Todos los capítulos de ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文): Capítulo 261 - Capítulo 270

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3-84.佐倉鈴風(1/3)

 鈴風が帰って来たので皆でスーパーラウンドテーブルを囲んで朝ご飯にした。セブンチェアはクロエちゃんのピンクのを出しても4脚しかないので、ミユキ母さんのに鈴風が座ると伊左衛門の場所がなかった。「伊左衛門こっちおいで」 冬凪がお膝をボンボンと叩いたので伊左衛門がそこに座ろうとするとクロエちゃんが、「調子乗りすぎ」 とリビングのソファーまで連れて行き自分もそっちに座った。クロエちゃんはなぜか伊左衛門に厳しい。「わたしがそっちへ」 鈴風が半腰で言うので、「いいの。クロエちゃんは元々あそこで寝食する人だから」「そうですか。じゃあ」 N市に会員制女性専用のガルバ「Reign♡in ♡blood」を出店したばかりの頃、クロエちゃんはほんとに忙しそうだった。家に帰るのは、いい時で週一、悪ければ月一、12月、1月の年跨ぎで2ヶ月帰ってこなかったこともあった。帰ってきても自分の部屋には行かないで、シャワーしたらソファーで寝て起きたらまた出ていくという生活を3年以上続けていた。お店が軌道に乗って、ようやく家に落ち着くかと思ったら今度はVRゲームチームのオーナーになって世界中飛び回り前よりも帰って来なくなった。「クロエはノマドだから」 クロエちゃんのことをミユキ母さんがそう言ったことがある。ノマドというのは放浪者、つまり決められた場所にいない人という意味だ。そう言った時、ミユキ母さんは寂しいのかなと顔をチラ見したら、案外楽しそうだったのを覚えている。ミユキ母さんは今年の夏もそうだけど長期休暇の間はフィールドにずっといて帰って来ない。世界中どこへでも調査に出かけていくし。結局二人とも家に居着かない人たちなのだ。つまりお似合いの二人ということなんだろう。知らんけど。(死語構文) 食器洗いを手伝ってくれている鈴風に、「協力って何すればいいの?」 と聞いてみた。赤さんとは協力をするということだけ約束して具体的なこと
last updateÚltima actualización : 2025-10-04
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3-84.佐倉鈴風(2/3)

 鈴風は洗い終わったお皿を拭いて手際よく元の棚にもどして行く。どこに仕舞うかなんて教えてもいないのに。それを後ろで見ながら鈴風が園芸部に入ったばかりの頃を思い出した。不慣れなはずのVRの作業をしてもらったら説明する前にすぐにこなせるようになった。それで十六夜が、「夏波、あたしは金脈を掘り当てたぞ!」 と喜んでいたのだった。あたしも鈴風に園芸部の未来を託すつもりで情報を開示してきた。部室にある機材の使用方法はもちろん、十六夜の自宅のVRブースにアクセスする方法だって教えた。「夏波先輩。ごめんなさい」 鈴風が食器をしまい終わって食器棚の扉を閉めたまま振り返らないで言った。 鈴風にはクチナシ衆としての立場があるのは分かる。本当は色んなことがリサーチ済みだったのだろう。なら、みんなで10円アイスを食べながらワチャワチャしてたあの時間は何だったんだろう。それを思うと悲しくなってしまった。「何が?」「わたしが借り移しの術を受けられたら、十六夜先輩をあんなことにしなくて済んだんです」 何の謝意も感じられない鈴風の言葉に愕然とした。そのことには大きな力が働いていて、自分の意志などその力によって押し出されてしまい、たとえ実行しているのが自分でもその責任は自分にはないという考え。それって裏を返せばただのご都合主義だ。以前ミユキ母さんが言っていた。「夏波。ご都合主義ってのは物語だから許されるんであって、リアルなのはダメなんだよ。物語の場合は人に害はないけれど、リアルでは人を傷つけずにはおかないからね」 自分たちの都合ばかりが優先されて、人がどんなに傷つこうと意に介さない態度。鈴風は、それが自分の主人の志野婦を人柱にしたトラギクと何ら変わらないことに気がついてないらしい。それで何が共闘だ。利害だけの絆なんか、もし目の前に我と人との選択がぶら下がっていたら一瞬で消し飛ぶに決まっている。「もうい
last updateÚltima actualización : 2025-10-04
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3-84.佐倉鈴風(3/3)

 ソファーに深々と腰掛けて興味なさげにモニターを見ていた伊左衛門に、「ちな、あなたはあの人とどんなご関係?」「名義の貸し手」 それってヤバいやつ? するとクロエちゃんが、「イザエモンは、元の名前で活動できないから夕霧物語の名前をつけてたんだけど、この子がそれを知って名義料請求してきたんだよ。結構な額をね」 そうだったんだ。クロエちゃんが伊左衛門に厳しい訳がわかった気がした。すると鈴風が食い気味に、「元の名前って、夜野まひ…」 すかさずクロエちゃんが鈴風に飛びついて口(今はちゃんとついて見える)を押さえて、「分かったわかった。今度まひ、でなくてイザエモンが帰ってきたら会わせてあげるから。皆まで言うな!」 相当な慌てようだけれど、調べたらVRゲーマーのイザエモンが実は死んだはずの夜野まひるだということは、ゲーマーたちには既知情報だったりする。「よかった。藤野家に当たりつけて正解だった!」 鈴風はさっきの非人情さとはまったく別の、推しに一歩でも近づけた人のテンションだった。いったい鈴風は何目的であたしらに近づいたのか? もしかして推し活優先だったの? 昼前、ブクロ親方が豆蔵くんと定吉くんを連れて到着した。冷たい麦茶を出したら豆蔵くんと定吉くんが砂糖を欲しがったので角砂糖を出してあげた。すると麦茶に角砂糖を入れてかき混ぜ出した。そんなに入れたら飽和して溶けなくなるぞとブログ親方に言われても無視してありったけの角砂糖を入れるものだから案の定、コップの底半分が白い層になってしまった。それを豆蔵くんも定吉くんもガブガブと飲み干すと口のなかをジャリジャリいわせながら、「「うー」」 もう一杯くれと言った。角砂糖はそれで終わりだったのでキッチンの食材棚から上白糖の1キロの袋とコップだとめんどくさいだろうからピッチャーを食器棚から出したら、「やめにしてください」 ブクロ親方に制止された。この二人、どこまで行くか知りたかっ
last updateÚltima actualización : 2025-10-04
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3-85.あの世の行き方(1/3)

 冬凪が目的地をあの世だと言った時、驚いたのはあたしだけだった。ここにいる皆んな、いずれそうなると分かっていたよう。冬凪はいつもの、顎にL字にした指を当てるポーズになって話し出した。「あたしたちの一番の目的は前園十六夜の救済です。十六夜は今、VRブースに拘束されたままトラギクに掠われ、魂どころか身体の行方まで分からなくなっています。私たちはこれまで辻川ひまわりとともに人柱をブッコ抜く作戦を展開してきました。しかし、辻沢の人柱のうち千福ミワが六道辻の爆心地に埋めらたままなのに加え、借り移した志野婦は十六夜ごとトラギクに掠われてしまいました。さらに一旦はブッコ抜いた調由香里の首さえも、今回のヤオマン御殿の爆発で六道衆の手に落ちたと思われます」 冬凪とあたしは20年前から戻ってヤオマン御殿を訪れた時、ホムンクルスの調由香里の徘徊姿を目撃していたのだった。つまり調由香里の首もヤオマン御殿にあった。それを考えるとあの爆発は、十六夜のお腹の志野婦だけでなく、調由香里の首まで奪還するものだったと言える。「では十六夜は今どこにいるんでしょう?」 冬凪はマリーゴールドが咲く庭を一瞥してから顔をこちらに戻し、先を続けた。「ヤオマン御殿のVRルームのモニターには渦巻き銀河を見下す宇宙空間が映っていました。あたしはそれをVRのロック画面かなにかと思っていましたが違うと考えるべきだったです。では何か?あのモニターには十六夜がつけているVRゴーグルからコードが伸びていました。おそらくあの映像は十六夜がVR空間で見ている景色なんじゃないか。夏波、そう考えていいよね」 園芸部のVRブースも利用者が体験している映像をVRゴーグルを通して外部モニターに映し出すことができる。ヤオマン御殿のVRルームはいわば集中治療室のようなものだから患者である十六夜の意識状態を外部モニターに映し出すことは当然のことだと思った。「いいと思うよ」「つまり、あの渦巻き銀河を
last updateÚltima actualización : 2025-10-05
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3-85.あの世の行き方(2/3)

「元祖」六道園の消失のことを話し終わると冬凪が、「伊左衛門。今ので何か思い当たることある?」 頬杖をついて興味なさげに聞いていた伊左衛門が、「まるで補陀落渡海だね」 舟で須弥山の彼方に消えた十六夜は、その昔、即身成仏の覚悟の上に絶海の彼方へ一人旅立った行者のようだと言った。冬凪は頷いて、「そしてその目的地は……」「あの世だ」 冬凪が続ける。「十六夜はきっとあの世に行ったんだと思います。そしてユウさんは十六夜を追ってあの世に渡った。二代目夕霧太夫として」 冬凪がクロエちゃんのことをチラ見した。クロエちゃんはそれに小さく頷いた。これが今朝キッチンで二人して料理をしながら出した結論なのが分かった。「だからあたしたちもそこに行かなければならないんです」 冬凪が言いたかったことは分かった。でも、どうやって行けばいい。やっぱ死ぬの?「う?」 豆蔵くんが大きな体を乗り出して、行き方はどうすると聞いた。続けて定吉くんが腕組みしながら、「ううう」 鬼子神社の船は使えないぞと念押しをする。「たしかにそうだけど、あたしたち鬼子には必ず方法があるはずです。なぜなら『鬼子は船であの世に渡る』と言われているからです」 それまで黙って聞いていた鈴風が、「逆に言えば船がなければ渡れないとも言えます。心当たりがあるんですか?」「ないです」 即答だった。「でも探します」 冬凪がうつむきながら言った。こんなこと頭から受け入れられる人なんていないだろう、皆んなの反応は微妙だった。でもあたしは冬凪の言うことをありったけで信じることにした。 こうしてあたしたちは、まずはあの世へ渡るための船を探すことになったのだった。 話し合いが終わると冬凪はその場にへたり込んでしまった。相当神経を使ったようだ。あたしはしゃがんで冬凪の肩に手を置いた。
last updateÚltima actualización : 2025-10-05
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3-85.あの世の行き方(3/3)

 しばらくしてブクロ親方は、「いつでも馳せ参じますので何か分かったら連絡をください」 と豆蔵くんと定吉くんを連れて帰って行った。クロエちゃんと鈴風はリビングのモニターでアムステルダムの試合を観ながら、夜野まひるの話で盛り上がっていた。冬凪とあたしは伊左衛門をキッチンに呼んで、あの世に渡る船のことを相談した。「伊左衛門の時はどうしたの?」「あたしたちは舟の形をした土車に夕霧太夫を乗せて引いたよ。それを船と言えるならね」 そうだった。夕霧物語では、全身火傷に見舞われた夕霧太夫をサラシで巻いて木のタイヤがついた粗末な手押し車に乗せて街道を旅したのだった。「なんでそれだってなったの?」「当時何かを運ぶとなるとそれくらいしかなかったから」 環境要因ってやつか。「エニシはその都度、その旅に合った行き方を要求するよ」 あたしたちがあの世に旅立つためにはエニシが求める形をあたしたちで模索する必要があるということだった。けれど、きっとあたしたちだからという決定的な理由があるはず。だって十六夜を追ってあの世へ渡るのはあたしたちなのだから。「眺めてないでこっちにおいで。流れに棹ささなければ生きてる意味がないよ」 十六夜のメッセージ。そういえば、あの時あたしはヴァーチャルの産物であるはずの長竿をメタバースから持ち帰ってきたのだった。あの長竿、何処に置いてきた?あの後、部室から持ち出して十六夜に会いに行った。ヤオマン御殿で門前払いされたショックに熱中症が重なって気絶して目覚めたら十六夜の寝室だった。その時にはもう長棹を手にしていなかった。後で気がついて今度十六夜を見舞ったときに持って帰らせて貰おうと思っていたけれど、すっかり忘れてしまっていた。「冬凪、あたしヤオマン御殿行ってくる」 もし預かって貰っていたとしても長棹なんか爆発で何処かに吹き飛んでいるだろう。けれど行って確かめる
last updateÚltima actualización : 2025-10-05
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3-86.宮木野線で(1/3)

 昨日はブクロ親方のバモスくんで家に帰ってチャリを駅に置いてきてしまったのでN市駅までは歩いて行く。バスもあることはあるけれどバス停まで駅とは反対側に遠い分、直接向った方がよいから。N市の街中は隣町の辻沢で大爆発があったことなどよそ事のように平穏だった。冬凪とあたしは並んで歩いていて、その後ろを鈴風が黙って付いて来る。 家からN市駅まで歩くと、だいたい30分かかる。今は日中の炎天下、家々の影を伝ってお日様を避けながら来たけど大汗をかいてしまった。改札への階段を上るのもしんどい。 改札は混み合ってはいなかった。端の端の端の端の端の端の端にある宮木野線のホームへ行く連絡橋ですれ違った人もいなかった。階段を降りた所には汽車はいなくてホームの隅にチョコレート色の汽車が停まっていた。これも登校中と錯覚するほどいつもな感じだった。 一両だけの客車には一番後ろに向かい合って座れるボックスシートがある。そこに冬凪とあたしが並んで、対面に鈴風が座る。客車の木の床が油ぎってるのも、ビロード調の緑のシートがお尻に突き刺さるくらい硬いのもいつもの宮木野線だった。 しばらく待っていると運転手さんが長いホームをやってきて運転席に収まった。ピンポロピインピンポロピインピンポロピイン。発車のベルだけ無駄にかわいいけれども、ガシュー、ガコン、ガコン、ガガガ。ドアの閉まる音はめっさうるさい。〈は、っさすあぬ〉プファン。 最初のころアナウンスが何言ってるのか聞き取れなかったな。辻沢に着いたかどうかも分からないくらいだった。 今は夏休みで乗客はあたしたちだけだけど、普段の通学時は車両の中は女子高生だらけになる。宮木野線沿線には八つも女子高生があるからだ。あたしたちの辻女の他、ガルル育成学校の成実工女、県内一の進学校桃李女子、お嬢学校の清州女学館。他に何があったか思い出せないくらい多い。窓の外を見ると安定の田舎の風景。田んぼ
last updateÚltima actualización : 2025-10-06
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3-86.宮木野線で(2/3)

 車窓を向いていた鈴風がこちらを見て、「冬凪先輩。出かける前にしていたお話なんですけど、トラギクが十六夜先輩を連れ去った先があの世なんでしょうか?」 あたしもそれは引っかかっていた。「元祖」六道園が消失したのはトラギクに掠われるより前だからだ。それに対して冬凪は、「そうじゃないよ。あの世にいるのは魂の方だよ。鈴風さんはクチナシ衆が志野婦を借り移す先に十六夜を選んだ理由を知ってるでしょ?」 鈴風は言いにくそうに、「……鬼子だったからです」「どうして普通の人でなく鬼子なの?」 冬凪が質問を続ける。鈴風は小さな声で、「鬼子は元いる魂を簡単に追い出せるからです」 普通の人の場合、元の魂が他の魂の浸入を許さず、入れ替わった途端身体が死んでしまう。でも鬼子はそれがなくあっさりと身体を明け渡してくれる。ただ鬼子でも志野婦ほどの強い魂の浸入に耐えて長く生きられる者はなく、十六夜でようやく成功したのだと鈴風は言った。 鬼子神社から四ツ辻へ行く山道でクロエちゃんは、鬼子の身体は舟のようなもので、魂が身体を乗り移り前世、現世、来世と生まれ変わっていくと言っていた。逆に言えばそれは身体と魂との結合が脆弱ということでもある。「つまり、あなたたちクチナシ衆は十六夜の身体から魂を追い出して志野婦に乗っ取らせるつもりだった。ヒダルのように」 ヒダルは瀕死の鬼子に取り憑きその脆弱さを突いて身体を乗っ取ろうとする。〈ぬぇ・いー。ぬぇ・いー。『ヒナギクさく丘』、ぬぇ・いー。デス〉 成実に到着。アナウンス、絶対成実って言ってない。いつもならガルルファッションの子たちが全員降りるから極彩色が消えて車内が急に寂しい感じになる。でも今日はあたしたちだけ。 ピンポロピインピンポロピインピンポロピイン。 ガシュー、ガコン、ガコン、ガガガ。〈は、っさすあぬ〉プファン。 車窓の向こうは、再びいつもの田舎の風景になる。 あたしはふと沸いた
last updateÚltima actualización : 2025-10-06
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3-86.宮木野線で(3/3)

 ガガッガガン、ガガッガガン! 鉄橋に差し掛かった。辻沢の東端は名曳川の流れが作った断崖になっている。そこを渡るのが名曳川鉄橋だ。これを過ぎればあと少しで辻沢に到着する。汽車が鉄橋を渡り切ったあたりで少し冷静さを取り戻すことができた。 一つハッキリと分かったことがある。十六夜は恋なんてしてなかったということ。志野婦を孕んだことを嬉しがってなかったのだ。ただ、冬凪とあたしがエニシの糸の先に感じた、十六夜の心の平穏さは本物だった。こんな仕打ちを受けたのに、どうして十六夜はあんな心持ちになれたのだろうか?やっぱりクチナシ衆の術のせいなのか? それが分からなかった。 冬凪が鈴風に聞いた。「で、術は完成していないよね」 志野婦が復活するのはいつなのか?完成すれば志野婦が十六夜の魂を完全に追い出すことになる。そうなれば十六夜は本当にあの世に行ってしまう。だから冬凪はあたしを気にしながら鈴風に聞いたのだった。「未完です。今のところは十六夜先輩の魂を完全に追い出してはいません。まだ呼び戻す方法がない訳ではないです」 鈴風はそう言ったけれど言い訳にしか聞こえなかった。 十六夜がかけられた術が完成するのはいったいいつなのか?「いつ完成するの?」「胎児でなくなったら、です」 鈴風は消え入るような声で言ったのだった。〈ぬ、じさー、ぬ、じさーです。『山椒の里』、ぬ、じさー〉 汽車はようやく辻沢に到着した。このアナウンスじゃ、普通は分からんよ。 辻沢は爆発の影響も落ち着いたようで、駅舎の中もN市行きの汽車を待つ客がちらほらいるだけだった。駅舎を出るとロータリーにバスが停まっていた。行き先はバイパス経由N市行きだ。これに乗ればばヤオマン御殿がある元曲輪三丁目に行ける。急いでバスに駆け寄ろうとしたら、目の前に黒服サングラスのおじさんが立ち塞がった。
last updateÚltima actualización : 2025-10-06
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3-87.辻川町長の私邸(1/3)

 お迎えのゲレンデは駅前通りを少し行って最初の交差点の前でタワマン前のスロープに入った。ガラス張りのエントランスには大きな庇があって、その下に別の黒服サングラスが待っていた。ゲレンデが停まると同時に、あたしが座っている側のドアを開けてくれた。冬凪と鈴風が降りるとゲレンデは去り、エントランスの黒服サングラスが中に案内する。中のスペースは天井が異様に高く古着を並べたらガレージストアでも開けそうなくらい広かった。そこを横切りながら鈴風が、「これからどなたに会うんでしょう?」 と聞いてきた。何でもリサーチずみの鈴風ならあのマットブラックのゲレンデが誰の車かくらいは知っているはずなのに変だと思った。「『帰ってきた』辻川町長だよ」 鈴風はそれは分かった上で言ったようだった。「駅の待合のモニターに辻川町長の会見の様子が映ってましたけど」 あたしは気がつかなかったけれど冬凪も、「新しい爆心地の前でやってた」と言った。「録画なんじゃ?」「Liveって出てました」「ま、最上階に行けば分かるよ」突き当たりのエレベーターホールまで来ると、エレベーターの中にも黒服サングラスが待っていた。促されるまま箱に乗りドアが閉まった。エレベーターボーイの黒服サングラスが最上階のボタンを押す。「高所恐怖症の方はいらっしゃいませんか?」 3人で顔を見合わせながら、「「「いいえ」」」「それでは辻沢の景色をごゆっくりとどうぞ」〈♪ゴリゴリーン〉 エレベーターが動き始めてすぐトンネルを抜けたように突然光りが差して目がくらんだ。目が慣れると、視界が開けていてあたしたちは四方の壁がない状態で上昇していた。天井と床だけを残し、ドアも壁もなくなって視界が全面、辻沢の景色に変わっていた。黒服サングラスと冬凪に鈴風とあたしが揃って辻沢の街を見下ろしながら上昇してゆく。
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