焼き肉をお腹いっぱい食べてヤオマンBPCを出た頃には21時を回っていた。まゆまゆさんたちからは特に時間指定が無かったけれど、少し急いだ方が良い気がしてバイパス道から小走りで六道辻に向った。しばらくは走れていたけれど急に脇腹が痛くなってしまったので縁石に腰掛けて少し休むことにした。「夏波。体調はどう?」 冬凪が隣に座って背中をさすってくれた。「大丈夫。脇腹が痛いだけ」「それならいいんだけど」 冬凪はあたしの潮時を心配しているのだった。けれど、潮時だからといってこれまで一度もおかしな事がなかったのだから、明日になって突然発現して鬼子になるなんて自分でも考えられなかった。あるんだろうか? そんなこと。夜空を見上げると夏の銀河が天頂を渡っていた。その近くに満月になりかけの月があった。「エニシの月よ」 夕霧太夫の声が聞こえた気がした。六道辻の爆心地に着いたのは22時だった。月明かりの竹林を抜けて土蔵前の広場まで来ると、そこにバモスくんが停まっていてその周りで男の人たちが談笑していた。それは赤さん、佐々木さんに曽根さんとブクロ親方に豆蔵くんと定吉くんだった。あたしがヤオマンBPCで上塩タンを噛み切れずに飲み下していた時、鈴風が赤さんに、冬凪がブクロ親方に連絡したようだった。「ご連絡頂戴しまして馳せ参じました」 跪いた赤さんの時代がかった言い方がおかしかった。え? ワンチャンこれが地? 豆蔵くんと赤さんが白土蔵の中に入った。中の様子がハッキリするまで他の人は外で待機させられた。しばらくして、「う」「問題なさそうです」 二人が出てきて報告してくれた。冬凪、鈴風、あたしが変わって中に入った。全員で乗り込んだらまゆまゆさんを驚かせてしまいそうだからだ。 土蔵の中はひんやりとしていた。六道衆に荒らされた形跡は一つも無く、破壊されたはずの白市松人形が傷一つなくいつもの場所に置かれてあった。
Last Updated : 2025-10-10 Read more