梨花が葵に高山家へ連れ帰られると、その夜のうちに白石家の荷物全てが届けられた。「梨花……白石優也がそんな男だと知ってたら、あの時彼を助けるんじゃなかったわ。車に轢かれ死ぬがましだった」葵が荷物の整理を手伝いながら言うと、梨花がスマホの画面を見つめ、微動だにしないのに気づいた。近寄って覗き込む。彼女が見ていたのは、優也の母のSNS投稿だった。【白石家に待望の孫が誕生!我が家に後継ぎなしなんて誰が言った?玲奈こそ白石家の恩人だわ】添付された写真は、生まれたばかりの赤ん坊。投稿から十数分しか経っていないのに、既に多くの「いいね」とコメントが並んでいる。【おめでとうございます!白石家に後継ぎ誕生ですね】【優也さんさすが!第一子が男子とは】【玲奈ちゃん、本当に産んだんだね!それも男の子だ。去年のお年玉、甲斐があったよ】コメント欄はほぼ白石家の親族や友人で埋まっていた。彼らの言葉から、白石家の者全員が玲奈の存在を、彼女の妊娠さえも知っていたことがわかる。丸一年もの間、真相を知らされていなかったのは、自分一人だけだったのだ。「本当に厚かましい!堂々と投稿するなんて、梨花という白石の妻を全く眼中にないの?あなたは流産したのに、あの男は不倫相手と浮かれるだけなんて!」葵は怒りで梨花の手からスマホを奪った。「梨花、一言くれ。あの白石優也と憎たらしい愛人の家を焼き払ってやる」梨花は瞬きをし、静かに言った。「葵……スイス行きのチケットを買ってくれない?兄が待っているの」「行っちゃうの?」葵の口調が柔らぐ。「そんなに急ぐ?もう少し休養したら……」「お願いがある」梨花が振り向いた。顔色は青白い。「数日後……私の代わりに、白石優也との離婚届受理証明書を受け取っておいてください」「離婚したの?」「うん」葵は怒りで跳び上がった。「なんて男なの!梨花、本当にあなたが不憫だ!」「この診断書……優也に渡してほしい」葵が開くと、中には流産の診断書が入っていた。「彼に伝えて……私たちにも子供がいたのだと。残念ながら……彼の手で殺されたのだと」二筋の涙が静かに流れた。葵は眼前の女性を見つめ、胸が痛むほど強く抱きしめた。「わかった。必ずやり遂げる。梨花、スイスに行ったら、絶対に幸せになって。二度とろ
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