九条冬真(くじょう とうま)と結婚して、もう十年になる。その間、彼が浮気してきた相手――歴代の「彼女たち」とは、全部顔を合わせてきた。彼が飽きて新しい子に乗り換えたくなったとき、私の存在はいつも便利な口実だった。「結婚したら、君も彼女みたいになるよ。慣れすぎて、何のドキドキもなくなる」まるで見せしめみたいに、私を指してそう言う。結婚記念日の今日、私は彼が振ったばかりの大学生の子の涙を拭いてる。プレイボーイと結婚するには、修行が要る。手元のティッシュがどんどん薄くなっていくのを見ながら、ふとそんな言葉が脳裏に浮かんだ。目の前の女の子、名前は朝倉凛花(あさくら りんか)。まだ大学四年生らしい。ここに来てから、もう二時間も泣きっぱなしだ。そもそも、彼と付き合ってからまだ一ヶ月しか経ってない。そこまでメイクぐしゃぐしゃにして泣くような間柄じゃないはずなんだけどなあ。何か声をかけようとした瞬間、彼女が目を赤くしながら私を見た。「彼、言ってたの。私ってあなたにちょっと似てるって……こうして見てみると、確かに似てるかも」私は一瞬固まった。今まで冬真の彼女たちがそんなこと言ってきたことは、一度もなかった。凛花は鼻をすすりながら、目元を拭った。その口調には、痛々しい嘲りすら混じっている。「慰めなんていらない。あなたのほうが、よっぽど可哀想よ」……まあ、そうかもしれない。浜市じゃ誰でも知ってる話だ。冬真って、すっごく「良い奥さん」貰ったんだって。浮気されても黙ってて、しかも彼の元カノたちを慰める。彼が次々に手を出していた子たちのことを、私はいつも「元カノ」と呼んでた。その度に、私は正妻のプライドなんて地面に落としてたんだ。テーブルに置いたスマホがブルブル震える。画面には、冬真の名前。【まだ終わらないの?映画もうすぐ始まるよ】……映画、ね。私はスマホを伏せて、真っ赤な目をした凛花と視線を合わせた。「何か補償が欲しいなら、言って。私が話を通すから」このセリフ、何度も口にしてきた。今ではすっかり慣れた口調。まるでリストラ担当の人事部みたいだ。凛花は鼻で笑って、勢いよく立ち上がる。「何もいらない」私はため息をついた。「せめて、何かもらっときなよ」お金でも、
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