All Chapters of ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文): Chapter 281 - Chapter 290

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3-90.再会(3/3)

 焼き肉をお腹いっぱい食べてヤオマンBPCを出た頃には21時を回っていた。まゆまゆさんたちからは特に時間指定が無かったけれど、少し急いだ方が良い気がしてバイパス道から小走りで六道辻に向った。しばらくは走れていたけれど急に脇腹が痛くなってしまったので縁石に腰掛けて少し休むことにした。「夏波。体調はどう?」 冬凪が隣に座って背中をさすってくれた。「大丈夫。脇腹が痛いだけ」「それならいいんだけど」 冬凪はあたしの潮時を心配しているのだった。けれど、潮時だからといってこれまで一度もおかしな事がなかったのだから、明日になって突然発現して鬼子になるなんて自分でも考えられなかった。あるんだろうか? そんなこと。夜空を見上げると夏の銀河が天頂を渡っていた。その近くに満月になりかけの月があった。「エニシの月よ」 夕霧太夫の声が聞こえた気がした。六道辻の爆心地に着いたのは22時だった。月明かりの竹林を抜けて土蔵前の広場まで来ると、そこにバモスくんが停まっていてその周りで男の人たちが談笑していた。それは赤さん、佐々木さんに曽根さんとブクロ親方に豆蔵くんと定吉くんだった。あたしがヤオマンBPCで上塩タンを噛み切れずに飲み下していた時、鈴風が赤さんに、冬凪がブクロ親方に連絡したようだった。「ご連絡頂戴しまして馳せ参じました」 跪いた赤さんの時代がかった言い方がおかしかった。え? ワンチャンこれが地? 豆蔵くんと赤さんが白土蔵の中に入った。中の様子がハッキリするまで他の人は外で待機させられた。しばらくして、「う」「問題なさそうです」 二人が出てきて報告してくれた。冬凪、鈴風、あたしが変わって中に入った。全員で乗り込んだらまゆまゆさんを驚かせてしまいそうだからだ。 土蔵の中はひんやりとしていた。六道衆に荒らされた形跡は一つも無く、破壊されたはずの白市松人形が傷一つなくいつもの場所に置かれてあった。
last updateLast Updated : 2025-10-10
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3-91.再訪(1/3)

 前に来た時はあんなに荒らされていたのに、白土蔵の中はいつもと変わりなかった。ところが白市松人形から出てきたまゆまゆさんだけがどこか妙だった。服装が白と黒というだけでなく、元々双子で顔がそっくりな二人なら半分ずつ一つになっても違和感なさそうなのに、融合した顔は、あまりに純粋で神々しくさえあったのだった。冬凪とあたしが声を出せないくらい驚いていると鈴風が、「どうしてそんなことになったのですか?」 と尋ねた。白黒融合まゆまゆさんは、「「それは……」」 と鈴風がいたのを初めて気づいたかのように一瞬厳しい表情をしてから、六道衆たちがここを襲撃したときのことを話し出した。「「彼らはわたくしどもの絆をたどってここに来ました」」 まゆまゆさんたちが言う絆とは、現在と20年前とを繋ぐ時空間ストリームのことだった。六道衆は黒土蔵の壁に穴を開けて時空間ストリームに干渉した。蓑笠連中が大挙して押し寄せストリーム自体がその質量に耐えられずにねじれを起こしてしまった。まゆまゆさんたちの絆もドライヤーのコードのように根元と端っこがわからなくなるくらいひねくれてしまった。やがて白まゆまゆさんと黒まゆまゆさんが衝撃すると、その勢いで別の空間に吹き飛ばされてしまい白黒融合していたのだそう。どういう状況?「「気づいた時には私どもは海面に浮いていました。そこは天地開闢のような、煉獄のような景色でした」」 電光を伴う何本もの竜巻が紅の曇へ立ち昇り、黒い海原がどこまでも広がっていたのだそう。それを聞いてVR空間から横滑りした時迷い込んだ地獄と一緒だと思った。「六道衆を先導するような人はいましたか?」 冬凪が聞いた。辻川町長が言った十六夜が六道衆をこの世に引き入れたというのを確かめたかったのだ。それはあたしも同じだった。「「先導者ですか? 分かりません。わたしどもは土蔵に溢れた蓑笠の人たちにもみくちゃにされていましたので」」 そこで白黒まゆまゆさんは両手をた
last updateLast Updated : 2025-10-11
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3-91.再訪(2/3)

 あたしは自分の予想を確かめたくてまゆまゆさんに質問した。「「そうでした。腰掛けたらとても固くてお尻が痛かったです」」 やっぱり十六夜だ。十六夜がまゆまゆさんを助け出したんだ。「その船頭さんはどこへ?」 十六夜の行方を聞いた。「「船頭さんは、石舟が土蔵に着くと待ち受けていた小柄な老人に連れて行かれてしまいました」」 小柄な老人というのはおそらくトラギクだろう。だとすると、十六夜は志野婦を身ごもった身体だけでなく、クチナシ衆の術で身体から遊離した魂まで六道衆に囚われてしまったことになる。冬凪の計画では十六夜の魂に会いにあの世に行くことになっていた。それも端から考え直さなければいけなくなってしまったようだった。 それにしても辻川町長は何を見て裏切りだなんて言ってたんだろう。全然違う。六道衆を妨害しようとして失敗したんだ。「「そろそろ用意はいいですか?」」 白黒まゆまゆさんが白市松人形の前から横にずれながら言った。「やっぱりまたあの頃の辻沢へ行くのですね」 冬凪が尋ねると、白黒まゆまゆさんはそれには答えずに、「「充分のようですね」」 と冬凪とあたしを交互に見ながら言ったのだった。冬凪もあたしも着替えは持って来ていなかった。今回はこのアイドル服だけでいいらしい。「「それではどちら様から?」」 あたしが後に行くつもりで冬凪の目を見ると、「夏波から」 と背中を押された。でも自分の運賃は自分で出すつもりで、「瀉血用の鉄管を下さい」 と白黒まゆまゆさんにお願いした。 準備がすむとすぐに宇宙空間に射出された。光りの筋の中を通って着いた先にも白黒まゆまゆさんがいた。「「ご気分はいかがですか?」」「大丈夫です」 と話している間に冬凪が到着。「「それでは明日の未明にお待ちしています
last updateLast Updated : 2025-10-11
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3-91.再訪(3/3)

 バモスくんの助手席に乗り込みながら、「今は何日の何時ですか?」 冬凪が聞いた。「9月の30日。あと15分で10月1日になるよ」 それを聞くと冬凪が、「今回の目的地は調邸では?」「よく分かったね。そうだよ。今回は調邸で花火を見て来いって」 季節はもう晩秋。夜風も少し肌寒いくらいだ。こんな時期に花火って変だけどと冬凪を見る。「そうだよ。今晩最後の爆発がある。それで調邸と前園邸が吹っ飛んでヤオマンHD前会長が亡くなる」 前園日香里会長の元ダンナさんだ。「急がないと間に合いません。爆発は0時のはずだから」 すると鞠野フスキはバモスくんのエンジンを掛けて、「全速力で行きましょう!」 と叫んだ。伊左衛門がバモスくんの助手席で鞠野フスキの声真似をしたのを思い出した。あの時、本当に気持ちよさそうに声を張り上げていたのだった。 気持ちが入ったからと言ってバモスくんのスピードが早くなる訳ではなかった。ゆっくりゆっくりと六道辻の孟宗竹の道を進むのはいつもの通りだった。これでは爆発には間に合いそうにない。 その時だった。行く手の北の空が青く輝いた。辻沢の街中のほうだ。続いて大地を揺るがしながら轟音と地響きが来た。そして暴風が孟宗竹を激しく揺らす。バモスくんてば、何が嬉しいんだか飛び跳ねまくってるから冬凪とあたしは手すりとシートに掴まり落ちないように踏ん張らなければならなかった。やがてそれらが収まり、「爆発だ。遅かった」 鞠野フスキが分かりきった事実を口にする。「トリマ、調邸に行ってみましょう(死語構文)」 冬凪に言われて、鞠野フスキは再びアクセルを踏む。「全速力(ry」 二回は要らないデス。 調邸のある元廓のお屋敷街に近づくにつれて状況がハッキリしてきた。最初に目にした青い光は、やはり調邸の真上
last updateLast Updated : 2025-10-11
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3-92.辻沢の加護(1/3)

 これまで見てきたトラギクの光の球はもっと小さかった。大きくてもせいぜい玉転がしくらいだった。けれど今回のは光の中の真球のせいなのかまるで別物のように巨大だった。「20年前の最後の爆発でこれが出来てたってこと?」 冬凪は目を固く閉じて黙ってしまった。その姿は自分の脳内にダイブして真球のことを探しているように見えた。そして目を見開くと、「やっぱりあたしはこんなもの知らない。新爆心地で中沢さんに案内してもらって見たのが初めて。夏波もそうでしょ?」 たしかにそうだった。でもそれだと未来で出来た物が20年前に現れたってことになる。そんな事があるんだろうか? あたしたちのことを考えた。あたしたちは20年前に来ているけれど、実際は20年後の存在だ。20年前のあたしたちは生まれてない。20年前に来た高校生の冬凪とあたしは辻川ひまわりに会っていて、20年後に会った辻川町長はそれを記憶していた。それは町長になっても人柱ブッコ抜き作戦の協力を要請してきたことでもわかる。つまり、辻川町長にとって過去と未来を行き来する人がいるという不可解なことであっても過去で起こったことは未来に影響している。それが因果というものだ。 けれどこの真球はどうだろう。ここにこうしてある存在している以上、20年後から来た冬凪やあたしの記憶になかったというのはおかしい。因果律が狂っている?それともまた戻ったらこの時のことが記憶や記録に上書きされていたりするのだろうか?「夏波、あれ見て」 調邸と前園邸を呑み込んだ真新しい爆心地の縁に蓑笠連中がひしめいていた。そういえば周囲の色が灰色のフィルターを掛けたようになっていた。全ての音が遠のいて聞こえる。蓑笠連中が味気ない景色に嵌まりすぎていた。あたしはいつの間にか別世界に踏み入れていたらしい。 爆心地を3人の人が歩いていた。2人
last updateLast Updated : 2025-10-12
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3-92.辻沢の加護(2/3)

「「千福の土蔵でお越しをお待ちしています」」 新爆心地で長棹に触れた時まゆまゆさんのメッセージが聞こえてきた。その時はなんとも思わなかったけれど、それってまゆまゆさんのいる場所が真球と近接してるって事なんじゃないか? つまり?「トラギクがいる」 冬凪が言った。それは「どこかに」いると言った辻女の時とは違って、喉に支えがあって押し出すような言い方だった。危険が目の前に差し迫っている。赤茶けた土が剥き出しの真新しい爆心地。その中心に小柄な老人が上空を見上げて立っていた。「トラギク! 十六夜を返せ!」 思わず叫んでいた。冬凪があたしの腕を取って止めようとしたけれど遅かった。トラギクはゆっくりとこちらを向くと、「これはこれは夏波殿。貴女のお友達がこんな物を引き込んだせいで大変迷惑をしています。もうすぐ六道殿がご降臨になられると言うのにです。今は急を要する時、致し方ありません。不本意ながら夏波殿に身代わりになっていただきましょう」 そう言うとトラギクは胸の前で手ゴネしながらその中に光を溜めだした。「先生逃げなきゃ! パスモくん出して! 早く!!」 冬凪が叫んだけれど鞠野フスキは、「心配ないです。バモスホンダTN360はそう簡単には壊れませんから」 とガンとしてバモスくんを動かそうとしなかった。この場にいたらトラギクの光の球に呑み込まれてしまう。こんな時に余計な車自慢かよ。なんだってこんな人が案内役なんだろう?まゆまゆさんは何を考えてこの人を選び出したんだろう?そのうちトラギクの光の球は掌から放たれてどんどん領域を広げながらこちらに近づいて来た。それでもバモスくんを出そうとしない鞠野フスキ。マジなんなの? この人。もうどうしようもない。光の球はバモスくんを覆い始めてる。ついに冬凪とあたしも人柱にされるのか。
last updateLast Updated : 2025-10-12
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3-92.辻沢の加護(3/3)

 光の球はいつまで経ってもバモスくんを取り込むことはなかった。「鬼子の結界とはこざかしい」 トラギクの悔しそうな声が聞こえてきた。見上げると霜が付いた透明の皮膜が光を押し返していた。寒さでふるえる。これって伊左衛門の結界だ。どういうこと?「バモスくんには辻沢の加護が付いていますので」 なんでこんなノロノロ上等な車がデフォで迎えに来るのかって、そういう理由だったんだ。だから志野婦神社で冬凪とあたしがトラギクの光に呑まれた時、助けられたんだ。「先生。他には? トラギクをやっつける何かないの?」 すると鞠野フスキは、座席の下に手をやりながら、「あるともさ。これ飲んでみるかい?」 と取り出したのは、辻沢の命の源。遊女宮木野の垂る乳。辻沢醍醐だった。「先生! 何出してるんですか? 夏波、そんなの飲んじゃだめだよ」 冬凪が血相を変えてあたしの手にある牛乳瓶を奪おうとした。たしかに何が起こるか分からない。でもこれを投げつけられた調レイカは爆発を誘発はしたけれど死にはしなかった。ならばあたしだって死にはしないだろう。それにこれを飲む以外にこの危機をなんとかする方法が見当たらなかった。あたしは冬凪が制する手を払い牛乳瓶のキャップを取った。瓶の中には白よりも黄土色に近い粘っこそうな液体が入ったいた。匂いはと言えば、はっきり言って臭い。でも臭い物に限って美味しいって言うし。でも一応鼻を摘まんで、ウンギュ、ウンギュ、ウンギュ、ウンギュ、ウンギュ。プハェー。「まっず。なにこれ。辻川町長はこんなまずいの飲んでたの? 腐ってんじゃん」 冬凪が心配そうにあたしの顔を見て、「大丈夫?」 と聞いてきた。「何が大丈夫なの?」「顔見てごらんよ」 バックミラーを覗いて見た。そこには金色の瞳。眉間の深い皺と開いた鼻。口は広がり銀色の
last updateLast Updated : 2025-10-12
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No.5 トラギク VS. 鬼子(1/3)

 ここは鬼子と人の閾だった。ボクは真球の中で十六夜と共にいた。そして十六夜が見ている夢を見ているのだった。学校から帰宅した十六夜は、迎えに出たお手伝いの女性に話しかけられるが、それを全く無視して部屋に籠もってしまった。いつもならママの帰宅時間や晩ご飯の内容くらい聞いたりするのにだ。十六夜は部屋に入ると荷物を放り投げてお姫様ベッドに横になり天蓋をにらみつけていた。「どうしよう」十六夜は何か重大な隠し事をしていて、そのことがばれてしまわないか不安に思っている。ノックの音がする。「後にして」 と言ったのに、「十六夜お嬢様。緊急のご用です。入りますよ」 鍵を掛けたはずの扉が開いて戸口に立ったのは高倉さんだった。十六夜はこの人のことをよく知らなかった。本人はメイド頭で十六夜が生まれる前から屋敷にいると言っているけれど、ママを含め他の人の口から高倉という人物のことを聞いたことがなかったからだ。それで十六夜は高倉さんのことをイマージナルメイドと思うことにしていた。だからこそ、高倉さんが部屋に来たことに戦慄を覚えた。心の奥底を見透かさる。「日香里奥様が……」 ママがヤオマンHDの社長室で刺殺されて発見されたと言った。「知ってるよ。VRニュースで見た」 VRニュースでは殺害現場が再現されていた。ママは社長椅子に座った姿勢で頭を垂れていた。ママの胸には長棹が突き刺さって真っ白いスーツの前が深紅に染まっていた。「なんで殺したか聞きに来たんでしょ?」 ベッドの脇に立った高倉さんに聞いた。高倉さんの瞳は金色で、真っ赤な口元から銀色の牙が覗いていた。着物からは微かな山椒の香りがしていた。高倉さんが不思議そうに言った。「いいえ。どうして殺したと思っているのか聞きに来ました」「あたしがこの手で殺したからだよ。ママの石頭をバットでかち割ってやったんだ」 
last updateLast Updated : 2025-10-13
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No.5 トラギク VS. 鬼子(2/3)

 ボクが目覚めると、赤茶けた土がむき出しになった土地が目の前に広がっていた。その上空にはさっきまでいた真球が浮き、その直下に小柄な老人が立ってこちらに向って妖気を放っていた。これが今回の敵か。ボクは屋根もドアもない車の後部座席に立っていて、隣の席にはあの子がボクのことを見上げていた。こんなに近くにいるのにボクを怖がっていないようだ。今度の「あたし」も前と同じ子で十六夜ではない。よっぽどこの 「あたし」はあの子の信頼が厚いらしい。そして運転席にもう一人。その人は夕霧太夫の知り合いだった。(あんたがボクを呼んだの?)「いいや。私は夏波に辻沢醍醐を与えただけだよ」そうか 「あたし」は夏波なのか。夏波は十六夜の記憶の一番大切な場所にしまってある名前だ。どうりで十六夜はこの「あたし」にボクを託したんだな。辻沢醍醐は飲んだ人の意思によってその威力が変化するという。血の代わりにと思って飲めばそうなるし、自力を増せと思えば爆発的に強くなる。夏波は鬼子に発現することを望んで飲んだ。だからこれは夏波の意思ということか。 車の周囲に妖気が渦巻いていた。それを鬼子の結界が防いでいた。寒いのはそのせいだろう。(これをどけてくれる?)「もう少ししてこの光が拡散すれば解除する」 それまでしばし待てといことだった。面前の敵はボクの得意な近接戦が通じなさそうな相手だった。実はボクは妖術使いとの闘いは今回が初めてだった。妖気が散り、結界を解くときが来た。(行くよ) 車を降りようとしたらあの子がボクの腕に触れて、「夏波、気をつけて」 夏波はボクの名前ではないが嬉しかった。ボクはずっと一人で闘ってきて誰かに励まされたことなどなかった。あの子はいつも側にいてくれたけれど、それは禁忌を犯さないよう見張っていただけだった。心が同じ方向を向いているのにその思いを感じた
last updateLast Updated : 2025-10-13
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No.5 トラギク VS. 鬼子(3/3)

 たしかに光の球はどう見ても触れたら無事ではなさそうだった。次々と繰り出される光の球の圧で妖術使いに近づくことが出来ないから円周に沿って逃げるしかなかった。妖術使いはボクが逃げる先へ先へと光の球を送ってよこす。気づけばボクはすり鉢を一周していて、光の球をあの子がいる車に誘導してしまっていた。あわや車に光の球がぶつかりそうになった刹那、鬼子の結界が車を覆って難を逃れた。あの子への心配はなくなったけれど、逃げてばかりではこの状況を打開できない。光の球の行方を見ると全ての光はすり鉢の縁ギリギリ、蓑笠の目の前で破裂していた。妖術がそこまでしか届かないはずもない。モブ感溢れる蓑笠を庇っているようにも見えない。ではなぜあの老人はあそこまでしか妖術を届かせないのか? 試しに蓑笠を一人掴まえて光の球に触れさせてみた。やはり蓑笠は一瞬で霧消した。それだけではなかった。僅かばかりその場所に色が戻ったのだ。土の匂いが鼻を突いた。リアルが滲み出て来ていた。ボクは光の球から逃げながらすり鉢の縁を奔り蓑笠を掴まえて光の球に向って放り投げ続けた。蓑笠は小爆発しながら次々に霧消してゆく。リアルの浸透が拡充し世界が段々と色づき始める。光の球は色づいたリアルに触れると急激にしぼんで無に帰してゆく。妖術使いが作った世界が崩壊しだす。「鬼子ごときに!」 妖術使いはその場で猛烈に回転し出すと強い光を放ちながらどんどん縮小して行き、そして消えた。見回すと蓑笠もいなくなっていた。どうやらボクは妖術使いを追い出すことが出来たらしい。夕霧太夫が以前、妖術使いというのは厄介な存在だが対処法があると教えてくれたことがあった。夕霧太夫の対妖術使い法とは「世界を壊せ」だった。妖術使いは万能者として振る舞うことが出来るよう、まず世界を構築する。その世界が存在する限り、妖術使いを倒すことは出来ない。逆に言えば世界を壊す事が出来れ
last updateLast Updated : 2025-10-13
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