ある日、遥は机の上の書類を整理している最中、突然電話が鳴った。画面に表示されたのは「紀昭代」の名前だった。電話を取ると、懐かしくもどこか期待を含んだ声が耳に届いた。「遥ちゃん、明日の夜、同窓会があるの。久しぶりにみんなに会わない?みんな、あなたにすごく会いたがってるのよ」遥はこめかみを揉みながら、淡々と答えた。「やめておくわ。最近忙しくて、その気になれないの」「遥ちゃん、いつまで仕事ばかりに閉じこもってるの?」昭代の声には、どこか懇願の色が混じっていた。「たまには息抜きもしないと。会うだけ、少し話すだけでもいいじゃない?本当にみんな、あなたを楽しみにしてるの」「でも私は……」遥が口を開いた瞬間、昭代が強引に遮った。「でも、は無し!明日、私が迎えに行くから。逃げることは考えないで、いい?」遥は結局、昭代の押しに負けて、しぶしぶ承諾した。「わかった。ちょっとだけね」夜になり、遥はシンプルなワンピースに身を包み、控えめながら丁寧に化粧を施し、賑やかな宴会の個室へと足を踏み入れた。室内は温かい照明に包まれ、テーブルには酒や軽食が所狭しと並べられ、懐かしい同級生たちが思い思いに談笑していた。彼女が扉をくぐった瞬間、懐かしい声が飛び込んできた。「遥!」何人かの同級生がすぐに集まり、笑顔で冷やかした。「遥、義人は一緒じゃないの? 昔はいつも付き添ってたのに。同窓会までついて来てたくらい、あなたを大事にしてたよね」「そうそう、義人って本当にあなたに甘かった。あなたを一人で参加させるなんて、あの人がそんなことするとは思えないなぁ」遥は口元にかすかな笑みを浮かべたが、その目には何の感情もなかった。「彼、忙しいの。来られないだけ」その様子に気づいた昭代が、慌てて話題を変えた。「ほらほら、今日は昔話を楽しむ会なんだから、遥のことばっかり詮索しないの。せっかくの再会なんだから、楽しくいこうよ」遥は黙ってワイングラスに口をつけた。見た目には何の影響もないように見えたが、心の中では、否応なしに過去の記憶がよみがえっていた。たしかに――かつて義人は、どんなに忙しくても彼女に付き添って同窓会へ来ていた。「義人、一人でも平気だよ」と彼女は口を尖らせて拗ねてみせた。すると彼はいつも困ったように頭を
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