All Chapters of ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文): Chapter 241 - Chapter 250

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2-77.蓑笠連中掃討作戦(2/3)

 冬凪は手頃な紙本を何冊か書棚から持ってきた。そしてリング端末を使うと蓑笠連中に情報が漏れる可能性があるからと断ってから、机の上に並べだした。「これが、今いる図書館棟。それでこれが前園記念部活動棟。教務棟と授業棟がここ。この端っこのが体育館」 と辻女の地図を描いて見せた。「どうする気?」 立体的に描かれた辻女の地図を見たらワクワクしてきた。「このままじゃ、あたしたちの学校がめちゃくちゃになるから、蓑笠連中を掃討する」「「「「了解」」うう」」 冬凪の計画はこうだ。まずVRルームにジャンプして(伊左衛門、できるよね。できるよ)占拠し蓑笠連中の出元を封鎖する。次に伊左衛門に結界を張ってもらって各棟上階から順に結界を張って外におびき出す。結界の範囲を広げつつ一カ所に集まるようにする。「あたしがおとりになるから豆蔵くんと定吉くんで連中があたしのほうに来るように仕向けて」 冬凪が言ったけれど、「それはあたしにやらせて。指揮官にもしもの事があったらどうにもならないから」 冬凪はあたしの目を見つめて「絶対、怪我しちゃダメだよ」「大丈夫」 今度は先の尖った物持っていくから。「それで、どこに集める?」 伊左衛門が聞いた。すると、「体育館。体育館には犠牲になってもらう」 辻女の体育館は建ててからもう50年以上、老朽化してる。クーラーも入らないし少しのことで揺れて体育会系の人たちから早く建直して欲しいって言われてるから、この際いいかもだ。 そして冬凪の号令の元、豆蔵くん、定吉くん、伊左衛門、冬凪の順でVRルームにジャンプして、最後あたしがロッカーに入る。「ロックイン」 気合い入れたら、いらない言葉出た。 VRルームの階段教室の一番後ろのブースから這い出ると、すでに豆蔵くんと定吉くんが蓑笠連中の群れと生首の束に切り込んでいた。伊左衛門は蓑笠連中がブースから這い出
last updateLast Updated : 2025-09-23
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2-77.蓑笠連中掃討作戦(3/3)

「「寒っぶ」」  バイト帰りで薄着だったので余計に寒かった。窓を見ると霜で外が見えなくなっていた。「ごめん。何か着る物ないの?」 伊左衛門が申し訳なさそうに言うと、豆蔵くんがカーテンをひきちぎって冬凪とあたしに渡してくれた。赤い裏地の黒い遮光カーテンだ。それを体に巻き付けて寒さをしのぐ。「次は廊下の制圧」 豆蔵くんと定吉くんが出口に向かいかけたとき伊左衛門が、「切り込まなくてもここの結界を広げるだけで外に追い出せるかも」 伊左衛門が廊下に向けて印を結ぶと白い空気が勢いをつけて廊下を浸透して行った。蓑笠連中はそれに押されて後退するもの、窓を割って外に落ちるものがいて、最後はこの階から一体も存在しなくなった。最上階クリア。「このまま階を下げる」 結界を階ごと下に落としていくらしい。それが成功すれば授業棟のクリアも完了だ。「時間はそんなに掛からない」 そう言って、伊左衛門は印を結んだ手を下げてゆく。霜の張った窓から外を見下ろすと、その度に蓑笠連中が外にはじき出されるのが見えた。「よし、この建物は終わり」 その後、順調に教務棟(先生いるかと思ったら誰もいなかったもよう)と図書館棟も結界を張り終わった。外にあぶれた蓑笠連中の量がさっきよりずいぶんと増えていた。 そして前園記念部活動棟に手をつける。「ここは、すでに園芸部に結界を張ってあるからすぐに済むよ」 伊左衛門が再び印を結ぶ。「ちょっと待って」 冬凪が伊左衛門を止めた。「何?」「誰かいる」 VRルームの全ブースの情報端末に緊急メッセージありと出ていた。これは校内で生徒に何かあった場合にリング端末からその場所のマップとともに発報されるものだった。あたしは手近なブースの情報端末を開いた。すぐにモニターにマップと映像が映し出される。マップは部
last updateLast Updated : 2025-09-23
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2-78.二人の正体(1/3)

 ゲーム用VRブースに縛り付けられた鈴風は気を失っているけれど傷つけられている様子はなかった。赤い取っ手のシャベルを持ってその横に立つエンピマンが薄気味悪い笑いをこちらに向けて言った。「藤野姉妹。私のことを知っているね?」 そう言われてモニターの黒いシルエットをよく見てみた。神経質そうな顔つき、猫背で痩せていて揃えた膝に隙間が目立つ体型。「誰?」(小声) 見覚えはある気がするけど全然思い出せなかった。冬凪も、「分かんない」(小声) それで向こうが正解を言うのを待っているとエンピマンが、「じゃあ、ヒントを出そう」 当てて貰いたいらしい。「「いらない。別にどうでもいい」」 エンピマンは、まあ落ち着けと言う仕草をしてモニターの枠から出て行って、すぐに戻ってきた。手に何かを持っている。「このノートを見ても分からないか?」 それは黒い表紙の紙冊子だった。「ノートだって、何あれ?」「何だろね」 ノートと言えば鞠野文庫の「辻沢ノート」だけれど、あんな禍々しい外見ではなかったし、筆者の四宮浩太郎は調邸で写真を見たぐらいで知ってるとは言えなかった。冬凪もあたしもヒントに全然反応しないのでエンピマンは、「君たちが重宝しているノートだよ」 と言葉を付け足した。「重宝?」 紙ノートにお世話になったことなんてないからいよいよわからなくなった。「きみたち生徒が……」 とエンピマンが付け足そうとしたけれど、すでにいらいらしている冬凪が、「答えを!」 けれどエンピマンは、「思い出してもらおうか。でないとこの子の命はない」 シャベルの切っ先を鈴風の首に充てた。なんかおかしな展開になっているけれど、しかたないから記憶の中を探ってみた。 エンピマン、今「きみたち生徒」って言った。なら辻女関係者か。生徒って言うの
last updateLast Updated : 2025-09-24
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2-78.二人の正体(2/3)

「小野ジーだ」(小声) と向こうに聞こえないように冬凪に言うと、しばらく考えてから、「ありだね」 と言った。 小野ジー。受け持ちは古典。授業中いっさい喋らず、あの黒いノートを手にひたすら黒板モニターを文字で埋め尽くすところから、板書魔王の二つ名を持つ教師だ。ただ、内容は毎年同じなので、その板書を写した画像がVR空間に流出していて、生徒はそれをダウンロードしてテストに備えればよく、なんならテストの内容も毎回一緒。つまり授業やる意味のない教師なのだった。当然印象も薄いし、授業中もずっと生徒に背中を向けたままだから顔なんてほとんど記憶になかった。影の薄い先生に限って生徒が覚えているか気にするらしい。そしてエンピマンは女子高生ばかり襲うシリアルキラーだ。小野ジーは宮木野沿線の女子高を正職にならずに非常勤講師のまま転々としてきたと聞いたことがあった。そのことはきっと犠牲となった女子高生に近づくのに好都合だったのじゃないか。つまり全て顔見知りの犯行だったということだ。「分かったよ。あんたの正体は……」 と言いかけた瞬間、モニターが真っ白になって向こうの様子が見えなくなった。そして、「ううっ!」 女生徒確保! という豆蔵くんの声がモニターから聞こえてきた。続いて、「うんう」 敵逃亡。と言ったのは定吉くんだった。「何が起きたの?」 冬凪に聞くと、「みんなに部活動棟に行ってもらった」 VRルームはいつの間にか冬凪とあたしだけになっていた。 あたしがエンピマンとやりとりしている間に、伊左衛門に頼んで、豆蔵くんと定吉くんと一緒に園芸部のVRブースに飛んで貰った。そして廊下の結界をゲーム部の前まで広げて待機し、頃合いを見計らって突入。鈴風を奪還したのだった。 しばらくし待っていると、近くの二台のVRブースから排気音がした。中の空気が揺らいだ後、一台
last updateLast Updated : 2025-09-24
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2-78.二人の正体(3/3)

「この子、変だよ」 伊左衛門が窓から外の様子を見ながら言った。実はモニターに鈴風が映ってから違和感を感じていた。それは、ここが別次元にズレ込んだ世界であるということと関係があった。 以前、鈴風と一緒に辻バスで帰っているとき、あたしは今のような色が褪せて音の遠のいた別次元にズレ込んだ感覚に襲われて3人のギャルの幽霊を見た。でも鈴風はそれに全く気がつかなかったどころか、まるで時が止まったかのようであたしのいる世界の埒外にいた。今も状況はその時と同じで、夏休みとはいえ辻女には生徒や先生たちがいるはずだけれど、まったくいないように見えているのは、反対にみんながこの別次元の埒外にいるからなのだった。でも、鈴風はこっち側にいる。それはやっぱり変だった。「次元が揺らいでるから?」 伊左衛門に聞いてみた。「それなら、この子だけじゃなく、他の人も巻き込まれているはず」 つまり、鈴風はもともとあたしたち側の人間だった?「鬼子なの?」「では、ない」 最初の鬼子である伊左衛門が言うと重みがあった。「蓑笠連中の仲間?」「そんなはずないよ」 冬凪が強めに反対した。「鈴風が生首を操る気味の悪い人外と一緒だなんて。だってこんなに可愛いんだよ」 鈴風は冬凪のお気にの一人だったようだ。いろんなところに推しがいる冬凪って……。「うう」 鈴風の顔に身を乗り出してほっぺに吸い付かんばかりの冬凪を宥めたのは豆蔵さんだった。 その時、鈴風が目を覚ました。そして片肘をついて半身を起こすと、「わたしは六道衆などではございません」 そう言うと掌で顔をひと撫でした。手を放した顔には強烈な違和感があった。何がそんなに変なのかと思ってよく見ると顔のあるべきところにパーツがなくなっていた。鈴風の顔には口がなかった。「わたしどもは五百年の間、志野婦様にお仕えする、クチナシ衆です」
last updateLast Updated : 2025-09-24
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2-79.十六夜の恋(1/3)

 鈴風は口がないのに、何でこんなことになったかを話した。 冬凪とあたしが辻女前でバスを降りたころ鈴風は園芸部にいた。VRブースの火を落として帰り支度をしていると室温が急激に下がりだしたのでたまらなくなって急いで外に出た。そこにエンピマンがいて捕まってしまった。普段ならそんなヘマはしないのだけれど体が言うことを聞いてくれなかった。実は今もそうで、正体を明かさずにいるつもりが変装を保っていられなくなってしまったのだそう。「急な寒さのせいだと思います」鈴風は夏でも長袖の制服を着るほど寒がりだ。でも鈴風がそういう体質だからなのかクチナシ衆というのが寒さに弱い人たちの集まりだからなのかはわからなかった。「そんなことより、あそこで何をしてたか、夏波と冬凪に言っておいた方がいいんじゃない?」 伊左衛門が窓際を離れて鈴風のところまで来ると顔を覗き込んで言った。バスのアナウンスに干渉し冬凪とあたしをここに呼びつけたり、さらに鈴風が正体を晒すような状況を作り出したのは伊左衛門だ。何か知っていてこれらを仕組んだということは当然考えられる。「言えません」鈴風はない口をつぐんだ。すると伊左衛門は印を結ぶフリをして、「もっと寒くしてあげようか?」強めの要求だった。それで鈴風はどおせ吐くことになると観念したようだった。そして、「十六夜さんに術をかけていました」と言うとあたしから目をそらした。あたしに知られたらまずいことをしていたらしい。「それは、今だけでないよね」伊左衛門が追求する。「ずっと前から」園芸部に入ったのも十六夜に近づき志野婦に魅了されるように仕向けるためだった。鈴風は十六夜に志野婦への思慕をすり込むためのイメージを園芸部から十六夜のVRブースに送り続けた。そのイメージというのが白馬の王子のイメージで、みんながあの夢を見るようになったのは、それがメタバースに漏洩してみんなの深層心理に浸透
last updateLast Updated : 2025-09-25
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2-79.十六夜の恋(2/3)

「それは、十六夜を妊娠させようとして?」鈴風は肩を震わせながらうなづいた。「志野婦様は六道衆に囚われの身になってしまいました」クチナシ衆は妖術使いの六道衆に勝てなかった。トラギクの力は圧倒的だったのだ。「辻沢最凶のヴァンパイアを人柱にできるほどだからね」伊左衛門が付け足した。「それでわたしどもは志野婦様を借り移すことを考えました」 借り移すとは志野婦に魅了された女の腹に胎児として生まれ変わらせることだった。そしてそれは普通の人よりもヴァンパイアに近しい鬼子の方が上手く行くのだそう。「それで十六夜を? なんで他の鬼子でなかったの?」「他の鬼子でも試しましたが孕んでもしばらくすると、死んでしまう」 鈴風は最後の言葉をすごく言いにくそうに口にした。だから答えは分かったけれどあえて鈴風に聞いた。「母親と子供のどっちが?」 鈴風はその時も俯いたままで、「母親の方が」と力なく応えた。クチナシ衆は志野婦を復活させるために鬼子を犠牲にして来たのだった。それはとても許せることではないけれど、それよりも何で十六夜が鬼子だと分かったのかが知りたかった。あたしでさえ、ついこの間知ったばかりなのに。「それは響先生のお仕事をお手伝いして、ヤオマン屋敷に出入りしていたからでした」 響先生のお仕事とは浄血騒動や瀉血の流行に紛れて女子の生き血を集めることだと言った。それは十六夜が残したメッセージで語られたママの悪事の一つだ。それに鈴風も加担していたのだった。「響先生と前園会長が話をしているのを立ち聞きして十六夜さんが鬼子であることを知りました。しかも十六夜さんは夕霧太夫と近しいと聞いて、志野婦様の母君にうってつけと思ったのです」「それで無力な十六夜に術をかけた」と言うと鈴風は、その時だけは顔を上げてあたしを見ながら、「それは違います。志野婦様を受け入れることを望んだのは
last updateLast Updated : 2025-09-25
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2-79.十六夜の恋(3/3)

 本当のところ、十六夜はどう思っているんだろう? 左の薬指に耳を当ててみる。微かだけれど十六夜の息遣いが聞こえて来る。やっぱりそれは、とても心安らかでゆったりとしたものだった。「十六夜は望んで志野婦を孕んだ」冬凪を見ると肯いたけれど同時に戸惑っているようにも見えた。それはあたしも全く同じ気持ちだった。 あたしが十六夜のあの姿を初めて見た時、気が動転して高倉さんに早く解放してあげてと頼んだ。でも十六夜が望んでやっていることだからダメだと断られた。それは自分は犠牲になっても他の鬼子を助けるためだったはず。でも今の話では十六夜は志野婦を復活させるつもりだったということになる。あのメッセージはなんだったんだろう。どっちが十六夜の本心なんだろう。世間の女同士の友情がそれでおかしくなることがあるように、エニシの赤い糸で繋がれた十六夜とあたしの関係も、恋には勝てなかったということなんだろうか?いや。500年志野婦に仕えてきたクチナシ衆である鈴風にしてみれば、志野婦を守るためには何でも言うだろうことを忘れてはいけない。やっぱりこのまま、はいそうですかと引き下がる訳にはいかない。ここが終わったらすぐにでも十六夜に会いに行こう。行ってちゃんと十六夜の近くで確かめよう。そう思ったのだった。「さて、最後の仕上げをしなくちゃね」 話が一段落したところで伊左衛門が言った。「鈴風さんも協力してもらおうか」  冬凪の作戦は、伊左衛門の結界を広げて行って蓑笠連中を体育館に集約させるというものだった。今のところの進捗は、授業棟、教務棟、図書館棟、部活動棟の建物全体に結界を張って、辻女にあふれていた蓑笠連中を建物から外に追い出したところまで来た。次はそいつらを体育館に押し込める。「で、囮になってもらうのが」 伊左衛門が鈴風のことを見た。鈴風はすでに諦めの境地でうなだれたままだ。「あんたは逃げるから、あたしと一緒にいてもらう。夏波でよかったね」 伊左衛門はあたしに向って微笑んだ。なんか可愛いんですけど。「うん。あたし目一杯惹きつけるから」 そして豆蔵くんと定吉くんとを見上げ、「また頑張って闘ってくれるね」「「う」」 二人からは勿論という返事があった。「冬凪はあたしと一緒に」  冬凪は肯くと、「じゃあ、蓑笠連中掃討作戦、再決行します!」
last updateLast Updated : 2025-09-25
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2-80.十六夜強奪(1/3)

 豆蔵くんと定吉くんを先頭に、あたし、冬凪、鈴風、伊左衛門と隊形を作ってVRルームを出た。授業棟のいつも使っている階段を下り生徒用玄関までは結界のおかげで何事もなく来れた。そこからは校庭が見渡せるはずなのに、目に入るのは薄汚れた枯れ草色の蓑笠連中ばかりだった。連中は笠の破れから覗く黄色く濁った瞳だけをギョロギョロと動かすばかりでひと所でじっとしている。それは手をこまねいていると言うのではなく誰かの命令を待っているかのようだった。「慎重に行こう」 伊左衛門が言いたいことはあたしにも分かった。20年前の辻沢で、冬凪とあたしが光の球を追って志野婦神社に行った時と同じだったから。いつもならすぐに生首を飛ばして襲ってくるのに、志野婦神社の境内に溢れていた蓑笠連中は今のようにじっとして動かなかった。「トラギクがいそう」 すると冬凪が、「織り込み済み」 とはっきり言った。その瞳は確かな意志を湛えて前をまっすぐ見ていた。あたしはそれで安心して囮になれると思った。 にしてもこの溢れかえる蓑笠連中の前に出なければ囮の意味がない。体育館はその向こうにあるからだ。 冬凪が蓑笠連中の海を睨みつけて言った。「伊左衛門。張った後の結界って動かせるよね」「できるよ」これまでも伊左衛門は結界を自在に操って見せてくれた。それくらい簡単にできそうだけれど冬凪は何をするつもりなのか?「なら、夏波だけを結界で包んでそのまま移動させてくれる?」 それで体育館に向かえばこの泥縄色の海を渡れる。のか? 「やって」 あたしは豆蔵くんと定吉くんの前に進み出た。伊左衛門が印を結ぶと、あたしの周りが急激に寒くなって視界が白い霧に覆われたようになった。範囲が狭くなった分、寒さも強くなったらしく遮光カーテン持ってくればよかったと思ったくらいだった。今更だし寒いのはがまんするときめて動き出すのを待
last updateLast Updated : 2025-09-26
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2-80.十六夜強奪(2/3)

 蓑笠連中の海を歩き出すとやっぱりそうなった。あたしが結界の中に収まっていると向こうは刺激を嫌って場所を開ける。少しでもそれがずれてあたしの体が晒されると、すぐ直近の蓑笠連中が気がづいて蓑の中から生首を出して食らいつこうとする。あたしはその生首から他に伝染する前に足を止めて結界が自分を包み込むのを待つ。生首は噛みついても結界にあたしが収まれば弾かれたように蓑の中に戻ってゆく。結界は前だけでなく後ろにズレたりするし、形にしても完全な球体ではないから出っ張った所、頭のてっぺんやら肩やらふくらはぎやら、おしりが出てしまい何回噛みつかれたか知れなかった。それでもなんとか進んで行って、体育館の入り口に着いた時には、生首がつけたヨダレで体中がデロデロだった。振り返るとはるか後方で豆蔵くんと定吉くんが蓑笠連中を追い立てているのが見えた。陽に照らされてキラキラと輝いて見えているのはシャムシールだろう。蓑笠連中はその勢いに押されて、こっちにどんどん寄せてくる。あたしはそこで囮になるのを待つ。タイミングが来たらあたしを取り巻く結界が解けて蓑笠連中の目の前に晒される。冬凪からの指示は、「蓑笠連中を引き連れて体育館の中に入ったら二階のテラスで待って」だった。二階のテラスに行くには蓑笠連中に追いつかれないようにコートを駆け抜けて舞台横の用具室内のハシゴに取り付く。もし用具室の扉に鍵が掛かっていたら。そう思ったけれど、あそこの鍵はずっと前からぶっ壊れてるから大丈夫。頭の中で何パターンもシミュレーションしてみて、8割方成功の見込みがあった。蓑笠連中のうねりが体育館に押し寄せてきた。いよいよその時が迫る。体育館前の階段の縁まで蓑笠連中が上がってきたとき、目の前がすっと晴れ渡った。最初何が起こったかと思ったけれどそれは予定通りで、結界が解けただけだった。するとすぐ手前にいた蓑笠の簔の中から生首が一気に4つ飛び出して肉薄してきた。それをきっかけに前列
last updateLast Updated : 2025-09-26
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