次に冬凪があたしの手を取って階の上に立った。冬凪はいつもの、指をVの字にして顎に当てるポーズで丁寧に段取りについて説明してゆく。 まず、いい感じの場所に十六夜が誕プレでくれた石舟を置く。「どこに?」「すり鉢の真ん中らへんだって」 社殿の脇にある石舟は舳先に真新しい荒縄が3本括り付けられていた。だからもう準備出来てるのかと思ったらまだ仮置きなんだそう。「結構重そうだけど、大丈夫そ?(死語構文)」 重機とかは撤収したみたいだ。「豆蔵くんと定吉くんの2人だけで林道をここまで運んだんだって」 二人ってばどんだけバカぢからなの? 次に、冬凪と鈴風とあたしが位置に着く。 どこ? と境内に目線をやると、「すり鉢の斜面にそれっぽいとこあるから」 と小声で教えてくれた。「で、月が南中したら」 そこまで冬凪、その後を群衆の中からクロエちゃんが、「アクティベート完了! 地獄の蓋が開くよ」 ご参集の皆様が拍手喝采、ではなく大草生えた(死語構文)。笑ってないのはミユキ母さんと夜野まひるだけだった。 今夜、「地獄の蓋が開く」のは0時30分。それまでは自由行動。 クロエちゃんと鈴風は境内を追いかけっこしながら夜野まひるの取り合いしてる。豆蔵くんと定吉くんはブクロ親方監視の元、石段や石畳の参道使って筋トレ。赤さんたちはちょっと見廻りと言って森の中へ。冬凪とあたしは、ミユキ母さんと社殿の中で紫子さんと伊左衛門の話を聞いていた。 社殿の鴨居には7枚の額絵馬が飾られている。板目の下地に大和絵風のタッチで描かれているのは、夕霧太夫が阿波の鳴門屋で炎に巻かれてから青墓の池に沈むまでの物語、夕霧物語だ。20年前の鬼子神社の大爆発でオリジナルは失われたけれど、辻沢町役場に保管してあった3Dアーカイブから復元したものがここにある。 この額絵馬はその昔、頭にツノが生え
Last Updated : 2025-11-02 Read more