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第4話

Penulis: 黒紅嵐樹
その頃の私は、まだ知らなかった。

冬真が私を探して、浜市をまるごとひっくり返す勢いで動いていたことなんて。

霧国。そこはかつて、美遥が行きたがっていた場所だった。

彼女は叶えられなかったけど、私はこうして来ていた。

さびれていく街をひとりで歩いていると、ふと自分が美遥になったような気がした。

誰も知らなっかた、私がこっそり絵を学びはじめたのは、心から絵を好きだったからじゃない。

そうすれば、彼女に――美遥に、少しでも近づける気がしたからだ。

彼女に似ていれば、きっと冬真の近くにいられる。

もっと、もっと近くに。

だけど皮肉なことに、美遥は途中で絵をやめてしまった。

筆を置いた彼女と入れ替わるようにして、

「絵が語りかけてくる」ってまで言われる、天才画家――それが私になっていた。

冬真と結婚していた十年間。

その時期こそが、私の作品が最も評価された時期でもあった。

今では、あの頃描いた何十もの作品が、霧国でいちばん大きな美術館に飾られている。

私は、ぼんやりした日々を過ごしながらも、美術館に足を運ぶことはなかった。

そして展示の最終日が近づいたある日、ようやく中に入った。

予想通り、観客はまばらになっていた。

厚手のコートを羽織った私は、ようやくひとつひとつの絵と、ちゃんと向き合えた。

「燃焼」「囚われの鳥」と見てまわり、私は「花のように咲く」の前で足を止めた。

その隣に、誰かが立っていた。

視線は私と同じく、枯れた少女の頬に向けられていた。

「花開くっていうのはさ、命を燃やすこと。でも――所詮は無駄な蛾の火遊びだ」

彼は軽く笑ったが、その目に笑みはなかった。

ちらりとこちらを見たその瞳に、私は見透かされるような居心地の悪さを覚える。

まるで私じゃなくて、別の「誰か」を見てるような目。

その視線に、強い嫌悪感が湧いた。

過去十年、冬真に感じ続けてきた、あの嫌な目とまったく同じだったから。

私は足を動かし、彼から離れようとした。

でも彼は、急ぐでもなく、ゆっくりと私のあとをついてくる。

「君たち、よく似てるよ」

思わず足が止まり、指先がピクリと震えた。

彼の声が、低く静かに背後から届く。

「美遥が言ってた。君の方が絵の才能は上だって。

それに、稲留家に嫁ぐのも君の方が向いてる。君は生まれつき翼を持ってて、どこにも縛られないって」

手のひらがじっとりと汗ばみはじめていた。

彼は言葉の調子を変え、冷たい皮肉をたっぷり込めて笑った。

「でも彼女は、君がバカ正直に自分の翼を折って、喜んで操り人形になろうとするとは思ってなかっただろうな」

心臓がぎゅっと痛んで、私はついに堪えきれず振り返った。

その目で彼をまっすぐににらみつける。

「……一ノ瀬(いちのせ)!あなた、彼女を死なせてまだ足りないの!?」

言い終わる前に――私は言葉を飲んだ。

少し離れた場所に、険しい顔つきの冬真が立っていた。

一歩一歩とこちらへ近づいてくる彼からは、氷のような空気が滲み出していた。

そして、私と一ノ瀬悠(いちのせ はる)の間に無言で割って入ると、そのまま私を後ろへ引き寄せた。

怒気に満ちた瞳。その奥には、嘲笑のようなものすら浮かんでいた。

「……『新鮮味』だって?稲留姉妹は、男を見る目までそっくりだな」

その言葉と同時に、彼のもう一方の手が悠の首元をつかみ、壁に叩きつけた。

激しい衝撃音。

冬真の声は、ひとことひとことを噛み砕くようにして絞り出される。

「俺、言ったよな――二度と、お前の顔見せるなって」

けれど悠は、壁にもたれかかりながら、まったく動じた様子を見せなかった。

「九条さん、約束した追加出資が来ないから、わざわざここまで来たんだよ」

私を斜めから見下ろすその視線には、ただ侮蔑だけがこもっていた。

「君たちが俺に負ってるのは――稲留美遥一人の命。それ以上のものなんて、この世のどこにもねぇよ」

私はその言葉を、現実味のないまま、ぼんやりと聞いていた。

冬真の手に、さらに力がこもる。

悠の顔が、みるみる赤く染まっていくのが見えた。

「待って――!」

その瞬間、私は息を呑んだ。

……この人を、私は知ってる。

あの飛行機事故のとき、美遥の遺体が見つからなかった。

そのとき、彼は稲留家にやってきた。

……まるで、魂が抜けたみたいだった。

あれは、生きてる人間の顔じゃなかった。

彼は玄関先でひざをつき、何度も頭を打ちつけながら謝っていた。

額から血が流れるのも構わず、何度も、何度も。

「……美遥が使ってたものを、何でもいいから少しだけ……服でも、何でも……お願いです」

でも、激怒した両親は彼を殴り、罵り、そして使用人たちに命じて――彼を追い出した。
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