黙り込むと、静かに少しだけ席を移動して彼から離れた。静真は絶句した。彼は、思わずカッとなった。「なんだよその態度は!そんなに俺を避けることないだろ?お前の体の隅々まで知らないところはないのに、今さら隣にいるだけで嫌なのか?」それを言われて月子は我慢にならなかった。「それって、あなたがどれだけ下手くそだったのかを思い出させようとしているの?」それを聞いて静真の顔色は、青ざめるのを通り越して、どんよりと黒ずんでしまった。「お兄さん、月子!赤ちゃん、可愛すぎっ!」そこへ天音がやってきた。ところが、静真と月子が
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第795話

入江家の実力をもてすれば、子供たちはきっと優れた将来の道ができるでしょう。もちろん、もし子供たちのためにならないということがあれば、月子もすべての責任を負う覚悟でいるのだ。何と言っても、母親の代わりは、誰にもできないのだから。慶と寧々は、生まれた時からびっくりするほど可愛らしくて、誰からも好かれる子たちだった。もとより生まれたての赤ちゃんを嫌う人はそうそういないだろうから、正雄も、静真の両親も二人をとっても気に入ってくれたようだった。彼らが子供たちをあやしている間、月子はただそばに立って、その様子を見ていた。月子は、またふと翠を思い出していた。もし彼女が子供たちに会えるなら、どんなに喜んだことだろう……そう思うと月子はまたどうしようもない悲しみと後悔が、胸にずっしりと押し寄せてくるのを感じた。自分の子供たちには母親がいるのに、自分にはもう母親がいないんだ。生まれたばかりの赤ちゃんの世話の仕方なんて、本当なら自分の母親に教えてもらうものだ。でも、月子には手探りでやるしかない。そして、彼女のこの辛さややるせなさを、ここにいる誰も理解してはくれないだろう。この世で一番月子を理解してくれるのは、やはり弟の洵だけなのだ。月子は、心に渦巻く様々な思いを、決して口には出さなかった。しかし、彼女にとって予想外のことが起きた。結婚していた三年間、ほとんど口をきいたこともなかったかつての義父、達也が会いに来たのだ。「ちょっと外で話そうか」達也は、穏やかにそう言った。静真から見れば、父親の達也は優柔不断で仕事に対する覇気もない。だからこそ、自分はこんなにも早く会社を継ぐことができたのだ。とはいえ若い頃、達也はそのルックスで結衣の目にとまったのだ。さすがというか、年を重ねてもその魅力は衰えていない。二人の息子と一人の娘が皆、美男美女なのも、父親の遺伝子が大きいのだろう。ちょうど月子も時間があったので、達也について廊下に出た。達也は口を開いた。「月子、あなたと静真は親になったわけだが、これから子供たちをどう育てていくつもりか、考えたかい?」「二人で育てます」と、月子は答えた。「あなたと静真は、このまま別々に暮らすのか?」と達也は尋ねた。それを聞いて、達也がよりを戻させようとしているのだと、月子は察した。「私が静真とやり直すな
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第796話

洵みたいにね。翠の事故の後は、しばらく心を閉ざしてすごく荒れてた。でも、もうちょっと時間をおいてあげれば、道を外したりすることはない。だって、自分も洵も母親に育てられたんだもの。根っこはちゃんとしてるはずだから。だから、月子もこれから子供たちには、お互いを大切にするように教えるつもりだ。だって彼らは互いにこれから世界で一番の味方になっていくのだから。小さい頃から年をとるまで、自分たち親よりも、もっと長い時間ずっと支え合っていくことになるから。月子の言葉を聞いて、達也はもう何も言う必要はないと悟った。彼女は想像以上にしっかりしている。頼りがいがあって、落ち着いていて、自分の考えもきちんと持っている。若い世代がこれだけしっかりしているのなら、自分たちが口を出すことでもないだろう。そう思いながら達也は、月子と隼人の間に何があったのかも気になった。でも、これ以上は聞かないことにした。彼女に煙たがられたくなかったからだ。特に隼人のこととなると、達也はひときわ大きな負い目を感じていた。でも、どうすれば息子との距離を縮められるのか、彼自身も分からなかった。達也は言った。「必要があればなんなり、遠慮なく静真に言って。彼に迷惑だなんて思うことはないからね」「ええ、もちろんです」月子は答えた。もし静真が無責任なことをしたり、子供たちに変な癖でもうつしたりしたら、月子も容赦しないつもりだ。そうなれば、そんな父親なんていなくても、自分は母親として子供たちを守っていけると、月子にはその自信があった。そして、これからは二人の子供のことだけを考えていこうと月子は密かに誓った。帰る間際、正雄は子供が生後一ヶ月になったらお披露目パーティーをして、皆に良い知らせを伝えたいと提案した。入江家の御曹司と令嬢は、まさにこれから勝ち組として世間から注目される的になるだろう。きっと誰もが祝福するに違いない。それについては、誰も異存はなかった。静真は、結婚していた頃の別荘に子供たちを住まわせるつもりだった。しかし月子がそれを嫌がったので、急遽、新しい家を用意することになった。入江グループは不動産業でも力を持っており、K市のランドマークの多くも彼らの物件だ。詩織はすぐに、月子のマンションの近くの閑静な場所に、大きな別荘を見つけてきてくれた。ただ、すぐに住めるように
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第797話

静真はずっと、自分に嘘をついてきた。離婚しなかったら、きっと一生気づかなかっただろう。しかし、その代償はあまりに大きかった。現に、今はこんな風に大切な人を永遠に失ってしまったのだから。たとえ子供を理由に月子を引き止めたり、隼人と別れさせたりすることができたとしても、静真の心は少しも安らぐことがなかった。彼には月子の気持ちが自分から離れていくのを、ただ見ていることしかできなかったのだ。静真は、子供が生まれてくれたことに心から安堵していた。子供が彼の最後の切り札なのだ。子供さえいれば、これからも毎日、月子に会うことができる。それどころか……このまま月子と一緒に、年を取っていくことだってできるかもしれない。「抱きしめさせてくれ」静真はかすれた声で言った。その深い瞳で、ひたすら月子を求めている。「一度だけでいいんだ。いいだろう?」月子は、彼の瞳に宿る感情を読み取ると、静かに目を閉じた。次の瞬間、静真は月子を強く抱きしめた。まるで、彼女を自分の身体にねじ込ませたいと言わんばかりのような、強い力で。だが、月子が静真にしてあげられるのは、この抱擁を受け入れることだけだった。それ以外は、何もしてあげられなかった。もし、かつて三年も一緒に過ごしたこの家でなかったら、彼女はこの抱擁すら許すことはなかっただろう。どれくらい、そうしていただろうか。「もう、いいでしょ」静真の胸は温かい。でも、そのぬくもりが月子の心に届くことは、もうなかった。静真が、感情を押し殺した声で彼女の耳元に囁いた。「なあ、ずっとこのままでいられないか?月子、もう誰も好きにならないでくれ。俺と一緒にいられないとしても、それでも構わないから」人によって、性格というのは本当に違うものなのだと月子は思った。隼人の優しさは、いつもさりげない。後から気づいて、そのたびに心がじんわりと温かくなるような、そんな優しさだ。この前、間違えて彼にメッセージを送ってしまった時のように。その時の隼人の返事は、ただ【おめでとう】という文字だけだった。彼は、どうしてメッセージを送ってきたのか、なんて野暮なことは聞かなかった。だから、自分は返信しなきゃ、というプレッシャーを感じずに済んだ。それでいて、隼人はいつもそっと自分を見守り、寄り添っているのだということも十分伝わった。それでいて
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第798話

簡単な挨拶もそこそこに、月子は絵里奈とその部下に監視カメラなどの設備調整を始めさせた。もともと最新鋭の設備が整っていたので、月子自身が何かを新設する必要はなかった。ただ、自分のシステムに接続するだけでよかったのだ。監視カメラは赤ちゃんの様子を常に観察できるだけでなく、同時に6人の家政婦と柳田執事の働きぶりも見張ることができるのようになっていた。さらに毎日、赤ちゃんの体温やミルクを飲んだ量などをまとめたAIレポートが自動で作成される仕組みだ。一日の監視データは膨大な量になるため、AI分析にはビッグデータの演算モデルが必要不可欠だった。でも、それは月子の専門分野であって、しかも、会社のAI計算センターのリソースも使えるので、演算能力にはまったく問題がなかった。柳田執事は、キーボードを叩く月子の真剣な姿を見て、ただただ驚いていた。専門性を極めた人間というのは、人を寄せつけないような、ある種の強烈なオーラを放つものだ。それは、どこか畏怖の念さえ抱かせるものもあった。彼女は、わけもなく月子に恐怖を感じていた。帰る前に、月子は赤ちゃんたちの顔を覗き込んだ。ぷくぷくの頬に、大きくてつぶらな瞳。最初はただ教育環境を心配していただけだったかもしれない。でも、十日あまり一緒に過ごした今では、赤ちゃんたちが愛おしいと思うのは母親の本能のようだった。赤ちゃんたちは、自分が守ってあげるべき大切な宝物。自分は一気に可愛い宝物が、二つもできたんだ。月子は一人ひとりの頬にキスをすると、ほんわかとした気持ちになった。初めて母親になったんだ。不慣れなところもいっぱいあるだろうけど、大目に見てね。そう月子は心の中で赤ちゃんたちに呟いた。月子が赤ちゃんに望むこと……とりあえず今は、元気に生きていてくれれば、それで十分。……あっという間に時は過ぎ、満月のお披露目パーティーの日まで、あと数日となった。二人はすっかりまんまると太って、ますます可愛くなっていた。月子もまた仕事が終わると、赤ちゃんたちに会いに来るのが日課になっていた。ただ、今日は彩乃と共に、早紀との会食の予定が入っていた。早紀は、弟の颯太を出し抜いて吉田家の跡を継ぐため、当初SYテクノロジーに投資していたのだ。月子と彩乃は、彼女にとって最高のビジネスパートナーだった。月子が研究開発を、彩乃がマーケ
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第799話

実は早紀が急遽、業界の会合に出席することになった時に偶然隼人に出くわしたため、それで一緒にと誘ったのだ。早紀は二人が付き合っていたことを知っていたから、今でも連絡を取り合っているものだとばかり思っていた。だから、お互いに何も伝えなかったのだ。だが、早紀は颯太を警戒していたこともあり、普段から月子たちと頻繁に会っていたわけではなかったので、それで二人がもう別れていることを知る由がなかったのだ。しかし、隼人の「久しぶりだな」という一言を聞いた瞬間、早紀は「やばいことになった」といち早く悟った。そこで彼女は、どうすればいいか目で合図を送ろうと、真っ先に彩乃の方を見た。しかし、彩乃も驚いた顔で、この状況をどう乗り切るか必死に考えている様子だった。そんな状況に早紀はかなり気まずかった。隼人は敵に回せず、むしろご機嫌を取るべき大物だ。一方で月子は、ビジネスパートナーであり、颯太を抑えるための切り札でもある。こんなことになってしまっては、あとでなんとか謝らなければと早紀は思いを巡らせていた。幸い、先に口を開いたのは隼人だった。これで、月子がどう出るか、様子を見ることができる。月子も、まさかこんな所で隼人に会うなんて、夢にも思わなかった。別れてから最初の二ヶ月、彼女は明けても暮れても彼のことを考え、よく夢にも見ていた。でも子供が生まれてからの一ヶ月、隼人の夢を見ることは次第に減っていった。心の中に新しい大切な存在ができたからだ。心の隙間は、赤ちゃんたちによって少しずつ埋められていった。時折、ふと我に返るような感覚に襲われることもあったが、隼人のことは心の奥底に封じ込めて、彼女自身もこうやって少しずつ忘れていくのだと思っていた。でも、それが大きな間違いだったと、月子はたった今気づかされた。再び隼人の顔をみただけで、自分の胸がこんなにも激しく高鳴るなんて。それはほんの一瞬のできことだった。月子は胸がときめき、手のひらは汗ばみ、体はカチコチに固まってしまったのだ。まるでスウィッチでも押されたかのように、月子は初めて何の前触れもなく、胸がこれほどときめくのを感じた。彼女の視線は、隼人の顔に釘付けになって離れられなかった。三ヶ月ぶりに、その顔をまじまじと見つめてしまった。隼人は相変わらず、誰もが目を惹くほど凛々しかった。
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第800話

そして子供の存在が、月子を癒してくれた。月子が隼人と別れた一番の理由は、彼の気持ちを考えたからだった。もし自分のパートナーに、しかも好きでもない相手との間に、いきなり子供が二人もできたら……そんなの、到底受け入れられない。自分がされて嫌なことは、他人にもしたくなかった。たとえ隼人がいいと言ってくれても、自分はきっと罪悪感で押しつぶされてしまう。それに、月子自身、子供たちとはこれからも頻繁に会っていくことになる。そして現状もそうなっているのだ。そうなると、いつも隼人を一人にして、静真と会うことになってしまう。隼人には、あまりにも多くの我慢を強いることになる。この二人の不平等な関係は、すぐには変わらない。何年も続いてしまうだろう。それによって今後だらだらと苦しむより、早いうちきっぱり別れたほうが、お互いのためだと思った。だが、実際のところ月子は隼人と別れて初めて、彼をどれだけ深く愛していたかに気づかされた。それでも、彼女は後悔していなかった。いや、もしかしたら一瞬だけ、後悔したこともあったかもしれない。たとえ隼人に犠牲を強いることになってもその優しさに甘えてしまえばよかったのかもと考えたこともあった。でも、そんな気持ちも、時間が経つのにつれ、子供が生まれる頃にはすっかり消えていた。ううん、そもそも後悔しているかどうかなんて、もうどうでもよくなっていた。こうなったからには後悔をしたって仕方がないのだから。そんな想いを巡らせつつ、月子は隼人に向かって愛想笑いを浮かべながら、そう言った。隼人は思わず唇をきつく結んだ。体の前で組んでいた手は、いつの間にか固く握りしめられている。彼は一瞬ためらった後、月子にこくりと頷いてみせた。そんな状況に彩乃と賢は、顔を見合わせた。友達として見ていると、二人がまだお互いを想い合っているのは明らかだった。なのに、こんなに丁寧でよそよそしいやり取りは、見ているこっちが辛くなる。あんなに幸せそうだった二人を知っているからこそ、その落差が、あまりにも大きすぎた。彩乃も月子のことがよく分かっているからこそ彼女が自分に嘘をついてまで必死で平静を装っているのだろうと見抜いていた……それでも彩乃は、友人として月子の決断を全て支持するつもりだった。隼人が素晴らしい男性なのは間違いない。でも、所詮はただの男だ
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