Semua Bab 離婚しましょう、はじめましょう: Bab 1 - Bab 10

41 Bab

第一話

もうすぐ四月になり温かくなってきて、大きな窓ガラスから暖かな日差しが差し込んでいる。春は私が一番好きな季節だったー。去年までは。世間一般的に言われる私たちの“愛の巣”は、モダンな黒と白のインテリアで統一されている。都内のいたって普通のマンションの一室。昼食後、彼が淹れてくれた紅茶を前に、ダイニングテーブルに向かい合って座っていた。もうすぐ四月になり温かくなってきて、大きな窓ガラスから暖かな日差しが差し込んでいる。春は私が一番好きな季節だったー。こんな休日は昼寝をするのにはもってこいだな。そんなことを思いながら、淹れてくれたアールグレイに口をつけつつ、目の前の彼に視線を向けた。「明日で約束の一年だ。離婚しよう」私に向けた真面目な瞳を見た時、この話だろうと想像はついていた。だから、私の返事は決まっていた。「そうだね」静かに同意して感謝を込めて目の前の人を見つめる。仕事の時はきちんと整えられている髪が、休日の今日はサラサラとしている。こうしていると、今年三十歳になるとは思えないほど若く見える。堂前尋人《どうまえ ひろと》。私の一年だけの夫だ。会社では海外事業部の若きエースとして活躍し、家では家事も手伝ってくれる良き夫だ。身長百八十二センチの高い身長に、細身だが均整の取れた身体。まっすぐな瞳が私を見つめている。なんだかんだ優しい彼は、かわいそうに見えた私を見捨てることができなかったのだろう。「とりあえずお互いメンツは保てただろう?」「それは私だけでしょう」少し笑って言って見せれば、尋人はくすりと肩をすくめた。自分の本音を見せないときにするこの癖は、もうわかってしまった。そんなことを知らなければよかった、そう思うが、今更仕方がない。三条弥生、29歳。濃いブラウンの背中までの髪は、いつもはまとめているが、今日はなんとなく朝に念入りにセットした。この話をされる気がしたからだろうか。私たちが知り合ったのは7年前。同じ会社に入社した私と望月佐和子、そして一つ上の先輩だった尋人と金沢宗次郎。仕事を一緒にし、休みは何かと一緒に遊ぶようになるのに、それほど時間はかからなかったと思う。飲んだり、旅行にも行ったりした。そして二年ぐらい前に、宗次郎くんと佐和子が付き合い始めた。その時も尋人は「良かったな」とだけ言って笑っていた。もちろん私
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-26
Baca selengkapnya

第二話

「弥生? どうした?」その声で、私は現実に引き戻された。「昔を思い出していただけ」「そうか」それ以上、何も話すことなく、私たちは無言で紅茶を飲み終えた。なんとなくしんみりした空気を壊したくて、私はにこりと微笑むと尋人を見た。「それにしても初めのころは、尋人のこと最低な人だと思ってたな。そんな人と結婚してたなんて不思議な気分」目の前のティーカップを取って、ぬるくなった紅茶を一口飲めば、尋人も思い出したのか口を開いた。「あの頃の弥生の、俺を見る軽蔑した眼差し。今でも頭に浮かぶよ」尋人もくすくすと笑う。そんな彼に、一息ついて頭を下げた。「今はとても感謝しています。この一年、なんだかんだ楽しかったよ」「俺も楽しかったよ」そう言ってくれるだけで、十分かもしれない。私なんかじゃ尋人の失恋の傷を癒せなかった。でも、幸せだった。結婚してからキスすることも、もちろん抱き合うこともなかったけど、いつも隣で私に笑いかけてくれる尋人といられて楽しかった。「明日、引っ越し屋さん朝一に来るから」その言葉に、尋人が驚いたような表情を浮かべた。「もう決めてあったのか? 家は? 俺も一緒に探すって話してただろ?」離婚の話が出たのは、この一年で今日が初めてだ。しかし、私は結婚して同居が始まった時から、離婚したあとのことは考えていた。私の部屋はもう段ボールの山だ。そんなことも知らなかったでしょう?少しだけ意地悪な言葉を言いたくなるも、それをぐっと私は耐えた。「いい物件があったの。ここから電車で十五分ぐらいだから、たまにはまた会ってくれる? 飲み友達として」完全に仕事もやめて縁を切って諦めようと思ったこともあったが、私はやっぱりずるい。この先、すぐに誰かと恋愛をするつもりもないし、結婚だってしないと思う。だから、尋人に誰か一人見つかるまでは……いいかな。そんなことを思ってしまった。「もちろん。それに明日、手伝うよ」穏やかに言ってくれた彼に、私も微笑んで頷いた。「周りには、そのうち話す感じで大丈夫?」「そうだな」佐和子たちの結婚が決まったあと、私たちも結婚すると話したとき、二人は何も疑うことなく祝ってくれた。会社の同僚も、そうだったのかと私たちのことを温かく見守ってくれている。それをわざわざ壊す必要もないし、あえて波風を立てることもない。社
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-26
Baca selengkapnya

第三話

7年前コントラリー株式会社は、東京・品川に本社を構える全国展開の輸入食品会社だ。駅直結のガラス張りの高層ビルの17階にある本社オフィスは、自然光がたっぷり入る明るい空間で、観葉植物やウッド調の什器が並ぶスタイリッシュな雰囲気だった。今、世界中で話題の商品をいち早く買い付け、全国のショップに卸したり、直営のカフェを展開したりしている。そのなかでも「海外事業部」は、英語や各国語が飛び交う、いわば会社の“花形”部署。私は今、その部署のメンバー全員の前に立っていた。「新しくアシスタントに配属になりました。三条弥生……です」緊張しすぎて、最後まで言葉が言えなかった私は、声が途中で詰まってしまった。私はもともとショップ店員を希望していたのに、なぜかこの部署に配属されてしまい、不安と緊張で胸がいっぱいだった。「すみません……」それ以上何も言えず謝ると、重苦しい空気を壊すように、隣にいた同期の望月さんが一歩前に出た。「望月佐和子です。営業に配属になりました。少しでも早く仕事を覚えて戦力になれるようがんばります。よろしくお願いします!」張りのある声に、肩までのブラウンのボブスタイル。姿勢もよく、いかにも“できる”雰囲気をまとった彼女に、同じ年ながら圧倒されてしまう。さっきの自分の挨拶が頭の中でリフレインする。隣で堂々と話す望月さんを横目に、自分の頼りなさに心の中でため息をついた。挨拶が終わると、私のOJT担当の紹介があった。「金沢宗次郎です」優しい声音で微笑む彼は、とても穏やかそうな雰囲気で、私は少しだけ緊張を解かれた。「僕の補佐として、しばらく着いてもらうからね」「はい。よろしくお願いします」整った顔立ちに、漆黒の瞳。どこか地元の兄に似ていて、私はようやく呼吸が整った気がした。フロアの奥には、大きな地図と各国のマーケット資料が貼られたホワイトボード。どこを見ても“グローバル”という言葉がぴったりの空間だった。そんな中で、望月さんが誰かと話している声が聞こえた。「堂前尋人。わからないことがあったら、すぐに聞いて」低く響くテノールに、私はついちらりと視線を向ける。身長が高く、椅子に足を組んで座るその人は、表情こそ整っていたが、鋭い目つきにどこか威圧感があった。私の担当が金沢さんでよかった。そう思った時だった。「今、俺じゃなくてよかっ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-26
Baca selengkapnya

第四話

「弥生、用意できた?」離婚当日、朝から自分の部屋で荷物の最終チェックをしていた私は、その声に顔を上げた。「うん」最後ぐらい笑顔を──と、無理やり浮かべた私だったが、尋人はいつも通りだ。この一年、それなりに楽しくやってきたと思うが、別に今日から私がいないことなど、彼にとってはどうでもいいことなのだろうか?少しくらい寂しいと思ってくれてもいいのに。そんな思いが頭をよぎるも、こんな気持ちを言うつもりなど毛頭ない。「荷物、これだけか?」積み上げられた段ボールを見ながら尋人は言い、箱をポンポンと叩く。「もともとそんなに持ってきてないし、ここは尋人の家だしね」「あのソファはいいの? 気に入ってただろ」唯一、一緒に住み始めた時に買ったのが、あのソファ。大手のインテリアショップに行って、何時間も一緒に選んだのを思い出す。私がベージュのファブリック、尋人がブラックのレザーがいいと意見が分かれたときのことだ。そして、じゃんけんをして……。そこまで思い出して、思わず笑みがこぼれた。「尋人、あの色気に入ってなかったもんね。私が勝っちゃったから」確かにモノトーンの多い尋人の家にはブラックの方が合っていた。でも私は、座った時の感触が好きだった今のソファを譲らなかった。「そうだったな。でも、今では気に入ってるよ。二人で座ってもゆったりしてるし、寝心地もいいし」懐かしむように言った彼の言葉に、嫌でも記憶がよみがえる。休日に映画を見たり、夜はお酒を飲んでそのままソファで寝落ちしたりした。たくさん言い合いもしたけど、それ以上に、楽しい時間の方が多かった。もともと人見知りで、社交性の高くない私が、こんなにも心を開いて落ち着けるのは、尋人だけだった。……でも、それは私の一方的な思いだ。妹のように可愛がってくれているのを、嫌というほどこの一年で知った。「じゃあ、これからも使ってよ。今度の家にあのソファ入らないから」今では出世街道まっしぐらの尋人と違い、私のお給料では、そんなに高い家賃のところには住めない。「わかった」あっさりと了承してくれた尋人に、私は小さく頷いた。「ねえ、尋人」「ん?」最後に夫婦らしいことをしたい──そんなことを思う。でも何をすればいいのだろう。憎たらしいほどいつも通りで、ドアにもたれかかってる彼を見て、私は自嘲気味に笑ってし
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-26
Baca selengkapnya

第五話

「引っ越し業者か?」なぜか見つめ合っていた私たちだったが、その音に私はハッとする。その相手が誰だかわかったからだ。「違うと思う」「え?」意味がわからないと言った尋人に、私は笑顔を浮かべた。「佐和子に昨日の夜、連絡したの。そしたら手伝いに来るって」それだけを言って、私は玄関に向かうために尋人の横を通り過ぎようとした。「待て、弥生!」少し慌てたような声と同時に後ろから手を引かれ、その拍子に私は後ろに倒れそうになる。──いや、倒れたのだ。今までも友人として触れたことはあったが、今は完全に、後ろから抱きしめられている姿勢だ。最後のご褒美? そんなバカな考えと同時に、ドキドキするのをなんとか隠し、冷静を装う。「ごめん、何?」視線を向けることなく尋人から距離を取ろうとするも、そのまま腕を握られたままだ。「尋人?」どうしたのかわからず伺い見れば、尋人が珍しく怒ったような表情をしていた。「まわりには、しばらく言わないって言わなかったか?」確かに昨日の昼、そう話した。しかしそれは会社の同僚たちに対してであって、佐和子たちのつもりはなかった。気の迷いで結婚をしてしまったが、尋人だって佐和子に独身だと思ってほしくないのだろうか。そこまで思って、その考えが間違っていることに気づく。佐和子と宗次郎だって、数カ月後に結婚式を控えているのだ。今さら尋人が独身になろうが関係ない。「だって、友達に離婚したこと伝えないとか、ないかなって……」本音を言えば、誰かに話さなければ、このままもう少し続けたい。そんな言葉を発してしまいそうで怖かった。だから尋人には、言えなかった。「参ったな……」珍しくかなり困ったような表情を見て、尋人自身、独身になって枷がなくなったら佐和子への思いが強くなってしまうことを危惧しているのだろうか。キュッと唇を噛んで、尋人の苦しい気持ちを、佐和子を呼んだことで呼び覚ましてしまったことに申し訳なくなる。「ごめん、勝手に」謝罪をしたところで、もう一度インターフォンが鳴った。「行ってくる」それだけを言うと、尋人が私の手を離した。大好きな人の温もりがなくなってしまったことを寂しく思うなんて……情けない自分を叱咤して、玄関の扉を開けた。「弥生」そこには、いつも通り綺麗で凛とした佐和子がいた。私の名前を、少し悲しげな表情で呼
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-30
Baca selengkapnya

第六話

「あっ、佐和子。会社ではとりあえず内緒にしておいて。宗次郎くんにはもちろん伝えてもらってもいいけど。それに結婚式はちゃんと二人で出るからね、もうすぐ招待状を送る時期だし……」「それなんだけど」私の言葉を遮るように佐和子が言うと、今度は彼女が髪をかき上げながら言葉を選んでいるように見えた。「そのことなんだけど、少し延期しようと思うの」「え?」私たち二人の声が重なる。「結婚、少し考えようと思って」「どうして? うまくいってたんじゃないの?」キッチンから出て佐和子の元へ行き、私は彼女を見た。私たちの話だったのに、まさか二人までそんな話になっているとは思ってもいなかった。「そうなんだけど」ついこの間まで、佐和子は幸せそうに結婚雑誌などを私に見せていたし、宗次郎くんと一緒にいても本当に幸せそうだった。どうしてこのタイミングで? そんな疑問が頭をよぎる。その後、引っ越しを手伝うという尋人をやんわりと断ると、私は新しい家で佐和子と荷解きをしていた。「洋服、クローゼットにかけていってもいい?」普通のワンルームのマンション。尋人と一緒に住んでいたマンションの何分の一だろう。すべてが一か所で完結してしまいそうな部屋のクローゼットの前で、佐和子が問いかける。「うん、お願い」私も下着などをチェストの中にしまいながら答えた。「ねえ、さっきの話だけど」何かをしながらの方が聞きやすい気がして、手を動かしながら佐和子に声をかけた。「どうして急に延期なんて?」私の問いに、比較的いつもサバサバと答える彼女が、考えるように手を止めた。「どうしてかな。マリッジブルー? なんか、このままでいいのかなって」「宗次郎くんはなんて?」そこで佐和子は、また少し口を閉ざす。「宗次郎は……私が決めたことには何も言わないから」少し寂しげに言った佐和子の気持ちが、なんとなく分かった気がした。宗次郎くんは温和でとても優しい。相手のことをよく見ていて、波風を立てることのない人だ。知り合ってからかなりの年数が経つが、怒ったところなど見たことがなかった。「知り合ってから7年、好きになってからも長いでしょ。でもいざ付き合って、結婚決まって……。これでいいのかなって。付き合ってって言ったのも私、結婚を迫ったのも私」物事をはっきり言うところが佐和子のいいところだし、宗次郎く
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-01
Baca selengkapnya

第七話

あの時、みんなで旅行に行こうと言い出したのは誰だっけ?遠い記憶を呼び起こしてみると、それは尋人だったと思う。二年半前「なあ、取引先のお偉いさんが誘ってくれたんだ。行かないか?」定時後、会社のエントランスで佐和子と歩いていると、珍しく帰りが一緒になったようで、尋人が声をかけてきた。そのまま、いつもの流れで近くの行きつけの居酒屋になだれ込む。ビールを頼んで一息つくと、尋人がさっきの話をし始めた。「これって今はやりのグランピング施設じゃない?」さすが流行に敏感な佐和子。感心しつつ、尋人の見せたスマホを私も覗き込む。そこには確かに、おしゃれなグランピング施設が映し出されていた。森の緑の中に燃えるオレンジの炎、その横にはウッドデッキにチェア。"非現実的な大人な空間"――そう書かれている文字に、私もとても惹かれた。「それに、自分たちでバーベキューとか楽しそうじゃないか? 寝室も二つあるし、問題ないだろ?」会社帰りに飲みに行ったりすることはあっても、泊まりでの旅行は初めてだった。返事を迷っていた私だったが、すぐ横で佐和子が間髪入れずに声を上げる。「行きたい! 宗次郎も行くんだよね?」佐和子がウキウキとしながら尋人に尋ねれば、「もちろん」と頷いた。「宗次郎と俺で運転していくし、二時間半ぐらいだから問題ない?」尋人は今度は、何も発していなかった私を見て問いかける。「ああ、うん」少し曖昧な返事になってしまった私に、尋人がじっと視線を向ける。「弥生、あんまり乗り気じゃない?」「え、そんなことない」特に表情に出したつもりはなかったが、気づかれたことに内心驚きつつ、私は慌てて首を振った。「それなら決まりな」すでに決定事項になってしまい、私は小さく息を吐いた。確かに私たちは、この数年で仲良くなった。先輩後輩の関係から、友人に近くなったと思う。そして、男女四人が友人になれば、そこから派生するのは――だれもが想像できる“恋”だ。もう、佐和子は宗次郎くんを好きなことをほとんど隠していないし、宗次郎くんもまんざらではないと思う。おだやかな宗次郎くんに、佐和子がグイグイと押しているが、もう少しで彼も落ちるのではないかと思っていた。それならば残った二人が。普通、漫画やドラマならそうなるのかもしれないが、現実はそううまくはいかない。例に漏れず
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-03
Baca selengkapnya

第八話

そこまで思い出した時、聞き慣れない音がして、私はハッと現実に戻った。それはこの家のインターフォンで、初めて聞くその音が、なんとなく不思議な感じがした。引っ越したことなど、ほとんどの人に言っていない。近所の人か、大家さんだろうか?そんなことを思いながら、とりあえず扉を開けると、ドン、と何かにぶつかった。「おい」え?上から聞こえた、かなり低い声。その主を仰ぎ見る。「お前、誰かも確認せずに出るなよ。それにその格好」「尋人……」まさか想像もしていなかった人物に、私の口からは名前が零れ落ちる。そして、その言葉の意味を考える。今までは一緒に住んでいた時、部屋着にもかなり気を使っていた。でも今は一人だ。荷解きが面倒だったこともあり、適当な短パンに大きめのTシャツ一枚という姿だった。なんとなく、少し伸びたTシャツの胸元に手をやりながら、私は視線を外して問う。「どうしたの?」それに対する答えはなく、彼は無言のまま家へと上がり込んだ。「ねえ? 何かあった? 私、忘れ物でもした……?」狭い廊下を先に歩いていく尋人を、私は追いかける。すぐにたどり着いた部屋を見渡してから、カーテンを開けてベランダを確認している。「……まあ、ギリ合格かな」ため息交じりに発したその言葉の意味がわからず、私は立ちすくんでいた。「何が?」「弥生の新居だよ。まあ、オートロックないけど、一階じゃないし、隣からも見えないな」「はあ……」訳が分からずとりあえず答えれば、尋人はドサッとベッドに座った。ソファがないからそこにしか座るところがないのかもしれないが、尋人がベッドに座っている光景にドキドキしてしまう。「ねえ、どうしたの?」いきなり現れた彼に、訳が分からないまま尋ねれば、尋人は「何言ってんだ?」とでも言いたげな顔をした。「だから、弥生の新居の確認。問題があれば、すぐに引っ越させようと思って」……いったい何を言っているのだろう。離婚した妻に対して言うセリフだろうか。「弥生、お前のことだから、どうせ夕飯抜く気だろ? 買ってきた」大きな茶色の紙袋が床に置いてあり、そこから尋人はテイクアウトの料理を並べ始める。それは結婚していた時も、よく二人で買いに行ったイタリアンの店のテイクアウト。私の好物ばかりだ。ご丁寧に箸やフォーク類もすべて用意済み。ポン、と私に缶ビール
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-03
Baca selengkapnya

第九話

「なんだよ……」尋人はそう呟いたあと黙り込む。狭い部屋、無言の時間がいたたまれなくなり、私は残っていたビールを飲み干した。「どうせ私なんて、佐和子みたいにかわいくないし、女にすら見られてないし……」いやだ。こんな嫌なことを言いたいわけじゃない。佐和子に対しても、こんな心の奥に汚い部分があるなんて――。自己嫌悪で、今なら軽く死ねる気がした。「ごめん、酔った。こんなこと言いたいわけじゃ……」そのとき、いきなり後頭部に尋人の手が回ったと思うと、引き寄せられた。初めて、こんなに近くで彼の瞳を見た。そう思った瞬間、激しく唇がふさがれる。なぜか苛立ちをぶつけるような、そんなキスだった。私の頭はパニックだ。どうして? どうして今?その感情が渦巻き、とっさに尋人の胸を押す。「尋人! いきなりなに?」あまりの激しさに、息絶え絶えにそう聞くと、その表情から尋人が何を考えているのか分からなかった。「女だと思ってない奴に、こんなことするかよ」クシャッと髪をかき乱すと、尋人は大きく息を吐いた。そしてその後、「悪かった……」と呟いた。「帰る……。ちゃんと鍵、かけろよ」それだけを言って、尋人は何も言わず家を出て行ってしまった。私は、今起きたことの意味が分からず、ただ呆然とその場で固まっていた。意味が――全く分からない。どうして今さら……。少しはこの一年で、佐和子から私に気持ちが傾いた?……そんな期待と、「尋人も酔っていたからだ」という現実的な思いが交差する。一人取り残され、眠れない週末を過ごしたのは言うまでもない。週が明け、会社に行くのがこれほど嫌だと思ったのは初めてかもしれない。長年慣れた仕事だし、職場環境だって何の問題もない。その原因はただ一つ――どういう顔で尋人に会えばいいのか分からない。引っ越したことで会社まで少し遠くなったこともあり、いつもより早く家を出て、足取り重く会社へと向かう。最寄駅を降りれば、すぐ前に会社が入っている複合ビルが現れ、たくさんの出社する人にため息が漏れた。しかし、行かないわけにもいかない。そう思いながら歩き出せば、前に見たくない人をすぐに見つけてしまった。後ろ姿だけで、尋人だと分かってしまう自分が嫌になる。そこまで思って、私は足を止めた。隣には、寄り添うように言い合っている佐和子の姿。友人なんだから
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-03
Baca selengkapnya

第十話

昨日までとは違う組み合わせで、今歩いていることが違和感でしかない。初めは一緒にいて楽しかっただけの関係で、真っ直ぐな佐和子の気持ちで動いてきた私たち。しかし、その佐和子の気持ちが崩れた時、私たちはどうなるのだろう。とりあえずは、仕事に支障が出ないようにしなければ。そう思いながら事業部のフロアに足を踏み入れたのに、尋人の姿を見た私は、思わず回れ右をしてしまった。その様子に、隣にいた宗次郎くんが驚いたように私に声をかける。「三条、どうした?」その声に反応するように、デスクに座っていた尋人がこちらを見る。「宗次郎」静かに尋人が宗次郎くんを呼べば、彼は笑顔を浮かべた。「おはよう、尋人」そんな会話をしている二人をよそに、私はそっとフロアを離れ、廊下へと出た。目の前で尋人を見てしまうと、あの日のことが記憶に蘇ってしまう。結婚までしていたのに、こんなふうに動揺するなんてお笑いだ。自嘲気味な気持ちで、休憩室の自販機にお金を入れてコーヒーを買おうとしたとき、後ろから手が伸びてきて、オレンジジュースのボタンが押された。「なっ!」飲むつもりもなかったオレンジジュース。誰がこんないたずらを――と振り返る。「お前、今日朝食べてないだろ。コーヒーはやめとけ」会社用の少し威圧的な声。それが尋人だと分かって、私はグッと唇を噛んだ。「食べたよ」「嘘つけ」俯いたまま答えた私に、尋人はオレンジジュースを取り出し、私の手の上にそっと乗せた。そしてもう一つ、私の好きなチョコレートバーまで。その行動に私は思わず尋人を見上げた。心配そうな瞳がそこにあった。「これも、きちんと食べておけ。顔色が悪いぞ」――その原因は誰のせい。そう思っても、もちろん言えるわけがない。キスひとつで意識しているなんて思われたくもなかった。「ありがとう」極力、意識しないように笑顔を向ければ、尋人は何も言わなかった。この空気に耐えられなくなり、心臓の音がバクバクと煩い。「今日は、宗次郎くんと食事に行くから。……あっ、もう一緒に住んでないし関係ないか」なぜこんなことを言ってしまったのか、自分でもわからない。たぶん朝、佐和子との楽しそうな様子を見て、私も気にかけられたいという気持ちがあったのかもしれない。「そう、よかったな」それだけを言い残して、尋人は戻っていった。もちろ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-04
Baca selengkapnya
Sebelumnya
12345
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status