その後も、心のもやもやを押し隠しながら、私は仕事に集中していた。「三条、もう上がろうか?」宗次郎くんの声にハッとすると、いつの間にか就業時間は過ぎていて、すでに直帰したメンバーも多い。残っているのは私たちだけだった。「もう、こんな時間……」私の言葉に、宗次郎くんはクスリと笑う。「弥生って本当に集中力がすごいな」そう言うと、兄が妹にするようにポンと私の頭に手を置いた。「そう?」二人きりということもあり、宗次郎くんはプライベートの話し方に戻っていた。私も笑顔で首をかしげながら、帰り支度を始める。「そうだよ。それに――いろいろ分かりやすいし」「えー? それって褒めてないよね?」“顔に出やすい”という意味だろうか。他の人からそんなことを言われた記憶はなく、なんとなく腑に落ちない。「佐和子の方が、わかりやすくない?」このタイミングで名前を出していいのか迷ったが、こじれてしまっている二人のことが気になって、つい探るように聞いてしまった。「そんなことないよ。何考えてるのか、まったくわからない」ため息まじりにそう言った彼に、私も心配になってしまう。「……今回の、結婚のこと?」「俺はうまくいってると思ってたんだけどな……」そう言って、いつもきっちり固めている髪をクシャッと崩し、宗次郎くんは表情を曇らせた。「私も、そう思ってた」「俺みたいなつまらない男、飽きたのかもな。もともと、尋人との方が仲がいいし」――初めて聞く宗次郎くんの弱音。どう答えていいか分からなかった。実際、私だって佐和子と尋人がお似合いだと思ったことは、一度や二度じゃない。「……悪い。お前の旦那に、なんてこと言って」ハッとしたように言い直す彼に、私は苦笑する。「元……ね」「それだよ。どうして離婚する必要があったんだ?」真顔でそう問われ、私は言葉に詰まってしまった。その時、遠くから低い声が聞こえてくる。「お前には関係ない」その声にハッと反応してそちらを見れば、尋人が鋭い視線を向けて壁にもたれかかっていた。「尋人……」つい漏れた私の声に、尋人はゆっくりと一歩ずつ歩いてくる。「宗次郎。お前に、俺たちの離婚理由が関係あるのか?」「いや、ないよ。でも――俺の大切な部下が、浮かない顔してるのは気になるだろ?」さらりとそう返した宗次郎くんに、尋人は不敵な笑み
Terakhir Diperbarui : 2025-07-07 Baca selengkapnya