All Chapters of 人生という長い旅路に、愛の帰る場所はなく: Chapter 21 - Chapter 24

24 Chapters

第21話

ある日、遥は机の上の書類を整理している最中、突然電話が鳴った。画面に表示されたのは「紀昭代」の名前だった。電話を取ると、懐かしくもどこか期待を含んだ声が耳に届いた。「遥ちゃん、明日の夜、同窓会があるの。久しぶりにみんなに会わない?みんな、あなたにすごく会いたがってるのよ」遥はこめかみを揉みながら、淡々と答えた。「やめておくわ。最近忙しくて、その気になれないの」「遥ちゃん、いつまで仕事ばかりに閉じこもってるの?」昭代の声には、どこか懇願の色が混じっていた。「たまには息抜きもしないと。会うだけ、少し話すだけでもいいじゃない?本当にみんな、あなたを楽しみにしてるの」「でも私は……」遥が口を開いた瞬間、昭代が強引に遮った。「でも、は無し!明日、私が迎えに行くから。逃げることは考えないで、いい?」遥は結局、昭代の押しに負けて、しぶしぶ承諾した。「わかった。ちょっとだけね」夜になり、遥はシンプルなワンピースに身を包み、控えめながら丁寧に化粧を施し、賑やかな宴会の個室へと足を踏み入れた。室内は温かい照明に包まれ、テーブルには酒や軽食が所狭しと並べられ、懐かしい同級生たちが思い思いに談笑していた。彼女が扉をくぐった瞬間、懐かしい声が飛び込んできた。「遥!」何人かの同級生がすぐに集まり、笑顔で冷やかした。「遥、義人は一緒じゃないの? 昔はいつも付き添ってたのに。同窓会までついて来てたくらい、あなたを大事にしてたよね」「そうそう、義人って本当にあなたに甘かった。あなたを一人で参加させるなんて、あの人がそんなことするとは思えないなぁ」遥は口元にかすかな笑みを浮かべたが、その目には何の感情もなかった。「彼、忙しいの。来られないだけ」その様子に気づいた昭代が、慌てて話題を変えた。「ほらほら、今日は昔話を楽しむ会なんだから、遥のことばっかり詮索しないの。せっかくの再会なんだから、楽しくいこうよ」遥は黙ってワイングラスに口をつけた。見た目には何の影響もないように見えたが、心の中では、否応なしに過去の記憶がよみがえっていた。たしかに――かつて義人は、どんなに忙しくても彼女に付き添って同窓会へ来ていた。「義人、一人でも平気だよ」と彼女は口を尖らせて拗ねてみせた。すると彼はいつも困ったように頭を
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第22話

同窓会が終わった後、昭代は「家まで送るよ」と申し出た。遥は首を横に振った。「いいわ、運転代行を呼んだから。もうすぐ来ると思う」昭代の後ろ姿を見送り、遥は一人で駐車場へと向かった。静まり返った地下駐車場には、ヒールの音が反響し、不安を煽るようだった。そのとき、突如として甲高いエンジン音が響き渡った。一台の車が猛スピードで彼女の方へ突進してきた。遥は反射的に身を翻したが、足を取られて倒れそうになる。その瞬間、誰かが強く彼女を引き寄せた。「危ない!」衝撃とともに彼女は温かな胸元に倒れ込んだ。引き替えに、その人は車の側面に弾かれ、地面に倒れてうめき声を上げた。周囲には人が集まり、口々に叫んだ。「今の見た!?あの車、完全に狙ってたよね!」遥は慌てて倒れた人物を抱き起こし、血の気が引いた。「義人!?」義人は顔色が悪く、額には血が滲んでいたが、彼女をかばうように手を伸ばした。「大丈夫だ……怖がらなくていい……」その声は掠れていたが、確かな温もりと安堵を含んでいた。間もなく警察が駆けつけ、車の中から引きずり出されたのは――絵梨の弟、和朗だった。彼は暴れながら怒鳴った。「遥、このアマ!姉に何してくれた!絶対に許さない!」義人は遥の前に立ち塞がり、冷たく言い放った。「黙れ」それでも和朗は騒ぎ続け、警察に取り押さえられた。「頭おかしいんじゃない?」「あれ、殺人未遂だろ……」周囲からそんな声も漏れる中、遥は義人の背中を見つめた。胸の奥がじわりと締めつけられる。そのまま救急車が到着し、義人は病院へ搬送された。遥は付き添いながら、怪我をした彼の足元を見つめて言った。「なんで……あんな無茶したの?」彼は疲れたように笑い、自嘲気味に答えた。「罰みたいなもんさ……君に借りた分、少しでも返せたらって」遥は言葉を詰まらせ、目を伏せた。何かを言いかけて、結局飲み込んだ。義人は彼女を見つめ、苦しげな表情でぽつりと漏らした。「遥……ごめん」遥は返事をせず、ただ窓の外を眺めた。その瞳には、抑え切れない感情が波のように押し寄せていた。病院に到着すると、医師の表情は重かった。「福西さん、外傷は処置しましたが、身体の状態は楽観できません。長期の過労と複数の外傷により、免疫
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第23話

江口家と福西家は協力して、久木家の兄妹がこれまでに行ってきた数々の悪行を整理し、証拠として警察に提出した。また、専門の弁護士を雇い、事件の迅速な処理を進めるよう法的措置を講じた。警察の介入により、絵梨と和朗の犯罪行為が次々と明るみに出た。遥の誘拐・殺害未遂にはじまり、車両の破壊工作、さらには意図的な衝突行為に至るまで、証拠の連鎖は明確で整然としていた。裁判当日、遥と義人は共に出廷した。双方の弁護士は論理的かつ鋭く主張を展開し、久木兄妹の詭弁を次々と打ち砕いた。審理の終了後、絵梨は突如として激高し、法廷内で取り押さえられながらも叫び続けた。「江口!あなたなんて、家柄と義人との幼馴染って肩書きにすがってるだけじゃない!」彼女はヒステリックにわめき散らしながら、怨嗟に満ちた目で義人を睨んだ。「福西義人!あなたは遥なんて本当に好きじゃない!彼女に縛られてるだけよ!そんな愛なんて偽物!傷をなぞるような自己犠牲に過ぎないの!福西、目を覚ましてよ!遥みたいな『高嶺の花』のお嬢様に、あんたの苦しみなんて分かるはずがない!一緒にいたって、あんたが擦り減るだけ!」遥は一歩も引かず、無言で彼女を見つめていた。その表情は終始平静で、一切の感情を見せなかった。しかし次の瞬間、義人が口を開いた。その声は冷たく鋭く、空気を震わせるようだった。「絵梨、君には僕のことが何も分かっていない」彼の声は大きくなかったが、法廷中にしっかりと響いた。「君には、遥という人間がどれほど特別な存在か、まるで分かっていない。僕が彼女に向ける感情がどれほど深いかも」義人は静かに遥のそばへ歩み寄り、彼女の前に立った。「確かに、僕はたくさんの過ちを犯した。だが、それはすべて僕の未熟さのせいだ。彼女を苦しめたのも、安心させてやれなかったのも、僕の責任だ」彼は遥を一瞥し、目に深い悔意と覚悟を宿らせた。「彼女を信じられなかったのは僕の弱さ。彼女が心を閉ざしたのも、僕が原因だ。彼女のせいじゃない。全部僕の過ちだ」その言葉を聞いた絵梨の顔色は真っ青になり、まるで打ちのめされたように口をつぐんだ。遥は義人を見つめ続けていた。彼の背中はいつになく頼もしく、迷いなく自分を守ろうとするその姿は、かつて彼女が知らなかった「福西義人」そのものだった。「義人、よう
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第24話

遥は出国の準備を整え、航空券も既に手配し、荷物もすべて詰め終えていた。出発の直前、母親がそっと尋ねた。「遥、本当に義人に何も言わずに行くつもりなの?こんなにも長い付き合いだったのに……」遥は荷物を整理していた手をふと止めた。父親は彼女を一瞥し、ため息をついたあと、黙って手を振り、母親にそれ以上言わないよう促した。空港に着くと、遥は待合室の椅子に腰掛け、手にしたスマートフォンで何度も連絡帳をスクロールしながら、ある一つの名前を見つめ続けていた。そして、搭乗の直前、彼女はついにその番号に電話をかけた。コール音が数回鳴ったあと、電話がつながる。相手の声は少しかすれ、感情を抑え込んだような響きを帯びていた。「遥?」遥は何も言わなかった。ただ、受話器を握りしめたまま黙っていた。沈黙が十数秒ほど続き、義人の声に不安が混じる。「どうしたんだ……何かあったのか?」遥は依然として口を開かず、電話口の空気は次第に重くなっていく。そのとき、空港内にアナウンスが流れた。「ロンドン行きご搭乗のお客様は、搭乗口へお越しください」その声が受話器越しに届いた瞬間、義人の呼吸が急に乱れた。彼は何かを悟ったように、声を震わせて言った。「遥……君、今、空港にいるのか?どこへ行くつもりなんだ?」遥はそっと息を吐き、搭乗口を見上げながら、静かに答えた。「国外に行くの。今日、発つの」電話の向こうで、義人は一瞬、黙り込んだ。そして、搾り出すように尋ねた。「いつ戻ってくる?」遥は苦笑した。その声には、どこか諦めに似た穏やかさが混じっていた。「分からない。長い時間がかかるかもしれないし……もう戻らないかもしれない」受話器の向こう、義人の声は低く掠れていた。まるで抑えてきた想いが、今にも崩れ落ちそうだった。「全部、僕が悪かった。あのとき、君をちゃんと守れなくて、ごめん……」「義人」遥は彼の言葉を静かに遮った。空港の大きな窓から見える青空を見つめながら、彼女は穏やかな口調で続けた。「もう、あなたを責めたりしていない。本当に」一瞬、彼女は言葉を止め、そして少し寂しげに笑った。「これは、あなたへのさよなら。そして、過去二十年間の自分へのさよならでもあるの」沈黙が続いた。彼は何も言わなかったが、遥には分
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