考えても仕方ないことは、もう考えない。月子は頭をからっぽにして、足元だけに集中した。結衣はとても情緒あふれる人だった。J市の庭も手入れが行き届いて見事だけれど、ここでの湿った気候で育った草花の生命力にはかなわない。彼女は心地よさそうに息を吸い込むと、言った。「少し、散歩に付き合ってちょうだい」月子はうなずいた。「はい、もちろんです」珍しい花を眺め、小さな池のほとりを歩き、木の下で足を止める。ほんの少し散策しただけなのに、いつの間にか十五分も経っていた。「肝が据わっているわね」結衣は月子を見つめた。「あなたくらいの若い子とは、どうも上手く付き合えなくて。だからついこっちも考え方がどんどん堅物になっていくし、あなたたちが何を考えているのかもさっぱり分からなくなってしまうのよね」結衣が若い子と付き合えないんじゃない。みんなが彼女を怖がっているだけだ。月子にも、それが結衣の謙遜だということは分かった。「とんでもないです、鷹司会長」月子にしてみれば、結衣には恭しく接するしかなく、それ以外の適切な態度が思いつかなかったから礼儀正しく、控えめな態度を保つしかなかった。「私を見て」と、結衣が言った。月子は伏せていた目を上げると、瞬きもせずまっすぐに結衣を見つめた。結衣は月子の目をじっと見つめ、ふっと笑みを浮かべた。「あなたが隼人と付き合っていた頃、私があげたプレゼントは気に入ってくれたかしら?」月子は頷いた。「もちろんです」「でも、あなたがあのプレゼントをたいして気にも留めていないことくらい、分かっていたの」月子は黙り込んだ。「当然よ。だって私も、あなたのことなんて気にも留めていなかったもの。お金を渡すのが、一番簡単で楽じゃない?頭を使わなくてもいいし、あなたからも良く思われるしね……でも、あなたはとても賢かった。私の態度がおざなりなことを見抜いて、お互いにとって一番楽な付き合い方を選んでくれた。お互い気持ちのいい付き合いかたをね。こういう細かい気遣いは、普通の若い子にはできないものよ。隼人でさえ、私のやり方にはすぐ乗せられるのに。あの時、あなたは私を本当に驚かせた。最初は隼人が好きになった子っていうだけで興味があったの。でも、付き合っていくうちに、あなたのことがとても強く印象に残ったのよ」こんな風に本心を打ち明け
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