Semua Bab 雪桜婚〜すべてはスマホ間違いから始まった〜: Bab 31 - Bab 40

62 Bab

第31話

え……? こいつ、今、なんて言った? 好き? すき? スキ? 好きぃ~⁉︎ 私は頭の中が完全に真っ白になった。 お金持ちで、頭がよくって、芸能人かと思うほど人間離れした美しさを持つ、龍太郎……。 そんな人間が自分を好きになるはずが、そんな非現実的なことが起こるはずがない。 異世界転生したならば話は別だが、ここは現実世界だ。私は死んでないぞ。 溺愛モードなんて、ありえない。 ……待てよ。それ以前にたしかコイツ、不倫してなかったか? スマホを間違えた時、コイツに届いたメッセージは、明らかに既婚者からのお誘いだったけど? 短時間に幾度も入ってきて、しつこいものだった。 しかもかなり親密な関係だと、ちらと見た内容でもそれは見てとれた。 ……あ~、なんかイライラしてきた。これもコイツの遊びだろう。 こういうヤツは、きっと清楚なお嬢様で、すっごい美人で、ものすっごい巨乳が好きなはずだ(偏見) 「……りゅ、龍太郎。もう、こういう遊びやめない? いい加減飽きたんだけど……」 私の声には緊張が混じっていた。 「…………」 龍太郎からの返事はない。無視か? 「あのさ、私、付き合ってもないひとと、こういうことをするの好きじゃないの。もう、離してくれない?」 相変わらず、私を抱きしめて離そうとしない。 龍太郎のたくましい腕に、ときめきを感じないわけがない。 今もドキドキする……。でもなぜかイライラもする。 「…………」 また無言だ。なんなんだ、コイツ。 その時、龍太郎の寝息が聞こえた。すやすやとまるで赤ちゃんのような、天使な寝息だ。 ……え、えー!! このひと、寝てるの? うそぉ~⁉︎ この状況で寝れるって、ど、どんだけ私、女扱いされてないのよっ!! む~か~つ~く~~ッ!!!!! さっきのも寝ぼけて、だよね……⁉︎ もし好きだとしたら、この状況下で寝れるわけがない。自分なら無理だ。 もう、考えるのをやめよう。 「なによ。私だけドキドキしてバッカみたい……」 眠った龍太郎からの包囲網からは、簡単に抜け出せた。 私が抜け出すと、龍太郎はむにゃむにゃ言いながら仰向けになった。 龍太郎は本当に寝ていた。 寝顔は見惚れるほど、奇麗だった。 無邪気で、可愛くて…
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-24
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第32話

「龍太郎は本当に苦労人だよ。若い頃は勉強、勉強。医師になってからも、勉強。それに父からの過度な期待……」 え……? 龍太郎は苦労人なの? は? お金持ちの家で育った|御曹司《ボンボン》なんじゃないの? 「ん? なにも龍太郎から聞いてない?」 光太郎が怪訝な面持ちで尋ねてきた。 「……龍太郎先生と、きちんと会ったのは先日が初めてなんです。なので、そんな深い話はしていません……」 私はぐっすりと眠る、龍太郎のあどけない寝顔を見つめながら答えた。 どうみても苦労人には見えない……、そんな輝かしいオーラを放っていた。 私は龍太郎を見た目だけで判断していた……。彼にいろんなことを言って、申し訳ないことをした。 「……そうなの? 龍太郎は半年ぐらい前から、とある女の子の話は時々してたけど、あれ君のことじゃないのかなぁ?」 光太郎が首をかしげた。 半年も前? こっちは先日会ったばかりだ。しかも出会いも最悪。パンツから出会いが始まったようなもんだ、私じゃない。 「それは多分、私ではないと思います……」 おそらくメッセージのやり取りをしていた、既婚女性のことだろう……。 それにこれだけ美形なら、他にもたくさん女性は寄ってくるに決まっている……。 なんだろう……。なんか、もやもやする……。 チクリと胸が痛んだ。 「……そうなんだ。僕はてっきり鈴山さんのことかと……。話してみたい女の子がいるとは聞いてたけど、君のことではなかったか……。う~ん……」 光太郎は宙を見つめながら、顎に手を置いて、なにやら考え事をしているらしかった。 そしてそのまま会話を続けた。 「|龍太郎《おとうと》は、小町さんのために勉強しかしてこなかった、マジメな子だからねぇ……」 私は耳を疑った。小町さんってたしか……、龍太郎のお母さん? え? その言い方は、まさか、お二人は腹違いの兄弟? ……なんか家庭が複雑な感じ? ん? マジメ?? どこが? 隙あらば触ってくるイメージしかないんだけど?? 「まぁ、ちょっとひととは違う不器用なところもあるけど、優しくて根は良い子だから。仲良くしてやってね」 光太郎はそういうと微笑んだ。 光太郎は龍太郎のことが大好きなんだ……。 いいお兄さんを持ったんだな、良かったな
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-25
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第33話

「み、見てない!!」 私はベッドの側を慌てて離れた。 私の動きに合わせるかのように、龍太郎の視線がこびりつく。 なんで見てるのよ……。変なヤツ、変なヤツ、変なヤツ——!! 「プ、プリンでも食べよっかなぁ⁉︎ ふんふふ~ん」 ごまかすようにして、私は冷蔵庫の方に向かった。 普段はぜったいに歌わない鼻歌なんか歌って、自分が自分じゃないみたいだ、この男のせいで……! 龍太郎のコンビニプリンより賞味期限が近いのは、洋菓子店『アンジュ』のカスタードプリンだ。 まずはこちらから食べねば。 私はソファに座り、目の前のテーブルにアンジュの箱を置き、中からひとつしかないカスタードプリンを取り出した。 「わぁ、美味しそう!」 こんがりした焼き目が透明な容器から見えた。カラメル部分がこれまた美味しそうな、栗皮色を放っている。 「……ほんとに|美味《うま》そうだな」 頭上から声がして龍太郎がソファに座ってきた。 また隣だ。 先ほどの話からすると、龍太郎は子供の頃どうやら、ひどく寂しい環境で育ったらしい。 こうして自分にちょっかいを出すのは、きっとかまってほしいだけなのだ。 現に光太郎もよくご飯を一緒に食べている、と言っていた。 要はもう病的な寂しがり屋なのだ。だから隣に座ってきたりするのだ。 私はそう解釈した。その思考で自分を落ち着かせている。 「……アンジュのカスタードプリンが奇跡的に売れ残っていたらしいよ。さっき、けいちゃんたちが持ってきてくれた。龍太郎、食べる?」 私は龍太郎にプリンとスプーンを渡した。それだけで自分の鼓動が早くなる。 なんだか、おかしい……。 自分の中に生まれつつあった感情が、今、形に成りつつある——。 「……ひとつしかないのか? しかもこれ、おれでも知ってる、入手困難なプリンじゃないか」 龍太郎の声に戸惑いが混じっていた。 「うん。でもいいよ。龍太郎、疲れてるみたいだし……。私、龍太郎からもらったプリンがまだたくさんあるから……。けいちゃんたちには申し訳ないけど、クッキーとか他にもアンジュのお菓子は色々いただいたし。龍太郎が食べなよ」 私は冷蔵庫からコンビニのプリンをひとつ取り出した。 そしてプリンを持って、また龍太郎の隣に何事もないように座ったが、先ほどより、少
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-26
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第34話

龍太郎は視線を落としたまんま、私を一度も見ることもなく、部屋を出て行ってしまった。 しんと静まり返った病室。彼の香りだけが残っている。 ——傷つけた。触れられたくない部分にズカズカと踏み込んだ。彼女でもなんでもないのに……。龍太郎が誰と不倫してようが、私には関係ない……。 ……関係ないじゃない、私には。 それから、龍太郎が私の前に姿を現すことはなかった。 *** 「血液検査の結果も異常なし。肝臓の数値も正常に戻ったね。よし、もう大丈夫。退院しても良いよ」 光太郎と私は話をしている。 結局、一週間入院し、本日午後から退院となった。 「誰か迎えにきてくれる家族はいるの?」 光太郎が尋ねてきた。 「家族は来ません……。会社の上司がきてくれます」 田村係長だ。どの道、そのまま今日は係長と会社に行き、退職手続きをしなければならない。 「あの、龍太郎先生は? 入院費のことも結局、うやむやになって話し合いができていないんですが……」 私は力なき声で光太郎に尋ねた。光太郎は龍太郎から、なにか聞いているだろうか? 「ああ、龍太郎なら先日からこっちにいないよ。学会に行ってるからね。そのあとも研修だし、しばらくは帰ってこないよ」 「……そうなんですね……」 きちんと話もできないまま退院か……。あのあと、こちらから連絡しづらくて、向こうからも連絡は来なかった。 「なになに? 入院費? そんなのもう、甘えちゃえば?」 光太郎が踏み倒し屋みたいな発言をした。時々、このひとも言葉選びに難ありだ。 清々しい天使のような風貌で、さらりと悪魔みたいなことを言う。 「え? いや、きちんと払います」 「……龍太郎が今まで付き合ってきた女性は、みんなうまく甘えてたけどね……」 光太郎が真っ直ぐに私の顔を見た。その瞳は物言いたげな色を宿していた。 「……ま、そんな君だから良いんだろうね」 なんの話だろう……。光太郎先生、私たち、喧嘩したまんまだし、そういう相思相愛みたいな関係じゃないんですよ……。 「じゃ、落ち着いたらお仕事のほう、よろしくお願いしますね、鈴山さん。体調管理にはくれぐれも気をつけてね」 光太郎はにっこりと微笑むと、静かに病室から去って行った。 雇用契約書はもう記入した。 夜勤がないぶん、手取りが安
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-27
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第35話

数えきれないほど通勤した山道を、係長の車が通って行く。 「あ、もう会社ですね。意外と入院先から近かったんですね」 よく知ってる建物、事務所と白い工場が見えてきて、私はハンドルを握る係長に声をかけた。 係長の車の中は至ってシンプルだった。 匂いのキツくない石鹸の香りの芳香剤と、ティッシュが置いてあるだけだった。 奇麗に掃除されている車内、それは係長の性格を表すようだった。 「…………早いね。まだ二時半過ぎだし、もうちょっと、このあたりをドライブしたいな。ダメかな?」 係長がちらと私の顔を見てきた。その瞳は少し熱を帯びているようにも見えた。 「え、い、いや、でも係長、お仕事は?」 私は係長の大人の笑みにドギマギした。 突然、そんなことを言われて驚いたのもある。 「今日は休み取ったんだよ。なんで好きな子が退院するって時まで、仕事しなくちゃいけないわけ?」 うっ! このひとは|言葉責め《ワードアタッカー》? タイプだ(意味不明) 「……か、係長。どうかしてますよ。なんで私なんて……」 私は自分の毛玉が付いたトレーナーを見る。あらためて見ると、龍太郎が言ってた意味がわからなくもない。 ダサい……、ダサすぎる。女子力ゼロだ……。恥ずかしい……。 「なんで? 鈴山さんは笑わないところがすごく可愛い」 係長が目を細めて微笑む。 「は? 笑わないところがですか?」 私は真顔で係長に聞き返す。なんだ、それ? 「そう、簡単に笑わないところがいい。無愛想なところがすごくいい」 くしゃくしゃの笑顔で言う係長。 「なんですか、もぅ! それぜんぜん褒めてませんよ⁉︎」 私はくすくすっと笑った。あれれ? 係長ってこんなひとだったんだ。 「そう……。君って本当に楽しい時にしか笑わないから……。裏表がないっていうか……、安心できる」 係長の横顔は少し遠くを見ているようにも見えた。 係長が山道の路肩にいきなり車を停めた。え? なに? 誰かに連絡でもするの? 「どうしました?」 私は不思議に思って、係長の顔を確認する? 「いや、鈴山さんを笑わせたいなって、さっきみたいに……」 「……み、見てたんですか⁉︎」 え? さっきのくすくすって笑いだよね? 「見てるよ。でも事故りそうだったから、ちょっとしか見れ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-28
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第36話

「と、友達でいいのなら……、こちらこそ、よろしくお願いします」 私はなんとか返事をしたが、正直かなり戸惑っている。 ここまで真剣に丁寧に、告白してくれたひとは初めてだった。 「鈴山さん、ありがとう。嬉しいよ。僕は先日、君と剣堂先生を見た時に諦めようか、と悩んだんだ。とても仲が良さそうだったし……。あんなかっこいい男性に勝てる気がしなくてね……」 「……龍太郎先生とはそんなんじゃないですよ。あのひとが私を|揶揄《からか》って、遊んでいるだけです」 「そうかな……? 僕にはそうは見えなかったけど……」 「そんな仲じゃないです……」 そう思わないと苦しい。すごく好きになる前で良かった。 ん? でも来月からは龍太郎と職場で会うんだよなぁ、うわぁ、気まずい。 「龍太郎先生か……。彼をそう呼ぶなら、僕のことも名前で呼んでほしいな、『|隼司《しゅんじ》』って」 係長が口元に曲線を描きながら、私の目を見てくる。 心なしか、先ほどより顔が近い気がする!! うぅっ! その距離、およそ三十五センチといったところか⁉︎ それにちょっぴり楽しんでいるように見えるのは、私の目がおかしいんですか⁉︎ 「え、いやそれは、おいおいで……」 いきなりの名前呼びは、龍太郎だけでもう十分です。 「なんで? 剣堂さんは下の名前呼びなのに?」 うぉ~! このひとは言葉の攻めがすぎるぞぉ!! しかもそのやたらめったら、白くて吹き出物ひとつない美肌をこれ以上、ち、近づけないでください! こちとら耐性がないんですって! 「え~、もう、係長のキャラじゃないですよ、こんなの」 いきなり異性を名前呼びはキツい。男友達すら、ろくにいなかった私には拷問でしかない。やめてくれ。 「僕のキャラってなに? マジメでつまらない会話しかしなさそう?」 「いえ、誰もそこまでは……」 「僕が君を笑わせたら、じゃあ雪音さんは、僕を名前呼びにしてくれる?」 雪音さんと呼ばれて、私は心臓が跳ねるのを感じた。 「……なんですか、もぅ。……いいですよ、絶対に笑いませんから」 笑ったら負けだ。 「布団が吹っ飛んだ。馬が埋まった」 「……ふっ、そんなことでは笑いませんよ」 「…………」 しばらく黙っていた係長は観念したように、大きなため息をついた。そして自分の
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-29
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第37話

それからの私は、寮の片付けとアパート探しに、車の売却などなど、諸々に追われる日々を送っていた。 「二十一万⁉︎ うわぁ、高いなぁ……。1LDKでこの値段……? いったいどんな物件だよ……なるほど、高級マンションか」 不動産を何軒か回りながら、新しい職場に近い物件を探す。ここ数日そんな日々が続いている。 駅近はとてつもなく高いなぁ……。 自分にもっと稼ぎがあればな……。 どうしようもなくても、考えずにはいられない。 車を売却するので、少しでも便利な場所に住まないと暮らしが大変だ。 「最低条件は駅まで徒歩十分……お風呂とトイレが別で……、エアコンもないと夏場、間違いなく死ぬな……」 光太郎からは始めはロングパートから始まり、そのままなにも問題がなければ、半年後に正社員登用するといわれた。 ロングパートの時は時給制だ。 計算してみたが、手取りでだいたい十六万ぐらいだろう。頑張らないと。 何軒か物件を見て決めたのは、駅から徒歩十分の古ぼけたアパートだった。 なにが決め手になったかというと、6畳二間の2DKなのだ。 寮は1DKだったので、もう少し広さが欲しかった。 部屋干ししたりする広さや、リビングと寝室を分けたいとは前々から思っていた。 そして家賃。なんと管理費込みの五万だった。建物は古いが、この金額なら払っていける。 お風呂もトイレも古いが、キッチンには小窓が付いていて気に入った。そしてなんと新品同様のエアコンも付いていた。 これはラッキーだった。 部屋は203号室。一番奥の部屋だ。もともとが小さい建物で六部屋しかないようだ。 私は慌ただしい毎日の中で家電も買い、新居に運んだ。大きいものは配達してもらう。 冷蔵庫に、洗濯機、テレビにガスコンロ。 今まで使っていた家電は寮の備え付けのもので、自分で買わなければならないものは山ほどあった。 お金はかなり使うけど、新しい生活に私は少しワクワクしていた。 思い切って車は売却した。思った通り、少し赤字だった。仕方ないので差額分を一括で支払う。 だけどこれで、やれ車検だの、税金だの、オイル交換だの、車に関する様々なことから解放され、気持ちは楽になった。 これからの私の移動手段は、|自転車《ママチャリ》だ。色は赤にした。 自分が好きな
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-30
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第38話

「ふぅ……」 丸三日かかって、やっと片付けが終わった。 転居ともなう手続きも、ようやく終わりそうだ。 時刻は午前十時……。 「あぁ、もうお金ないや。信じらんない。物価高って本当ヤダヤダ。すぐにお金がなくなる! はぁ、出かけるの面倒くさいけど、郵便局だと土曜日も手数料|無料《タダ》か」 私の財布には千円しか入っていない。|心許無《こころもとな》さすぎる。 ゴロンと畳に寝転んで、部屋の中を見る。初めての一人暮らし。 部屋のカーテンはリビングが黄色、寝室が水色。至ってシンプルなカーテンだ。量販店の安物だが、私は気に入っている。 女の子らしい部屋なんて、作り方がわからない……。雑誌に載っているような可愛い部屋は私には作れない。 まず、ピンクが似合わないから無理無理。 新しい家電に囲まれ、新生活が始まった。それだけでもワクワクする。大型家電を買ったのは初めてだ。 私はスマホを取り出した。 親に連絡するのはもう少し落ち着いてからにしよう……。 私はライムのアプリを見た。 ……連絡なし、か……。 龍太郎にライムメッセージを送ったが、既読スルーされて三日目。 既読がついて、彼が健在なのはわかったが、新しい職場でどんな顔をして会えばいいんだろう……。 まだ、怒ってるかな……。でもあれは不可抗力だったと思うんだけど……。 それでも|他人《ひと》の色恋沙汰に口出しした、自分が悪い……。 気分転換に今から出かけるか……。 私は重い腰を上げ、自転車に|跨《またが》った。 スーパーまでは自転車で五分程度。新しい職場までは十分程度。 今日は天気でよかったなァ……。 私は黒いヘルメットをかぶり、自転車を漕ぎ出す。 駅前の郵便局でお金を必要なぶんだけ引き出す。とりあえず、二万でいいか……。 その足で駅前のスーパーに寄る。中に花屋さんもあって、薬局まである便利なスーパーだ。 この間、お米は買ったから、おかずだけ買えばいいか……。 私は今日は黒のロンTに、下はジーンズだ。青いスニーカーに黒のバックを斜めがけしている。 スーパーの独特な匂いがする中を歩き、私は物色する。 玉子を買い物カゴにいれ、惣菜のサラダと煮物もカゴに入れた。 今日の特売品は……しめじと、大葉か……。それにナスと鶏ミン
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-01
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第39話

「懐かしいな。この古い土壁も……。畳の匂いも……」 龍太郎はなにやら昔を思い出しているようだった。あちこち手で触っている。 私はリビングのテーブルの前に座って、沸かした麦茶を飲んでいる。 龍太郎にもお茶を勧めたが、彼はこの家に夢中だ。 「龍太郎、ねぇ、ほんとにこんなところに住んでたの?」 私は信じられなくて尋ねた。龍太郎はどう見ても貴公子だ。気品に満ち溢れている。 「……ああ、おれん家、高校まで母子家庭だったからな」 さらりと話す龍太郎。 「……そうなんだ」 返答に困る内容だ。しかし龍太郎が母子家庭で、ここと似たようなところで育ったなんて、とても信じられない。 「おれん家さ、ものすごい貧乏で、母さんが仕事をいくつもかけもちして夜遅くまで働いてて、おれは当時、友達が持ってるおもちゃとか、なにも持ってなかったから、仲間に入れてもらえなくてさ、しかたなく家で勉強ばっかりしてたな……」 窓際に腰掛けながら、龍太郎が静かな口調で話す。その目はどこか遠くを見ている。 窓の外には住宅街が広がっているだけで、ベランダもない。 「ここ、いいところじゃん」 龍太郎がなにげなく言ったひと言が、私の心に明かりを灯した。 「ねぇ、龍太郎……」 私はずっと言いたかったことを彼に伝える。 「龍太郎のプライベートにまで口出ししてごめんね。龍太郎が誰と、どんな恋愛しようが自由だよね……」 自分で言ってて悲しいが、この間は距離を詰めすぎた。 龍太郎にとって、もしかしたらその恋は特別なのかもしれない。 真剣なものなのかもしれない。 たとえ、世間がなんと言おうと……。 龍太郎が私の方を向いた。その目は呆れているようだった。 「おまえ、マジであれ、傷ついたからな」 「ほ、本当にごめんなさい……」 「おまえがどう思ってんのか知らねぇけど、あれさ、いとこのねぇちゃんたちなんだよ。……言いにくいんだけどさ、おれ一人で飯食うの苦手で、それで誘ってくれてるわけ。昔っから、よく面倒見てもらってんの」 「え? いとこのねぇちゃんたち??」 私は素っ頓狂な声を出した。 「そう、双子なの。二人いるからメールも多い時は多いわけ。ちなみにどちらも既婚者。だからおれ、不倫とかしてねぇから」 龍太郎はまっすぐな目で私
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-02
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第40話

私は龍太郎の家でメイドとして働くことを考えただけで、頭がいっぱいになった。 ……どんな家に住んでいるんだろう……。家ではどんな過ごし方をしているんだろう。ドラマとか見るのかな? 朝はパン派? ご飯派? ただひとつ、ずっと気になっていることがある。 「りゅ、龍太郎は、か、彼女とか、そういうひといないの? 私なんかが家に行って、だ大丈夫なの?」 思い切って聞いた。おそらくいないから、私を家に呼ぶのだろうが、はっきりこの耳で聞くまでは安心できない。 「……残念ながらいないな。だから大丈夫だ」 予想したとおりの、あっさりした返事だった。 「そ、そうなんだ」 私の中に舞い上がる気持ちが湧き出てくる。 「おれさ、あんまりひとを好きになったことなくてさ、別にそのひとが誰といようが、あまり興味が湧かないっつーか……」 ……え? 私の中に墨汁のような、真っ黒いものが広がった。 『あんまりひとを好きになったことがなくてさ——』 今、自分もその中に入っている。 わかってはいるよ、龍太郎が自分なんか好きにはならないって……。 「それより昼飯、食べに行かねぇ? 朝からなんにも食べてないんだけど……」 龍太郎が麦茶を飲みながら言った。 「じゃあまた、あのお寿司屋さん行こうよ⁉︎」 私は努めて明るく言葉にした。キャラじゃないが、今はこうして、自分の中に湧いた真っ黒の感情をごまかしたい。 「……おまえ、またあの回転寿司かよ。ふっ、まじで子供だな。しかたねぇな」 龍太郎が鼻で笑った後、屈託のない笑みを浮かべた。 「なに~、その言い方。美味しくて安いなら最高でしょ」 自分は龍太郎の好きなひとの中に入っていなくても、今は一緒にいられるから、それでいい。 それに恋愛は今は怖い……。このまま片思いでいい。 いつか賞味期限がくる『交際』はいらない。 *** 龍太郎と食べるお寿司はとても美味しかった。幸せだった。 この時がずっと続けばいいのにって、思った。 一皿に乗っている二貫のお寿司を龍太郎と二人で分ける。 『半分こ』は格別に美味しく感じた。 午後二時前。お寿司を食べた帰りに龍太郎にお願いして、トイレットペーパーを買うため、薬局に寄ってもらった。 龍太郎と薬局の中を歩いた。目立つのか、主婦のひとや、店のひ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-03
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