海羽は紗夜の表情をじっとうかがった。彼女の顔色はいつもと変わらず、本当に気にも留めていないようで、それを見てようやく胸をなでおろし、ぷつぷつと悪態をついた。「長沢ってほんとロクでもないよね。離婚したばっかりなのに、もうあの女を連れてこんなパーティーに出てくるなんて!」――前は一度だって、紗夜を公の場に連れてきたことなんてなかったのに。これって、どう見ても扱いが違うでしょ?!海羽が怒り心頭なのに対し、紗夜は依然として無表情だった。もう離婚したのだから、文翔が誰を連れていようと関係ない。過去を気にしたところで意味はない。「長沢?」小さな瑚々は、海羽が罵っている相手が気になったらしく、「お母さん、長沢って誰なの?」と首を傾げた。「ほら、この人」海羽は頬を膨らませ、画面に映る男を指差した。「見た目は立派なくせに、やってることは最低なクズ男よ!」「この人がクズ男なんだ」瑚々は理解したようにコクリと頷き、ぱちぱちと瞬きをした。「でもこのクズ男、顔はすごくかっこいいよ?ね、紗夜お姉ちゃん」瑚々は母親譲りの、生粋の「外見至上主義者」だ。それを聞いて海羽は呆れ、瑚々の頭を撫でながら真剣に言い聞かせた。「瑚々、覚えておきなさい。かっこよくても意味ないの。お金にはならないんだから。外見だけで惑わされたらだめよ?」五歳の子にそんな説教をする海羽を見て、紗夜は思わず笑みを漏らした。だが、ふと画面に長身の影が映ると、つい目で追ってしまう。文翔は人間性はともかく、容姿だけは飛び抜けている。人混みの中でも自然と目に入り、無視する方が難しいほどだった。だからこそメディアも、有能で顔のいい彼を優先して追いかける。レンズはほとんど、彼の動きに合わせて動いていった。彩の視線もずっと文翔に釘付けだった。――こんな完璧で人気のある男を、あの紗夜はずっと独占してたなんて。運がよすぎ。だが今日、その完璧な男は自分のものになる。彩の目に満足げな色が浮かぶ。このあとパーティーが始まり、岩波夫婦が登壇したら――自分は文翔の腕を取ってレッドカーペットを歩く。その瞬間、名実ともに「長沢奥様」だ。京浜中の女性が羨む存在になる。そう思うだけで、彩の笑みはますます華やかになり、うっとりと文翔を見つめ
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