Semua Bab 離婚しましょう、はじめましょう: Bab 21 - Bab 30

41 Bab

第二十一話

ぎこちない雰囲気のまま小さな部屋にいると、心臓の音が聞かれてしまいそうで、私は急いでテレビをつけた。『大好き……』「え!!」 お互いの声が一緒になり、顔を見合わせた後、視線をテレビに向ける。今流行りの恋愛ドラマ。確か不倫の話だったような気さえするが、画面の中の女性が大胆に男性に抱きついた。どうしてこのタイミングでこんな場面なの。 泣きたくなる気持ちを耐えながら慌ててリモコンに手を伸ばすと、尋人もそれを取ろうとしていたらしく手が重なった。「ごめん」 今度は尋人がすぐに私の手を離した。それが少し寂しく思ってしまうのは、私の勝手な思いだ。 狭い床の上に、なぜか正座するような格好になってしまう。まさか尋人まで緊張してる? そんな考えが頭をよぎり、そっと彼を見れば、何もない壁に視線を向けていた。「尋人も緊張したりするわけ……ないよね……」 つい思ったことを言ってしまえば、彼は少し険しい表情をして、私の額を軽くデコピンをした。「弥生、お前バカだろ」 「なに?」 いきなりディスられる覚えなどなく、少しムッとして言い返せば、尋人は苦笑する。「緊張してるに決まってるだろ。告白して、嫉妬して、みっともないところばかり見せて、それでも部屋にこうして呼んでもらえた」そこで尋人は一度言葉を止めた。一気に顔が熱くなるも、真っ直ぐに向けられた瞳から目を逸らせない。「少しは期待したくなる」 「尋人……」 お互い無言で見つめあっていると、尋人は私の小指だけに触れた。「少しずつでいい。付き合うところから始めてくれないか?」 その言葉に私は抗うことなどできず、ゆっくりと頷いた。 「マジ? 本当に?」 何度も確認する尋人に、私はコクコクと頭を振ることしかできなかった。付き合おうとなったら、さあ、キスですか? 抱き合っちゃいますか?そんなことを思っていた私だったが、その期待?を裏切り、尋人は立ち上がった。「じゃあ、また連絡する」 「え?」 「きちんと鍵かけろよ」 私の返事はかなり間抜けな声だったと思うが、尋人は何も言うことなく、柔らかな笑みを浮かべて家から出て行った。その姿を見送ると、ずるずる私は床に座り込んだ。「何、この甘酸っぱいの……。いくつよ。私たち」こんな自分に驚きすぎる。いい年をして結婚までして、手を握られただけで真っ赤になるとか。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-13
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第二十二話

※※※なんとか冷静を装えたか?俺は弥生の家の玄関を閉じると、大きく息を吐いた。一緒に住んでいたときも、もちろんずっと弥生に対して触れたいと思ったことはあったが、まったく弥生が俺のことを男として見ていなかったからか、そんな空気になることはなかった。いつも屈託なく笑い、友達の域を超えることがなかったから、俺も普通でいられた。でも……。なんだよ、アレ。反則だろ。真っ赤に頬を染め、照れたように視線を彷徨わせる弥生に、俺は暴走するのを止めるのがやっとだった。ただでさえ、酒の勢いから結婚して一緒に住み、離婚したと思ったら、好きだとか言われて。弥生の中はパニックだろう。それでも俺との付き合いを了承してくれた。それだけで今は十分だ。宗次郎のことは好きじゃない。そう言ってくれた弥生。それだけで、この一緒に住んだ一年は無駄じゃなかったのかもしれない。そんなことを考えながら、俺はタクシーを拾える大通りまで、冷静さを取り戻す努力をしつつ歩き始めた。タクシーに乗り、ぼんやりと夜景に視線を向けていたつもりだが、窓ガラスに映った自分がにやけている。慌てて表情を戻すと、誰も見ていないのにコホンと咳払いをして表情を引き締めた。弥生を好きだと自覚したのはいつだろう?なんとなく宗次郎、佐和子と四人で遊ぶようになり、弥生が宗次郎を見ていることが多いなと思ったのがきっかけかもしれない。佐和子はそのころ、完全に宗次郎への気持ちがまるわかりだったが、弥生は控えめだがなんとなく感じるものがあった。それに、教育係だったこともあり、宗次郎と弥生は本当に仲が良かった。俺といるより、宗次郎とたくさん話す印象があった。それが面白くなくて、「俺をもっと見ろ」。そんな独占欲を初めて持ったとき、初恋を知った。申し訳ないが、昔から向こうから告白され、なんとなく付き合う――それを繰り返してきた俺は、自分から好きになったことがなかった。『今、俺じゃなくてよかったって思っただろ』思えば初対面で弥生に言った言葉。自分でも気づいていなかったが、あのとき好意を持っていたのかもしれない。気づいてからもアプローチの仕方などわからないし、好きな子をいじめてしまう。そんな低次元な自分に嫌気がさした。そんな俺を好きになるわけがない。そう思い、宗次郎に好意のある女の子に声すらかけたことがあっ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-14
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第二十三話

その週末、私たちは二人で水族館に行くことになった。どんなベタな場所と思われそうだが、私は水族館が好きだ。そして、尋人にどこに行きたいかと聞かれ、思い浮かばなかった私は、そう呟いていた。「そんなところ行けるかよ」そう言われるかと思っていたが、意外にも尋人は快諾してくれた。朝、「迎えに行く」と言われ、それだけで私は緊張していた。今まで一緒の家から買い物に行くことなどたくさんあったし、四人で出かけるときに迎えに来てもらったこともある。しかし、「デート」とはっきり言われたのは初めてだ。小学生のときの遠足のように、夜はあまり寝付けなかったにもかかわらず、朝早く目が覚めてしまった。もう眠るのは諦めて、シャワーを浴び、簡単にパンとコーヒーを食べる。そして、小さなクローゼットを開けた。何を着るかをかなり迷い、張り切っていると思われるのも嫌で、パンツに少しだけゆったりとしたニットを合わせる。しかし、鏡に映った自分はまったくデートっぽく見えない。「うーん……」悩んだ私は、まだ一度も袖を通していないワンピースをじっと見つめた。無地で目立つものではないが、シルエットが少し甘めだ。それを着ると、なんとなく「デートっぽく」なる気がして、それに決めた。長い髪はゆるく巻いたあとアレンジして、いつもつけていないゴールドのバレッタで止める。時間があるからといって、気合が入りすぎかもしれない。そんな不安も、なんだか楽しくて。私はナチュラルを心がけながら、いつもよりしっかりとメイクを施した。「こんなもん……かな」全身を鏡に映すと、私はにこりと笑ってみた。なにしてるんだか……。「あー、ドキドキする……」そう独りごちたところで、スマホが光った。【もうすぐ着く】いつの間にか時間は過ぎていたようで、その連絡に私はバッグを手に取り、玄関を出た。マンションの前で立っていると、尋人の黒いSUVが見えて、ドキッとする。助手席の窓が開いて、尋人が私を見る。「中で待ってればよかったのに」「うん……でも、待たせちゃうかなって」そこでお互い少し無言になってしまう。なんだこのやり取り。「弥生、乗って」その言葉に我に返ると、私は助手席に乗り込んだ。「水族館、江の島でも行ってみるか?」「え? 遠くない? 大丈夫?」都内でも十分だと思っていたが、尋人は慣れた手つきで運
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-14
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第二十四話

しかし、着いてすぐ入場券売り場で、私たちは言い合いをしていた。「私が買うって。尋人、連れてきてくれたし、ガソリン代だって……」「そんなのいいんだよ」どうして私たちはこうなってしまうのだろう。これまでも、お互いのことを思っているのに言い合ってしまうことが多かったが、今日ぐらいはそれを封印したかった……。それも、どちらが入園料を払うかで揉めるなんて。いつもなら、ここで「もういいよ」と尋人が言うはずだ。今までもソファを選ぶときにしても、ランチのメニューにしても、こうなればじゃんけんか、お互い別々のものにしてきた。友人なのだから当たり前。そう思ってきたが、今日は違う。こんな雰囲気にしたくなかったのに。泣きそうになっていると、不意に横にいた私の手を尋人が握った。「弥生」「うん……」手を握られた意味がわからないが、キュッと唇を噛んで尋人を見ると、優しく微笑む彼が目に入る。「デートのときぐらい、俺にもいいカッコさせて?」「え?」意味がわからず聞き返せば、尋人はキュッと握る手に力を込めた。「俺だって、弥生にいいところ見せたいし」そのストレートな言葉に、ドクンと胸が音を立てた。いつも軽く女子社員の誘いをかわしたり、さらりと対応している尋人が、まっすぐに伝えてくれるそのセリフに、私はコクンと頷いた。「私こそ意地張ってごめん。ありがとう……?」最後は疑問形になってしまったが、“これでいい?”と尋ねたくて私が彼を見れば、とろけそうな笑みを浮かべて頷いた。それを、周りの女の子たちがチラチラと視線を向けてくるのが分かる。やはり尋人は目を引く存在だ。こうしてその状況を目の当たりにすると、なくなりそうな自信――。少し歩くのが遅れてしまった私を、尋人が振り返って名前を呼ぶ。「弥生」今までもずっと同じように呼ばれていたのに、違って聞こえるのは、私の気持ちが変わったからだろうか。そんなことを思いながら、伸ばされた手に私はそっと自分の手を伸ばした。 それからは、終始楽しかった。初めは「デート」にとらわれていたが、それ以降はいつも通り普通に話せたし、念願の水族館だ。海も見える場所にウミガメがいたりして、とても楽しい。「弥生、飲みもの買って、イルカショー見ようか」「うん。ねえ、見て。このパン、かわいい」さっき見たウミガメの形の可愛らしいパン
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-15
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第二十五話

「疲れた? そろそろ帰ろうか。送ってく」「そうだね」ほとんど見終わった私たちは、水族館を出てから江の島を見たり、食べ歩きをしたりと、充実した一日を過ごせた。終始手をつないで、お互いの物を食べあったりと、恋人同士のような――いや、付き合ったのだから恋人と言っていいのだろう。自分で訳のわからないツッコミを入れたりして過ごしていた私だったが、「帰ろう」と言われた瞬間、少し寂しくなる。“送る”というその単語が、今日が終わることを告げている。今までだったら、同じ家に帰れていたのに。恋人になったとたん、違う場所に帰るなんて――皮肉だ。こんなことになるのなら、家なんて借りなかったし、もっと早くに「好きだ」って言ってくれればよかったのに……。そんな気持ちが沸き上がるも、勝手に新居を契約してきたのも、言わせない雰囲気を出していたのも自分だ。一番、臆病で卑怯なのは自分なのに、尋人のせいにしてしまった自分を反省する。ため息をつきたい気持ちを押さえつつ、尋人の車に乗り込んだ。話をしているうちに、あっという間に私の家の近くまで来ていた。食べ歩きをしすぎてお腹はいっぱいだが、まだ寝るには早い時間だ。【寄っていく?】――そう聞けば、きっとそうしてくれるはずだ。今日感じた幸せを、もっと濃いものにしたくて、私は焦っていたのかもしれない。このまま、もっと先に進みたい。そんな欲求が沸き上がる。今までこじれてきたのだから、関係を確実なものにしたかったのだ。流行の音楽に合わせてご機嫌に口ずさむ尋人の横顔を、私はじっと見つめた。「どした?」「なんでもない」見すぎていた私に、尋人が苦笑した。咄嗟に私は首を振る。「変な弥生」くすっと笑った彼に、言うなら今しかないと思う。あと五分もすれば、家に着いてしまう。「尋人」「ん?」軽い感じで返されたその声に、私は勇気を出そうとして、俯いていた。……と、ちょうどそのとき、マンションの前に車が止まった。「あっ……」着いてしまったことにも、寄って行っていい? と尋人から言ってこなかったことにも、ほんの少し落胆する。手をつなぐ以外、何もなかった今日――。しかし、尋人だってちゃんと気持ちを伝えてくれたのだ。ここは私だって。そんな思いで、勇気を出して口を開く。「ねえ、コーヒーでも飲んでく?」……なんて、ベタな誘
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-15
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第二十六話

コインパーキングに止めるだけなので、数分もあれば尋人は来るはずだ。しかし、その間にお茶を用意するとか、部屋を片付けるとか、何かできることはあるのに、私は落ち着かずにうろうろしていた。その時、部屋のインターフォンが鳴り、私はパタパタと玄関へと走っていった。「おかえりなさい」一緒に住んでいた時の癖で、今まで一緒にいたにもかかわらず、そんなことを言ってしまった私に、尋人は一瞬ポカンとした後、ふわりと笑った。「……ただいま?」ポン、と私の頭に触れた尋人が、靴を脱いで私の横をすり抜け、家の中へと入っていく。尋人が触れた場所を、私もそっとなぞるように触れると、彼の後を追った。「何か飲む? ごはん、簡単に作ろうか?」「車だし、お茶で」はっきりと「今日は帰る」と意思表示をした尋人に、当たり前のはずなのに、私はなぜか少し寂しくなる。さっきも誘ったのは私からだし、ただ断れなくて来ただけかもしれない……。お茶を入れる手が止まってしまった私に、尋人が驚いたように声をかける。「弥生、どうかした?」「寄りたくなかった?」ついこぼれ落ちてしまった言葉に、私はハッとして口元を覆った。そんな私を見て、尋人は立ち上がり、キッチンにいる私の方へと歩いてくる。「本気で言ってるのか?」真剣な瞳で見据えられて、私はフルフルと首を振った。「違うの、違うの……」尋人がいろいろと伝えてくれて嬉しかったし、信じたかった。でも――本当に、佐和子じゃなくて私が好きだったと思えていないのは事実だ。「何が?」「だって、私より佐和子の方が魅力あるし、かわいいし、仕事できるし……」友人にやきもちを焼くような発言はしたくないのに、どんどん言葉があふれてしまう。「どうして佐和子が出てくるんだ?」本当に意味がわからない、というような尋人の表情。でも……。「尋人が佐和子より私の方が好きだなんて、ありえない」「それは弥生だろ? 俺より宗次郎の方が優しいし、気を許してただろ」尋人も珍しく苛立ちをあらわにして、髪をクシャッとする。その表情は、悲しそうにも見えた。しかし、私も言葉が止まらない。「だから、宗次郎君のことなんて、好きだったことないって言ったじゃん」「は?」そこで尋人は、今までとは違う反応をした。心底、驚いた様子だった。その意味はわからないが、お付き合いをするこ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-15
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第二十七話

「宗次郎のことは一度も好きじゃないって、本当?」静かに問いかけられ、私はコクっと頷いた。「じゃあ、そのほかの男が好きだった?」訳の分からない問いかけに、私は顔を歪めて首を横に振る。「そんな人いない」「じゃあ、誰が好きだった?」直球で聞かれたその問いに、泣いていて思考がうまく回っていなかったのかもしれない。「尋人がずっと好……」そこまで言うと、その先の言葉は言わせてもらえなかった。言葉が出ないほど、ギュッと抱きしめられたのだ。「俺のせいだな……」少し震えているようにも聞こえるその声のあと、尋人は大きくため息をついた。「俺が全部悪い。初めてって言っていいくらいの恋で、やり方がわからなくて間違えた。弥生が宗次郎を好きだと思ってたから、どうにかうまくいかせてやりたくて、宗次郎に近づく女に声をかけたりして……俺、本当にバカだな」最後はつぶやくようにそう言って、尋人は抱きしめる腕にさらに力を込めた。「尋人、苦しい……」流石に強く抱きしめられすぎて、そう漏らすと、ようやく腕の力が緩む。「好きすぎて、可愛すぎて……いじめたりしてごめん。ちゃんと気持ちを伝えなくて、ごめん」「尋人……」まさかそんなふうに思っていたなんて、驚きが隠せなかった。付き合うって決めてからも、ずっとモヤモヤしていた気持ちが、少しずつ晴れていくのが分かる。「付き合い始めてから触れなかったのも、弥生がまだ俺を好きになってくれてないと思ってたから。触れて、嫌われたくなかった」――うそ……。そんなことを思ってくれていたなんて、想像もしていなかった。そう思った瞬間、ふわりと唇が温かくなった。キスされたことに気づいて、私は思わず目をまん丸にしてしまう。そして尋人の瞳を、ものすごく近くで見つめていた。「佐和子より弥生のことが好きな理由はいっぱいあるけど」そう言って、チュッとリップを立ててキスをする。「優しいところ。いつも笑顔なところ。一緒にいて穏やかな気持ちになれるところ」ひとつひとつ言うたびに、尋人はキスを落としてくる。自分のことを褒められながらキスをされるなんて、私はもう完全にキャパオーバーだ。「わかった! 尋人、もうわかったから!」「弥生はもっと自信持てよ。……あ、でもそのままでいい。他の男の前でそんな表情見せられたら困るからな」「え? どういうこと……
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-16
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第二十八話

知らなかった……。私はずっとその言葉が頭の中をぐるぐると回っていた。その理由は、気持ちを伝えてからの尋人が激変したからだ。あの日、何度かキスをしたあと、じっと私の目を見つめながら尋人はこう言った。『ごめん、先に謝っておく。俺、けっこう重いかも』『え?』その時は意味がわからなかったし、もしかしたらこのまま抱き合うかもしれない――そんな考えも頭をよぎって、うまく理解できなかった。『今日は帰るから』そう言って甘く口づけられた時、私はもう完全にキャパオーバーだった。少しだけ残念な気持ちと、ほっとした気持ちが入り混じっていたけれど、お互いにもう隠していることはないと思えば、始まったばかりなのだから焦る必要はない。不安が薄れ、私は久しぶりにゆっくりと眠りについた。そして、次の日から――私は尋人の言った「重いかも」という意味を理解することになる。朝から届くメッセージ。夜、会える日は必ず一緒に食事に行き、忙しい日でも夜には電話が来た。今までが何だったのかと思うほど、ストレートに想いを伝えてくれる。嬉しい反面、ちょっとくすぐったさも感じる。そして今週末、私は尋人の家に行くことになった。何気なく「外食ばかりじゃ体に悪いよ。作りに行こうか?」と電話で言った私に、一瞬だけ電話越しに沈黙があった。顔が見えない分、その沈黙が逆に伝わる。『……じゃあ、今週末よろしく』そう言われて、いまさら断れず、私は頷いた。そして今日。『鍵を渡しておくから、先に帰ってて』社内恋愛のドキドキを今さらながら味わいながら、休憩室でこっそり受け取った尋人の家の鍵。一度返したものが、また自分の手の中にある。それが不思議で仕方なかった。私が返した時のままのキーホルダーがついていたその鍵をバッグにしまい、定時ぴったりに退社すると、いったん自分の家に戻った。念入りにシャワーを浴び、下着を選ぶ。どれにする?――一応、一緒に住んでいたときに見られてもいいようにと、可愛らしいものやちょっと色気のあるものも購入していた。もちろん、登場することも、見せることもなかったが。数枚の下着を並べ、その中から一番可愛らしく見えるものを選んだ。恋人の家に行くということは、今回はそういうことになるはず。下着を身に着けた自分を鏡に映してみるも、こんなことをしている自分が恥ずかしくなる。「大
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-16
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第二十九話

慣れ親しんだ場所なのに、なんとなく落ち着かない気持ちが入り混じり、不思議な感覚でキッチンに立つ。今日のメニューは、尋人の好きなチキン南蛮。私も大好きで、同居していたときによくお裾分けすれば、嬉しそうに食べてくれたことを思い出す。チキン南蛮に下味をつけて寝かせておく間に、実家から大量に送られてきたお茶漬けの素を消費するため、トマトと豆腐、ベビーリーフなどを梅茶漬けの素で和えて冷蔵庫で冷やす。同時に茹でておいたゆで卵を使い、ピクルスがなかったので代わりに多めの玉ねぎを加えてタルタルソースを作った。あとは具だくさんのお味噌汁でも作ろう。そう思っていた時、キッチンのカウンターに置いてあったスマホが音を立てた。【今から帰る】そのメッセージに胸が高鳴る。私は鶏肉を揚げ始めた。ほとんど準備が終わり、ダイニングテーブルに料理を並べ終えたタイミングで、玄関から「ただいま」という声が聞こえた。私は手を拭いて急いで玄関へ向かう。「おかえり」少し照れて、小声になってしまった私に、尋人は満面の笑みを浮かべた。「いいな、こうして迎えてもらえるの」「結婚してた時もあったでしょ?」照れ隠しのようにそう言えば、尋人は首を横に振った。「全然違うだろ、気持ちが」そう言って、私の頬に唇を落とす。「こんなこともできなかったし。ずっとしたかったけど」私はその甘さに頬へ手を当てた。「これ、お土産。弥生が好きなプリン」「私も買ってきたよ。しかも名前まで書いちゃった」お互い一瞬きょとんとした後、ふっと笑い合った。「考えてること、一緒か。今日は一人二つ食べられるな。でも弥生が三つ食べてもいいよ」昔はどっちが食べるかよく言い合ったのに、どこまでも甘やかしてくる尋人。「いい、一緒に食べたいから」私だって、尋人のことを思って買ってきたんだから。そう伝えると、尋人は「弥生、かわいすぎ」なんて言って口元に手を当てている。……まさか、照れてる?私なんかで、こんな表情が見られるなんて――。驚きと嬉しさでぼんやりと彼を見つめていると、キュッと鼻を摘ままれた。「あんま見ないで。着替えてくる」「ああ、うん」自分の部屋に入っていく尋人の背中を、しばらく見送ってしまったが、私はハッと意識を戻すと、リビングへと戻った。お酒は飲むだろうか?冷蔵庫から飲み物を出そうとして、私は一
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-18
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第三十話

食事も終わり、楽しい気分で食器を片付けていると、尋人が横にやってくる。「俺も手伝うよ」「大丈夫だよ。疲れてるんだから、ゆっくりしてて」冷蔵庫からもう一本ビールを取り出し、それを尋人に渡した。「疲れてるのは弥生もだろ?」そんなことを言う尋人を、私は下から見上げた。やっぱり身長高いな――。そんなことをぼんやりと思いながら口を開く。「知らないと思ってるの? 大きな案件やってたの、知ってるんだから。それに今日、お昼食べた?」休憩もまともに取っていないような気がして問いかけると、尋人はバツの悪そうな顔をする。「バレてた? 今日は絶対早く帰りたかったからな……」まさかそれが理由だとは思っておらず、私はキョトンとしていたのだろう。「……全く考えてなかったって顔だな。俺はそれくらい今日を楽しみにしてたし、弥生に会いたかった」電話やメッセージではなく、目の前で直接言われたその言葉の破壊力はすごい。酔いも手伝って、私の顔はきっと真っ赤だと思う。食器を洗う手を止めて、タオルで手を拭くと、私は尋人に向き合った。「弥生?」どうしたのかと思ったのか、尋人が私の名前を呼ぶ。少しかしこまってしまったけど、私だって気持ちをきちんと伝えたい。そう思って、一気に口を開いた。「私だって、すごく楽しみにしてたし……会いたかった」最後はもう聞こえないくらいの声になってしまったが、なんとか言葉にできてホッとしていると、いきなり頬をすくい上げられた。「尋……」その名前を最後まで呼ぶことはなく、唇が塞がれていた。この間のような、触れるだけの優しいキスでも、初めての時のただ激しいだけのキスとも違う。尋人は目を閉じることなく、キスをしたまま私の瞳を見つめていた。初めて見る、欲の孕んだその眼差しに、クラクラとしてしまう。息継ぎもままならなくて、酸素を求めると尋人の舌が入り込んできた。ビクッと肩が揺れ、吐息が漏れる。「弥生、いいの?」キスの合間に問いかけられたその意味がわからないほど、私は子どもではないし、念入りにそのつもりで準備してきた。コクリと頷けば、ふわりと身体が宙に浮いていた。お姫様のように抱き上げられたことに驚いて、「重いからやめて」と口にするも、尋人は聞く耳を持たず、そのまま寝室のドアを開けた。◇◇◇腕の中で眠る弥生を、俺はじっと見つめていた。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-23
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