「葉原さん、離婚協議書、無事に手に入りましたよ」電話越しに、佑海が穏やかな口調で報告した。「陸川もすでに署名済みです。あとは役所で手続きを済ませれば、正式に離婚証明書が得られます」「えっ?もう署名したの?」電話の向こうから聞こえてくる春陽の声には、驚きがにじんでいた。だが、その驚きは未練ではなかった。彼女が協議書に記した条件は、決して簡単に受け入れられるようなものではない。高月瑶葵に奪われた子宮を、返還させること。「私が書いた条件……彼、本当に全部承諾したの?勝手に書き換えたりしてないでしょうね?」「ご安心ください」佑海は落ち着いた声で答えた。「協議書が届いたあと、一字一句漏らさず確認しました。内容に一切の変更はありません。葉原さんが提示したすべての条件、陸川はすべて了承してます。高月から子宮を取り戻す件も、例外ではありません」「……そう」春陽は少し笑った。「そんなことまで認めるなんて、あの人はまったく……」それ以上の言葉は続かなかった。そこまで譲歩できる人間なんて、いったいどれほど冷酷なのだろう。彼は自分に対してだけでなく、瑶葵にさえ、情のかけらもなかった。おそらく、この男が本当に愛しているのは、自分自身だけだろう。しかし実のところ、明茂は離婚協議書の内容をまともに読んでもいなかった。ただ、署名して佑海に渡しただけ。なぜなら、彼には最初から離婚する気などなかったのだ。署名はただの「餌」で、春陽の居場所を突き止めるための、手段にすぎない。そして今まさに、佑海が春陽と通話しているこの瞬間、莫大な報酬で雇われたハッカーが、その通話を手がかりに彼女の現在地を割り出していた。ハッカーは佑海の事務所のすぐ下の階に潜んでいた。距離が近ければ近いほど、信号が強くなり、位置の特定も精度が高くなる。佑海の事務所を出るとすぐに、明茂は階段を駆け下り、ハッカーのもとへ向かった。「どうなった?」焦りを隠せぬ声で尋ねた。「春陽の居場所、分かったか?」「現在、解読中です」ハッカーは冷静に答えた。「元奥様のスマホには、かなり高度な追跡防止システムが入っています。専門家が設定したものですね。突破には少し時間がかかります」「元奥様って誰のことだ?俺と春陽は離
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