月子がホテルに着くとすぐに、彩乃から電話がかかってきた。彩乃はとても不満そうだ。「月子、なんでこんな大事な時に黙って行っちゃうのよ。去年、一緒にお祝いできなかったの後悔してたのに。今年は絶対祝ってあげようって思ってたのに、黙って姿を消すなんて」彩乃は一ヶ月間、月子のそばにいて、やっと安心して自分の家に帰ったのだ。誕生日は友達も同僚もみんな呼んで、盛大にお祝いしようと考えていた。なのに月子は、C市に行く、とだけ伝えるとスマホの電源を切って飛行機に乗ってしまった。彩乃は考えれば考えるほど腹が立ってきた。「今年はついてないことばっかりだった。こんな時こそ、盛大に誕生日パーティーを開くべきだったのよ。それに、もうすぐ赤ちゃんも生まれるっていうのに……月子、もしかしてどこかに隠れて一人で泣いてるんじゃないでしょね?」月子は、彩乃が自分のことを心配してくれているからこそ、こんな風に言ってくれるのだと分かっていた。「大丈夫よ。泣くならあなたといる時にするから……それに、大人になったら誕生日なんてそんなに気にするほどのことでもなくなるわけだから。今回は、気分転換が一番の目的なの」「本当に誕生日がどうでもいいなら、去年はどうして私たちを島に呼んだのよ……」彩乃は失言に気づき、すぐに口をつぐんだ。声のトーンも和らいでいく。「ごめんね、月子。ただ、こういう時こそそばにいてあげたいって思ったの」「分かってる」月子はため息をついた。「今年の誕生日は、隼人さんと前から約束してたの。友達とじゃなくて、彼と二人でC市に来て、花火を見ようって。ここの花火大会は三年に一度で、すごく記念になるから……別れちゃったけど、それでも一人で見に来たいと思ったの」その話を聞いて、彩乃は少し切ない気持ちになった。「月子、別れてもう二ヶ月だけど、やっぱり彼のことが忘れられないの?」本当のところ月子はたった二ヶ月で忘れられるわけがない、ただ穏やかになれただけで、隼人のことは心の中にそっとしまっているだけと言いたかった。普段は彼女の何気ない振りをして暮らしているが、でもふと思い出すと、やはり胸が張り裂けそうに痛むのだ。隼人への気持ちは、最初はただの「好き」だった。それがだんだんと、もっと好きになっていった。別れて初めて、彼が自分にとってどれほど大切な存在だったのかを思い知ったのだ。「ま
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